夏の陽炎 3
第三部 陽炎
早朝の風は柔らかい。
山の緑が包んでくれる。
空の青さと、海の青さは眩しく光っている。
「ね、散歩行こうよ。」
窓を全開に開けた光が、柔らかな笑顔で振り返る。
「まじで?まだ、早いって。」
「そうだな、目も覚めたし…。」
携帯から目を離した雅也と、ベッドに潜り込んである健吾。
雅也は健吾の布団をはいだ。
健吾もなんだかんだと、準備を始める。
支度を済ませている光は、窓の外を眺めていた。
狭いエントランスを抜ける。
三人は海岸沿いを並んで歩いた。
照り返しの強い砂浜。
遠くで子供たちの笑い声がする。
「自然って、感じだな。」
「ね、いつもとは違う朝だね。」
「あー、こうした非日常って、大切だよな。」
当てもなく、プラプラと並んで歩いた。
「あ、売店開いてるじゃん。喉乾いたな。」
「健吾、まっ…。」
光が何か言いかけたが、健吾は小走りに行ってしまった。
健吾は売店へ飲み物を買いに行き、 光と雅也だけが残った。
沈黙。
健吾の背中から、視線をかえる。
海を見つめる。
波の音だけが二人の間を埋める。
「あのさ、…昨日の、本気?」
光が小さく聞いた。
雅也は海を見たまま答えない。
その横顔が、 苦しそうだった。
少しして、
雅也がポツリと答えた。
「言うつもりなかった。ごめん。」
しばらくして、 低い声が落ちる。
「でも、もう隠せそうになかった。」
光の心臓が強く鳴る。
ずっと気づいていた。
雅也の優しさの奥に、 特別な感情があることを。
でも、 認めてしまえば、 三人の関係は終わってしまう。
私たちは、気づけてはいけない。って。
「健吾は?」
その名前を出した瞬間、 雅也が苦く笑った。
「…あいつも気づいてるよ。きっと。」
海風が吹く。
二人の間を滑るように海風が吹いた。
強い日差しの向こうで、 景色が揺らめいて見えた。
まるで陽炎みたいに。
ゆらゆらと。
触れたら消えてしまいそうな。
その時、 背後から健吾の声がした。
「何、深刻な顔してんの。二人して。」
振り返ると、 健吾は缶ジュースを片手に笑っていた。
「え、なんでもないよ。」
「あー。海見てただけ。」
そう答えた二人に、
「そうか?なんかこの世の終わりみたいな顔してるじゃん。」
笑顔だけど、その目だけは、 少し寂しそうだった。
「さ、今日も観光。楽しもうぜ。」
健吾がぐいっと飲み、雅也は下を俯いていた。
光の見る景色は、ゆらゆらと揺れていた。
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