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届かないメッセージは、私を優しく照らす 12終

エピローグ 届かなかった言葉が、誰かを照らす日

数年後。

私は、小さなカフェの窓際の席で、一冊の本を開いていた。

あの日と同じように、窓の外には柔らかな雨が降っている。

昔は、雨の日になると少しだけ胸が寂しくなった。

思い出してしまうから。

あの頃のことを。

彼と過ごした時間を。

言えなかった言葉たちを。

でも今は違う。

雨音を聞きながら、私は穏やかに微笑むことができる。

『あの時間があったから、今の私がいるんだな。』

そう思えるようになったから。


あれから私は、自分の経験を言葉にする仕事を始めた。

編集だけでなく、

誰かの心に寄り添う文章を書くこと。

迷っている人の背中を、そっと押す言葉を届けること。

それは、昔から私が好きだった仕事の延長だった。

ただ、以前とは少し違っていた。

昔の私は、誰かを救おうとしていた。

今の私は、誰かと一緒に歩こうと思っている。

人は、誰かの正解では救われない。

ただ、誰かに、

「あなたの気持ちは間違っていないよ」

そう言ってもらえるだけで、少し前を向けることがある。

私は、それを知っている。

自分自身が、そうだったから。



ある日、一人の女性からメッセージが届いた。

【もう一度、恋をしてもいいのでしょうか。】

【もう歳なんです。年齢を重ねてから誰かを好きになるなんて、恥ずかしいことでしょうか。】

以前の私なら、何と答えただろう。

きっと、綺麗な言葉を探したと思う。

相手を傷つけない、完璧な答えを。

でも今の私は、もっとシンプルに伝えることができる。

【もちろんです。】

【何歳になっても、人を好きになる心は素敵なものです。】

【恋をすることは、誰かに必要とされるためではなく、自分の心が動く瞬間を大切にすることだから。】

送信ボタンを押したあと、私は少し笑った。

昔、言えなかった言葉を。

今は誰かに届けている。

人生とは、不思議なものだ。

過去の痛みが、いつか誰かを温める光になることがある。



机の引き出しには、今でもあの古いスマートフォンがしまってある。

もう電源を入れることはほとんどない。

でも、捨てることもできない。

そこには、過去の私が残した言葉が眠っていから。

不器用だった私。

怖がりだった私。

愛されたいと願っていた私。

でも、一生懸命誰かを愛した私。

あの頃の私に、今ならこう言える。

「大丈夫。」

「あなたはちゃんと愛していたよ。」

「間違いじゃなかったよ。」

「その恋があったから、今のあなたがいるんだよ。」

そう、
今の私がいるのは、過去の私がいてくれたから。



また春が来た。

街には、新しい季節の匂いがしている。

私はお気に入りのコートを羽織り、外へ出る。

これから先、どんな出会いがあるのかは分からない。

また誰かを好きになるかもしれない。

誰かと心を通わせる日が来るかもしれない。

もしかしたら、ひとりの時間を楽しむ人生になるかもしれない。

でも、もう怖くはなかった。

なぜなら私は知っているから。

人生は、誰かに愛されることで完成するものではない。

自分自身を大切にしながら、誰かを愛せた時。

その人生は、もっと豊かに輝いていく。


雨上がりの空に、光が差し込んでいた。

私は立ち止まり、空を見上げる。

あの日、届かなかったメッセージ。

あの日、言えなかった想い。

それらは消えてしまったのではない。

時間を越えて、私の中で生き続けていた。

そして今。

その言葉たちは、私自身を照らし、

誰かの心にも、小さな灯りを届けている。

人生は何度でも始められる。

恋も。

夢も。

自分らしく生きることも。

春は、何度でもやってくる。

私は微笑んで、また歩き出した。

新しい光のほうへ。



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