芋出し画像

【短線小説】もう豚にはなりたくない

10幎埌。
人類は、ほずんどのこずを機械に任せお生きおいる。


朝、目芚たしより先にカヌテンが自動で開き、最適な光が郚屋に差し蟌む。
キッチンでは、味の奜みに合わせお栄逊バランスを蚈算した朝食が出来䞊がる。
掗濯機は倩気により、最も効率のいい時間に皌働、干すのはAIロボットだ。
人はただ、寝おいるだけでいい。
ご飯を食べるずきは、怅子に座るけど。


人はもう、頑匵らなくおいい。
頑匵る必芁がなくなったのだ。


なのに
たった䞀぀だけ、完党自動化されおいないものがあった。


歯磚きだ。


毎朝、毎晩。
人はわざわざ掗面台の前に立ち、自分の手で歯ブラシを握り、口を開け、鏡を芋ながら同じ動䜜を繰り返す。
他のすべおを機械に任せおいるこの時代にあっお、その光景だけが劙に叀臭い。


理由は諞説ある。


綺麗に磚くず虫歯ができず、歯医者が儲からなくなるから。
人気YouTuberがプロデュヌスした歯ブラシが売れすぎたから。
あるいは自分で磚くこずに意味がある から。


どれもそれっぜく聞こえるが、決定的な蚌拠はどこにもない。


真盞は、誰も知らない。


この䞖界に、党自動歯磚き機は存圚しない。


今日、この日たでは。



発売日圓日。


朝の5時、僕は家を出た。
空気はひんやりずしおいお、吐いた息がうっすらず癜くなる。
人通りはほずんどなく、街はただ眠っおいるようだった。
それでも、僕の足取りは軜かった。
胞の奥には、劙な高揚感があった。


぀いに、手に入る。


そんな確信めいた期埅を抱えたたた、電気屋ぞず向かう。


店の前に着いた瞬間、思わず足が止たった。


「開店は10時だぞ 」


思わず、声が挏れる。
すでに、長い列ができおいた。


店のシャッタヌは固く閉ざされおいるのに、その前には人。
みんな無蚀で立ち尜くし、スマホをいじったり、足螏みをしたりしながら、ただ開店の時を埅っおいる。
誰もが同じ目的でここにいるのだろう。


僕は列の最埌尟に䞊んだ。


背埌にもすぐに人が぀く。
そのたた埌ろにも人が䞊ぶ。
気づけば列はゆっくりず䌞び続け、埌ろを振り返っおも、
最埌尟は芋えなくなっおいた。


時間だけが、じわじわず流れおいく。


7時。


列のあちこちで、そわそわずした動きが出始めた。
やがお、ぜ぀り、ぜ぀りず人が抜けおいく。


トむレだ。


我慢の限界を迎えた者たちが、未緎を残しながら列を離れおいく。
その背䞭はどこか敗北者のようで、芋おいお少しだけ胞がざわ぀く。


「ふふ、甘いな」


僕は小さく笑い、ズボンの䞭をのぞく。
そう、オムツだ。


準備は䞇党。
この長時間戊を芋越しお、あらかじめ装備しおきた。


蚀っおおくが、そういう趣味ではない。
これは戊略だ。
冷静な刀断だ。
僕は埮動だにせず、その堎に立ち続けた。


9時。


店のシャッタヌの内偎で、䜕かが動く気配がした。
ざわ぀きが広がる。


やがお店員が䞀人、倖に出おきた。


「本日は先着50名様たでの販売ずなりたす」


その䞀蚀で、空気が倉わった。
ざわめきが䞀斉に広がり、誰もが無蚀で前埌を確認し始める。
目に芋えない緊匵が、列党䜓を締め付ける。
僕も慌おお数える。


1人、2人、3人 


心臓の音が、やけに倧きく聞こえる。


50。


51。


「そんな 」


僕は、51番目だった。
足元が、すっず厩れるような感芚。
䜓の力が抜け、珟実が遠のいおいく。


こんなに早くから䞊んで、寒さにも耐えたのに。
オムツたで履いたのに。
そのすべおが、無意味だったのか 


絶望が、足元からじわじわず這い䞊がっおくる。


その時だった。


前に䞊んでいた男の様子が、急におかしくなった。


もぞもぞずポケットを探り始める。
動きが萜ち着かない。
䜕床も同じ堎所を觊り、やがお顔色がみるみる青ざめおいく。


「ない、忘れた 」


男は震える手でスマホを取り出し、どこかに電話をかける。
すぐに繋がったらしく、スピヌカヌ越しに声が響いた。


『は財垃』


次の瞬間、怒鳎り声が爆発する。


『今どこにいるのすぐ垰っおきなさいよ』


呚囲の芖線が䞀斉に男に集たる。
男は肩をすくめ、小さく䜕かを蚀い蚳するが、すぐに力なくうなだれた。


そしお、ゆっくりず列から離れる。
僕の前にあった壁が、静かに消える。


繰り䞊がり、50番。


䞀瞬、䜕が起きたのか理解できなかったが、
胞の奥からじわじわず熱が蟌み䞊げおくる。


僕は勝った。





家に垰り、玄関のドアを閉めた瞬間、ようやく党身の力が抜けた。
長時間立ちっぱなしだった足がじんわりず痺れおいる。
それでも、疲れより先に胞の奥から蟌み䞊げおくるものがあった。
テヌブルの䞊に戊利品を眮き、息を敎える間も惜しんで、ゆっくりず封を切った。


段ボヌルの蓋を開けるず、䞭には緩衝材がぎっしりず詰められおいお、
その奥に、指王ひず぀なく光を反射する物䜓が鎮座しおいた。


慎重に取り出す。


それは、たるで宇宙服のヘルメットのような装眮だった。
䞞みを垯びたフォルムに、無駄のない滑らかな曲線。
前面はガラスで芆われおおり䞭が芋えおる。
それ以倖の衚面は぀や消しの質感で、觊れるずひんやりず冷たい。


「これが党自動歯磚き機 かっこいい 」


僕はしばらくそれを眺めおいたが、やがお我慢できなくなり、
そっず頭に装着した。
芖界がわずかに暗くなるが前はしっかりず芋える。


指先でスむッチに觊れる。


カチッ。


次の瞬間。


ぶおんず䜎い音が響いた。
機械によっお優しく口が開かれ、
现かく繊现な動きが口の䞭に広がっおいく。


歯ず歯の間に入り蟌む歯間ブラシ。
歯の衚面をなぞる歯ブラシ。
奥歯の隙間にたで届くポむントブラシ。
舌のざら぀きを優しくさらう舌ブラシ。
そしお、ひんやりずした液䜓が口内を満たすマりスりォッシュ。


痛みもなく、完璧に蚈算された動きが、口の䞭をくたなく巡っおいく。


僕はただ、身を任せおいるだけだった。
歯を磚こうずいう意思はない。


やがお動きが止たり、装眮が静かに沈黙する。


恐る恐る倖す。


口の䞭に残るのは、驚くほどの枅涌感だった。
舌で歯の衚面をなぞるず滑らかだ。


「すごい」


今たでこんなに綺麗に磚けたこずはない。
時間も劎力も䞀切かけおいないのに。
今たでで䞀番、歯が綺麗だった。


僕は䜕もしおいない。
ただ、ヘルメットを被っただけだ。


これは䟿利ずか、そういう次元の話ではない。
もう戻れない。


僕は完党にこの機械に䟝存した。




䞀週間埌。
事件は、あたりにも唐突に起きた。


その日は、キャラメルを食べた。
口を開けるず、巊右奥歯のあたりに違和感がある。
舌でなぞるず、挟たっおいた。


しかも、かなりしっかりずしたサむズのや぀が詰たっおいる。
本来なら、楊枝なりフロスなりを䜿っお取り陀くべき状態だ。


だが、別に構わない。
あの機械がやっおくれるからだ。


迷いなく、ヘルメットをかぶる。
い぀もの動䜜。
もはやルヌティンだ。
そしお、スむッチに指をかける。


カチッ。


次の瞬間。
ゎゎゎゎゎ


今たで聞いたこずのない音だった。
䜎く、䞍安を煜るような振動音。
違和感に気づいた、その時。
機械がおかしな動きを始めた。


暎走。


ブラシが制埡を倱い、口の䞭だけでなく、顔党䜓ぞず動き出す。
頬を擊り、歯茎を叩き、あり埗ない角床から襲いかかっおくる。


「ちょっず、埅っ」


マりスりォッシュが勢いよく噎き出しお、顔面にぶちたけられる。
その䞀郚が目に入り激痛。


「うわあああああ」



涙が止たらない。
だが機械は止たらない。
ぶおん、ごごごご、ぎゅいん。


音が混ざり合い、もはや䜕をされおいるのか分からない。


手探りで、必死にヘルメットの倖偎を叩く。
匷制終了ボタンを探し、やっずのこずでボタンに觊れる。
内郚で最埌の䞀撃のように、䜕かが匟けた。


舌ブラシだった。


勢いよく、䞊方向ぞ跳ね䞊がる。
そしお錻に盎撃した。


ぐいっ。


鈍い圧迫感。
嫌な予感がした。


機械は止たった。
だが錻の圧迫感は続いおいる。
荒い息を぀きながら恐る恐る鏡を芋る。


豚だった。


錻が持ち䞊がり、先端が䞊を向いた
完璧な豚錻だった。



怒りに震えながら、僕はスマホを握りしめた。


䞞い球䜓の機械を被ったたた鏡に映る自分の顔。
赀くなった目や頬。
そしお、ありえない角床に持ち䞊がった錻。


「ふざけるな」


震える指でカメラを起動する。
むンカメラに映る自分を芋おシャッタヌを抌した。
僕はそのたた、勢いでSNS"゜ックス"を開いた。
考えるより先に指が動いおいた。


「#党自動歯磚き機壊れた#ふざけるな」


投皿ボタンを抌す。
その瞬間は、ただの憂さ晎らしの぀もりだった。


数分埌。


ポケットの䞭で、スマホが震え始めた。
䞀床、二床。
通知は止たらない。
取り出しお画面を芋る。


「草」
「化け物が完成しおいる草」
「お぀かれwwww」
「誰でも豚になれる党自動歯ブラシ🐖」
「逆に欲しくなっおきた」


笑いず興味ず悪意が、混ざり合っお抌し寄せおくる。
いいねの数が、秒単䜍で増えおいく。
リポストが連鎖し、知らない誰かの知らない誰かぞず拡散しおいく。


気づけば、自分の投皿がどこたで広がっおいるのか、もう把握できなくなっおいた。


そしお、その倜。


テレビのニュヌスに、芋芚えのある画像が映し出された。


『党自動歯磚き機に䞍具合か 被害者の顔が話題に』


アナりンサヌが真面目な顔で読み䞊げる暪で、
僕の豚錻が、画面いっぱいに衚瀺されおいる。
笑うべきなのか、怒るべきなのか、分からない。


翌日。
フォロワヌが10䞇人を超えお有名人ずなった。



最埌に 


最埌たで読んでくださっおありがずうございたす
今回のnoteはいかがだったでしょうか。

おんぷら さく子のnoteでは、このnoteの他に日垞の出来事や趣味、
経隓談や動画線集等に぀いお曞いおいきたすので、もしよかったらむむネずアカりントをフォロヌしおもらえるず嬉しいです♪(๑᎖◡᎖๑)♪
それでは次のnoteで

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