フォトカプラ・TLP250/TLP250Hの使い方 ~Nch MOSFET(ハイサイドスイッチ/ローサイドスイッチ/ハーフブリッジ)のゲートドライブ回路を設計する~
サムネイル:TLP621 optocouple 03.jpg, Retired electrician, CC0, via Wikimedia Commons
はじめに
TLP250(後継品:TLP250H)は、IGBTやMOSFETといったパワー半導体のゲート駆動に使われてきたゲートドライバカプラーです。フォトカプラの一種で、ゲートドライブ用に設計された製品という位置づけになります。
TLP250は長年(データシートには「製品量産開始時期 1990-11」との記載が存在する。1990年というと今から35年以上前、Windows 3.0が発売された年ですね。)使われてきた有名なICであるため、古い回路図やインターネットの掲示板でその名前を見かけたことがあるという方や、互換ICへの置き換えを検討しているという方もおられることかと思います。
近年では、その役割をデジタルアイソレーターやゲートドライバICにとって代わられつつあり、TLP250も既に生産終了予定といった具合です。TLP250は入力部に赤外線LEDを用いているため、消費電力や伝番遅延のバラツキ、寿命などが欠点となってしまいます。
一方で、後継のTLP250Hは量産品で、さらに新製品としてTLP250Hとほぼ同性能のTLP5772Hという製品も出ています。
そのため今からこのフォトカプラを使おうという人は、あまり多くはないかもしれませんが、今でも後継品が販売されていることからある程度の需要は存在すると思われます。
そこでこの記事では、TLP250を用いたゲートドライブ回路について、Nch MOSFET(Pchはオン抵抗が大きいため、楽にハイサイドスイッチを実装したい場合を除いてほとんどNchが利用される)とブラシ付きDCモーターを例に簡単に考え方をまとめてみることにしました。
どうしてゲートドライブ回路が必要なのか

図1のように負荷(今回はモーター)とGNDの間に直列に入れるスイッチのことを「ローサイドスイッチ」と呼びます。このスイッチの部分をFETに置き換えてみると…

図2のようになります。
マイコンの出力ポートの電流出力能力は、FETのゲート電荷を充電するには弱いです(ロジック用のFETはこの限りではない)。また、ゲート・ソース間電圧を10V以上にしないとオン抵抗が十分に下がらない製品もあります(マイコンは3V3 or 5Vだから足りない)。要するにトランジスタを用いて増幅回路を構成しないといけないんです。
また、FETでON/OFFを切り替える負荷がモーターのようなノイズの発生源である場合、そのノイズの影響をマイコンが受けないように、電気的な絶縁もできたら理想的ですよね。
これらの問題を解決するのが「ゲートドライブ回路」であり、TLP250はゲートドライブ回路を実装するためのICとも云えるでしょう。
補足:ロジック側とパワー側を電気的に絶縁するためには、ゲートドライブ回路を絶縁するだけではなく、それぞれの電源も別に用意しなくてはなりません。(特に高電圧を扱う場合には)他にも、絶縁耐圧やPCBのパターン間隔、コモンモード過渡耐性 (CMTI)などの観点も必要となります。
FETのゲートドライブのポイント
FETのゲートドライブは、ゲートをキャパシタに見立てて「電荷を充電/放電する」という考え方をします。そのためゲート抵抗(Rg)の主な役割は、「リンギングの抑制」となります。ゲート抵抗を挟まずに電流を送ると、急激に電圧・電流が変動してしまうのです。
ゲート・ソース間抵抗(Rgs)はプルダウン抵抗とみなしてください。大きすぎると意味がありませんし、小さすぎるとゲート・ソース間電圧が下がってしまいます。マイコンに入れるプルダウン抵抗と同じように、10kΩから100kΩくらいがよいと思います。
ゲートドライブ回路の中の増幅回路は、ディスクリートのトランジスタで実装しようとするとちょっと面倒なのがわかります。なぜなら、ゲート電荷への電流のソース/シンクの両方(FETのON/OFF)に対応するために、トーテムポール回路を構成しなくてはならないからです。もちろんTLP250の出力部はトーテムポール回路になっています。
ローサイドスイッチ
では、早速ゲートドライブ回路を実装してみましょう。とはいえ、TLP250をほとんどそのまま使うだけです。

一番最初はデータシートの「推奨動作条件」と「直感的なもの(概算や経験則など)」が頼りです。その後、オシロスコープによる実測値に基づき調整を行います。
TLP250の入力部について
推奨動作条件の入力オン電流は
最小7mA, 標準8mA, 最大10mA
(5Vロジックのとき)電流制限用抵抗に加わる電圧は
5V - 1.6V
= 3.4V
よって電流制限用抵抗は
3.4V / 8mA
= 425Ω
E12系列なら390Ωか470Ω
※1 TLP250Hでもほとんど変わらない
※2 マイコンを使う場合,出力ポートから8mA供給できるかデータシートで確認してください
TLP250の出力部について
データシートにあるように、電源に(8ピンと5ピン)に並列に100nF(0.1μF)のパスコンを入れます。必ず実装しましょう。
推奨動作条件には出力部の電源電圧は最小で15Vとありますから、15Vで運用することにします。FETのオン抵抗の観点からは10V程度でも十分なことが多いからです(TLP250Hの推奨動作条件では、電源電圧は最小で10V。また、UVLO(低電圧誤動作防止機能)も搭載されている)。
ちなみに、FETのゲート・ソース間電圧の絶対最大定格で±20Vまでであることが多いです。
5ピンと6ピンは内部で並列につながっているため、とりあえず外部でも並列につなげておきます。
おまけ:充電時と放電時でゲート抵抗の値を変える方法
もしかすると、直列にしたダイオードを使って充電時と放電時でゲート抵抗の値が変わるように、一方のゲート抵抗が放電時専用になるようなつなげ方にすると美しいのかもしれません(ゲート抵抗については次の節で解説しています)。

図4では充電時のゲート抵抗は47Ω、放電時のそれは2つの47Ωの抵抗器が並列につながることになりますから、いわゆる【「和」分の「積」】というやつで47Ω * 47Ω / (47Ω + 47Ω)= 23.5Ωとなります。
ゲート抵抗を小さくして高速にスイッチングしようとすると、電流が急激に変化し、充電時(FETをONにするとき)にはノイズの問題が発生します。対して放電時ではそのような問題は充電時ほど発生はしません。
そのため充電時のノイズの影響を十分におさえるためには、どうしてもゲート抵抗を大きくしなくてはならない、という状況も考えられます。しかしスイッチングの遅さは発熱(スイッチング損失)へと直結しますから、ゲート抵抗はできるだけ小さくしたいものです。
そんなときにこの回路が候補になるかもしれません。放電時だけでも小さいゲート抵抗で運用することが可能になるのです!
ダイオードは高速スイッチング用のダイオードを使いましょう。中でも1N4148(表面実装は1N4148W)は非常に有名です。
ゲート抵抗について
先ほど「ゲート抵抗の役割はリンギングの抑制」としましたが、ちょっと例外で出力ピーク電流を「推奨動作条件」以下に止めるという役割も持たせます。実際は非線形なため、この計算はあくまでも目安です。
出力部の電源電圧(この例では15V)と電気的特性の「出力電流 (peak) (Max)」から内部抵抗を推測する
15V / 1.5A
= 10Ω
推奨動作条件の出力ピーク電流,max.±0.5A以下を目指す
15V / 0.5A
= 30Ω
よってゲート抵抗は30Ω以上必要
推測した内部抵抗が10Ωだから
30Ω - 10Ω
= 20Ω
よってゲート抵抗はE12系列なら22Ω以上にする
※ TLP250Hの出力ピーク電流は,電気的特性は2.5A/推奨動作条件は2A
(TLP250ほどの差はない)
よって,ゲート抵抗は出力ピーク電流を「推奨動作条件内に収めるため」という意義をそれほど大きく持たない
(15V / 2.5A = )6Ωの内部抵抗があるとみなし,それ以降はTLP250と同様に考える
FETのスイッチング時間(ON/OFFにかかる時間)はゲート電荷(Qg)とゲート電流(Ig)から見当をつけることができそうですよね(I = Q / t を変形して t = Q / I)。でも実際は様々な要因が重なるため、もう少し複雑になります。
ゲート抵抗を小さくするとゲート電流が増えて、スイッチングは高速化(スイッチング時間が短くなり、 スイッチング損失が減る=発熱が減る)しますが、リンギングやEMIの問題が顕著になります。要は発熱とノイズはトレードオフの関係にあるということです。
これらの点をより正確に説明することは深淵を覗くことに同義であると云ってもよいことでしょう。この記事ではもう辞めにしておきます(笑)。
補足1:TLP250の出力部の内部抵抗だけでなく、FET内部に存在するゲート抵抗も加味して検討することもありますが、この記事では省略してより簡略化しました。
補足2:ゲート抵抗を基板に実装する際は、なるべくFETのゲート端子の近くに入れましょう。また、配線もなるべく短くしましょう。
ハイサイドスイッチ

ハイサイドスイッチは図5のようになります。

FETのハイサイドスイッチは図6のような構成で実装できそうな気がしますが、これは間違いです。なぜなら、FETがONするとソースの電位がドレイン電位と≒になってしまい、ゲート・ソース間電圧がドレイン電圧よりも高くしなくてはならないことになるからです。これがNch MOSFETを用いたハイサイドスイッチの難しいところです。
でも安心してください!TLP250とフローティングの電源を使えばこの問題はかんたんに解決できます。

図7のように、ソースを基準としたフローティングの電源を使って電位を上げれば問題ありません。それ以外の要素はローサイドのときと考え方は同じです(省略します)。
フローティングの電源には、モールドされた絶縁型のDCDCモジュールが使われます。でもこれがちょっと高いんだな~ 安くても1個500円くらいするんです…
↑ アリエクやLCSCなら200円くらいでB0515S-1W(5Vを昇圧して15V/1W出力できる絶縁型のDCDCで、様々な中華メーカーが製造している)が手に入ります。LCSCの送料は高いですが、アリエクならショップによっては数百円くらいの送料で済むことも!
ハイサイドスイッチ/ローサイドスイッチの使い分け
Nch MOSFETを用いたでは、通常以下のように使い分けます。
ハイサイドスイッチ:回路全体のスイッチ
ローサイドスイッチ:負荷ごとのスイッチ
ハイサイドスイッチは、上述のように
ドレインの電位 ≒ ソースの電位
となってしまうため、ちょっとばかし実装が手間になります。対してローサイドスイッチは、比較的楽に実装することができます。
ならば「全てローサイドスイッチでいいじゃないか!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ローサイドスイッチを回路全体のスイッチとして利用するには懸念点があります。それはGNDが浮いてしまうということです。物理的な電源スイッチや、シャント抵抗と同じ考え方ですね。
ハイサイドスイッチを負荷ごとに実装しても問題はありませんが、その実装コストから避けられる傾向にありそうです(少なくとも私自身は、なるべくローサイドスイッチで済ませたいと考えます)。
ハーフブリッジ回路
ハーフブリッジ回路はよく出てきますよね。2つ組み合わせてフルブリッジ(Hブリッジ)にすればブラシ付きDCモーターの回転方向・回転数を制御できますし、3つ用意すればBLDCのアンプ(三相インバーター)にもなります。

例えば、ブラシ付きDCモーターを制御するときは図8のようにつなげます。

ハイサイドON/ローサイドOFFならモーターは回転、ハイサイドOFF/ローサイドONならショートブレーキ、ハイサイドON/ローサイドONはシュートスルー(禁止動作)です。

これまで解説したハイサイドスイッチとローサイドスイッチを組み合わせると、図9のようにハーフブリッジ回路を構成することができます。デッドタイムの実装をお忘れなく!!!(ハーフブリッジ回路がメインの記事ではないため割愛させてもらいますが、ハーフブリッジ回路を設計する上で絶対に忘れてはならない非常に重要な観点です。)
TLP250の出力部の電源について
FETの電源(VDD)をリニアレギュレーターやDCDCで降圧して用意する方法と、ロジック用の電源を絶縁型のDCDCで昇圧して用意する方法があります。
FETの電源電圧(VDD)を降圧:
多くのシリーズレギュレーターやDCDCは入力電圧が35V前後までであるため、FETの電源電圧がそれ以下である必要があります。また、負荷がモーターである場合、相応のマージンが必要となるでしょう。ロジック用の電源をDCDCで昇圧:
絶縁型のものを選ばないと、せっかくTLP250で実現した電気的な絶縁が無効になってしまいます。
ハイサイドは上述のようにソース基準で電位を上げなくてはなりませんから、絶縁型のDCDCほぼ一択となります。
また、DCDCモジュールの中には出力電圧が安定化された(regulated)製品と、そうでない製品があります。もちろん前者の方が高価です。後者が負荷によって電圧が変動します(負荷が弱いと若干高めの電圧が出力される)。とはいえ、FETのゲートドライブに用には安定化された製品でなくても特に問題はないかと思われます。
ローサイドは・・・どうでしょう。リポバッテリーで考えたとき、FETの電源が、4セルくらいまでならリニアレギュレーター(7815等)がいいと思います。ノイズも少ない上価格も手ごろ。そうでなければ、昇圧型のDCDCを使わざるを得ないでしょう。
消費電流については、一般にゲート電荷とスイッチング周波数を掛け合わせることによって求めることができます。但しTLP250の場合、出力部の供給電流が大きい(TLP250自体が必要とする電荷が大きい)ため、出力部に必要な電荷=ゲート電荷とはなりません。
消費電流 = (TLP250自身が必要とする電荷 + FETのゲート電荷) * スイッチング周波数
また、
TLP250自身が必要とする電荷 = 供給電流 * スイッチング周期
となりそうです。
供給電流(ICCH/ICCL).maxは11mA
スイッチング周波数が20kHzのとき
周期は50μsだから, TLP250自体が必要とする電荷は
11mA * 50μs
= 550nC
仮にFETのゲート電荷を100nCとする
550nC + 100nC * 20kHz
= 650n * 20k
= 13000μ = 13mA
よって出力部の消費電流は13mA
ゲート電荷は製品によって変わりますから、利用するFETに合わせて計算し直してください。
おまけ:ブートストラップ回路の検討

ハイサイドスイッチが増えてくると、一つひとつにフローティングの電源を用意するために金銭的コストが重なりますよね。そこでこの問題を解決するのがブートストラップ回路です。
PWM制御必須で、Duty比100%にはできなくなってしまいますが、大幅なコストカットにつなげることができます。
ゲートドライバICでは、はじめからデータシートにブートストラップ回路の利用が想定されている旨が記載されていることもあるのですが、TLP250にはその手の記載がありません。実際に使えるかどうか、かなりの概算になりますが以下のように検討してみました。供給電流の大きさがネックになっているみたいですね… FETのゲート電荷よりも供給電流の大きさが支配的です。TLP250Hではかなり改善されてはいますが、それでも3mAもあります。
TLP250の場合
供給電流(ICCH/ICCL).maxは11mA
スイッチング周波数が20kHzのとき
周期は50μsだから, 電荷は
11mA * 50μs
= 550nC
仮にFETのゲート電荷容量(Qg)を100nCとすると
必要な電荷は650nC
電圧降下を0.05Vにとどめるとすると
Q = CΔV
C = Q / ΔV
C = 650nC / 0.05V
C = 13000n = 13μF
E12系列なら15μF以上のブートストラップコンデンサが必要
TLP250Hの場合
供給電流(ICCH/ICCL).maxは3.0mA
スイッチング周波数が20kHzのとき
周期は50μsだから, 電荷は
4.0mA * 50μs
= 200nC
仮にFETのゲート電荷容量(Qg)を100nCとすると
必要な電荷は300nC
電圧降下を0.05Vにとどめるとすると
Q = CΔV
C = Q / ΔV
C = 300nC / 0.05V
C = 600nF
E12系列なら680nF以上のブートストラップコンデンサが必要
おわりに
ここまでNch MOSFETとブラシ付きDCモーターを例に、TLP250/TLP250Hの使い方についてまとめてみました。いかかでしたでしょうか?意外と簡単だなぁと思っていただければ幸いです。
また、この記事で触れられているのは概論といったところで、この記事だけでは本質的な理解には達しないと思われます。ただ、TLP250を中心に据えた日本語の記事がインターネット上にあまり見つけられなかったため、とっかかりとして役立ててもらえればと意図した次第であります。
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私は現在、ある書籍の復刻版(改訂版)を制作している。目下のタイトルはまだ秘密にしておくが、とある黙殺されし哲学者の主著、とでも云っておこう。これをいずれ自己出版し、手にとって読める形にしたいと考えている。いただいたチップはその費用に当てるかもしれないし、当てないかもしれない。