公務員を辞める若手が10年で2.7倍。「安定」の中で起きていることを、10年勤めた元係長がデータで解説する
「公務員は安定だから、辞めるなんてもったいない」
私はこの言葉を、退職を報告した日から数えきれないほど聞きました。34歳、市役所勤務10年、係長。世間的には「上がり」が見えたポジションを手放して、民間企業に転職した人間です。
感情論で「公務員を辞めてよかった」と語る記事はたくさんあります。でも今日は逆をやります。感情を一切抜いて、公的データだけで「公務員の安定に何が起きているか」を確認する。その上で、辞めるべき人・残るべき人の判断基準まで落とし込みます。
10分で読めます。ブックマークして、キャリアに迷った夜に読み返してください。
1. 若手の退職は「肌感覚」ではなく統計上の事実
まず一番インパクトのある数字から。
総務省「地方公務員の退職状況等調査」によると、30歳未満の地方公務員の自己都合退職者は、平成25年度の1,564名から令和4年度には4,244名へ。10年で約2.7倍に増えています。
私が役所にいた10年間は、まさにこの曲線の上にいました。入庁した頃、若手の退職は「年に1人いるかどうかの事件」でした。辞めた年には、もう誰も驚かなくなっていた。数字は肌感覚を裏切りません。
国家公務員も同じです。人事院の公務員白書(令和4年版)によれば、総合職試験採用職員のうち採用後10年未満の退職者数は、令和2年度で平成25年度比43.4%増。採用年度別の5年未満退職率は、平成25年度採用者の5.1%から平成28年度採用者では10.0%へとほぼ倍増しています。さらに内閣人事局のアンケート(令和3年度)では、30歳未満の男性職員の13.5%が「数年以内に辞める意向」と回答しています。
「10人に1人以上の若手が、5年以内に霞が関を去る」。これが今のエリート官僚の現実です。
2. 入口も細っている:受験者数の崩壊
出口(退職)だけではありません。入口も細っています。
地方公務員の受験者数は過去10年で約28%減少(総務省調査に基づくリンクアンドモチベーション社の調査リリース、2025年7月)
国家公務員一般職試験(大卒程度)の申込者数は、平成24年度の39,644人から令和6年度は24,240人へ。約39%の減少(人事院の実施結果より)
つまり「辞める人が2.7倍、入ってくる希望者が3〜4割減」。この2つが同時に起きるとどうなるか。役所の中の人なら即答できるはずです。残った人の業務量が増える。そして業務量の増加は退職理由の上位に挙がる要因ですから、退職がさらに増える。負のループです。
3. それでも「収入」はどうなのか? 私の実額
ここからは私自身のn=1データです。統計ではないので、その前提で読んでください。
私は役所(係長・在職10年)から、大手民間企業に転職しました。結論だけ書くと、年収は転職初年度から明確に上がりました。公務員時代に「管理職クラスになって届く額」を、転職1年目で上回るイメージです。
ただし、ここで正直に付け加えます。
公務員の給与は「下がらない」ことに最大の価値がある。民間は業績で賞与が変動する
家賃補助などの福利厚生は、大手民間の方が手厚いケースが多かった(私の場合、住宅関連の支援は民間の方が大きかった)
退職金は勤続年数リセットの影響を受ける。30代半ばでの転職は「生涯賃金でプラスにできるか」を自分の市場価値と相談する必要がある
「公務員を辞めれば収入が上がる」は嘘です。正しくは「市場で売れるスキルを持った公務員が辞めると、収入が上がることが多い」。この差は決定的です。
4. 判断基準:辞めるべき人・残るべき人の分岐点
10年役所にいて、転職して1年半以上経った今、私が後輩に聞かれたら答える基準がこれです。
【保存版】公務員キャリア判断マトリクス

私が最も伝えたいのは最後の行です。「辞めるか残るか」を決める前に、「自分に値段がつくか」を無料で確認できるのが今の転職市場です。転職サイトへの登録は退職届ではありません。市場調査です。
5. 「安定」の定義が変わった
最後に、10年勤めた人間としての総括です。
公務員の身分保障は今も強力です。倒産もリストラも原則ない。それは事実です。
でも、この記事で見てきた数字——若手退職2.7倍、受験者28〜39%減——が示すのは、「組織の安定」と「そこで働く個人の安定」が別物になったということです。人が減り、業務が増え、それでも給与テーブルは変わらない。組織は安定したまま、中の個人がすり減っていく。
私の結論はこうです。
本当の安定とは「今の組織にいられること」ではなく、「どの組織でも通用する状態でいること」。
公務員を続けるなら、役所の外でも値段がつくスキル(デジタル、広報、財務、交渉)を意識して業務を選ぶ。辞めるなら、感情ではなく市場の反応(書類通過率・スカウト)を根拠にする。どちらを選んでも、この原則は同じです。
70年続いた「公務員は安定」という常識は、私たちの世代で書き換わりつつあります。数字がそう言っています。あなたがどちら側にいくにせよ、判断材料は感情ではなくデータであってほしい。この記事がその一助になれば嬉しいです。
*本記事の統計数値の出典:総務省「地方公務員の退職状況等調査」、人事院「公務員白書(令和4年版)」「一般職試験(大卒程度試験)実施結果」、内閣人事局「令和3年度働き方改革職員アンケート」。筆者の年収・待遇に関する記述は個人の体験(n=1)です。
*私のプロフィール:34歳で市役所係長を退職→大手企業でDX推進を担当。転職のリアルは他の記事でも書いています。フォローすると週1〜2本、公務員×キャリアの記事が届きます。
