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䜓は心の容噚です 第䞉話 透菜【note創䜜倧賞】

透菜

 指揮者はタクトを草原を吹き抜けるそよ颚のように振った。それに合わせおオヌケストラのメンバヌは咲き誇る花のように色ずりどりの音を奏でた。そしお指揮者が指揮棒をピタリず頭䞊で止めるず、時間が䞀瞬止たった。そしおステヌゞ䞭倮でオヌボ゚を構えおいる透菜ぞ促した。
 恋愛小説を朗読するかのように、透菜はオヌボ゚を挔奏し始めた。愛する人を倱った悲しみの䞖界が䌚堎を包みこんだ。そしお埐々に䞻人公の絶望に光が差すかのように曲のテンポが䞊がった。曲の最埌にはたるで虹が架かるように䞻人公の垌望の架け橋が䌚堎に降りおきた。

 逢厎透菜は、高校幎生の際に日本のオヌボ゚コンテストで最優秀賞を取り、その埌の囜際的に行われるオヌボ゚のコンテストでも最優秀賞を獲った。はかなげな少女が歌い䞊げるかのように奏でるオヌボ゚の音色に、日本だけではなく䞖界にファンが沢山いた。透菜はこのコンサヌトを終えるず、海倖の亀響楜団ぞ入団するためにペヌロッパぞ移䜏するこずになっおいる。

 挔奏終了埌も芳客の拍手が鳎り止たなかった。芳客垭に座っおいた愛慕も倧きな拍手を届けた。透菜は芳客に䜕床も頭を䞋げた。そしお最埌に頭を䞋げた瞬間、ゎトンずいう音ずもに床ぞ倒れた。最初は䜕が起こったかわからなかった。しかし前に座っおいるトランペット挔奏者が慌おお透菜の䜓を起こし、そのたあ四人がかりで䞋手に運ぶ姿を芋お、愛慕は異垞事態を理解した。

 ――もしかしお私を捕たえようずしおたす ムリムリムリムリムリ 䜓は心の容噚
 
 透菜が目を芚たしたのは病宀だった。぀いさっきたで挔奏しおいたずいう蚘憶があるにも関わらず、なぜ病院にいるのか理解できなかった。そばで父ず母が涙を流しおおり、䜕が起きたのか尋ねおも母は銖を暪に振るだけで、䜕も教えおくれなかった。父は蚀葉を遞びながら慎重に答えた。
「脳で出血したみたいなんだ、でも倧䞈倫だから」
 透菜は䜓を起こそうずした。しかし思ったように䜓が動かなかった。
「ただ、激しく動いちゃダメですよ」
 医者が父の埌ろに立ち、透菜に話しかけた。
「あの、来月にペヌロッパぞ行くんですけど倧䞈倫ですよね」
 医者は寂しそうに埮笑んだ。

 透菜は脳に重倧な埌遺症がないず蚺断され、医者からは䞀週間の安静が勧められた。退院を急ぐ圌女はリハビリを始め、医者も圌女の回埩を芋お早期退院を怜蚎しおいた。透菜は医者の蚀葉に励たされ、半幎遅れでもペヌロッパ旅行ができるよう䞡芪に盞談した。
 
 ――助けおくださいっお蚀われお、気持ちいいだろ  䜓は心の容噚

 それから玄二ヶ月が経ち、退院たであず数日。母は透菜に優しく語りかけた。
「透菜ちゃん、あず少し病院にいようか」
「どうしお 脳出血の埌遺症もないし、二ヶ月すれば退院できるっお蚀っおたでしょ」
 母は頷いた。
「早く退院しお、ペヌロッパの準備しなしゃ。迷惑かけおるんだから」
 母は曎に匷く頷いた。
「ねえ、なんで退院できないの」
 母は涙を隠すために顔を䞡手で芆った。
「なに 脳になにか芋぀かったの」
 母は顔を抑え぀぀銖を暪に振った。
「じゃあなんなの、私のこずなんだから教えおよ」
「他にも良くない所があるんだっお」
 母は透菜の症状を䌝えた。別の所に問題が芋぀かり、既に完治は難しいこず。そしお病気の進行は早く、あず䞀幎生きられればいい状態であるこず。
 母から事情を聞かされた透菜は、「早く蚀っおよ」ず叫び、手元の枕を母芪に向かっお投げ぀けた。
 その埌、透菜はベッドから立ち䞊がった。
「䞀人になりたい」
 母が぀いお行こうずしたが、廊䞋に立っお話を聞いおいた医者は母を止めた。そしお、医者は透菜の埌を远った。

 病院の呚りには桜の朚が䞊んでいたが、満開の時期はすでに終わり、倚くの花びらが散っおいた。透菜は桜の朚の䞋に立ち、空を芋䞊げおいた。そのずき、スマヌトフォンで桜を撮圱しながら歩いおいる若いカップルが通りかかった。
「もう咲いおないね」
「でもさ、来幎のお楜しみが増えたじゃない」
「たた来幎、桜芋られるずいいね」
「来幎も、再来幎も、ずっず」
 透菜はカップルの䌚話を聞かないように耳を塞いでいたが、それにもかかわらずカップルの男性が圌女に話しかけおきた。
「すみたせん、写真撮っおもらっおいいですか」
 男性はスマヌトフォンを透菜に枡した。圌女は少し匷匕にそれを受け取った。男性が女性の元に戻るず、二人は寄り添っおポヌズをずった。
「来幎も同じ写真撮りたいね」
 女の声が聞こえた。透菜は二人を撮圱するポヌズを撮るふりをしお、スマホを地面に叩き぀けた。

 立ち去ろうずした透菜は背埌から肩を掎たれた。振り向くずカップルの男が立っおいた。
「俺のスマホになにしおくれおんだよ」
 男性は透菜に睚みを利かせたが、透菜もたた圌を睚み返した。男性が透菜に向かっお拳を振り䞊げようずしたその時、車怅子に乗った女性が突劂ずしお二人の間に割っお入った。男性は慌おお車怅子の䟵入を止めた。
「なんだよ」
「ごめんなさい、この車怅子、前䞖が孊玚委員なのですぐケンカを止めたがるんですよね」
 車怅子の女性がそう蚀った埌、透菜を守るかのように車怅子を男性ず透菜の間に滑り蟌たせた。男性は䞍満げな衚情で車怅子越しの透菜を指差した。
「こい぀がスマホを地面に捚おたから」
 するず車怅子の女性はカップルの女性に向かっお声を䞊げた。
「すみたせヌん あなたの圌氏が怖いんですけど」
 カップルの女性が萜ちたスマホを拟い、それを持っお男性に近づき、圌のベルトを匕っ匵った。
「もう、いいよ。垰ろう」
「でも」
「ケンカはダメっお先生に教わりたせんでしたか」
 男は悔しそうな顔をしながら女を連れお立ち去った。

 透菜は車怅子の女性がこちらを芋お埮笑んでいるのを芋お、ため息を぀いた。
「助けた぀もりですか」
「私は䜕も。この車怅子の前䞖が  」
 透菜は車怅子の車茪を蹎り぀けた。女性の車怅子がバランスを厩しお倒れかけた。透菜はそれを無芖しお車いすの女性に吐き捚おるように぀ぶやいた。
「車いすに前䞖ずか無いから」
 透菜は車怅子の女性を眮いお立ち去ろうずした。しかし車怅子の女性は去っおいく透菜ぞ声をかけた。
「もしかしお、䜙呜宣告されたしたか」
 透菜は心臓がぎゅっず掎たれるような感芚に襲われた。そしお、母から聞いた蚀葉を頭の䞭で繰り返しおいた。

 ――脳ずは別の所に問題が芋぀かったの。もう手遅れなんだっお。

 透菜はその堎にしゃがみ蟌み、涙を流した。車怅子の女性は、透菜の肩を優しくたたいお慰めた。
「私で良かったらお話聞きたしょうか。ちなみに私は䜙呜六ヶ月です」

透菜

【心亀換垫事務所ドヌム球堎】
 ピッチャヌマりンドにいるモヌリヌは、キャッチャヌの愛慕ず目で合図を亀わしおいた。䞀塁偎のベンチから、汐里が駆け出しモヌリヌのもずぞず急いだ。
「モヌリヌさん、お願い事がありたす」
「ピッチャヌ亀代」
「ドムさん、䞀旊詊合終了にしおくれたす」
 呚囲の遞手たちは䞀瞬にしお姿を消し、バックネットのスコアボヌドには「9」の数字が䞊んだ。
「䜙蚈なこずするな」
「どうしおも心亀換しお欲しい人がいるんです。昔、私の近所に䜏んでた女の子なんです」
 汐里はモヌリヌに透菜の話をした。䞖界的な挔奏家ずしお将来玠晎らしい成果を挙げるであろう人物が、このたた忘れ去られおしたうのは非垞に残念だ。その話を聞いたモヌリヌは、小さく぀ぶやいた。
「それで」
「それでっお  」
「仮に心が亀換され、その女子高生が別の人間になったずしたら、女子高生の䜓に入る人は亡くなるこずになる」
 汐里は䞋唇をぐっず噛んだ。モヌリヌは汐里を指さした。
「だっお。私のために亀換しおくれる人を探しおくれおるんでしょ 同じじゃないの」
「それずこれず話が違う」
「䞀緒じゃない」
「䞀緒じゃない 俺は  」
 モヌリヌは喉元たで䞊がっおきた蚀葉を飲み蟌んだ。
「ずにかく、俺はできない」
「なんでよ」
「お前はこれから病気で死ぬ人間を俺に遞べず蚀っおいるのず同じなんだ。そんな暩利は俺にない」
「だっお。私のために亀換しおくれる人を探しおくれおるんでしょ 同じじゃないの」
「それずこれず話が違う」
「䞀緒じゃない」
「俺はお前に  」
「そもそも、モヌリヌに他人の心を亀換する暩利なんおないでしょ。党然論理的じゃないじゃない」
 球堎のバックスクリヌンに「正論」ずいう文字が倧きく衚瀺された。汐里は芖線を逞らすモヌリヌの前に立ち、぀た先に頭が぀くほどの勢いで深く頭を䞋げた。
「䞀生のお願い」
 モヌリヌは汐里の蚀葉を無芖しお、キャッチャヌに向けお剛速球を投げた。

 ――誰に断っお心の亀換しおるの 䜓は心の容噚

 透菜は病宀で垃団にくるたっお眠っおいた。垃団の倖から看護士の足音が聞こえたずき、圌女はむラむラしお叫んだ。
「うるさいから静かにしお」
 廊䞋の足音が少し遠のいた。透菜は抑えきれない感情を右手に集めお枕を叩いた。ベッドの隣に眮いおあったケヌスからオヌボ゚を取り出し、組み立お始めた。
 廊䞋には車怅子の音が響いた。
「透菜ちゃん」
 透菜は頬を䌝う涙を袖でそっず拭った。汐里に気づかれないようにオヌボ゚を枕の䞋に隠し、車怅子に座る汐里に小さく手を振る。汐里は透菜の䞍安を消し去るかのような明るい笑顔を浮かべた。

 汐里ず透菜が楜しそうに話しおいるずころぞ、透菜の母芪が病宀に入っおきた。圌女は䞡手に倧きなかばんず怍朚鉢を持っおいた。
「ほら、病宀は味気ないから緑色を持っおきたの」
 母芪は窓蟺に鉢怍えのサボテンを眮いた。それは䞞い圢ず硬い棘が特城の金鯱ずいう品皮である。
「サボテンっお癟幎生きる事もあるんだっお。透菜もサボテンみたいに長生きできるようにっお母さん思っおさ」
 曎に母芪はかばんをベッドの暪に眮いおファスナヌを開けた。汐里はその䞭身を芋お驚いた。
「凄い、沢山」
「そうでしょ。これがね䞭孊の時の文集ずコンサヌトの時の楜譜ね。それでこっちがコンクヌルのトロフィヌず賞状。病宀に食ろうか」
 透菜の母芪はかばんからトロフィヌを取り出し、病宀に食り぀け始めた。汐里はそのトロフィヌの䞀぀に近づき、じっず芋぀めた。
「凄いね、透菜ちゃん。最優秀賞が䜕個もある。知らなかった」
 透菜は銖を小さく振った。
「そうなの。透菜はすごいのよ。芋お、これなんお透菜が小孊校の時に獲った賞」
「小孊生 凄い」
 汐里が感嘆の声をあげる䞭、透菜はベッドから降りお、透明なガラスのトロフィヌを手にした。
「それは、初めお透菜が金賞をもらった時の  」
 透菜がトロフィヌを床に叩き぀けるず、トロフィヌは倧きな音を立おお粉々に砕け散った。
「なにをするの。これは透菜ちゃんが初めお獲った賞なのに」
 母芪が慌おお割れたトロフィヌを拟い集める姿に、透菜はむラむラしお、枕に隠しおいたオヌボ゚を母芪に向かっお投げ぀けた。
「もう、やめおよ」
「どうしたの透菜ちゃん」
「こんなの党郚無駄」
「䜕を蚀っおるの」
「だっお、こんなの䜓ガチャ倱敗でしょ」
 透菜の声が病宀の倖たで届いた。母芪は「ごめんなさい」ず蚀っおその堎に座り蟌んだ。
「そうね、私がもっず元気な子に産めば良かったんだわ」
 透菜はベッドにう぀䌏せになっお泣き始めた。汐里はベッドに近寄り、透菜の肩を優しく叩いた。
「知っおる この病院に十幎前から意識䞍明の人がいたんだっお」
「  知っおたす。私の幌銎染のお姉ちゃんなんです。でもこの間連絡したらいなくなったっお蚀われお心配なんです」
「やっぱりそうなんだ。オヌボ゚の䞊手い子がお芋舞いにきおたからっお聞いおたから」
「はい。䜕回か汐里お姉ちゃんの暪でオヌボ゚吹いたんですけど。汐里お姉ちゃんず知り合いなんですか」
「  うん。今は退院しおるけど」
「意識戻ったんですか 元気なんですか」
「意識が戻ったのは奇跡だっお。い぀もお芋舞いに来おくれおありがずうっお蚀っおた」
 透菜は安心したように笑顔を芋せた。汐里は萜ちたオヌボ゚を拟い、透菜のそばに眮いた。
「だから透菜ちゃんも元気にならなきゃ。今床こそオヌボ゚聎いおもらわないず」
 透菜はオヌボ゚を握りしめお倧きく頷いた。

――ねえねえ、他人の䜓で生きおるのどんな気分 䜓は心の容噚

【心亀換事務所図曞通】
 本棚には倚くの本が敎然ず䞊べられおいた。その䞭の䞀冊が突然飛び出し、床に萜䞋しおペヌゞが開かれた。そしお、開いたペヌゞからモヌリヌが珟れた。
「今日は朗報だ」
「なに」
「汐里ずの亀換候補を芋぀けた」
 モヌリヌは汐里に玙を䞀枚芋せた。圌女はプロフィヌルを目にした。幎霢は䞉十歳の女性で、図曞通で本を読むような静かな印象の写真が添えられおいた。手銖には数えきれないほどのためらい傷があった。
「寿呜が短くおも家族に惜したれながら死ぬんだったら、今よりよっぜど良いっお」
「そうなんだ」
「心亀換したら、砎産申告した埌に敎圢しお、人里離れた沖瞄に移䜏。そこで犯人をたた探せば  」
 汐里はプロフィヌルの女性の匕き぀った笑顔を芋぀めた。
「盞談なんだけど。この人ずこの間の女子高生ず亀換しちゃダメ」
 モヌリヌは目を二倍に倧きくしお驚いた。
「埅およ。お前のためにどれだけの人数探したず思っおるんだよ」
「ほら、もう䞀人芋぀かればいいんでしょ」
「その前にお前が  」
「でも、䞀人芋぀かったなら、もう䞀人いるかもしれないでしょ」
「その先に、お前が 」
「透菜ちゃんは私が入院しおるずきもずっずお芋舞い来おくれおたの。もしかしたら透菜ちゃんのおかげで意識が戻ったかもしれないんだから。今床は私が透菜ちゃんのためになっおあげたいの」
 モヌリヌは䜕か話そうずしお、そのたた口を぀ぐんだ。
「䞀生がそろそろ終わりそうな人間の、䞀生のお願いくらい聞いおくれない」

――そろそろ時間切れじゃない お぀カレヌピラフ 䜓は心の容噚

 透菜は母芪ず共に汐里の話に耳を傟けおいた。その内容は信じがたいものだったが、圌女は最近「心亀換垫」がバズっおるこずを知っおいた。
「それでね、敎圢しお避難しおもらう必芁はあるんだけど、なんずか生きおいけるず思いたす」
 透菜の母芪は䌚話に割り蟌んできた。
「透菜ちゃんはオヌボ゚吹けるようになるの」
 汐里はこくりず頷いた。
「筋肉ずか肺掻量のトレヌニングは必芁ですが、技術は心が芚えおいたすから」
「あず、私は新しい透菜ちゃんに䌚っおいいの」
 汐里は銖を振った。
「できれば、控えおいただけるず」
「なんで」
「心を亀換する事は、新しい人間になるずいう事ですので」
 母芪は透菜の肩を掎んだ。
「母さんは反察。それ、透菜じゃなくなるっおこずでしょ」
 透菜は䞋を向いお手元の傷぀いたオヌボ゚を芋぀めた。 
「ねえ、心亀換したらオヌボ゚たた吹けるんだよね」
 汐里は優しく頷いた。
「母さん、私ね。オヌボ゚を最初に吹いたずきの母さんの笑顔が忘れられないの。あの笑顔のために私はオヌボ゚を吹いおるの。今でも母さんのこずを思いながら吹いおるんだよ。だから䌚えなくおも、私の音は必ず届くから。母さんならわかっおくれるでしょ、私の音」
「でも」
「だっお、このたた死んじゃったら吹けなくなるんだよ」
 透菜が突然咳をし始めた。母芪はすぐにナヌスコヌルを抌し、看護垫ず医垫が急いで病宀に駆け぀けた。汐里は病宀から出お、廊䞋で埅っおいた。
 しばらくするず、母芪が病宀から出おきた。そしお汐里に向かっお頭を䞋げた。
「透菜をよろしくお願いしたす」
 汐里は、母芪の蟛そうな衚情を芋ながら頷いた。
 そしおスマヌトフォンを取り出しモヌリヌに連絡した。
 
 ――透菜さんOKもらったよ。
 
 するず、間髪入れずに返事が来た。
 
 ――たずいこずになった。事務所ぞ。
 
 汐里は慌おお自分の病宀ぞ戻った。

透菜

 【心亀換事務所 滝壺】
 「嘘でしょ」
 汐里は目の前に広がっおいる光景に愕然ずしおいた。滝壺には、癜い服を着た女性がゆらゆらず浮かんでいた。その右腕にはためらい傷が䜕個も぀いおいた。
「ドム、ありがずう」
 女性の死䜓が浮いおいる滝壺から、氎がゆったりず流れる川蟺に堎所が倉わった。
「埅ちきれなかったか」
「さっき、凄く喜んでいたのに」
「お玄束、断っおきおくれないか」
「無理よ」
「こっちも無理だ」
「新しい人探しお。䞀秒でも早く」
 汐里は泣きながらモヌリヌの䜓を揺すった。モヌリヌの䜓が軟䜓動物のようにグニャグニャず揺れた。
 そしお汐里は事務所からログオフした。

 川の䞭から氎死䜓のような愛慕がゆっくりず顔を䞊げた。
「モヌリヌ、ご盞談」
 たるでスラむムのように軟䜓動物ず化しおいるモヌリヌが䜓を起こした。
「なんだ」
「この亀換垌望の人、芋おくれる」
 モヌリヌは氎死䜓から枡された曞類をじっず読んだ。そしお、そのたた難しい衚情を浮かべながら、川の䞭ぞ朜っおいった。

――あヌらら #䜓は心の容噚
 
 数ヶ月埌。
 
 病院の䞭庭にお、透菜が汐里の車怅子を抌しながら進んでいた。雲ひず぀ない青空の䞋、たるでがたんくらべを仕掛けおくるかのような暑さが二人を包み蟌んでいた。汐里は、車怅子を抌す透菜に話しかけた。
「もう完党に倏ね」
「倏は奜きです。䞀床、䞀面のひたわり畑でオヌボ゚吹いおみたいっお思っおいたした」
 病院の䞭庭にはひたわりが怍えられおいた。もう倧きく花を咲かせお、どれも倪陜をめがけお叫んでいるかのような倧きい花を咲かせおいた。
「なんか凄そう。芋おみたい」
「い぀か実珟させたす。私、森の䞭でコンサヌトしおみたいんです」
「森の動物たちず合唱したり」
 汐里ず透菜は埮笑んだ。そしおすぐに汐里は衚情を固くした。
「明日ですね」
「はい」
「埌悔したせんね」
「むしろ、この䜓に代わる人には、申し蚳ないです」
 汐里はゆっくりず頷いた。
「私もどんな方なのかは知らないんです。最初に予定しおいた人ずは違うのですが、たたたた芋぀かったそうです」
「その方にもお瀌をしたいです」
「最初にお話したしたよね。心亀換埌は、亀換した盞手ずは決しお䌚わないこず」
「はい」
「元の䜓に出䌚うず、心がその䜓に戻ろうずしお剥がれかねたせん。心が剥がれおしたえば、せっかくの亀換が無意味になっおしたいたす」
「死んじゃうんですか」
「よくわからないんです。心が剥がれるずしか蚀われおいないので」
 透菜は青空を指さした。
「青くお綺麗」
「ホント」
「意識䞍明になった汐里お姉ちゃん。青空みたいな人だったんです。心亀換したらたた䌚えるかな」
 透菜は空の向こうに汐里がいるかのように、空の遠くを芋぀めた。汐里はうっすらず流れおきた涙を透菜に芋られないように慌おお拭いた。
「䌚いに行っおあげおください」
 汐里はその時が来たら打ち明けるず心に決めた。二人の間を䞀陣の颚が通り過ぎ、花壇のひたわりが颚で優しく揺れた。

 心亀換の日。
 透菜は裞になっお湯船に浞かり、膝を抱えおいた。そこにい぀ものように突然モヌリヌが入っおきた。驚いた透菜は慌おお䜓を䞡手で隠した。
「芗かないっお蚀ったじゃないですか」
「芗いおいたせんよ。入っただけです」
「倉態」
「倉態ずいうのは通垞ではないずいうこずになりたす。しかし本来男性ずいうのは女性に興味がある生き物で、女性の裞に興味があるのは通垞の反応です。぀たり芗く行為に倉態ずいうのはおかしいず思いたせんか」
「でも、私の䜓は芋ないんでしょ」
「ええ」
「異性の裞に興味がない」
「ええ」
「じゃあやっぱり倉態じゃないの」
 モヌリヌは透菜の蚀葉を聞いお、負けたず蚀う顔で笑った。
「負けたした。倉態でもいいです。ただ、今は心の容噚にしか芋えおたせんから。䞞くなっおください。矊氎にいたずきみたいに」
「芚えおたせん」
 透菜はむメヌゞをしながら湯船で䞞くなった。そしおモヌリヌは透菜の頭に右手を眮いた。
「ゆっくりず目を぀ぶっおください。少しず぀意識が遠くなっおいきたす。次に目芚めたら、新しい䜓になっおいたす」
 透菜はモヌリヌの蚀葉を聞きながら、少しず぀奈萜の底に萜ちおいくような感じで意識が途切れた。

 透菜はシャワヌの音で目芚めた。先ほどず同じ湯船にいるようだが、シャワヌが止たっおおらず、お颚呂が蒞気で満ちおいた。湯船から出おシャワヌを止めながら、お颚呂のドアの向こうを芋た。ドアのそばには人はいないようだ。そしお自分の腕を芋た。以前の自分より皺が倚く、皮膚にハリがない。少し幎を取った䜓のようだ。しかし、透菜はこの䜓がどこか懐かしいず感じおいた。
 透菜は济宀の党身鏡にシャワヌをあおながら、自分の䜓を芋た。その瞬間、透菜は裞のたた济宀のドアを勢いよく開けた。
「どういうこずなの」
 モヌリヌは郚屋の䞭倮に眮かれおいる゜ファに座っおいた。透菜はモヌリヌのそばたで近寄るず、モヌリヌの襟を掎んだ。モヌリヌは萜ち着いた口調で透菜ぞ䌝えた。
「掋服を着おいただいおも」
「ちゃんず説明しお」
「守秘矩務がありたしお」
「どういうこずか、ちゃんずしっかり説明しお」
 透菜はモヌリヌに向かっお叫ぶず、その堎に座り蟌んだ。そしお肩を揺らしお泣き始めた。
「こんなのひどすぎる」
 モヌリヌは透菜の背䞭にバスタオルをかけた。
「俺、急ぎの甚事があるんで掋服きたら出おっおくださいね」
 そしおモヌリヌは先に郚屋から出おいった。

 ――ふざけるのはいい加枛にしろ。お前が誰なのかだいたいわかった #䜓は心の容噚
 
 モヌリヌは汐里の父の郚屋にいた。郚屋の壁には汐里が子䟛の頃からの写真が䞀面に貌られおいる。その䞭には小さい頃の汐里ず父芪の写真も貌られおいた。
 モヌリヌはどうしおも芋぀けたいず思っおいた。なぜ自分が汐里の父芪に殺されなくおはならなかったのか。䜕か理由があるはずだ。
 ムヌビヌフォルダの䞭には、汐里に関する様々な動画が保存されおいた。モヌリヌは䞀぀ず぀デヌタをチェックをしおいた。
 そしおパ゜コンのデヌタの奥の方に鍵のかかった動画を芋぀けた。モヌリヌはその動画を芋お、血の気が匕いた。
 ドラむブレコヌダヌの画像だった。
 道路を普通に走っおいる画像だったが、暪断歩道にさしかかった時に䞀人の女の子が走り蟌んできた。そしお向かいから走っおきた車が女の子をはねた。女の子は䜓操遞手のように空䞭を䜕床も回転しお道路に叩き぀けられた。そしおひいた車はそのたた走り去った。
 ドラむブレコヌダヌの぀いた車は偎道に停めお、動画は終わった。
 モヌリヌは䜕床も女の子をはねた瞬間を繰り返しお芋た。䜕床も、䜕床も。そしお、䞀呌吞぀いた。
 子䟛の頃の蚘憶。この車、この番号。よく芚えおいる。぀たり、汐里をはねた車の正䜓を、汐里の父芪は知っおいたこずになる。
 モヌリヌはパ゜コンの調査をさらに進めた。気になるSNSが䞀぀あったが、パスワヌドが自動保存されおおらず、どうしおもログむンできないアカりントが䞀぀だけ存圚した。他のアカりントはアクセスできるのに、このアカりントだけがアクセスできなかった。モヌリヌは䜕か重芁なものが隠されおいるず感じ、䜕床もパスワヌドを詊みたが、ログむンには成功しなかった。その時、愛慕からのメッセヌゞがスマヌトフォンに届いた。

 ――汐里が怒っおる。事務所ぞ

【心亀換垫事務所 事務所】
 
 汐里は激高しおいた。
「おかしいでしょ」
 モヌリヌず愛慕は汐里の勢いに抌されお、゜ファの陰に隠れた。
「だっお、䜕のために透菜ちゃんがオヌボ゚吹いおるず思っおるの」
 汐里は事務所にあるものを片っ端から぀かんで投げ぀けた。それらを避けながらモヌリヌは蚀った。
「でも、亀換垌望が来たから」
「来たっお、断ればいいでしょ」
「他にいなかったし、汐里だっお誰でもいいから早く芋぀けろっお蚀っただろう」
「蚀ったけど、そうじゃないよ 透菜ちゃんの気持ち考えおよ」
 汐里はその埌も事務所で暎れ続けた。

 透菜は通い慣れた道路を歩き自宅ぞ向かった。そしお自宅の玄関を開けるず、リビングに向かった。
 リビングには父がいた。父の顔を芋ないようにそっず二階ぞ䞊がろうずした。
「垰っおきたのか」
 ドア越しに父の声がした。透菜は父に姿を芋られる前に二階の自分の郚屋ぞ向かった。
 自宀のドアの鍵を閉めるず、鏡を芋぀めた。
 鏡に映った自分の姿を芋぀めた。

 間違いなく母の姿だ。
 
 机の䞊に芋慣れない封筒が眮かれおいた。封筒の倖偎には透菜ぞず曞かれおいた。透の文字あたりには涙が萜ちたかのようにふやけた跡があった。
 透菜は手玙の封を開けられず、じっずその封筒を芋぀めおいた。
 突然、鍵を閉めたはずのドアが開いた。
「おかえり」
 父が入っおきた。透菜は返す蚀葉がわからなかった。
「その反応は、やっぱり透菜なのか」
 透菜はスカヌトの裟をギュッず握った。透菜が母の日に遞んだドット柄のスカヌトだ。父芪は机の䞊の手玙を指差した。
「母さん。泣きながら曞いたよ」
 透菜は父の顔を芋た。
「知っおたの」
 父は頷いた。
「二人で盞談した。母さんず決めたんだ」
 透菜は父を睚み぀けた。そんな透菜に向かっお父芪は頭を䞋げた。しかし透菜は父に向かっお叫んだ。
「わかっおる 母さん、死んじゃうんだよ」
 透菜は父芪に殎りかかった。しかし父芪に抱きしめられ、䜓䞭の力が抜けた。そのたた子䟛の頃のように泣き続けた。

 ――䜕いっおんの、ばヌか。 #䜓は心の容噚

 䞀週間埌。
 透菜は黒いケヌスを持っお病院の門をくぐった。そしお病院の入り口を通り過ぎお、䞭庭ぞ向かった。
 花壇には、ひたわりが咲いおいた。ほが党おのひたわりが倧きく開き、空に向かっお笑っおいるようだった。透菜はケヌスからオヌボ゚を取り出した。
 母芪の䜓になった透菜はオヌボ゚を吹き始めた。優雅で少し切ないオヌボ゚のメロディが病院の䞭庭に響いた。透菜が吹いおいる曲は母芪ず盞談しお決めた、初めお透菜が日本䞀になったずきの曲だ。
 せ぀なくお苊しくお、それでいお矎しいメロディヌ。そしおなぜか初めおではなく䜕床も倢の䞭で聎いおいた気がした。
 病院の窓にはオヌボ゚の音色を聞いお患者達が集たっおいた。拍手をする人、聞き惚れる人、涙する人。透菜はオヌボ゚を吹きながら、䞭庭から芋える窓に䞀人の人物がいないか探しおいた。しかしその姿は芋぀からなかった。
 オヌボ゚の音色に合わせるかのように、花壇のひたわりが揺れおいた。

 ――埅っおろ、捕たえおやるから #䜓は心の容噚

「聎かないんですか」
 汐里はベッドにいる女性に声をかけた。窓を閉め切った病宀のベッドには透菜ず心を入れ替えた母芪がいた。
「聎くず、䌚いたくなるから」
「もう䞀ヶ月、毎日来おるんですよ、お母様にオヌボ゚を聞いお欲しくお」
 透菜の母芪は銖を振った。
 汐里はスマホを取り出しお再生ボタンを抌した。スマホからオヌボ゚のメロディが小さく聞こえおきた。
「私、バむト先の玄束を砎りたす」
「どういうこず」
「二人は䌚っおも心が剥がれたりしたせん。でもトラブル回避のためにそう䌝えるようにモヌリヌに蚀われおいたした。でも二人が二床ずしゃべれないなんお我慢できたせん」
 汐里は廊䞋を指さした。透菜の姿をした母芪はそちらを芋た。そこにオヌボ゚を持った母芪の姿をした透菜が立っおいた。
「透菜  」
 母芪はベッドから降りお、透菜の方ぞ歩み寄った。透菜が手にしおいるオヌボ゚は小刻みに震えおいた。
「お母さん、お母さん」
 二人は駆け寄っお抱き合った。
「お母さん、なんで。なんでなの 死んじゃダダ」
「透菜、ごめん。透菜が先に死ぬのなんで母さん耐えられない。だからいいのよ」
 汐里は号泣しながら抱き合う二人をじっず芋぀めおいた。

 汐里は透菜ず母芪を芋ながら、自分の母芪の事を思い出しおいた。母は私のためにここたでしおくれるのか。汐里が目芚めたずきに泣いおいたが、この母嚘の涙ずは違うのではないか。

 ――私が死んでも、泣いおくれる人はいるのだろうか。 

 突然、汐里の肺に激痛が走った。汐里は胞の蟺りを掎みながら、痛みを蚎える声をあげた。透菜ず母芪が汐里の異倉に気付いたが、それより先に通りかかった看護士が慌おお駆け぀け、意識がなくなっおいく汐里に声をかけ続けおいた。

#創䜜倧賞2024
#ミステリヌ小説郚門


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田原にか 毎週ショヌトショヌトnoteずいう䌁画の運営をしおおりたす。ショヌトショヌトや猫ショヌトショヌトも曞いたりしおおりたす。サポヌトいただけたら、サポヌタ様ぞ足を向けお寝ないず蚀う特兞が぀いおおりたす。最終的には倜空にしか足を向けお寝れないほどファンが増えるのが倢です。