10年で異動2回。「配属ガチャ」に運よく勝った公務員が、それでも民間に転職した理由
「配属ガチャに外れた」「異動のたびに専門性がリセットされる」。公務員のキャリアを語るとき、必ずと言っていいほど出てくる言葉です。34歳まで役所で10年働いた元係長として、今日はこのテーマを自分の異動歴で検証します。
先に結論を書きます。私は10年間で異動2回、3つの部署を経験しました。年数は2.5年・7年・0.5年。この不揃いな年数の中に、公務員の専門性がどう作られ、どう作られないかのヒントがあります。異動歴が長い人にも短い人にも、読んでほしい内容です。(10分で読めます)
1. 「3〜4年で異動」は本当か。そして専門性はどうなるのか
地方公務員の異動サイクルは、一般的に3〜4年に1回とされています。ここは先に断っておきますが、総務省が全国統一の基準を定めているわけではなく、複数の公務員系キャリアメディアの情報に基づく二次情報です。若手のうちは2〜3年とさらに短いスパンで、税務・福祉・企画・総務など幅広い部署を経験させる自治体が多いとも言われています。
一方、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2023年に発表した論文では、大卒ホワイトカラーの公民比較調査から、地方公務員は極めて広範な職能分野への異動を繰り返しており、専門性が強く求められる職であっても、関連する職務経験は乏しいという状況にあると指摘されています。少なくとも職務経験だけからは専門性が得られていない、というのが論文の見立てです。
つまり「3〜4年で異動する」こと自体よりも、「異動先が専門性の連続性を無視して決まる」ことのほうが、専門性を薄める本当の原因だということです。
私自身の異動歴は、この一般論から見ると変則的でした。1つ目の部署(土木系インフラ系)に2.5年、2つ目の部署(児童福祉系)に7年、3つ目の部署(経営企画系)に0.5年。2つ目の部署だけが突出して長く、一般的とされる期間の2倍近くに及んでいます。
短期間で異動を繰り返している人ほど、この記事にモヤモヤするかもしれません。
この後に書くのは「運よく長くいられた側」の話です。
ただ、長くいられたことにも別の代償があった、というところまで読んでもらえたらと思います。
今まさに異動の内示を待っている人へ。平均年数だけを見て「自分は普通だ」「自分は外れた」と判断するのは早いかもしれません。大事なのは年数より、その年数の中で何を任されたかです。
2. なぜ7年間、同じ部署にいたのか
7年間という長さは、私の周りでも珍しがられました。
異動希望を出さなかったわけではありません。ただ、担当していた業務が前例のない法令対応やサービス設計と重なり、複雑な利害関係の調整役を任され続けたことで、結果的に異動のタイミングが後ろにずれ続けた、というのが実態に近いです。制度を新しく作る局面では、経緯を知っている人間を動かしにくいという事情が、人事側にもあったのだと思います。
また、その7年間で、デジタル活用による業務変革を複数回起こしました。従来の申請方法の変更し(紙申請前提だった手続きを、オンラインで完結)、関係する複数の部署の合意を取り付けるところまでを一人で担当した、というのが一番大きな成果です。前例がない分、反対意見も多く、法令解釈を一つずつ確認しながら進める必要がありました。
短期間の異動を挟んでいたら、この合意形成の途中で担当が変わり、企画自体が立ち消えになっていた可能性が高いと思っています。
そして7年間で、2段階昇進を経験しています。昇進のされ方で、周囲からも驚かれました。
はっきり言えることがあります。
この時は、「専門性が身についたから昇進した」のではなく、「たまたま長く同じ場所にいられたことで、専門性を育てる時間が確保された」という順番のほうが正確です。運がキャリアの土台を作り、そこに成果を積み上げた、という感覚に近いです。
おそらく、一つの部署にいてガリガリ中心選手になった方が、一気に昇進の可能性は上がります。
3. 私自身の話(n=1)。できなかったことも書きます
ここからは私自身のn=1の話です。統計ではないので、その前提で読んでください。
2段階昇進をした年、正直に書きます。マネジメントの経験はあまりできていませんでした。
利害関係の調整や制度設計、デジタル活用による業務変革には自信がありましたが、部下を育てる、チームとして成果を出すという意味でのマネジメントは、後回しになっていたと思います。プレイヤーとしての成果が評価されての昇進だったので、昇進した瞬間から「マネジメントする立場」で見られることに、内心戸惑いがありました。
異動先の3つ目の部署(経営企画系)は、わずか0.5年で離れることになりました。この部署での経験が浅いまま転職を決めたことは、今でも少しだけ引っかかっています。
7年間かけて積み上げた専門性を、次のポジションで生かし切る前に手放した感覚が拭えません。専門性は「時間の長さ」だけでは育たず、「その時間に何を任されるか」と「その後、その専門性を活かせる場所に異動できるか」の両方が揃って初めて育つのだと、今は思っています。
4. 【保存版】あなたの異動歴、どのパターンか 判断マトリクス
自分の異動歴を振り返るときの軸を整理しました。これから公務員を目指す人にも、今まさに異動の内示を待っている人にも、使ってもらえる形にしています。

私が最も伝えたいのは最後の列です。「長くいられてラッキー」で終わらせず、育っていない部分にも目を向けることが、次のキャリアを考えるときの分かれ目になります。
5. 「配属ガチャ」の本当の意味
「配属ガチャ」という言葉は、多くの場合「運が悪かった人」の言い訳として使われます。でも私の10年間が教えてくれたのは、ガチャに「当たった」場合にも別の代償があるということです。
本当の配属ガチャとは、「専門性が育つかどうか」の運ではなく、「専門性以外の何かが育たないままキャリアが進んでしまう」運のことです。短期異動なら専門性が、長期在籍なら他分野の知識や他部署との関係構築が、それぞれ育ちにくくなる。どちらの目が出ても、何かは足りないままキャリアが進みます。
公務員を続けるなら、今いる場所で何が育ち、何が育っていないかを定期的に棚卸しする。転職を考えるなら、育っていない部分を自覚した上で、次の場所を選ぶ。
私自身、7年間で得た専門性を武器に転職しましたが、マネジメント経験の薄さは、転職後の最初の半年で何度も痛感することになりました。それでも、育っていない部分が分かっているからこそ、今そこを意識して埋めにいけています。配属ガチャの結果そのものより、結果をどう自覚し、どう補うかのほうが、長い目で見れば重要だと感じています。
*本記事のうち、地方公務員の異動サイクル(3〜4年)に関する記述は複数の公務員系キャリアメディアの情報に基づく二次情報です。専門性の形成に関する指摘は、労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑誌」No.759(2023年10月)の調査結果に基づいています。筆者自身の異動歴・昇進・マネジメントに関する記述は個人の体験(n=1)であり、部署名は特定を避けるため一般化して記載しています。
*私のプロフィール:34歳で役所係長を退職→大手企業でDX推進を担当。公務員×キャリアのデータ記事を中心に書いています。フォローすると週1〜2本の記事が届きます。
