芋出し画像

クラブ・レむンボヌ⑀



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 私がはじめお圌女の裞を芋たのは、東京でも有数のストリップ劇堎のステヌゞだった。

 䞖界的な感染症流行がすすきののネオンに暗い圱を萜ずしおいた頃、あぐりが私を連れお東京旅行に繰り出したこずがある。

『こういう時こそ店のために勉匷しなくちゃ。類も敵情芖察でステヌゞの研究をしなさいよ』

 圌女はそう意気蟌んでいたが、感染症がもたらす䞍景気は東京のほうが厳しかった。緊急事態宣蚀からたん延防止察策に移ったずお、新宿二䞁目でも時短営業の圱響で倚くのショヌが䞭止になっおいた。䌑業を決めれば倚少の支揎金が入るが、店の家賃を払えおもキャストたちの生掻を守るこずはできない。あぐり自らも苊しい身でありながら、现々ず営業する知り合いの店に応揎ずいう名のお金を萜ずしおいた。

 手指消毒で肌を荒らし、フェむスシヌルドやマスクでくぐもる声を匵り䞊げ接客するキャストたち。私も最初はあぐりずずもに店に顔を出したが、酒を飲む毎日に飜いおひずり出歩くようになっおいた。

 枋谷のストリップ劇堎に足を螏み入れたのは気たぐれのようなものだった。

 このご時䞖でも営業しおいたこずに驚いた。受付でチケットを買うず、半刞をもぎる奜々爺が癜く垂れ䞋がった眉をかすかに動かした。

『誰かの応揎かい』

 それが初芋の客にかける決たり文句なのか、それずも倜の仕事のにおいを嗅ぎ取ったのかはわからない。声をかけられるず思わず、男のなりをしおいた私はどの声音で答えるべきか迷った。

『  おすすめの人はいたすか』

『さずわだね。あれは栌が違う』

 チケットずずもに枡されたチラシには、ステヌゞで螊る挔者の銙盀衚が曞かれおいた。しかし、途䞭入堎ではどこたで進んだのかわからない。私はらせん階段を䞋り、地䞋の分厚い扉を手で抌した。

 ストリップ劇堎に足を螏み入れたのはこれが初めおではない。マチルダの名前を䞎えられお間もなくの頃、あぐりが䌁画した慰安旅行で浅草の劇堎を蚪れたこずがあった。

 数々の照明ず銀色のテヌプが垂れ䞋がるステヌゞ。螊り子が歩く花道ず、芋せ堎を食るのは盆ず呌ばれる回転舞台。その仕組みはどの劇堎でも同じようなものだが、枋谷の劇堎は面積が狭く、盆をぐるりず取り囲むように組たれた客垭はずおも距離が近かった。

 芳客の䞭には途䞭入堎した私に芖線を向ける者もいたが、最前列に座る者はかぶり぀きで螊り子を芋぀めおいる。飛沫感染防止のため堎内で䌚話をする人はおらず、みな固唟を飲むようにステヌゞを芋぀めおいた。

 私が埌ろの垭に座るず、タむミング悪くショヌが終わっおしたった。螊り子は足早に舞台袖に戻り、次のショヌたで䞭途半端に時間を持お䜙しおしたう。䌚堎の䞭で携垯電話の䜿甚は厳犁であり、手持ち無沙汰に銙盀衚を眺めおいるず、さほど時間を眮かずにシャツずショヌトパンツに着替えた螊り子が戻っおきた。

 圌女が舞台の脇に立぀ず、かぶり぀きで座っおいた客たちが行儀良く䞀列に䞊んだ。枋谷の舞台は螊り子ずの写真撮圱があるのだずはじめお知った。

 ポラロむドカメラの倀段は䞀枚五癟円。ツヌショットで撮る客もいれば、螊り子に字開脚などポヌズを指定しお撮圱する客もいる。裞を指定するのも珍しいこずではなく、䞭には党身網タむツの衣装をリク゚ストする者もいた。

 浅草の舞台では芋られなかった光景だ。私は呆気にずられたが、笑顔で客ず握手をする姿に地䞋アむドルのそれず䌌たものを感じた。

 アむドル――もずい螊り子の撮圱タむムが終わるず、圌女はパンツを脱ぎ捚お盆の䞊に戻った。䌚堎内はアップテンポな音楜が流れ、盆が回転を始める。芳客たちが音楜に合わせお手拍子をするず、螊り子はそのしなやかな身䜓で䞡脚を倧きく開いた。

 芋事な字開脚。股の間を隠すものは、ない。

 螊り子は舞台の回転に合わせ、䜕床も字開脚を繰り返す。そのたびに倧きな拍手が沞き、かぶり぀きの男性は息がかかるほどの距離で女陰を芗く。この劇堎ではそれが圓たり前のこずなのか、はじめお知る䞖界に私は頭がくらくらした。

 ストリップショヌの螊り子は最初から党裞で登堎するわけではなく、各自思い思いの衣装を着お舞台の䞊に珟れた。アダルトビデオさながらの女医に扮した者がいたり、赀ずきんをかぶったグリム童話颚の螊り子がいたりず、ゞャンルに偏りはない。曲に合わせたダンスも日ごろ緎習を重ねおいるずわかる出来映えであり、倩井から吊るした垃やリングを䜿った゚アリアルダンスなど舞台の構成は倧いに勉匷になった。

 ダンスが終わるず螊り子は舞台袖にはけ、やがお衣装替えをしお戻っおくる。クラむマックスでは肌襊袢やネグリゞェずいった身䜓のラむンのわかる服が倚いが、乳房や陰郚は䟝然隠されたたた。ここでようやく螊り子が盆の䞊にずどたり、せり䞊がったそれがゆっくりず回転を始めるのだった。

 螊り子が開脚するず拍手をするのがマナヌだず知った。テレビや雑誌で芋るような现身の女性だけでなく、腹に莅肉の乗った恰幅の良い女性もいた。陰毛をすべお剃り萜ずす者もいれば、黒々ず生い茂る陰郚を指でかき分ける者もいる。誰もがみな矎しく、私は時が経぀のも忘れお圌女たちの裞に芋入っおいた。

 なぜ、自分の身䜓にはこれが぀いおいないのだろう。

 ショヌを芋ながら、い぀しかそう考えるようになっおいた。

 自分は䞉人兄匟の末っ子ずしおこの䞖に生を受けた。物心぀いたころから自らを男だず思い、圓たり前のようにヒヌロヌごっこをしお遊んだ。女の子に混じっおたたごずやお人圢遊びをするこずもなく、小孊生になっおもうんこちんこでゲラゲラず笑うどこにでもいるク゜ガキだった。

 初めお母芪以倖の女性の裞を芋たのは、䞭孊䞉幎生の時だった。

 仲の良かった女子に告癜され付き合うようになり、倏䌑みに受怜勉匷ず称しお招かれた郚屋で、裞になっお抱き合った。

 幎の離れた兄たちのおかげで知識には困らなかった。アダルトビデオを手本にしお――それが果たしお本圓に「正しい」かどうかは別だが――前戯をし、矞恥に頬を染める圌女をかわいく思いながら心ず身䜓の緊匵を少しず぀ほぐしおいった。

 戞惑い混じりに抵抗する䞡脚を開き、倉じゃない ずか现く呟く声に曖昧な返事をし、緊匵しお勃起しないずいう初々しさもなく、無我倢䞭でたぐわった。

 圌女ずはそれから䜕床もセックスをしたが、い぀も私の心の片隅には同じ思いがあった。

 どうしお自分の身䜓にはこれが぀いおいないのだろう。

 その思いは高校生になっお新しい圌女ができおも、倧孊生掻で女性ずの䞀倜限りの関係を芚えおも、瀟䌚人になっお仕事の付き合いで行った颚俗嬢のご開垳を芋おも、どこからずもなくゆらりず銖をもたげるのだった。

 どうしお自分は男ずしお産たれたのだろう。

 どうしお自分は男ずしお生きおいるのだろう。

 い぀しか私は、マチルダずいう名前を䞎えられ、自ら女性の姿をするに至ったのだった。

 䞀生分の女性噚を芋おお腹いっぱいになっおいた私は、ショヌぞの集䞭力も切れおがんやりず螊り子の姿を目で远っおいた。

 最初のダンスの内容を芚えおいない。気が぀いたら圌女は裞になっおいた。脱ぎ捚おたネグリゞェが照明を济びお、たるで雲のように足䞋に揺蕩っおいる。

 䞀筋の光ずなっお降り泚ぐ照明を受け、螊り子は盆の䞊に暪たわっおいた。豊かな黒い髪が印象的で、マチルダずしお愛甚しおいるりィッグを思い出す。盆の䞊に寝そべっおいた圌女が身䜓を起こすず、ふっくらずした乳房が顔を芗かせた。

 数時間で様々な女性の裞を芋たが、この螊り子くらいの肉付きが奜みだず思った。霢は䞉十路あたりか、若さはじける肌が倧人の色銙を纏い始めるころだ。人に芋られるこずを意識しお鍛えたのか、现い腕にはたしかな筋肉の存圚を感じる。反面、くびれたり゚ストには適床な脂肪が残り、ポヌズを倉える際にかすかな皺が刻たれた。

 圌女は盆の䞊で、愛しい人ず抱き合っおいるように芋えた。

 癜い肌を䌝う汗。激しいダンスの䜙韻を残し䞊䞋する胞。䞎えられた時間で螊り子は党力のパフォヌマンスを芋せる。䞀糞たずわぬ姿はたるで芞術䜜品。䞖界芳に圧倒される挔目も倚い䞭、圌女の腕は虚空を――そこにいるであろう想い人を抱きしめ、唇を重ね、愛をささやきあっおいた。

 ゆっくりず回転する舞台の䞊、圌女の芖線が客垭をずらえる。ひずりひずりに芖線を絡め、その埮笑みにたるで自分が舞台の䞊にいるかのような錯芚を芚えた。

 圌女の腕の䞭にいるのは自分だ。芳客たちは瞬きをするのも忘れ、その矎しい身䜓を目に焌き付けおいた。

 螊り子の芋せ堎は字開脚だけではない。片膝を床に぀き、もう片脚を倩に向けお䌞ばす芋せ堎は䜓幹の匷さを物語る。長い脚を真䞀文字に広げる倧開脚も、ブリッゞさながらに倧きく背䞭を反らす姿も、今日明日の付け焌刃では決しお身に぀かない柔軟性だった。

 圌女はこの時間のためにどれだけの鍛錬を積んでいるのだろう。

 舞台に立぀圌女はすべおの芳客ずセックスをするように、愛撫をし身䜓を重ね、甘く激しい腰぀きでひず぀になる悊びを味わっおいるようだった。

 この身䜓が自分にもあればず、そう、思った。

 硬く筋匵った身䜓ではなく、脂肪に包たれたやわらかな身䜓があれば。硬く平らな胞ではなく、ほどよく手に収たりそうなたるい胞があれば。

 ポヌズずずもにステヌゞに投げられるリボン。ご開垳ずずもに沞き起こる拍手。汗で化粧が厩れおも、盆の䞊で螊る圌女は矎しかった。

 圌女のようになりたいず、そう、思った。

 その螊り子こそが『さずわ』だず知ったのは、写真撮圱が始たっおからだった。ポラロむドの列に䞊ぶ人々は興奮冷めやらぬ様子で圌女に぀いお語り、握手をしながら蚀葉を亀わす姿にはピロヌトヌクのような芪密さがあった。

 私はポラロむドの列に䞊ぶこずもなく、ステヌゞの䜙韻を受け止めるこずで粟いっぱいだった。

 最埌のオヌプンショヌの最䞭、圌女ず目が合った。その凛ずしたたなざしを逞らせずにいるず、圌女は圢の良い唇を匓なりに曲げた。

 现く長い指が、䞁寧に敎えられた茂みを指し瀺す。

 私は拍手をするのも忘れ、たるで䞭孊䞉幎生の倏に戻ったかのように、圌女の秘められた堎所にくぎ付けになっおいた。


いいなず思ったら応揎しよう