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届かないメッセージは、私を優しく照らす 4

第3章 すれ違いの予感


人は、自分が大切に思っているものほど、失うことを恐れるものだ。

それは、恋も同じなのかもしれない。

広瀬と出会って半年が過ぎた頃、私の日常の中には、当たり前のように彼がいた。

朝、「おはよう」とメッセージが届くこと。

仕事の合間に、お互いの好きな本の話をすること。

「今日は少し疲れたね」と言い合えること。

そんな何気ない時間が、いつしか私にとって、かけがえのないものになっていた。

けれど、人は幸せを感じ始めると、
不思議なことに不安も一緒に連れてきてしまう。

『私は、このまま彼の特別な存在になれるのだろうか。』

そんなことを考えるようになっていた。

彼は、誰に対しても優しい人だった。

私だけを特別扱いするような人ではない。

だからこそ、

その優しさに救われたはずなのに、私は少しずつ欲張りになっていった。

【今日は忙しいので、また連絡しますね。】

たった一行のメッセージ。

以前なら、「頑張ってね」と素直に思えた言葉が、

その日はなぜか胸に引っかかった。

『忙しいって、本当?』

『私との時間は、もう必要なくなったのかな。』

そんなことを考えてしまう。

自分でも呆れるくらい、

小さなことで心が揺れる。

大人になれば、恋愛はもっと穏やかなものになると思っていた。

けれど、

いくつになっても、

人を好きになると、こんなにも不安になるものなのだ。

私は少しずつ、自分の気持ちを言葉にできなくなっていた。

『会いたい』

そのひと言が言えない。

『寂しかった』

そう伝えることもできない。

重いと思われたくない。

面倒な人だと思われたくない。

嫌われたくない。

そんな気持ちばかりが先に立って、

自分の本当の気持ちは胸の奥にしまい込んでしまう。

その一方で、

彼もまた、自分の思いを多く語る人ではなかった。

『川野さんは大丈夫だと思っていました。』

後になって思えば、

その言葉にすべてが詰まっていたのかもしれない。

私は強い人だと思われていた。

ひとりでも生きていける人だと。

人の相談に乗り、人を励ますことができる人だから、寂しさを感じることなどないのだと。

けれど、本当は違った。

誰かに「今日は頑張ったね」と言ってほしい夜もある。

「大丈夫?」と声をかけてほしい日もある。

人は、自分が見せている姿だけで理解される。

言葉にしなければ、どんなに大切な気持ちも相手には届かない。

それなのに、私は「分かってほしい」と願ってしまっていた。

ある日の電話で、彼が何気なく言った。

「川野さんって、ひとりの時間を大切にする人ですよね。」

「え、あ、そうですね。」

私は笑って答えた。

「だから、あまり無理をして連絡しなくても大丈夫かなって思っていました。」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。


違うの。

大丈夫じゃない日もあるの。


あなたからの『おはよう』を待っている日だってある。

そう言えたら、何かが変わっていたのだろうか。

けれど、
その時の私は、また笑ってしまった。

「そうですね。私、ひとりの時間が好きなんです。」

本当は、好きな人と過ごす時間も大好きなのに。

帰宅した私は、ソファに座ったまま、しばらく動けなかった。


どうして、素直になれないのだろう。

どうして、「会いたい」のひと言が言えないのだろう。

恋をすると、

人は相手を失うことばかりを恐れてしまう。

そして、その恐れが、

少しずつ自分の言葉を奪っていく。

私はまだ知らなかった。

この小さなすれ違いが、やがて二人の間に静かな距離を生んでいくことを。

そして、「届かなかったメッセージ」が生まれる日が、もうすぐそこまで来ていることを。




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