新市長の「10億円」、中身が判明——重点給付は的中、でも半分は「事業者支援」だった
マガジン「一緒に調布をGrowする話。」#08
8月13日の記事(#04)で、新市長が公約した「10億円規模の物価高対策」について、財源の仕組みと想定される3つのシナリオを先取りした。あれから約1か月。9月議会(第3回定例会)に議案第59号が提出され、ようやくその中身が見えてきた。#04で立てた予想と、ひとつずつ突き合わせていく。
なお#04では「#05として続報する」と書いていたが、その間に市の予算・決算の話をはさんだため、この続報は#08になった。
📌 まず結論
議案第59号(令和8年度一般会計補正予算・第2号)に計上された物価高対策は、合計約10.22億円。「誰に渡るお金か」で大きく2つに分けると、こうなる。
個人・世帯への給付:約5.21億円(51%)
事業者・施設への支援:約5.01億円(49%)
#04で本命と予想した「低所得世帯への重点給付」は、確かに一番大きな項目として入っていた。ただし、10億円のほぼ半分が事業者・施設向けの支援だったことは、当時の3シナリオには入れていなかった。以下、詳しく見ていく。事実の部分と、自分の考察の部分はできるだけ分けて書くようにしている。
📋 5つの事業を分解する
低所得世帯支援給付金:4.64億円
市内事業者物価高騰支援事業費補助金:3.90億円
保育所運営費補助:0.64億円
子育て世帯生活支援特別給付金:0.57億円
介護施設等物価高騰支援事業費:0.46億円
合計:約10.22億円

この5事業を「何のためのお金か」で整理すると、性格の違いが見えてくる。低所得世帯支援給付金と子育て世帯生活支援特別給付金は、家計そのものへ直接届く支援だ。一方、市内事業者物価高騰支援事業費補助金、保育所運営費補助、介護施設等物価高騰支援事業費は、事業者や施設の運営コストを下支えする支援で、個人の手元に直接届くお金ではない。
つまり「10億円の物価高対策」とひとくくりにされがちだが、実態は「家計への直接支援」と「事業・施設の運営支援」という、届き方も目的も異なる2種類のお金が合わさったものだった。物価高で苦しいのは家計だけでなく、燃料費や光熱費の高騰に直面する事業者や、運営費が膨らむ保育所・介護施設も同じだ、という発想が背景にあると読み取れる。
🔍 #04の答え合わせ
① 10億円規模は本当だった?
✅ 当たり 約10.22億円。ほぼ予告どおりだった。
② 低所得世帯への重点給付(シナリオB)だった?
✅ ほぼ当たり 最大項目として入っていた。方向性は合っていた。
③ 市民への給付が中心だった?
🟡 半分だけ当たり 個人・世帯向けは約51%。残り約49%は事業者・施設向けだった。
全市民一律給付(シナリオA)でも、商品券・キャッシュレス還元(シナリオC)でもなかった。低所得世帯支援給付金4.64億円と、子育て世帯生活支援特別給付金0.57億円を合わせると、個人・世帯への給付は約5.21億円、全体の約51%になる。#04で本命としていた「重点給付」という方向性は、おおむね当たっていたと言えそうだ。
ただし、当時の3シナリオでは想定していなかった事業者・施設への支援(保育所・介護施設向けの運営費補助など)も、約5億円とほぼ同じ規模で組み込まれていた。このズレは、単に「予想が外れた」という話ではなく、物価高対策という言葉が指す範囲の広さを示しているとも言える。家計への直接給付だけでなく、事業者・施設の運営コストも同じ「物価高対策」の枠組みで支えられている。それが今回の補正予算の実態だった。

🧮 一人あたりに直すと、いくら届くのか
#04では、10億円を人口242,614人で割って「市民一人あたり約4,120円」という規模感を示した。確定した金額で計算し直すと、こうなる。
補正額の全体(約10.22億円):一人あたり約4,210円
うち個人・世帯へ直接向かう分(約5.21億円):一人あたり約2,150円
「一人あたり4,120円」という規模感そのものは当たっていた。ただし、そのうち個人の手元に向かう計算になるのは、半分の約2,150円だ。3人家族なら約6,400円。残りの約2,060円分は、事業者や保育所・介護施設の運営を支える側に回る。
なお、事業者・施設向けの支援も、めぐりめぐって保育や介護の現場を支え、値上げを抑えるといった形で市民に返ってくる可能性はある。「個人に届かない=無駄」という話ではない。ただ、「10億円の物価高対策」と聞いて多くの人が思い浮かべる姿とは、お金の届き方が違う。そこは押さえておきたい。
ただし、この約2,150円を実際に受け取る人は、ひとりもいない。全市民で割った平均にすぎないからだ。給付の対象は住民税非課税世帯などに限られていて、お金はそこに集中して配られる。
参考になるのが、去年の実績だ。令和6年度にも、今回とまったく同じ名前の「低所得世帯支援給付金」があった。住民税非課税世帯27,000世帯と均等割のみの課税世帯3,000世帯、あわせて約3万世帯に1世帯3万円(18歳以下の子どもには1人2万円を加算)。事務費を含めた事業費は約10.8億円だった。
今回の低所得世帯支援給付金は4.64億円。同じ名前の事業が、去年の半分以下になっている。

総額が半分以下ということは、届き方は二択になる。単純計算だが、1世帯3万円を維持するなら対象は約1.5万世帯まで絞られ、約3万世帯に配るなら1世帯あたりは1.5万円前後に下がる。そのどちらなのか、あるいは中間なのかは、議案の数字だけでは読み取れない。
去年と同じつもりで待っていると、届く金額か、届く範囲か、どちらかが想定と違うことになる。ここは9月議会の説明を待ちたい。なお、そもそもなぜ規模が半分以下になったのか。その背景は財源にある。これは記事の後半で詳しく見る。
💴 財源の答え合わせ
④ 財源はどうなった?
✅ 当たり 繰越金が大幅に増え、見立てどおりだった。
#04では、財源とされる「前年度繰越金」について、当初予算ではわずか5億円しか見込んでいなかったこと、令和7年度決算が固まればこの見込みを大きく上回るはずだ、という見立てを書いた。
今回の補正予算(第2号)では、繰越金の計上額が補正前の5億円から46億5,087万円(約46.5億円)へ、41億5,087万円(約41.5億円)分増えている。見立てどおりだった。
ただし、注意したいのはここからだ。「10億円の物価高対策のために41.5億円の繰越金を積み増した」わけではない。歳出全体では今回44億9,673万円(約45億円)増えていて、うち物価高対策はその4分の1弱(約23%、10.22億円)にすぎない。残りの約34.75億円は、どこへ行ったのか。
🏦 残ったお金はどこへ?——「10億円」の裏側で、約32億円が基金に積み立てられていた
「10億円」だけを追っていると見落としがちだが、実はここが今回の補正予算で一番規模の大きい動きだ。
物価高対策(約10.22億円)を除いた残り約34.75億円のうち、9割を超える約32.30億円が、各種基金への積み立てに回っていた。内訳は、財政調整基金15.98億円、公共施設整備基金8.86億円、都市基盤整備事業基金5.50億円、市庁舎整備基金1.00億円、ふるさとのみどりと環境を守り育てる基金1.00億円など。残る約2.45億円は、過年度の国・都支出金の精算返還や、経常的な事業費の調整分だ。

32.30億円という数字だけを見ると「使われずに眠っているお金」のように感じるかもしれないが、その中身を見ると性格ははっきり分かれている。財政調整基金は、景気の急変や災害など将来の財政需要に備える市の貯金にあたる。公共施設整備基金と都市基盤整備事業基金は、老朽化が進む学校・公共施設や道路などの更新・維持に充てる原資で、市庁舎整備基金は将来の庁舎整備に向けた積み立てだ。
つまり基金への積み立ては「使わなかった」お金ではなく、使い道をあらかじめ色分けして先送りした「将来に備えるお金」と言える。今年度の物価高対策(約10.22億円)と基金への積み立て(約32.30億円)を比べると、およそ1対3。「今年度使うお金」より「将来に備えるお金」の方が3倍大きい補正予算だった、ということになる。
ここで思い出したいのが、#04で紹介した調布市の財政規律ガイドライン(平成22年策定)だ。黒字が出た場合は財政調整基金への積立てを優先し、同基金の残高目標を50億円と定めている。
残高の推移を追うと、令和6年度末は54.97億円。ただし令和7年度は取り崩しが積立を上回り、年度末の残高見込みは50.15億円——目標ちょうどの水準まで下がる計算だった。そこに今回、15.98億円が積み増される。「目標を超えているのにさらに積む」のではなく、「目標ぎりぎりまで下がったぶんを戻す」動きと見ることもできる。
ただし、この説明が当てはまるのは財政調整基金の15.98億円までだ。残る16.3億円あまりは、公共施設整備基金や都市基盤整備事業基金など、将来の建設事業に備える積み立てになる。
📉 これは新市長のやり方なのか?
⑤ 今回の補正予算から、財政運営の変化は見える?
🟡 変わったのは財源だけ 国の交付金が尽き、市の自前の繰越金へ。ただし基金へ回す考え方は前市政と同じ。
繰越金の大半を基金に回す——これは新市長になって始まったことなのか。前市政の記録をたどってみた。
まず、変わっていない点から。前市政が昨年8月に公表した「令和7年度における前年度繰越金活用計画」を見てみる。令和6年度決算の剰余金をどう使うかを示したものだ。繰越金の実質活用可能額は約34.9億円。そこから国・都支出金の返還金や追加の財政需要を差し引き、残る約20.0億円を全額、各種基金へ積み立てるとしている。計画書の表現はこうだ。
この実質収支については,財政調整基金や公共施設整備基金,都市基盤整備事業基金等の各種基金積立てに優先的に財源配分することとします
積立先は、財政調整基金・公共施設整備基金・都市基盤整備事業基金・市庁舎整備基金など。今回の補正で積み増された基金と、ほぼ同じ顔ぶれだ。繰越金の大半を基金へ回すやり方は、つい1年前まで前市政がやっていたことと変わらない。
ちなみに、この組み立てはもっと前からある。コロナ翌年の「令和3年度における前年度繰越金活用計画」でも、実質活用可能額 約48.5億円から返還金などを差し引いた約34.2億円を全額基金へ、という同じ形だった。少なくとも5年、やり方は一貫している。
一方で、はっきり変わった点もある。財源だ。
調布市はこの数年、物価高対策の給付を繰り返してきた。令和5年度の「エネルギー・食料品価格等物価高騰対策支援給付金」は約2.7万世帯に1世帯3万円。令和6年度の「物価高騰対策給付金」は約3万世帯に1世帯3万円。令和7年度は市民一人あたり5,000円の食料品給付。ただし、これらの原資はいずれも国の「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」だった。市のお金ではない。
今回はちがう。国・都から来る特定財源は約1.5億円にとどまり、10億円の大部分は市の自前の黒字——繰越金でまかなわれる。「国が配るお金を市が届ける」形から、「市が自分の判断で配る」形に変わった。ここは、これまでの物価高対策と明確に違う。
ただし、これは市が「自前でやろう」と選んだ結果とは言い切れない。国の制度側の事情がある。
重点支援地方交付金には、令和8年度分の新しい枠が用意されていない。内閣府の通知によれば、令和8年度に交付されるのは、令和7年度のうちに「繰り越したい」と申請しておいた分だけだ。そして調布市は、令和7年度の交付限度額12億3993万円を100%使い切っている(全市民への5,000円給付だけで13.9億円)。令和8年度に持ち越せる額はゼロ。新市長が就任した時点で、国費という選択肢はすでになかったことになる。
しかも交付金には、財政調整基金や減債基金への積立が認められないという制約がある。国費でやっていた間は、「基金に積むか、市民に配るか」という選択自体が存在しなかった。自前の繰越金になって初めて、両者が同じ財布を取り合う。今回の補正予算で物価高対策10.22億円と基金積立32.30億円が並んで見えるのは、そのためだ。
それでも、「交付金がないなら今年は見送る」という選択はあり得た。財政規律ガイドラインは黒字を基金積立優先と定めているので、むしろそちらが原則だ。国費が切れた中で、規模を半分にしてでも物価高対策を続けた——今回の10億円は、そう読むのが実態に近い。
就任からまだ2か月、補正予算1本だけの話なので断定はできない。ただ、「繰越金の上振れ分を基金にも振り向ける」という財政運営は、24年間続いた前市政と大きく異なるものには見えない。財源の出どころは変わったが、それは国の制度がそうさせた面が大きく、配り方の設計思想が変わったわけではない——というのが、今回の補正予算から読み取れる範囲だ。これが良いことなのか、もっと市民への還元を増やすべきなのかは、意見が分かれるところだろう。新市長の色がどこに出るかは、来年度の当初予算編成が次の見どころになる。
❓ まだ分からないこと
低所得世帯支援給付金の対象範囲(住民税非課税世帯のみか、均等割のみの課税世帯や家計急変世帯を含むか)と、1世帯あたりの給付額。去年は約3万世帯に3万円だったが、今回は総額が半分以下なので、どちらかが変わることになる。
市内事業者物価高騰支援事業費補助金の対象要件・上限額。
既存の物価高対策との関係。#04では「令和7年度の食料品価格高騰対策支援給付金(一人5,000円)などと重複しないか」をチェックポイントに挙げていたが、議案からは位置づけが読み取れなかった。上乗せなのか、仕切り直しなのか。
補正予算の議決時期と、実際の支給・交付開始時期。
これらは9月議会での審議・可決を経て、市の公式発表で明らかになる見込みだ。分かり次第、続報したい。
📝 まとめ
今回分かったのは、「10億円」という約束が、実際に約10.22億円の補正予算として形になったこと。そして、その中身は「市民への給付」だけではなく、事業者や施設への支援にもほぼ半分が充てられていたことだ。#04で予想した「重点給付」は、おおむね当たった。一方で、約半分が事業者・施設支援だったことは想定外だった。一人あたりに直すと、個人へ直接向かうのは約2,150円。#04で示した「約4,120円」の、ちょうど半分にあたる。
もう一つ見えてきたのが、財源の使い方だ。繰越金が41.5億円増え、その一部を物価高対策に使いながら、大半にあたる約32.30億円は基金へ積み立てられた。「今年度使うお金」と「将来に備えるお金」の比は、およそ1対3。この点では、前市政からの連続性が目立った。
どちらも、「10億円」という総額だけを追っていては気づけない話だった。予算は、中身を分解して初めて、それが誰に向けられたお金なのかが見えてくる。
では、この10億円は実際にいつ、どんな形で市民に届くのか。そして、基金に積み立てられた32億円は、これから何に使われるのか。ここは、もう少し数字を追ってみたい。
間違いがあればぜひ教えてください。できるだけ事実とデータに基づき、市民目線で調布を学び、一緒にGrowしていけたらうれしいです。
tatsu|調布withgrow代表
参考
新市長の最初の仕事は「10億円」——9月議会に向けた物価高対策を数字で先取りする(#04) https://note.com/tatsu_withgrow/n/n5473e4d3ae2b
令和8年第3回調布市議会定例会市長提出予定議案(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/020040/p078147.html
議案第59号:令和8年度調布市一般会計補正予算(第2号)PDF(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/18151/gian59-2.pdf
令和6年度物価高騰対策給付金(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/060020/p032020.html
調布市市内事業者物価高騰支援事業費補助金(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/040040/p023289.html
令和6年度物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金 実施計画(調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/14452/r6jissikeikaku.pdf
令和7年度重点支援地方交付金の活用状況(令和8年6月時点・調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/17044/202606r7gaiyoukatsuyouzyoukyou.pdf
令和8年度における重点支援地方交付金の取扱い等について(内閣府地方創生推進室・令和8年4月1日) https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/juutenshien/260401jimurenraku.pdf
これまで実施した非課税世帯等への給付金事業について(令和7年1月 厚生委員会資料・調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/13866/0701rinjikousei.pdf
令和6年度調布市決算概要(「令和7年度における前年度繰越金活用計画」を収録・調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/15956/r6kessanngaiyou.pdf
令和2年度調布市決算概要(「令和3年度における前年度繰越金活用計画」を収録・調布市公式) https://www.city.chofu.lg.jp/documents/4885/kessangaiyou1_1.pdf
