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シームレス決済の実現へ

――トークン化された資産とお金はついに融合するのか


近年、金融業界では「トークン化(Tokenization)」という言葉が急速に広がっている。株式や債券、不動産などの資産をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する試みは、もはや実験段階を超えつつある。しかし、トークン化された資産が増えても、それを売買する際の「お金」が従来の決済システムに依存している限り、本当の意味での効率化は実現できない。

そこで注目されているのが、「トークン化された資産」と「トークン化されたお金」を同じ基盤上で動かし、取引と決済を一体化する「シームレス・セトルメント(Seamless Settlement)」である。

本稿では、金融業界が目指している新しい決済インフラの姿と、その実現に向けた取り組みについて解説する。


現代金融の大きな問題

国際送金や証券決済は、私たちが想像する以上に複雑である。

例えば、日本の投資家が海外の債券を購入する場合、

  1. 資産の所有権移転

  2. 外貨への交換

  3. 購入代金の支払い

  4. 各国金融機関間の確認作業

といった複数のプロセスが必要になる。

これらは別々のシステムで処理されるため、

  • 決済完了まで数日かかる

  • 手数料が高い

  • システム障害のリスクがある

  • 相手方が倒産するリスクがある

という問題が発生する。特に国際決済では複数の銀行が仲介する「コルレス銀行ネットワーク」が利用されるため、非効率性が長年指摘されてきた。(国際決済銀行)


トークン化がもたらす変化

トークン化とは、現実世界の資産をブロックチェーン上でデジタル表現する技術である。

例えば、

  • 国債

  • 社債

  • 株式

  • 不動産

  • 預金

などをトークンとして発行できる。

トークン化によって、

  • 24時間取引

  • 小口化

  • 自動化

  • 透明性向上

が期待されている。さらにスマートコントラクト(条件が満たされたら、自動的に契約内容を実行する仕組み)を利用することで、取引条件をプログラムとして埋め込めるようになる。(国際決済銀行)

しかしここで一つの問題が残る。

資産だけがトークン化されても、決済に使うお金が従来システムのままでは効率化に限界があるのである。


「お金のレッグ」が欠けていた

金融業界では以前から、

「資産のトークン化は進んでいるが、決済用マネーが追いついていない」

という課題が指摘されてきた。

たとえばトークン化された債券を購入しても、

  • 資産移転はブロックチェーン

  • 支払いは銀行送金

という状態では、結局二重管理が必要になる。

この問題はしばしば

「Missing Cash Leg(欠落した現金決済部分)」

と呼ばれる。(tracee)

金融市場が本当にデジタル化されるためには、

  • 資産

  • お金

の両方を同じ環境で扱う必要がある。


注目を集めるProject Agorá

この課題解決を目指して進められているのが、国際決済銀行(BIS)主導の「Project Agorá」である。

Agoráはギリシャ語で「市場」を意味する。

このプロジェクトには、

  • Bank for International Settlements

  • Institute of International Finance

が中心となり、

  • Bank of Japan

  • Bank of England

  • Swiss National Bank

など7つの中央銀行と40以上の金融機関が参加している。(国際決済銀行)

プロジェクトの目的は、

トークン化された中央銀行準備預金とトークン化された銀行預金を同じプラットフォーム上で動かすこと

である。


トークン化預金とは何か

ここで重要なのが「トークン化預金(Tokenized Deposits)」である。

これは銀行預金をブロックチェーン上で表現したものだ。

ステーブルコイン(価格が安定するように設計された暗号資産(仮想通貨))と似ているが、法的には銀行預金そのものである。

例えば100万円の預金があれば、

その権利をトークンとして発行し、

ブロックチェーン上で移転できる。

これにより、

  • 銀行システムの安全性

  • ブロックチェーンの効率性

を両立できる可能性がある。(StableNexus)


原子的決済(Atomic Settlement)とは

Project Agoráの最大の特徴は、

Atomic Settlement(原子的決済)

にある。

これは、

「全て同時に成立するか、全て失敗するか」

という仕組みである。

例えば、

日本企業が米国企業へ支払いを行う場合、

従来なら

  • 円の引き落とし

  • ドルの受け取り

が時間差で発生する。

その間にどちらかが失敗すると損失が発生する。

一方、原子的決済では、

  • 円の支払い

  • ドルの受け取り

が完全に同時に実行される。

どちらか一方だけ成功することはない。(国際決済銀行)


DvPとPvPの進化

金融市場では昔から、

DvP(Delivery versus Payment)

資産引渡しと支払いを同時に行う仕組み

PvP(Payment versus Payment)

異なる通貨の交換を同時に行う仕組み

が利用されてきた。

しかし従来システムでは、

これらを実現するために複雑な仲介機関が必要だった。

トークン化基盤ではスマートコントラクト(条件が満たされたら、自動的に契約内容を実行する仕組み)によって自動的に実行できる。

これがシームレス決済の本質である。(国際決済銀行)

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