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12.台所の油〈後編〉米油とわが家のなたね油

台所の油、選び直してみた〈後編〉― 米油ブームと、わが家のなたね油

前編では、油の“正体”——飽和と不飽和、融点、発煙点、酸化、そして避けたいトランス脂肪酸——を見てきました。(読んでいなくても大丈夫なように書きます)

後編の今日は、いよいよ実際の話。じゃあ、何を選べばいいのか。 台所のいちばん身近な一本を、事実ベースで、やわらかく選び直してみます。最後は、いつもの「だから、整える」に。どうか、最後まで。

まず、話題の「米油」から

最近、健康志向の高まりで、ぐっと注目されているのが米油(こめ油)です。米ぬかや米胚芽からしぼる、日本ならではの油ですね。

人気の理由は、事実として、いくつかあります。酸化しにくく、発煙点が高いので揚げ物に強い。天ぷら屋さんや給食で選ばれてきたのも、ここが大きい。さらに、γ(ガンマ)-オリザノール、ビタミンE(トコトリエノール)、植物ステロールといった、お米由来の成分を含む。オレイン酸とリノール酸のバランスもいい、と言われています。

ただし——ここは正直に。「だから健康にいい」と、私が言い切るつもりはありません。 たとえば「γ-オリザノールで中性脂肪・総コレステロールを下げる」とうたう“機能性表示食品”の米油も出ていますが、それはメーカーが届け出をしている、という話。効果には個人差があるし、私が保証できるものでもない。米油にも、抽出に溶剤を使うものが多いこと、精製の過程でごく微量のトランス脂肪酸ができうること、値段が少し高めなこと——いい面ばかりではない、という目線は持っておきたいです。

そして、最近の“もうひとつの話題”。じつは2026年、食用油はそろって値上げの局面に入りました。米油も例外ではなく、背景には米ぬかなどの調達コスト上昇があります。さらに——前回〈前編〉ではなく、少し前の「戦後、日本人がお米を食べなくなった」回を、覚えているでしょうか。お米を食べる量が減れば、その副産物である「米ぬか」も減る。 実際、国産米ぬかの発生量が減って、米油の需給がタイトになっている、という業界の話も出ています。

面白いですよね。ちゃぶ台からご飯が減ったことが、めぐりめぐって、こんなところにも効いてくる。食卓は、ぜんぶ静かにつながっているんです。

そして「見えない油」――パーム油の話

さて、ここで一本、名前は有名なのに、スーパーの棚ではあまり見かけない油があります。パーム油です。

じつはこれ、世界でいちばん多くつくられている植物油。私たちが単体で買わないだけで、お菓子、カップ麺、冷凍食品、チョコ、マーガリン……加工食品の原材料表示にある「植物油脂」の、かなりの部分がこれだと言われています。つまり、いちばん“顔の見えない油”なんですね。

「パーム油は良くない」という声を、聞いたことがあるかもしれません。これも、事実と、行きすぎた話を、分けておきます。

まず、パーム油は飽和脂肪酸(パルミチン酸)が多い油です。だから常温で固まる。ただ、「飽和脂肪=即・悪」と断定するのは、これはこれで乱暴で、いまも議論の続いているテーマです。ここは煽りたくない。

より事実として押さえたいのは、精製由来の懸念のほうです。植物油を高温(約200℃)で精製する工程で、「3-MCPD脂肪酸エステル類」や「グリシドール脂肪酸エステル類」という物質が、意図せずできてしまうことが近年わかってきました。とくにパーム油に多く、欧州の食品安全機関(EFSA)は2016年に、グリシドール(遺伝毒性発がん性がある)に変わりうる点を「公衆衛生上の懸念」として評価しています。

——と書くと、また怖くなりますよね。でも、ここも冷静に。国際機関(FAO/WHO)の評価では、乳児以外の子どもや大人が、通常の量を食べるぶんには、過度に恐れる必要はないとされています。メーカー側の低減努力も進み、パーム油のグリシドール量は2010〜2015年でおよそ半減した、というデータもある。だから「パーム油は毒だ」ではなく、「見えないところで大量に使われ、精製由来の懸念も指摘されている油だから、頭の片隅に置いておく」——それくらいの距離感が、ちょうどいいと思っています。

(ついでに言えば、パーム油には“もうひとつの顔”もあります。大規模な農園開発が、熱帯の森林伐採と結びついてきた、という環境の側面です。食を握る話は、どこかでいつも、土地や自然の話につながっている。塩の回で書いたことと、根っこは同じですね)

わが家の定番は、なたね油

で、結局うちは何を使っているのか。普段づかいは、なたね油です。

理由は、気どったものではありません。クセがなくて、オレイン酸が多くてバランスがよく、加熱にもそこそこ強い。値段も現実的。毎日の炒め物・普段の一本として、無理がないんです。

選ぶときに見ているのは、この三つくらい。

  1. 圧搾(あっさく)」「一番搾り」の表示があるもの。(溶剤で搾りきるより、昔ながらの搾り方のほうが、私は気分がいい)

  2. 遮光ボトルで、小さめのもの。(酸化対策)

  3. できれば遺伝子組み換えでないもの。(これは私の選択です。輸入のキャノーラには組み換え品種も多いので、原材料と産地を裏返して見る)

そのうえで、香りが欲しいときは焙煎ごま油やエキストラバージンを“仕上げ”にちょい足し、揚げ物をするときは発煙点の高い米油、という感じで、ゆるく使い分けています。全部を完璧な一本でまかなおうとしない。ここでも整活は「がんばらない」です。

だから、整える

油は、毎日、確実に口に入る。それなのに、調味料以上に“顔”が見えにくい食材です。ボトルの油はまだいい。ほんとうに見えないのは、加工食品の「植物油脂」のほう。裏返しても「植物油脂」としか書いていないことも、多いんですから。

だからこそ、です。全部を疑って怖がるのではなく、せめて自分の台所の一本くらいは、自分の目で選んでおく。 一度いい油を決めてしまえば、あとは毎日それを使うだけ。むずかしい判断は、最初の一回で終わります。塩のときも、砂糖のときも、くり返してきたことと、まったく同じですね。

こわがるより、選ぶ。台所の油も、裏返して選ぶ。

だから、整える。

次回は、少し“若返り”のほうへ。「老けにくい暮らし」って、結局なにをすればいいのか。派手な若返り法ではなく、地味だけど効く土台の話を、やわらかく。


※無理はしないでください(これだけは)

  • 油の“合う・合わない”、必要な脂質の量には、個人差があります。持病のある方、脂質異常症などで治療中の方、妊娠中・成長期の方は、自己判断で極端な油の制限や変更をせず、必要なときは専門家の力も借りてください。

  • 米油の健康効果は「機能性表示食品=メーカーの届け出」であって、保証された効能ではありません。

  • どの油も「これだけ摂ればいい/これは絶対ダメ」という話ではありません。大切なのは、いつもの“量と、質と、バランス”です。


参考

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