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国の事業は毎年5,000件超が点検される。一方で「前例だから」で予算を取り続けた現場について10年勤めた元係長のお話

「友好都市だから、行くんです」

役所時代、ある事業について「なぜそこに行くのか」と聞いたとき、上司から返ってきた一言です。私はかつて役所で10年働いて係長までいき、今は大手民間企業でDXの仕事をしています。転職して1年、公務員と民間で一番違うと感じたのは「Whyを自分の言葉で言語化できるかどうか」に尽きます。
皆さんの職場にも似た覚えはありませんか。

1.まずは私自身の経験から

役所時代、ある友好都市に行って行う事業がありました。事業の主軸はその都市に「行くこと」ではなく、その場所に行くことはあくまでサブ的な要素だったはずです。ですが「なぜそこに行くのか」と聞いたとき、返ってきたのは「友好都市だからです」でした。

それ以上、「なぜその事業をやっているのか」「そこに行くことで誰がどう変わるのか」という言葉が出てくることはありませんでした。「友好都市だから」はあくまで自治体の政策の一つであり、それを自分なりに解釈して「そこに行くことでその事業自体もこんないいことがある」と担当が言語化できていない、というイメージです。今の私からの視点だと、これは前例踏襲のくくりです。少なくとも私が接した範囲では、ほとんどがこの言語化をできていた記憶がありません。「前からやっているから」「しがらみがあるから」「計画に掲げているから」。これらは、なぜやるかではなく、自分で解釈して言語化することをせず、やる理由を“正当化”しているだけに過ぎないと感じます。

正直に言うと、民間に来てからも、目的が曖昧なまま進むプロジェクトはゼロではありません。ただ決定的に違うのは、「なぜやるのか」と聞かれたときに、自分の言葉で答えようとする人の比率です。

2. 国の事業、原則すべてが「なぜやるか」を毎年問われている

「一つの部署の、ちょっとした前例踏襲の話でしょう」

そう思われたかもしれません。ですが同じ構造は、国レベルでも確認できます。

日本には、国の予算事業を対象に目的や成果指標を点検する「行政事業レビュー」という制度があります。対象は原則すべての国の事業、5,000を超える件数(経済産業省)。見直しの反映額が1兆円を超えた年もあります(2010年度で約1兆3,278億円、各府省の自己申告に基づく集計。直近年度は本記事執筆時点で未確認)。

ただ、この制度があれば万事解決かというと、そう単純でもありません。国立国会図書館の資料でも、行政事業レビューについて「指標が必ずしも十分に示されず、国民への説明責任が果たされていない場合がある」との指摘が確認できます。毎年、去年の書式に去年の数字を当てはめて出すだけの資料になっている事業も、おそらく少なくないはずです。

つまり、外部有識者の目が入り、書面まで作らされる国の事業ですら、言語化が形式的な作業に落ちることがある。だとすれば、外部の目もなく、書面化する義務もない、 自治体の小さな予算ではどうなるでしょうか。声に出して説明する場面自体が、そもそも存在しない——これが私の見てきた現場でした。

たかがそれくらい。と思うでしょうか。こういうものの積み重ねが大きく税金が使われるわけで。

「自治体の予算と兆円単位の国家事業を並べるのは大げさだ」と思うかもしれません。ですが本質は金額ではなく、なぜに答えられるかという構造の話です。
むしろ金額が小さいほど、誰もチェックしない分、この構造がむき出しになっている気がします。

一つ言い方には気をつけたいのですが、「公務員は目的思考ができない」は正確ではありません。
正しくは「目的を言語化しなくても、前例があれば仕事が回ってしまう構造がある」です。ただ、構造の問題だからといって、個人にできることがないわけではありません。構造を変える最初の一歩は、結局のところ一人ひとりの言語化からしか始まらないのだと思います。

4.【保存版】その予算・その施策、自分の言葉で説明できるか チェックマトリクス

特に、今まさに予算や施策を担当している方へ。次の表で、自分の状態を確認してみてください。

私が最も伝えたいのは最後の行です。予算は誰かのものではなく、税金という原資に対して、一番詳しいのは担当者本人のはずです。つまり、その税金をなぜ使うか、誰がどんな影響を与えるか、と言う説明責任を負っているはずです。「決まっていることをこなす」感覚のままでは、その予算がなぜ必要で、なぜ国民にとって必要なのかという問いに、いつまでも自分の言葉で答えられません。

5. 本当の「専門性」とは、前例を知っていることではない

本当の“専門性”とは、前例や手続きに詳しいことではなく、「なぜこれをやるのか」を自分の言葉で語れることです。 公務員として残る人にも、いつか転職を考える人にも、この原則は同じように効きます。国の事業でさえ原則すべて、5,000件超が毎年「なぜやるか」を問われる仕組みが存在します。まず、今担当している一番小さな予算をひとつだけ思い浮かべてください。それについて、「なぜ」を答えられるか。そこから始められます。


出典一覧

経済産業省「行政事業レビュー」ページ(原則すべての国の事業、5,000件超が対象)
内閣官房行政改革推進本部「政府の行政改革-行政事業レビュー」
国立国会図書館 ISSUE BRIEF「事業仕分けと行政事業レビュー-意義と課題-」(2012年。2010・2011年度の反映額と、反映額が自己申告集計であることの留保を含む)

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