爽やかな朝と、麦子が来た日
朝日が昇りきらないこの時間。
庭に柔らかな光が差し込んでいる。
麦子はカーテンの下に頭を突っ込んで、じっと庭を眺めている。
その後ろ姿を見ていたら、ふと麦子を迎えた日のことを思い出した。
年末も押し迫った12月27日の夜。
次女と「コーギーって可愛いよね」なんて話になった。
「明日休みでしょ? 見に行くだけ行こうよ。」
まったくのノープラン。
「どこかで譲渡会やってないかな?」
ネットで調べると、少し遠いショッピングモールで譲渡会が開かれていた。
「見るだけ。見るだけだからね。」
そう言って出かけた。
年末のショッピングモールは大混雑。
入口前の広場では譲渡会が開かれ、たくさんのワンコたちがケージの中からこちらを見ていた。
ヨークシャーテリア、マルチーズ、イタリアングレーハウンド、チワワ、トイプードル、柴犬……。
でも、お目当てのコーギーはいなかった。
何匹か抱っこさせてもらった。
どの子も可愛い。
もう一度抱っこさせてもらった子もいた。
でも、なんだかしっくりこない。
「なんか違う。」
そう思いながら最後に抱っこしたのが、一匹の茶色いミニチュアダックスだった。
クソ可愛かった。
緊張して、小さくプルプル震えている。
連れて帰りたい。
でも、本当に最後まで責任を持って育てられるのかな。
いつか来るお別れに耐えられるのかな。
そんなことを考えていたら、気づけばもう午後になっていた。
次女は「連れて帰ろうよ」と言う。
妻は「ダメだよ、お金もかかるし、子どもたちの塾もあるし…」なんて言いながら、抱っこしたまま離さない。
何時間迷ったのかは覚えていない。
気づけば手続きをして、キャリーバッグを買って、ケージを買って、餌を買っていた。
「あれ? 見るだけじゃなかったっけ?」
しかもコーギーじゃない。
まあ、いっか。
クソ可愛いから。
帰りの車では、家族3人で名前を考えた。
「クッキー?」
「ネギ?」
「チョコ?」
どれもしっくりこない。
そのとき次女が言った。
「小麦色だから、コムギにしようよ。」
満場一致だった。
あのクソ寒い日に、クソ可愛いワンコを連れて帰ってきた。
そして今日。
麦子は僕の足元でゴロンと横になり、お腹を見せて気持ちよさそうに寝ている。
あの日、プルプル震えていた緊張は、もうどこにもない。
安心できる場所になれたんだと思うと、嬉しくなる。
麦子。
うちに来てくれて、本当にありがとう。
そして、あの日譲渡会で出会った他のワンコたちも、きっと今頃は誰かの大切な家族になって、こんな爽やかな朝を迎えているんだろうな。
