目覚めた世界は、ゆがんでいた
夢うつつの中で、遠くから救急車のサイレンが聞こえる。ガタガタと車体が揺れ、交差点に差しかかるたびにスピードが落ちる。
「ここは、どの辺りだろう……」
そんなことをぼんやり考えたような気がする。
病院に着いてからのことは、まったく覚えていない。ストレッチャーで運ばれたことも、救命救急の慌ただしいやり取りも、記憶はぷつりと途切れている。
後から家族に聞いた話では、医師から喫煙の有無を尋ねられ、「吸います」と受け答えまでしていたらしい。本人には、その記憶すらない。
これもうろ覚えだが、口に酸素マスクを当てられたとき、無意識に手で払いのけてしまい、「外さないでください!」と強く注意された気がする。
麻酔が効き始めると、不思議なくらい手術への恐怖も痛みも感じなかった。
それでも頭の中では、必死だった。
「九九は言えるか?」
「漢字は覚えているか?」
もし答えられなくなったら、自分ではなくなってしまう──そんな漠然とした不安と闘っていた。
翌朝、目を覚ます。
目の前には、宙に浮かんでいるように見えるテレビモニター。パーテーションは斜めに傾き、部屋全体がゆがんでいる。
まるで現実ではない世界に迷い込んでしまったような、奇妙な光景だった。
