わたしが好きな風【エッセイ│ひといきの木曜日】
40度を超える日を何日か経験すると、35度を下回っただけで「今日は涼しい」と感じる。
30度を切れば「過ごしやすい」。
25度を下回れば「なんて心地いいんだろう」。
どうやら私の脳は、すっかり夏の暑さに順応してしまったらしい。
そんな錯覚のもと、ここ数日、少し過ごしやすい日があった。
窓を開けると、ふわりと風が吹く。
曇りがかった室内。
遮光カーテンの向こうは、ほんのり明るい。
元気すぎる4歳の発達凸凹っ子が出かけている午前中。
家の中は静かだった。
穏やかな時間と、心地よい風。
こんなふうに、何もせず風を感じる時間って、いつ以来だろう。
結婚する前の実家には、物忘れが増えていた母と、足元のおぼつかない父がいた。
家にいても、どこか気を張っていて、ゆっくり休むことなんてなかなかできなかった。
そして今の我が家には、もうひとつ問題がある。
「におい」だ。
家の前には田んぼや畑があり、窓を開ければ、ときどき肥やしの強烈なにおいがやってくる。
家の中では、義母の作る、醤油や砂糖たっぷりの料理、揚げ物、ホルモン、ニンニク……。
外からも、中からも。
さらに私は嗅覚過敏があり、人よりにおいに敏感なのだ。
においに苦しめられることの多い我が家で、その日は違った。
外からも、中からも、何もやってこない。
ただ、心地よい風だけが入ってきた。
だからだろうか。
その風が、何年ぶりかと思うほど気持ちよかった。
「もっと、この風を感じていたい。」
そう思って、私はそのまま横になった。
風を感じながら、ほんの少し眠る。
目が覚めると、心が満たされていた。
なんて幸せな時間だったんだろう。
またいつか、こんな時間を過ごせたら。
そう思って迎えた休み明け。
……背骨が痛い。
おかしい。
ちゃんと休んだはずなのに。
職場で同僚と話していて、ふと気づいた。
違う。
あの日だ。
風を感じたくて横になった、あの日。
そういえば私……
床に直寝していた。
原因、たぶんそれ。
心は満たされたけれど、身体にはハードな休息だったらしい。
今度からは、ちゃんと布団で横になろう。
それでも私は、あの日の風が好きだ。
またあんな風が吹いたら、今度は布団の上で。
ゆっくり、心を満たそう。
(888文字)
なんだか縁起のよい数字になりました🍀
文藝大賞2026 エッセイ部門 参加記事です。
エッセイってなんだろう?
2026年8月
エッセイを書こうと思って書き出した。
その世界は奥深くて
迷子になりながらも楽しみ始めました。
素敵な機会をありがとうございました!
これからも、エッセイ書いていこうと思います。
来週はコミックエッセイ部門応募します。
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