調布基地跡地の土地取得は、開かずの踏切対策を「後回し」にしたのか?
マガジン「一緒に調布をGrowする話。」#07
前回、調布市の総務費が29%増えた理由が、FC東京の練習場整備に伴う約36億円の土地取得費だったことを書いた。この数字を見て、率直に「もっと優先すべきものがあったのでは」と思った。
給食費や学校の建て替え(#03)、長友市政24年間の振り返り(#02)と数字を追ってきた中で、今回はこの疑問を検証してみることにした。
結論から言うと、36億円があったことで他の事業が直接「後回しになった」と示す数字は確認できなかった。ただし、「なぜFC東京関連はここまで早く進み、長年の課題である踏切はなかなか進まないのか」という別の疑問は残った。以下、なぜそう言えるのかを順に検証していく。事実の部分と、自分の考察の部分はできるだけ分けて書くようにしている。
📊 調布市民が本当に求めているものは何か
まず、僕の勝手な思い込みではなく、調布市民自身が何を優先してほしいと思っているのか確認したかった。市が毎年実施している「市民意識調査」(令和6年度版、令和6年11~12月実施、有効回答1,210件)に、市政全般に対する優先度を聴いた設問がある。
上位5項目は次の通りだった。

防犯・防災・道路が上位を占めている。この結果を踏まえて、FC東京の36億円は本当に「後回し」を生んだと言えるのか、順を追って確認していきたい。
🚦 象徴的な現場:何十年も動かない「開かずの踏切」
「道路の整備」を象徴する現場が、市内東部にある。つつじヶ丘駅・柴崎駅周辺の京王線には、今も5箇所の「開かずの踏切」が残っている。

(出典:調布市「踏切の現状」)
いずれも1時間のほとんどが閉まったままということになる。
この踏切は2021年に国から「改良すべき踏切道」に指定され、2024年12月には市議会が全会派一致で解消推進の決議を可決、2025年には地域住民・市議会・市が一体となった協議会も発足した。歴代の国土交通大臣が、これまでに計2度視察している。
そこまでして、ようやく2026年度に国の「新規着工準備箇所」として採択されたのが現状だ。都市計画決定もこれからで、近隣の同種事業を見ると、着工まで数年、完成までは10~20年規模かかることが多い。何十年も市民や議会が声を上げ続けて、ようやくスタートラインに立った、という段階だ。
そもそも、何をすると「開かずの踏切」が消えるのか
今回の対策は「連続立体交差事業」というもので、線路を高架または地下にして、その区間ごと踏切をなくしてしまう工事だ。対象は仙川駅〜国領駅の約2.1km、この中につつじヶ丘駅・柴崎駅も含まれる。つまり、駅前の踏切も含めて5箇所すべてが除却される計画になっている。
高架にすれば駅は2階建てのような構造になり、地上の道路はその下をそのまま通り抜けられる。地下にすれば地上は完全にフラットになり、乗客は地下の改札まで階段やエレベーターで降りる形になる。
実はこれ、調布市内にすでに実例がある。京王線の布田・国領・調布の各駅は2012年に地下化されていて、あの区間はまさにこの姿だ。今回のつつじヶ丘・柴崎も、高架か地下かはまだ決まっていないが、仕組みとしては同じで、将来的にはあの区間と同じように踏切自体がなくなる。
🏙️ 近隣市と比べてみたら、単純な話ではなかった
「調布だけが我慢を強いられているのでは」という仮説を確かめるため、隣接する世田谷区・府中市と行政サービスを比べてみた。結果は、思っていたより単純ではなかった。

今回比較した項目では、調布市が見劣りしたのはごみ袋だった。
調布市の家庭系指定収集袋による手数料収入は年間約3億7,900万円(令和5年度決算)。36億円あれば、単純計算で約9.5年分、市内のごみ袋を無料にできる規模になる。もちろん、これは「そうすべきだった」という話ではない。あくまで規模感をつかむための換算だ。
一方で、保育料は格差がほぼ解消済み、図書館数はむしろ調布市の方が手厚い。
補聴器助成は上限4万円で、府中市とほぼ同水準、世田谷区(上限5万円)よりはやや手薄だった。
踏切問題も、実は調布だけの話ではない
同じ京王線沿いでも、「開かずの踏切」をなくす連続立体交差事業の進み具合は自治体ごとにバラバラだった。

世田谷区の芦花公園5号踏切は「1時間で開いている時間が計4分25秒」と全国最悪クラスだったが、事業自体は10年以上前から進んでいる。
つまり「調布市だけが冷遇されている」わけではなく、京王線沿線全体で足並みが揃っていない、というのが実態に近い。その中で調布市は、府中市よりは前に進んでいるが、世田谷区より10年以上遅れている、という位置にいる。
⚽ 36億円、あらためて振り返る
近隣比較では「調布だけが割を食っている」とは言えなかった。では36億円そのものはどうか。#6で書いた通り、36億円は土地取得費のみで、施設整備の市負担(概算約30億円)を合わせると、現時点の市の負担見込みは約66億円規模になる。この土地は「防災・スポーツレクリエーション機能を持つ公園」として整備される計画で、FC東京専用の練習場ではない、という点も#6の④で確認済みだ(ただし主要施設である天然芝フィールドと運動施設棟は「FC東京の利用が主」とされていて、便益の配分は均等ではない、という指摘も#6の④に書いた通り)。
今回あらためて調べて分かった新しい点が一つある。この土地は、調布市地域防災計画(令和6年12月修正)の中で、市内西部地区の緊急物資輸送拠点(大型拠点倉庫)として正式に位置付けられていた。東部は大町スポーツ施設内、中央部は小島町防災倉庫(平成29年整備)が既にあり、西部の拠点としてここが計画されている。
というわけで、現時点の市の負担見込みは36億円ではなく約66億円規模で捉える必要がある(先ほどの「ごみ袋を何年無料にできるか」の換算も、66億円ベースで計算し直すと約17.4年分になる。もちろん、これも「そうすべきだった」という話ではなく、あくまで規模感をつかむための換算だ)。
🚧 「36億円あれば踏切を解消できた」は本当か?
ここまでで「近隣格差」も「FC東京への丸投げ」も、当初思っていたほど単純な話ではないと分かった。それなら「36億円あれば開かずの踏切を解消できたのでは」という問い自体はどうか。国土交通省の公式評価資料(新規事業採択時評価結果)を確認した。
仙川駅〜国領駅間、約2.1kmの連続立体交差事業の全体事業費は、約867億円だった。
前段で見た通り、FC東京関連で調布市が現時点で見込んでいる負担は36億円(土地取得費)ではなく約66億円規模(土地取得+施設整備の市負担概算)だ。それでも、66億円は867億円の約7.6%(約8%)に過ぎない。
仮にFC東京関連の予算をすべて踏切対策に振り向けていたとしても、実現には遠く及ばない規模だ。「あの予算があれば踏切問題を解決できた」という単純な比較は、事業規模から見て成り立たない。
ただし、867億円という数字をそのまま比べるのはフェアではない。867億円は国・都・市・鉄道事業者の4者が分担して払う全体の総額であって、調布市が一人で払うわけではないからだ。
さらに調べてみると、連続立体交差事業には標準的な費用負担ルールがある。鉄道事業者(京王電鉄)が受益に応じておおむね10%を負担し、残り約90%を国・都・市で分担する(都内では都:市を7:3とする例が多い)。この目安を当てはめると、調布市自身の負担はおおよそ100億円台前半という規模感になる。ただし、これはあくまで一般的な按分ルールに基づく試算で、正式な負担割合はまだ公表されていない。都市計画決定も済んでいない段階なので、調布市の実質負担額は現時点で確定していない。
本当に比べるべきなのは、この「調布市自身の負担分」同士だ。 国交省の制度上、連続立体交差事業は行政側が大部分を負担する一方で、鉄道事業者も受益に応じて負担する仕組みになっている。ただし、今回の事業について調布市が最終的にいくら負担するのかは、現時点では決まっていない。仮に市負担が100億円台前半の規模になるとすれば、FC東京関連の市負担見込み約66億円は、その半分以上に相当する規模になる可能性がある。867億円全体で見た「約7.6%」よりも、こちらの方が市民にとっては実感しやすい比較だろう。
なお、この踏切事業自体にも防災上の意味がある。国の評価資料には、立体化によって大町防災備蓄倉庫(東京都地域防災計画の三次指定拠点)から神代植物公園周辺の広域避難場所への最短ルートが確保される、と記載されている。FC東京の留保地(西部の防災拠点)とは別の場所で、こちらも防災インフラの一部になっている。
📝 まとめ:36億円は「後回し」を生んだのか
「36億円は後回しを生んだのか?」への答え。
確認できなかった、というのが正直な結論だ。防災機能は建前ではなく実体があったし、近隣市との比較でも調布市が一方的に劣っているわけではなかった。開かずの踏切の解消には867億円規模(調布市自身の負担分だけでも100億円台前半)が必要で、FC東京関連で市が現時点で見込んでいる約66億円(土地取得36億円+施設整備概算30億円)はその半分以上に相当する額ではあるが、それだけを付け替えても解決する規模の話ではなかった。
では、何が問題として残ったのか。
事業を進めるスピードと、情報公開の見えにくさだ。
開かずの踏切は市議会が全会派一致で決議を出しても、着工準備採択まで何年もかかった。一方でFC東京との連携は、令和7年6月に提案を受けてから8月には包括連携協定の締結まで進んでいる。もちろん、両者は事業の性質も手続きの階層も大きく異なる。連続立体交差事業は国・東京都・京王電鉄など複数の主体が関わる大規模事業で、事業規模の大きさや関係者の多さがスピード差の一因になっている可能性もある。「提案から協定締結までの2か月」と「踏切問題から着工準備採択までの何十年」を単純に並べて比較できるものではない。それでも、市民から見たときに「なぜこれほど進捗のスピード感が違って見えるのか」という疑問は残る。
加えて、大きな金額が動く事業ほど、負担割合や配分の詳細が「まだ決まっていない」「未公表」という形で見えにくくなる。FC東京の留保地では防災エリアとクラブ専用エリアの正確な面積・予算配分が、踏切事業では調布市の最終的な負担額が、どちらも今の時点では確定・公表されていない。
つまり、36億円(あるいは実質の66億円)そのものが問題なのではなく、その予算を動かす行政のスピードと、同じ「防災」という市民ニーズに関わる事業でも、その進み方にこれだけ差があるように見えることの方が問題なのではないか。今後もこの2つを並べてウォッチしていきたい。
間違いがあればぜひ教えてください。できるだけ事実とデータに基づき、市民目線で調布を学び、一緒にGrowしていけたらうれしいです。
tatsu|調布withgrow代表
参考
調布市の総務費が29%増えた理由は、FC東京練習場整備のための36億円の土地取得費だった(#6) https://note.com/tatsu_withgrow/n/n44a613ea57de
調布基地跡地留保地の活用について(概要、地域防災計画上の位置付けを含む、調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/16181/gaiyou.pdf
調布市民意識調査報告書 令和6年度版(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/010010/p000423.html
踏切の現状(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/080100/p000002.html
京王電鉄京王線(つつじヶ丘駅・柴崎駅周辺地区)開かずの踏切解消促進協議会(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/080100/p000001.html
京王電鉄京王線(仙川駅から国領駅付近)連続立体交差事業(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/080100/p000005.html
新規事業採択時評価結果(令和8年度新規着工準備箇所)京王電鉄京王線(仙川駅〜国領駅付近)(国土交通省) https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-hyouka/r8sinki/1_r8_17.pdf
「京王線(仙川駅〜国領駅間)連続立体交差事業」が国の新規着工準備採択(俺の居場所|まちの観察サイト) https://urban-development.jp/road/keiotsutsujishibasaki-202604/
国土交通省により新規事業採択された「京王電鉄京王線(仙川駅〜国領駅付近)連続立体交差事業」(超高層ビル・都市開発研究所) https://skyscrapers-and-urbandevelopment.com/91251/
連続立体交差事業に関する地方公共団体と鉄道事業者との費用負担の見直しについて(国土交通省) https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/04/040809_.html
家庭ごみの分別と出し方(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/070030/p041018.html
調布市 清掃事業概要 令和6年度版(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/820/r6-1.pdf
ごみの出し方(世田谷区公式) https://www.city.setagaya.lg.jp/02241/387.html
高齢者(65歳以上)のための補聴器購入費助成(世田谷区公式) https://www.city.setagaya.lg.jp/02082/10803.html
高齢者補聴器購入費助成事業(府中市公式) https://www.city.fuchu.tokyo.jp/kenko/korenokata/koreisha/hochouki.html
中等度難聴者補聴器購入費助成(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/060030/p033143.html
新たな発見も!「開かずの踏切」は本当に開かないのかを検証してみた(GetNavi web) https://getnavi.jp/mobility/467528/3/
