【14-5】ジークアクス全12話真相考察⑤普通を脱したいマチュと普通に落ち着きたいニャアン
戦後処理の象徴「ソーラレイ平和利用」と「除隊した元黒い三連星」
昼はコロニー内を照らしていた集光ミラーが、夜には角度を変えて南端の太陽光遠心炉に焦点を合わせ、超高温を実現する。業者が運んできたスクラップはここで溶解し、精錬され、資材にリサイクルされる。
施設自体は、連邦がソロモン戦で使ったソーラーシステム(アルキメデスミラー)の平和利用だ。登場順が違うだけで、実際には既存技術の軍事転用かもしれないが、この景色は日常になっている。
戦後処理を象徴する場で、元黒い三連星が、宇宙トラック(ジャンク運搬船)のクラクションを鳴らした。ジャンク屋兼非合法モビルスーツバトルの参加者に落ちぶれながら「ガンダムに手柄を独り占めされて」と過去の失敗をぼやく。
一年戦争で両者が重なる場所といえば、オデッサだろう。ここでシャアのガンダムは相当な戦果を挙げたようだ。ホワイトベース隊がいない場合、黒い三連星はすんなりとオデッサに向かっただろうから、参加遅れもない。正面から撃墜数を競い合って、彼らは既に一度「ガンダム」に負けているのだ。
殺人者シュウジに寄り添えるか悩むマチュの背中を軽い感じで推すアンキー
屋上で日光浴しながら、マチュは今後のことを考える。
彼女の恋は、シュウジにすがって自分のところに縛り付けるような愛し方ではない。マチュは、彼のところまで駆け上がって行こうとしている。
そして、薄々感づいていた彼の中の闇に触り、分からないまでも、何とかしてあげたいと思っている。愛とは関心を持つことだ。
だが、そうして接近した相手が、目の前でクラバの対戦相手を殺した。
キラキラ空間に居合わせたマチュは、彼の抱える、とんでもなく奥深い闇を見る。そうしたものの見方に、マチュは慣れていない。
うつ伏せて足をパタパタさせながら、どうしたもんかなとマチュは悩む。
「シュウジ、人が死んでも平気そうだった」
マチュは、その領域まで行こうとしているわけではない。
そんな彼を救えるのか。
人殺しが平気な人の横に、自分は立てるのか。
マチュは、元に戻れないところに踏み出そうとしている自分を感じる。常識で考えたら、かなり無茶な領域だ。自分は本当に飛び込めるのか。
悩むマチュの横に、アンキーが水着でやってきた。
「ただ者じゃなかった」
自分は「普通の人々」で、シュウジと並ぶような無茶ができるのか、と不安なマチュへ、無責任な軽い賞賛。そのまま寄り添うように並んで、日光浴とドーナツ。
いっしょにはグラタンを食べない母と比べて、いっしょにドーナツを食べてくれるアンキーの言葉が、するりと入る。
「アタマ空っぽにして追いかけてみるのも悪くないよ」
アンキーのシンプルな励まし。
マチュの天秤が傾くひと押しだ。
たしかに、いまの彼女には、それしかできない。
マチュは、このハードルを越える決意をする。
アンキーに押されたとはいえ、ほとんど勢いだ。
学校での、助走をつけての高飛びが重なり、マチュはこれを軽々と超えていく。彼女はこれまで、だいたいのことを難なくこなしてきたのだ。
これもきっとイケる。マチュはそう思う。
走り高跳びの示すもの
この話で描かれた走り高跳びは「一線を越える準備」が、彼女の中でできている演出だ。最後のひと押しは、アンキーという「理解者」の一言。
しかし、高飛びは、越えたあと落下する。
彼女が飛ぼうとしている先に、クッションがある保証は何もない。
だが、マチュは(彼女に憧れる同級生女子たちの視線を感じながら)それを越えていく。
対照的なクツの演出がある。
運動靴で地面を蹴って高いバーを超えるマチュと、底の平らな靴で車道と歩道を分ける柵に、すでにどっかりと腰を下ろしているニャアン。
彼女もまた、シュウジの生きる危険な車道側に、背中から転落できる位置に座っているのだ。
そしてランドリーでパイロットスーツを洗いながら、迷っていたマチュと同じに、ニャアンも足をパタパタと動かしている。
彼女も、何かを超えたいと思っているのだ。
「おーい、ハラヘリムシー」
わざとらしい呼びかけ。これは、明確に、ハア、もう、これは明確に、余裕のないマチュの照れ隠しだ。
自分の中には、シュウジを恋しく思う心が確かにあって、その世界に飛び込む決意もしていて、でもこれから会うのダと思うと、自分の慣れない気持ちが恥ずかしい。そして嬉しい。だから、それを隠した言い方になる。
ニャアンにだけ分からないキラキラ内輪話
「ジークアクスに乗ってると、世界の方が私に応えようとしてくれる」
好きな人と共通の話題がある。これだけで、わけもなく嬉しいマチュから、心の声が漏れる。
こんなに素敵なら、ここを飛び出して、世界の向こうまで行ってみたいなあ。
すかさず拾ったシュウジが返す。
「それは彼がそうしろと言っているんだよ」
この間にあった明確な会話のスキップ。発話部分だけでは、どう考えてもつながらないのに、会話が流れていく。
それにニャアンは気がつく。そして愕然とする。
ここは私の新しい居場所になると思っていた。
しかしこの二人は、私を置いて二人だけでどこかに行こうとしている。
わたしにも、追いかけて飛び越える覚悟はあるのに。
マチュが水着のアンキーの一言をきっかけに越えたように、ニャアンもシュウジのフルオープンな脇の下と、マチュよりもニャアンよりも白くなめらかぁな汗ばんだ肌に触発されて、ボンヤリした友人の線を越えようとする。
ニャアンが服を脱いでシュウジの横に並ぶ。この動機は「マチュからシュウジを奪いたい」わけではない。ただ、ニャアンは三人でいたいのだ。だから自分も通じ合いたい。物理的に「シュウジと同程度の露出で並べば、精神的な距離が埋まるのではないか」という幼い発想だ。
だから、ニャアンは下着までしか脱がないし、そこに羞恥や迷いは少ない。ただシュウジと同レベルに至ろうとしていただけだ。「身体を使ってでもオトコを籠絡してやろう」という意図は、このシーンに存在しない。存在しないと思いたい。
シュウジも先述のララアを殺しまくったトラウマで、性欲というものが機能しなくなっており、結果としてマチュも脱いだので半裸の美少女二人に挟まれながらピクリとも反応していない。
僕がよくてもガンダムはどうかな
しかし、しかしだ。このシーンを御覧になっていただけるとわかるはずだが、ガンダムの股間が盛り上がっている。たいへん御立派な感じに描かれている。
もともと、白いガンダムはコアファイター部分が引っかかるから真っ直ぐ仰臥できないため第2話では背もたれ状の角度をつけてキャリーに乗せられていた。ところがそのリアル設定をかなぐり捨てて、この隠れ家では水平に寝ている。そしてプラモデルなどの画像を確認いただきたい。どうやってもガンダムの股間はこんなにでっぱらない。意図的な作画だ。シュウジの潜在意識の反応を、赤いガンダムが拾っている描写だろうか。(え? 反応? どちらに?)シュウジの反応しない性欲を代弁して「いまは心が死んでいるけど本当は異性として好きなんだ」ということを示すひっそりとした赤いガンダムの御立派なナニはシュウジの寝そべる位置の延長にある。
鏡写しのようにその両側にマチュとニャアンが寝そべる。構図からも分かると思うが、「どっちが好きなの?」という謎として残される画だ。
ただ、現時点での恋模様は、マチュはシュウジが好きで、シュウジはマチュも好きだがそんな精神的余裕はなく、ニャアンは三人いっしょに居場所を作っていきたい、という感じだと思う。
ニャアンが欲しているのは、ニュータイプとして二人に並ぶことではない。三人で普通に仲良くできる場所だ。
だから、ニャアンは「ほんと、きもちいい」と寝そべるときに照れていない。
一方でマチュは真っ赤だ。こちらは明確に恋が動機の張り合いだが、シュウジもニャアンもその気はなく、マチュだけがゆでだこになって空回りしている。ハロの中のアムロも「脱ぎすぎだ」と止めている。
スペースグライダーの購入費用の話をマチュが振る。
「あと二勝すれば全額払える」と決まった後で
「そうすれば」とマチュ。
「地球に行ける」とシュウジ。
ニャアンは会話が平文になって安心する。
「マチュもシュウちゃんもがんばったから」
三人で、地球の海へ。
このときの夢を抱いて、途中おおきく道を分かちながらも、三人は進む。
エグザベ君はお払い箱なのか
一方、ジークアクス捜索に、なぜか一人で行ってこいと放り出されるエグザベ。
正直にジオンであることを明かして、無法地帯に乗り込む。そんなには多くない「難民には同情するぜジオンは悪い奴だな」と思ってる人と、おそらくはその数倍の暗数にのぼる「難民が増えて俺たちの酸素と水と税金と暮らしが目に見えて苦しくなったじゃねえかこの生活苦はジオンのせいだろが」と思ってる人に殴られ、投げ飛ばされ、顔面から地面を擦らされるエグザベ。
前話で、エグザベとシャリアは、電車内で長い会話をした。失敗の謝罪をしているエグザベに、シャリアが「ジークアクスを足で探しては?」と軽く提案したのだと思う。(本人はポメラニアンズに接触しているのに、そのヒントを教えはしない)
そして、この後で電車内のスパイに「シャリアを信じすぎるな」と釘を刺されるくらいには、エグザベはこの指示を鵜呑みにして行動している。
「彼もニュータイプです。なんとかするでしょう」
そう言うシャリアは、コモリに背中を向けてはいるが、顎をあげて、顔は光に照らされている。彼女には言えないが、シャリアの中では、ウソ偽りなく正しい指導なのは間違いない。
シャリアはエグザベをどう見ているか。
女学生パイロットが確保できれば、彼はお払い箱だから捨て駒にされちゃうんじゃないか。コモリ視点からはそう見える。
エグザベ君は「①ジークアクスパイロットとしてはお払い箱」「②彼の後ろにいるキシリア派をあぶり出したい」「③ニュータイプの新しい星にしたいが素直すぎるのでジオンの立場や世間を勉強させたい」という目的の「行ってこい」
まずシャリアは、エグザベの背後にキシリア派がいることを見抜いている。その彼を一人で行動させることで、キシリア派の動向を探りたいのだ。
案の定、彼はキシリア派のスパイ(ナンプレをしている松山鷹志声の人)と接触している。5年間動きの無かった内部抗争を活性化させ、キシリア暗殺計画などの大きな動きを観測するのがシャリアの目的だ。(そしてこれ自体は、アルテイシア擁立前に、潜伏する反ダイクン派を浮かび上がらせて、キレイに掃除するためである)
シャリアがエグザベを現地調査に行かせたのは、彼にオメガサイコミュを起動させた女学生を捕まえて貰うためだ。これは本当にその通り。
ただ、彼はまだサイド6の複雑な民間の空気を体感で理解していない。平和な街にひそむニュータイプ(マチュがいる以上、他にもオメガサイコミュを起動せしめるような逸材がいるはず)を探し出すためには、肌感覚でこの世界を知らなければならないのだ。
シャリアが育てたい後進の条件としても、素直すぎる青年でなく、世の中をよく知っている人材になってほしい。全てが終わった後で「ニュータイプの世」を彼らに託したいのだ。
その日のために、サイド6の空気も戦争の実情も理解していない未熟な彼は、成長していく。これらを理解し、最後には、シャリアの理想を批判できるようになっていく。
第12話では「独裁下では人類の革新はおきない」とキシリア抹殺を試みるシャリアに「いまジオンが崩壊すればニュータイプも道連れになる」と対等にやりあえるようにもなった。
この二人の絆は、この第五話ではまだ始まったばかりで、迷いに満ちている。
マチュの小爆発
ジークアクスの物語は進行が早いので、エグザベは偶然にもマチュと遭遇し、それをきっかけにニャアンが覚醒する。予想はしていなかったと思うが、この幸運もまたシャリアの計画に組み込まれていく。
駅構内のベンチでグッタリと天井を見上げるエグザベ。
ここで、クランバトル一時間前にカネバンへ向かうマチュとニャアンを見て「似ている」と彼は気がつく。しかしまさかな、と思っているとマチュがニャアンに職質している警官のキンタマを思いっきり蹴り上げて逃走。驚愕とともにエグザベは「この思い切りのよさは」と確認を決意する。
マチュの怒りは、我慢して理不尽な世界に合わせようとするニャアンに苛立ったものではない。
マチュは、最近つかんだ「世界が応えてくれる感覚」と現実の差に爆発したのだ。
自分の脚でハードルを越えた彼女は、その脚で警官の股間を蹴り上げて、その脚で逃走する。
理由と証拠がないと動けないエグザベは駆け出しのシャリアブル
そして、マチュはエグザベに捕まったのだ。
待ち伏せして、ロッカーという私的空間で、公権力から離れた場所で話をつける。
非常に不格好だが、シャリアがカムランにやった交渉術を、エグザベもなぞっている。この点で二人は師匠と弟子のような関係をちょっと構築しているのが面白い。
ロッカー内、無言での腹の探り合いが交わされる。
マチュの服装は目撃時と同じなのに顔はうろ覚えだったエグザベに比べ、マチュは、薄黄色のパイロットスーツ着用でいまの見た目とかなり違うエグザベを明確に憶えている。
記憶力は普通の人間能力だが、ここでは「空気と直感で走り出す本物のニュータイプ」と「理由と証拠が無い限りは疑わない、善良だが現実には慣れていない未熟なニュータイプ」の差として描かれている。
エグザベのこの「理由と証拠がないと動かない性質」は、ミゲルの毒ケーキを見抜けなかったところまで残留していく。
彼は証拠を求める。
「時間が気になるか」
「これでジークアクスが出てこなければ決まりだ」
ロッカー周辺は、動員された警官によって固められている。マチュの急所蹴りは、軽いおふざけで済まない程度の相当にキツい一撃だったのだろう。
ニャアンにIDを求めた警官も、喋ることができれば「いや、いちおう確認しなきゃと思って」という程度だったかもしれないが、いまだに会話ができないくらいダメージがあって、これは大事件やも、と捜査が本格化している。
そしてそのせいで、あと二勝でスペースグライダーが手に入る所まで来たクランバトルに、多額の違約金が発生しそうになっている。その時刻まで追い込まれているのは、明確にマチュの「やらかし」だ。
友達のために
ニャアンは「どうしよう」「どうする」と自問。
彼女の腕のなかにいたハロが、ふと目を上げた。
一瞬だが、たしかに何らかの決意の脳波を、ハロは受信している。
駆け出すニャアン。
「恐いけど、友達のために、ガンダムに乗る」
ジークアクスに眠るアムロの起動条件が、ニャアンの中にそろった。
バトル開始に間に合ったニャアンが、ジークアクスに乗り込む。暗がりだったので、カネバンのスタッフには気づかれていない。アンキーにもだ。(戦闘後は事務所に戻る前の通路でマチュに合流しているため、アンキーは「ジークアクスを起動できるパイロットが二人いる」ということに気がついていない)
「やれそうな気がするときは、やれる」
自己暗示のように言い聞かせるニャアン。
彼女はララアの陰の面だ。娼館で働いていたララアが、シャアのためにサイコミュ装置の実験につきあい、モビルアーマーで初陣に出るときも、きっとこんな感じだったのだろう。
とりあえず、エントリーさえできれば、あとはシュウジがなんとかしてくれる、と思っていたが、そのシュウジは発熱してヘロヘロだ。
コンチが計るシュウジの体温38.9度である。最近この世界に顕現した肉体だし、もともとは別の世界から来ているせいか、サイド6にある病原菌に対しては免疫が不足しているのかもしれない。もしくはあの冷えそうな服装のせいだ。
明確にガンダムに劣るリックドム
今回の対戦相手はリックドム。
正史のリックドムは、地上のドム部隊の活躍(黒い三連星はあまり戦果をあげられなかったと思うけど)がめざましく、そのままデザインを宇宙用に転用している。0079終盤、戦争の中心が宇宙になったとき、ゲルググの開発が間に合わず、ザクではジムに対抗できなかったための繋ぎでもあった。
しかし、ドムはビーム兵器も装備できず、リックドムは「ザクよりは強い」という程度であり、地上でこそジムの3倍くらい強かったが、宇宙ではジムにしばしば撃墜されている。
ゲルググ開発が遅れ、新規設計の時間もなくリックドムは量産された。この二重の理由で正史ジオンは敗北している(諸説あります)。
さて、ジークアクス世界である。シャアの乗るガンダム大活躍で、ドム評価は正史よりかなり低くなった。生産台数も少なかったのだろう。その分の資源でビグザム量産が実現し、なんやかんやがあってジオンは戦争に勝利した。
したがって、ジークアクス世界のリックドムは、コモリが言うように数の少ない珍しい機体だ。
シャリアもこれに「わずかな期間」乗っていたと語る。シャアとマヴを組んだ最初の機体は、リックドムだったかも知れない。「推力はガンダムと遜色ない」という言葉には、なんとかしてシャアについていった大尉時代の実感がこもっている。
リックドムは、おそらく最後のジオン純正モビルスーツだ。
これでガンダムと併走したシャリアからも「これじゃ並んでいるのは推力だけで、それ以外はあまりにも性能が違う」と実感のこもったコメントがあり、ガンダムの逆工学からゲルググ生産へと、ジオンは舵を切ったのかもしれない。
ただ「キシリア様の配下には優れたドム使いがいた」というくらいなので、同じくキシリア配下のソドン内でこれを悪くは言えない。シャリアは目を伏せながら「すぐれたモビルスーツです」とフォローはしている。
ただ、彼はキケロガ開発完了を受け、リックドムからすぐに乗り換えた。これほどのモビルアーマーでなければ、シャアの駆るガンダムにはついていけないのだ。
その前提で、明らかに性能の劣るリックドム二機対ガンダム二機の戦闘である。
殺意ではなく覚悟の問題だったジークアクス起動条件
オルテガが吼える。「こいつからは殺意が見えねえ」
オールドタイプであっても、戦争経験から彼らは殺意を捉えられる。機体性能で劣っても、戦場の覚悟で圧倒してやるぜ、という構えだ。
ニャアンには殺意も覚悟もなく、そしておそらくジークアクス搭乗時のエグザベにも、それらはなかった。
ニャアンは、ここで敵モビルスーツに強烈な殺意を抱いて、ついにオメガサイコミュを起動させる。
ここでジークアクス起動には「殺意がいる」というミスリードがされる。
第4話のマチュからも「人を殺しても平気なシュウジに並びたい」と「殺意が必要」のようなミスリードがされている。
しかし実際には、シャリアが言うように「覚悟の問題」だ。
シュウジは実母を殺し続ける覚悟をすでにしている。
マチュもそれについて行き、彼に並んで、彼を救う覚悟でいる。
ニャアンにも覚悟が問われる。
君は、この二人に並べるのか? と。
グフの電撃で、ガンダムではなく直接コクピットの自分自身を狙われながら戦ったアムロが、同じ目にあっているニャアンにちょっぴり同情する。ああ、自分もむかしは、状況と周囲の都合で戦わされていたっけな。このニャアンという少女も同じだ。ロックを外してあげてもいいかナ、と思ったとき、ニャアンがブチギレた。
「なめんなよォォォ、クソがアァアアァアア」
ビックリして思わずロックを外すアムロ。あれ? 君ホントにララアの陰の面の象徴なの? 恐くない? と彼は尻込みする。さっきのビリビリに同情して、思わずオメガサイコミュのロックを外してしまったが、ニャアンが殺意をこめてアームレイカーを握りしめるのが恐ろしすぎる。嫌悪が現れて、ちょっとおててがイヤイヤするアムロ。
正直この殺意のものすごい少女に付き合うのは、ちょっと違うナとアムロは思う。自分はララアの陰の面はほとんど知らない。彼女が娼館から解放されて以後に出会ったのだから。
でも彼女は、遠慮無く「イヤな臭い」とドムのコクピットを狙う。
シイコ戦のシュウジに、行動だけは並ぶニャアン。
盾にされてきた少女たち
彼女は、虐げられてきた難民だ。過去何度も自分を盾にする他人を見てきた。全能感を手に入れたとき、彼女はそれをやり返す。だからニャアンは、赤いガンダムの頭をつかんで盾にもする。
これは、11歳から難民だったというニャアンが、おそらく実際にやられたことだ。
そして、ララアの陰の面にも相当する。ララアもたくさんの人の盾にされてきた。第9話で後述するが、娼館でララアは「お姉様」と慕われている。そして、23歳のララアは年下の妹たちの盾となってきた。最後にはマチュを庇って盾になっている。
陰の側面が強調されすぎているが、ニャアンもまた盾にされてきた少女だ。
「私が合わせなくてもいい。世界が私に合わせてくれる。自由だ」
ララアがシャアに手を引かれて宇宙にあがったときも、似たような感慨があったのだろう。あと、なんといってもララアとリックドムといえば、バタシャムに「エルメスがいたら俺達が前に出ることはないだろ」と初陣ララアの護衛をサボられた怨みがある。これをニャアンがぶった切ってくれたので、アルファサイコミュ経由でシュウジに拍手喝采の感想が伝わった。
「面白い、とガンダムが言っている」
ララアも大喜びであろう。(アルファサイコミュ内にいるのが、仮にセイラさんであっても、黒い三連星のオルテガはマチルダさんの仇でもあるので、痛快だったと思う)
戦中と戦後のマヴのあり方
士官学校の優等生であったコモリには、むしろ黒い三連星の方が、教本通りのお手本マヴに見える。これは戦中のマヴだ。
ニャアンとシュウジのニュータイプ急造ペアには「こんなのマヴとは言えませんよ」と厳しい。
しかしシャリアは、正統派マヴでは到達できない世界があることを知っている。彼は、ここを越える人間を欲しているのだ。だから「わたしは、ああいうマヴも嫌いではありません」と応える。
黒い三連星のマヴを否定しないのは、旧世界の戦闘スタイルへの別れの礼だ。
ただ、今回の「ああいうマヴ」は、素人が徐々に腕を上げていくそれまでの様子と、あまりにも異質な戦闘だった。この二人目のパイロットは、赤いガンダムとの連携に遠慮が無い。二つの意志が同期しているようにすら思える。おそらく別人。つまりジークアクスのオメガサイコミュ起動適合者は、ここに二人も存在するのだ。
始動するギレンキシリア同時排除作戦
シャリアは考える。予想していなかった事態だが、これなら「ある作戦」が実行できる。
二人のオメガサイコミュ適合者を確保して、一人はイオマグヌッソのゼクノヴァ砲トリガーとなるジフレドパイロットとしてキシリアに差し出す。
すると、これをもって完成するイオマグヌッソの式典に、5年ぶりにキシリアとギレンが会する。
このタイミングまでに、もう一人のパイロットを自分が育ててマヴとし、ザビ家の二人を同時排除するのだ。
その後に、シャロンの薔薇の時間凍結をジークアクスのパイロットによって解除し、ララアを救い出して隠す。そしてシャアを説得し(最悪でも相打ちで倒す)、シムスにはアルテイシア擁立を成し遂げてもらい(そのためにギレン派やキシリア派の潜伏している勢力やグループをあぶり出してキレイに掃除し)、自分は軍事法廷で処分され、エグザベやコモリに、新しいニュータイプの世を託す。
これが、この時点でシャリアが考えていた作戦だ。
この作戦の駒が揃ったことを確認して、シャリアはキケロガの取り寄せを決定している。
正体の分からないパイロット二人を、同時に確保しなければならない。これは、簡単ではないだろう。一人はエグザベにやらせるとして、もう一人は、自分でやる必要があるのだ。
エグザベは優れたパイロットだが、フラナガンスクールで使っていたであろうギャン一機で二人を相手にするのは難しく、手も足りない。ジークアクスと赤いガンダムは、少なくともリックドムの完璧なマヴを打ち破るくらいには強くなっているのだ。無傷で回収するとなれば、なおさら強力な力が必要となる。
そして、シャリアはこの時点で、キシリア暗殺計画が水面下で進行していることも、サイコガンダムが投入されることも察知している。(アンキーが指摘した通り、繋がっているのだ)
キケロガは、いよいよその時が来たことを告げる鐘であり、潜む陰謀を掻き混ぜて浮かび上がらせるための強烈な撹拌棒(櫂)だ。
これまでは、ジークアクスのパイロットは一人だと思っていた。
なので、搭乗者を調べて探しだし、説得を試みれば良いと思っていたのだ。できればジオン(自分の配下)にスカウトしたい。諜報、心理戦、交渉術。何でも使って確保する予定でいたのだろう。
黒い三連星の発言だが、クランバトルでよい成績を収めると、それをひっさげて割のいい傭兵会社に就職できるらしい。クランバトル→軍事産業への就職というラインが一般的な出世ルートなら、クラバ参加者に、ジオン軍籍は魅力的なはずだ。シャリアは、うまく手に入ると思って、少し余裕があった。
しかし、適合者の成長が著しい。しかも二人いる。シャリア個人としては好都合だが、ニュータイプ戦を覚悟しなければならない領域に入ってきた。
それに、条約違反兵器の持ち込みは、先述のようにこの宙域をさらにかき回すだろう。ソドン進入でナンプレ男が泡をくってエグザベに接触してきたし、この際は、潜伏組織のあぶり出しを徹底的にやろうと思う。
普通を脱したかったのに閉じ込められたマチュと、普通に落ち着きたくて無茶をしたニャアン
コモリの「こんなのマヴじゃない」、シャリアの「ああいうマヴも嫌いではない」発言に並んで「すごいマヴだ。こんなの見たことがない」とエグザベ。彼の場合は、そもそも殺意も覚悟も足りないゆえの発言だ。
だが、狭い空間で聞いたマチュには、これが世界の評価だと頭に響く。
ニャアンとシュウジのマヴは、正規パイロットが認めるくらいすごい。
ロッカーに連れ込まれた直後に「ハイバリー!?」とエグザベは驚愕していた。「そんなお嬢様学校の子がモビルスーツに乗れるとは思えないけど」とも言われている。普通の人々からみると、マチュは万能の王子でもなんでも無いのだ。これが彼女の社会的な位置とサイズ。あまりにも「普通」だ。
マチュは、シュウジのところに飛び込もうと思っていた。自分にはできると思っていた。普通を脱して、特別な場所に座っていると思っていた。
でも、自分は社会から見たら、ちっぽけで、この男の手も振りほどけない。爆発して、警官の姿も確認せずに彼女は飛び出した。
マチュは雨の中を泣いて駆ける。
「シュウジとのキラキラは、わたしだけのものなのに!」
本当は、マチュとシュウジの距離に変化があったわけではない。ニャアンとシュウジの距離が近くなっただけだ。
しかしマチュは、彼との距離が遠くなった錯覚を、強烈に、絶望的なほどに感じる。
泣きながら、帰還途中のジークアクスに追いつくマチュ。コクピットから逃げるように出てきたハロが、マチュの足に隠れて怯える。いっしょにコクピットに閉じ込められていた少女の、闇が恐い。
そこでマチュは、はるか頭上に、ニャアンの姿を目撃する。
「なんで、ニャアンが乗ってるんだ」
それは、わたしがシュウジに追いつくために必要な聖域なんだぞ。
高いところにいたマチュが転落し、ニャアンが高いところから見下ろす構図で、第5話は終わる。
しかし、マチュの位置は変わっていないし、ニャアンも「やらかしたマチュの穴埋めで、必死の思いで三人の夢を守ろうとした」のだ。
赤いガンダムの上で、三人ならんで横になった。このとき、中央のシュウジは位置が高く、左右に分かれて横たわるマチュとニャアンは、お互いが見えない。マチュは恋愛がらみの恥じらいと嫉妬を讃えた赤い顔。ニャアンは三人で仲良くしたいという夢の中にいて、穏やかな顔。
三人はお互いを見ていない。マチュの中に、自分のような貧乏難民への嫉妬があるなどと、ニャアンは考えられない。
いまさら、エグザベとの密着が悔しいマチュ
軍警がいるから仕方が無く、とはいえ、
クランバトルの結果が気になって目が離せなかった、とはいえ、
男性とロッカーの中で密着して過ごした。
知らない男とそんな時間を過ごしているうちに、ニャアンがシュウジとマヴを組んで勝利した。自分だけのスペシャルを猫みたいな名前の難民に泥棒された。知らない男と、不本意ながらくっついて過ごしたせいで。それがマチュはたまらなく悔しい。
マチュが学校に行っている間に、どうしてもニャアンとシュウジの距離は縮んでしまう。
ニャアンは、この距離感で無害な男性を知らず、はしゃいで距離が近い。
マチュは、学校に行っている間にそうなってるとは知らず、ショックを受け、そして、疑心暗鬼が、深く、暗くたぎる。
三人の関係は、ここから崩壊をはじめる。
シャリアはエグザベに覚悟を求めている
ザビ家排除を果たした後は、エグザベたち若いニュータイプに未来を託そう。シャリアはそう覚悟して、エグザベに苦しい道を歩ませている。これは最初に書いた通り。
「技術ではありません。覚悟の問題です」
シャリアはそう言う。
これまでと全くファイトスタイルの違う、明らかに素人(ニャアン)の動かしているジークアクスが、オメガサイコミュを起動させたのを、彼らは見た。
特に前半の戦闘は酷かった。自信も確信もないエグザベよりだいぶ落ちる操縦技能。それでも、この死に物狂いの素人パイロットは、オメガサイコミュを叩き起こして、最終的に勝利したのだ。
この覚醒を、エグザベは越えられていない。
「君は、友達の自由のために戦えるのか」と、エンディミオンユニットも問いかけている。マチュやニャアンは、その問いを越えた。
エグザベは、現状キシリアたち、オールドタイプの世界に奉仕しているのだ。シャリア退場の後、オールドタイプ世界に所属したまま「同胞であるニュータイプ(友達)の自由のために戦えるか」という覚悟が、彼には問われている。
いまのエグザベには、それがない。ルウムの難民から士官になった彼は、立場や役目を全うすることだけだ。そこから飛び出さない。彼からジークアクスを奪ったマチュのように、良かれ悪かれ越えようとしていないのだ。
スガイシイコの絶望を受け止めたのはどちらか
しかし、最終話で、この問いは逆転する。
すべてやりとげたシャリアが、エグザベに宣言する。
「キシリア様は死にました。軍事法廷で裁きなさい、この命をもって」
第4話での、シイコの激しい怒りをシャリアは思い出す。ニュータイプはあまりに人を殺しすぎた。その全ての──
「罪を償おう」
力を持ちすぎた人間が引き起こす殺戮と虚無の責任。それをシャリアは背負って死のうとしている。シャリアはシイコの憎悪を「他人の話」ではなく、自分たちの鏡として、責任を取る覚悟を示したのだ。
しかし、シイコの絶望は「ニュータイプがどいつもこいつも希望と憧れだけ残して無責任に消える」という点にある。
同じモニターで見ていたエグザベは、この点をこそ、自分の物語として受け止めていた。だから彼は、それを希望に転換してシャリアを怒鳴りつける。
「ふざけるな、あんたはニュータイプがニュータイプとして生きられる世界を創るんだろ、なら、ザビ家なき後のジオンをなんとかしろ。あんたには責任がある」
この第5話で、シャリアがエグザベに求めた覚悟が、最終話で返される。
シャリアは死ではなく、生きて自由のために戦う覚悟を、この成長した青年から返してもらうのだ。
「自由のために傷つく者こそが本物のニュータイプ」
その理想に、自身も踏み出すために。
次回は第6話解説は、追い詰められていくマチュの視界がどんどん狭くなっていく有様と、アンキーの爆破ハッタリを軽くひねってしまうシャリアのえげつなさと、彼の仕込みが組み上がって行く様子。そして、マチュパパがどんな人だったかの考察です。お楽しみに。
