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【短編小説】遊びの達人だった


その日は、雨だった。


外に出られず、家の中で過ごす午後は、時間がやけに長かった。
テレビはつまらなくて、遊具はびしょ濡れで、玩具も遊び尽くした。


私は床に座り、洗濯したてのタオルを広げた。


「よし!」


タオルの端に、人差し指をそっと置く。
ここがスタートだ。


指は冒険者になり、ふわふわの草原をかき分けて進んでいく。
右に曲がったり、左に曲がったりしながら。


反対側の端にたどり着いたとき、ゴール。
そしてまたスタートに指を置き、違うルートでゴールを目指す。


次は、天井だ。


寝転がって、指を空中に伸ばす。
柱の凹凸をなぞって、左右に指を振りながら頭の中で色を塗っていく。


赤、青、黄色。
思いきって、全部まぜた色も使う。
指定はない。
自由にその時の気分で色は決まる。


頭の中で、家はみるみるカラフルになっていった。
できたーと思った、その瞬間。


「ご飯よー」


声がして、色は一斉に消えた。

食後に窓の外を見た。
雨が止んでいたので、お母さんにお願いしてお散歩に行くことになった。


外に出ると、駐車場に車が並んでいた。
正面から見るとやっぱり顔に見える。
ライトは目、ミラーは耳、ナンバープレートは前歯。


この車は低い声かな。
あっちは、少し高い声かな。
私はその声を、頭の中で再生した。


家に戻ると、膝を立てる。


親指と人差し指で膝をつまんで、のばす。
縮める。
少しひねる。


膝は笑い、困り、怒った。
顔なんてないのに、感情ははっきり見えた。


その時、ふと、母がこちらを見て言った。


「なにしてるの?」


「まま見て、顔みたいでしょ」


「本当だ、顔に見えるね」
母は笑って、台所へ戻っていった。


私はまた、膝をつまむ。


大人になった今、同じようには遊べないけど、
子どもの時、なにもないところからも遊びを生み出していた。
見方ひとつで、どこでも遊び場になる。


私は遊びの達人だった。



最後に…


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