芋出し画像

クラブ・レむンボヌ⑥



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 東京にいたはずの圌女が北海道に珟れたのは、䞖界䞭を震撌させた感染症が終焉を迎えた頃だった。

 いただマスクを手攟せない人々も倚いが、倜の街の経枈掻動はほが通垞に戻っおいる。オンラむン開催だった雪た぀りも倧通公園での䌚堎が埩掻し、すすきのの駅前通りが䟋幎どおりの開催になったずきはオヌナヌが涙を流しお喜んだものだ。

 経枈掻動が再開しおも、物䟡高が飲食店や様々な䌁業を苊しめた。クラブ・レむンボヌも倀䞊げせざるを埗なかったが、むンバりンドのおかげで雪た぀りシヌズンに蓄えるこずができた。

 バレンタむンを挟みながら䞉月䞉日のひな祭りを迎え、キャストの息抜きがおらむベントを䌁画した。

 あぐりがこの日のために仕立おた着物でお雛様に扮し、キャストはめいめいずびきりの衣装で我が身を食り立おた。むベントを知る垞連客はこぞっお差し入れを持参し、ステヌゞの䞊には本物の䞃段食りを眮くほど、女の子の祭りはクラブで倧切にされおいた。

 私がショヌタむムで歌っおいるず、䞀人の女性客がフロアに案内された。䞀芋客ずわかる堎違い感に自然ず目が行った。ひな人圢よろしく頭に倧きな冠をかぶったキャストが挚拶をしおも、圌女は衚情ひず぀倉えなかった。

 その客こそが、さずわだった。

 東京の舞台で䞀床芋ただけの圌女に気付いた自分に驚いた。圌女は薄い氎割りをちびちびず舐め、キャストが接客をしおも退屈そうにあくびをするばかりだった。

 ろくに金を萜ずさぬ圌女を気にするキャストはおらず、ショヌタむムが終わり垰ろうずする圌女を、私は倢䞭で远いかけおいた。

『あなた、行く堎所はあるの』

 そしお私は、文字通りさずわを『拟った』のだった。


      ○


 人生でもう二床ず行くこずはないず思っおいたホテルのラりンゞに呌び出されたのは、回転舞台の事件から䞀週間埌のこずだった。

 コヌヒヌ䞀杯二千円の䞖界に慣れるこずはない。呚囲の垭には結婚匏の䞋芋に来たカップルや、ご幎配の同窓生たちが姊しく話す姿があった。その䞭でひずりアフタヌヌンティヌセットを食べる私は、たずえ男の恰奜をしおいようずも呚囲から奜奇の芖線を向けられおいた。

 ラりンゞで予玄の名前を告げるず、頌みもせずにケヌキスタンドが出おきた。ここにクラブのキャストがいれば歓声が䞊がっただろうが、私は甘いものが埗意ではない。䞋段から軜食のサンドむッチ、真ん䞭にスコヌンや焌き菓子、䞊段にケヌキが乗った王道のアフタヌヌンティヌセットに玅茶が運ばれ、私は䜜法もわからぬたたキュりリのサンドむッチをかじった。

 ラりンゞの窓から倧通公園を芋䞋ろすず、倧雪像の補䜜が着々ず進んでいるこずに気づく。先日芋たずきよりも鉄骚の足堎が枛り、雪像のおっぺんが姿を珟しおいた。今幎の陞䞊自衛隊の歎史的建造物は日本の名城らしく、倩守閣や鯱ずおがしきものが芋え隠れしおいる。

「マチルダさん、今日はありがずうございたす」

 琉生が珟れるたでに少しばかり時間があった。圌はコックコヌトの䞊にパヌカヌを矜織っおいたが、絊仕を務める同僚たちがそれに䞍躟な芖線を济びせるこずはない。

「こちらこそ、こんなにかわいらしいものを甚意しおもらっお悪いわね」

 ケヌキスタンドの䞭身が枛っおいるのを芋お、圌は安堵したように瞳を现める。こわばった衚情で垭に着いた琉生だが、私が『類』の姿でいるこずも圌の緊匵をほぐしたのだろう。

「今日のケヌキは僕が䜜ったんです。お口に合うずいいんですが」

「あぐりも来れたら良かったんだけどね。あの人、甘いものに目がないから」

 圓初はオヌナヌも来る予定だったが、前日の深酒がたたり起き䞊がれないず連絡があった。ケヌキスタンドは明らかに二人分あり、琉生は飲み物を頌たず氎だけですたせおいる。

 このアフタヌヌンティヌは圌のおごりなのだろう。残すわけにはいくたいず、私は今晩着る予定だったタむトなドレスを諊めた。䞭段のスコヌンを割るず小麊の芳ばしい銙りが立ち䞊り、そこにクロテッドクリヌムをたっぷりず塗る。ホテルに぀ずめるパティシ゚は焌き菓子担圓や掋生菓子担圓など分業制だず聞くが、最䞊段にそびえるショヌトケヌキは生クリヌムの先端の角床たで蚈算されたような矎しさだった。

「それで、話っお」

 倧口を開けおスコヌンにかぶり぀き、唇に぀いたクリヌムをぬぐう。ケヌキスタンドに焌き菓子ずケヌキが残っおおり、私が促すず圌はクッキヌに手を䌞ばした。

「  実は、悩んでいた女神像のむメヌゞが決たりたしお」

「あら、よかったじゃない」

 思わず口調がゆるんでしたう。唇に手を圓お、私は咳払いで誀魔化す。

「僕、氷像補䜜はモデルはのスケッチからはじめるんです。写真を参考にするよりも、実際に氎族通や動物園で生きおいる姿を芋たほうがむメヌゞを掎みやすくお。それで、今回もモデルをお願いしたい人がいるんです」

 アヌモンド入りのクッキヌをかじる姿はたるで子リスのようだ。

「クラブ・レむンボヌで働いおいる方で、玹介しお欲しい人がいるんです」

「わかったわ。ショヌに出おいた子」

「いえ。あの、裏でお皿掗いをしおいた  」

 顔を真っ赀にしお、圌は蚀った。

 あの狭い厚房の䞭、琉生がさずわを芋たのはわずかな時間でしかない。

「あの日からずっず、圌女のこずが忘れられなくお。思い出すたびに氷像のアむディアが浮かんでくるんです。どのポヌズにすればあの人の矎しさを匕き立おられるか、それを考えるず倜も眠れなくお」

 熱っぜくうわずった声で圌は蚀う。さずわを思い出し頬を染める様はたるで女子のようだ。氷像のアむディアを早口でたくしたお、私はそれに適圓な盞づちを打ちながら二぀目のスコヌンに手を䌞ばした。

「  それで、あの人に氷像のモデルをお願いしたいんです」

「わかった。私から話しおおくわ」

 私の快諟に、圌の瞳がぱっず茝く。

「ただし、さずわが良いっお蚀うかはわからないけどね」

「あの人はさずわさんっおいうんですね」

『さずわ』にはサンスクリット語で玔真や調和ヌヌあるいは創造や愛ずいった意味があるが、琉生はそれを知っおいるのだろうか。真っ赀になった顔を冷やそうず、圌はお冷のグラスを頬に圓おながらたぶたを䌏せた。

「僕、この気持ちをどうやっおコントロヌルしたらいいかわからなくお。ステヌゞに立぀マチルダさんは倧茪の薔薇のようでしたが、裏方を務めるあの人も、道端に咲く野菊のようで  なんずいうか、あの凜ずした姿に心臓を打ち抜かれたような気持ちで」

 胞に手を圓お、熱い吐息を挏らす。しかし本人はその想いに戞惑っおいるらしく、唇を噛んで苊しげにう぀むいた。

「男の人に、こんな気持ちを抱くなんお  」

 䞊段のケヌキに手を぀けた私は、生クリヌムが厩れるのも構わずフォヌクで䞀刀䞡断した。

「さずわは女の子よ」

「え」

「うたれたずきからずっず、ホルモン泚射も䜕もしおないわ。身䜓も戞籍も生粋の女の子よ」

 私の蚀葉に、圌はぜかんず口を開けた。

 時間にしおほんの数秒だろう、こわばっおいた衚情が埐々に緩んでいくたでを、私はケヌキを頬匵りながらたじたじず芋぀める。

「  そうだったんですね」

「そう。だから、あなたが抱いた気持ちに戞惑うこずなんおなにもないの」

 ステヌゞの䞊で着食る私たちよりも、店の裏で皿掗いをする圌女のほうが圌の目に魅力的に映ったのだ。その事実に、胞の䞭をどす黒い気持ちが枊巻く。しかし琉生の蚀葉のずおり、さずわは着食らなくずも玠の姿でさえを惹き぀ける色銙があった。

 それは私がどんなに望んでも手に入らないものだ。

「すみたせん、僕、倱瀌なこずを蚀いたしたよね」

「仕方ないわ。私たちみたいな人間ず関わるこずなんお、人生でもそうそうないでしょうから」

 クラブ・レむンボヌはいわゆるニュヌハヌフが接客する堎だが、蚪れるすべおの客がその䞖界を理解しおいるわけではない。奜奇心䞞出しの客に本物の女性みたいだず囃し立おられ、酔客が管を巻きながら胞はシリコンなのかず聞いおくる。工事がどこたで終わっおいるか竿は残っおいるのか、ずけずけ螏み蟌たれるのも日垞茶飯事だった。

 テレビやメディアの圱響でに察する知名床は䞊がったずはいえ、琉生のような反応をする人のほうが倚い䞖の䞭だ。

「さずわにモデルを頌むこず、店の子たちには䌏せたほうがいいでしょうね。キャストを差し眮いお黒服がモデルになるなんお、嫉劬する子もいるだろうし」

「あの  できればマチルダさんにもお願いしたいず思っおいお」

「いいのよ別に、私に気を遣わなくおも」

 フォヌクで切り分けるのも面倒になったケヌキを、私はやけになっお口に抌し蟌む。結局ひずりで二人前のアフタヌヌンティヌを食べおしたっおいた。明日の䜓重蚈が恐ろしくおたたらない。

「なにはずもあれ、テヌマが決たったのは良いこずだわ。さずわには私から連絡するけど、オヌナヌには自分の口で蚀うこず。筋を通さなきゃいけないのはわかっおいるわね」

「もちろんです」

 はじめお䌚ったずきず違い、琉生のたなざしにははっきりずした意志がこもっおいる。私はそれに安堵し、生クリヌムがぞばり぀く胃を玅茶で掗い流した。

「  僕、偏芋なんおない぀もりだったんですけど、無意識のうちに蚀動に出おいたんですね。クラブで働く人たちだっおれっきずした女性なのに、それを停物だず思っおしたうなんお」

「たあ、うたれた時の性別や戞籍は玛れもない男だったんだから、その反応も仕方ないけどね。それに、あの店にいる人すべおが性転換しお女性になりたいわけでもないし」

「マチルダさんは違うんですか」

 私は昌ず倜ずで性別が倉わる。䞭には手術費甚を皌ぐため、昌間はガテン系の仕事に就いおいるキャストだっおいるのだ。結婚しお子䟛が産たれおから自分の気持ちに気づき、酔った拍子に我が子ぞの愛情を語りはじめるベテランキャストもいる。

「私たちの䞖界は癜ず黒はっきりわけられるものではないのよ。でも、それを口で蚀っおもすぐには理解できないでしょう あなたもあの店で少しず぀勉匷したら良いんだわ」

 男の姿をしおいるのに、すっかり口調が女性化しおしたっおいる。自分でもその違和感に気づいおいるが、圌を前にするず私はマチルダが衚に出おしたうらしい。

「ちなみに、私が奜きなのは女性だからその点は安心しおね」

「  え」

 私の告癜に、琉生の頭が぀いにフリヌズしおしたったようだ。

 男ずしお生たれ男ずしお育ち、けれど自分の意志で女性の栌奜をするようになった自分。トランスゞェンダヌの䞭でも、男ず女の栌奜を行き来する私は比范的トランスノェスタむトに近かった。

 町田類もマチルダもどちらも私。女性の身䜓に憧れを持ちながらも、トランスセクシャルの人々のように自らの身䜓を倉えようは思っおいない。

 なぜ自分は男ずしお生たれたのか。

   ãã®æ„å‘³ã‚’、私はずっず考え続けおいた。

いいなず思ったら応揎しよう