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届かないメッセージは、私を優しく照らす 1

序章 届かなかった言葉の向こう側


久しぶりに開くSNSのトーク画面。

スマートフォンの画面に浮かぶ、白い文字。

送ることのなかった文字がいつまでもそこにいるた。

たった数行の文章なのに、そこにはあの日の私が全部詰まっている気がする。

何度も書いては消して。

伝えたいのに、怖くなって。

送信ボタンの前で、何度も指を止めた。

『今さら、何を言っているのだろう』

そう思って閉じた画面。

あの時の私は、相手に届くことばかりを考えていた。

届かなかったらどうしよう。

迷惑だと思われたらどうしよう。

重い女だと思われたらどうしよう。

そんな不安が、私の本当の気持ちに蓋をしていた。

でも今なら分かる。

言葉は、相手に届けるためだけにあるものではない。と。

自分の心を、ちゃんと見つめるためにもあるのだと。


窓の外では、春の雨が静かに降っていた。

四月の雨は、どこか優しい。

春の雨は、冬の間に固くなった土をゆっくりとほぐして、新しい芽が出る準備をしてくれる。

私はコーヒーカップを片手に、昔使っていたスマートフォンを眺めていた。

仕事の資料を整理していた時、偶然見つけた古い端末。

もう何年も触れていなかったものだった。

そこには、過去の写真やメッセージが残っていた。

若かった頃の笑顔。

そう、
少し無理をして笑っている自分。

そして…。

彼との時間。

画面の中の私は、今より少し不器用で、今より少しだけ一生懸命だった。

「懐かしいな…。」

思わず声が漏れる。

胸が苦しくなるわけではなかった。

涙が流れるわけでもなかった。

ただ、
あの頃の自分に、そっと声をかけたくなった。

「頑張っていたね。」

「ちゃんと恋していたね。」

「大丈夫だったよ。」

昔の私は、愛されることばかりを求めていた。

もっと好きと言ってほしい。

もっと必要としてほしい。

もっと私を見てほしい。

そんな気持ちでいっぱいだった。

でも、時間が経った今なら分かる。

誰かを本気で想えたこと。

誰かの言葉で心が震えたこと。

誰かと過ごした時間を、今でも大切に思えること。

それは、とても幸せなことだったのだ。


彼に最後に送ろうとして、送れなかったメッセージが残っている。

『ありがとう』

たった五文字の言葉。

でも、その五文字の中には、

出会えた喜びも。

一緒に笑った時間も。

寂しかった夜も。

言えなかった想いも。

全部込められていた。

あの時の私は、終わりを受け入れることができなかった。

  もう一度振り向いてほしい。

  もう一度、あの頃に戻りたい。

そう願っていた。

けれど、人は過去に戻るために生きているのではない。

過去を抱きしめながら、未来へ歩くために生きている。

そう気づいた時、

胸の奥にあった小さな痛みは、不思議なくらい優しいものに変わっていた。

届かなかったメッセージ。

送れなかった言葉。

それらは消えたのではない。

私の中で、ずっと生き続けていた。

そして今。

私はもう一度、言葉を紡ごうとしている。

彼のためではなく。

過去の私を救うためでもなく。

これから出会う誰かへ。

そして、あの日の私と同じように、言えなかった想いを抱えている誰かへ。

『あなたの気持ちは、ちゃんと愛だったよ』

そう伝えるために。



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