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届かないメッセージは、私を優しく照らす 6

第5章 埋められなくなった距離


ベッドに横になると、白い天井が見える。

何も考えたくなくて、ぼーっと天井を見つめることが増えていく。

「どうしたいのか」自分でもわからない感情に気づきたくなくて。

そう、
人の心は、不思議なものだ。

昨日まで当たり前だったものが、ある日突然、手の届かないものになってしまうことがある。

だけど、

それを止める術を切離してしまうのだから。


広瀬との連絡は、いつしか週に一度になり、月に数回になっていった。

忙しい毎日を理由に、私たちは少しずつ、お互いの日常から遠ざかっていった。

「元気?」

「元気ですよ。」

そんな短いやり取りを交わしながら、私は心のどこかで気づいていた。

私たちは、以前の私たちではなくなっている。

けれど、その事実を認めるのが怖かった。

私が、

もし、「寂しい」と言ってしまったら。

もし、「以前のように話したい」と伝えてしまったら。

彼を困らせてしまうかもしれない。

そんなことばかりを考えて、私はまた自分の気持ちを飲み込んだ。

本当は、伝えたかった。

あなたがいない日常に、少しずつ慣れていく自分が寂しいことを。

あなたからの「おはよう」がなくても、一日が始まるようになってしまったことが悲しいことを。

人は、慣れる生き物だ。

どんなに愛した人がいなくなっても、朝は来るし、お腹も空くし、季節は巡っていく。

だからこそ、喪失は静かに訪れる。

泣き崩れるような別れだけが、喪失ではない。

少しずつ心の距離が生まれ、
その距離を埋める言葉を失ってしまうこと。

それもまた、
一つの別れなのだと思う。



ある日、彼のSNSに投稿された写真を見た。

夕暮れの空。

以前なら、「川野さんが好きそうだと思って」と送ってくれていた景色だった。

それが今は、多くの人へ向けて発信されている。

胸がチクリと痛んだ。

何も変わっていない。

彼は変わっていないのだ。

変わってしまったのは、私との距離だけなのかもしれない。

「どうして、あの時言えなかったんだろう。」

「会いたい。」

「寂しい。」

「あなたが大切です。」

たったそれだけの言葉なのに、私は最後まで言うことができなかった。

強くありたいと思っていた。

自立した大人の女性でいたかった。

でも、本当に強い人は、「助けて」と言える人なのかもしれない。

「会いたい」と伝えられる人なのかもしれない。

私はずっと、「失うくらいなら、最初から求めないほうがいい」と思って生きてきた。

けれど、それは本当に自分を守ることだったのだろうか。

もしかしたら、自分が傷つかないように、先に自分の心を閉ざしていただけなのかもしれない。

窓の外では、夏の終わりを告げる風が吹いていた。

季節が変わるように、人の関係も変わっていく。

どれだけ大切な人でも、ずっと同じ場所に立ち続けることはできない。

だからこそ、
その時、その瞬間に伝えるべき言葉があるのだ。

私は、ようやく気づき始めていた。

彼を失ったことが悲しいのではない。

本当の気持ちを伝えなかった自分が、一番悲しかったのだと。

喪失感とは、人を失った悲しみだけではない。

「本当の自分を見せることができなかった」という、自分自身への後悔でもある。

そして、

その後悔は、これからの人生を変えるための、大切な贈り物になるのかもしれない。

私たちは、いつだって人生の途中にいる。

恋の終わりも、人生の終わりではない。

言えなかった言葉があるのなら、

これから出会う誰かには、素直に伝えればいい。

失ったものを数えるのではなく、

愛せた自分を抱きしめながら、生きていけばいい。

けれど、

この時の私は、まだ知らなかった。

古いスマートフォンの中に眠る、一通の「送れなかったメッセージ」が、私の心をそっとほどいてくれることを。



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