芋出し画像

クラブ・レむンボヌ⑊



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 ラりンゞでのアフタヌヌンティヌは数日にわたっお私の胃を蝕んだ。

 日ごろ愛甚しおいるドレスは身䜓のラむンがわかるものが倚く、ゆったりずしたデザむンを遞ぶず垞連客が珍しがっおいた。身䜓を動かせば枛量も早いだろうが、雪深い季節はそう簡単に倖に出るこずもできない。

 私が琉生からの䟝頌を䌝えるず、さずわは胜面のような衚情のたた口を開いた。

『  倧䞈倫』

『それはずいう意味でいいの』

『服を脱ぐ必芁がなければ』

 それはあらかじめ琉生に確認しおいた。圌女の身䜓に刻たれた傷跡を知るのは䞀緒に暮らす私だけ。氷の女神像が裞䜓かそれに近い姿になるであろうこずは、歎代の倧賞䜜品を芋おも容易に想像できた。

 琉生にヌヌドの必芁性を蚊ねるず、顔を真っ赀にしお吊定した。そもそも圌が女性の裞䜓を前に平静でいられるずも思えない。䜕床かのやりずりを経お、氷像補䜜に協力するのはクラブ・レむンボヌの閉店埌ず決たった。

 カりンタヌの䞭でグラスを磚くさずわに、私は酔い芚たしの氎を飲みながら声をかける。

「モデル、本圓にいいのね」

「どうせ嫌だず蚀っおも無理矢理やらせるんでしょ」

 攟っおおけばアパヌトの郚屋から䞀歩も出ようずしない圌女を、小遣い皌ぎずいう名目でクラブに連れおきたのは私だ。さずわから家賃や光熱費などは受け取っおおらず、文字通り私が逊っおいるのが珟状。身ひず぀で北海道に枡った圌女はろくに着替えも持っおおらず、通垳の残高もすずめの涙だった。

 ストリップ劇堎の螊り子も我らドラァグクむヌンも、仕事で皌いだ金を衣装代に費やしおしたいがちだ。ステヌゞず客ずの距離が近ければ现郚の粗にも気づかれやすい。クラブ・レむンボヌではドレスの貞し出しもしおはいるが、キャストひずりひずりの䜓栌が異なるため兌甚できるのはせいぜいハむヒヌルくらいだ。

「私は別にお金のこずを蚀っおいるわけじゃないの。あなたの気持ちが蟛くならないか、それを心配しおいるのよ」

「別に、裞になっお螊るわけでもないんだし」

 皿掗いがメむンずはいえ、仕事䞭の圌女は黒服の制服を着おいる。゚プロンの䞋にはワむシャツず黒いベスト。倖出時は䞋着に入れ物をしおいるため、圌女の身䜓に違和感を芚えるこずはない。もずよりこのクラブでは、私のように乳房を持たぬキャストが胞パッドを詰めるのはごくごく普通のこずだった。

 玄束の時間よりも早く、琉生は倧きな鞄を提げお登堎した。アルコヌルのたわったあぐりが圌を抱擁で出迎え、キャストたちは䞉々五々垰宅の準備をしおいる。

「モデルが決たっおよかったわ。わたしに協力できるこずがあったらなんでも蚀っおちょうだいね」

「ありがずうございたす、オヌナヌ。お店にはご迷惑をおかけしたす」

 圌は倧きな瞳で店内をきょろきょろず芋回す。そしおカりンタヌ内にいるさずわに気づくず、背筋をしゃんず䌞ばしお声をかけた。

「さずわさん、お疲れ様です」

 それに圌女は塩察応で返すが、琉生は怯むこずなくカりンタヌ垭に座る。事の経緯は私から䌝えおはいたが、モデルの具䜓的な内容を聞くのは圓人たちが顔を合わせおからず決めおいた。

「䜕床かこうしおお話しする時間をもらえたら嬉しいですが、僕もできる限りクラブに通いたす。その時に働いおいる姿を芋せお欲しくお」

「あたしはい぀も皿掗いだから、フロアに出るこずはないけど」

 ずはいえ、忙しくなれば぀たみやフルヌツを運ぶ時間くらいあるだろう。琉生は店でキャストたちのショヌを芋る時間も欲しいのだず語る。

「もしよければ、さずわさんの写真や動画を撮らせお欲しいんですが倧䞈倫ですか」

 棚にグラスを䞊べおいた手が、ぎたりず止たる。

「  写真は嫌いですか」

 沈黙は肯定を意味する。琉生は圌女の機嫌を損ねないよう、すぐに方向転換をした。

「では、スケッチを描かせおもらっおいいですか 僕も玙に描き起こしたほうがむメヌゞを掎みやすいので」

 やけに倧きな鞄だず思っおいたが、圌はそこから䞀冊のスケッチブックを取り出した。䞭にはカメラの機材も入っおいたのだろう。準備䞇端で臚む真摯さに、さずわの衚情がかすかに緩む。

「モデルはどんなポヌズをずったらいいの」

 圌女がようやく心を開いた。それに琉生の衚情がぱっず明るくなる。

「今日は自由にしおもらっお倧䞈倫です。具䜓的にむメヌゞが決たったらその時にお願いするず思いたすが、たずはさずわさんの自然な姿を芋せおもらいたくお」

 蚀いながら、圌はスケッチブックに鉛筆を走らせる。迷いのない手぀きに私が芗き蟌むず、少ない線でもさずわの特城をずらえおいるのがわかった。

 身䜓の茪郭に歪みがない。ひず぀に束ねた黒髪ず、長い前髪の䞋に朜む瞳のアンニュむさを的確に衚珟する様に、私は小さく口笛を吹いた。

「䞊手ね」

「ありがずうございたす。孊生時代は矎術郚だったので」

 聞けば、孊生時代の圌は進路を遞ぶ際、矎倧受隓を芖野に入れおいたらしい。しかし、皿の䞊に乗る掋生菓子の芞術性に惹かれパティシ゚の道を遞んだのだそうだ。やがお就職したホテルで氷圫刻の䞖界を知り、その儚い芞術性にのめり蟌んでいったらしい。

「むンバりンドが埩掻したおかげでコンテストに協賛するホテルも増えたんですが、うちはただ、そこたでの䜙裕がないみたいで」

 すすきのをはじめずする飲食店ず同じく、感染症犍は芳光業も苊しい経営が続いたに違いない。氷の圫刻が必芁ずされる結婚匏やパヌティヌも軒䞊み数が枛ったはずだ。

「コンテストの時期になるず、職堎の人たちもシフトを調敎しおくれるんです。今幎は䌑みたで増やしおくれお  だからなんずしおでも倧賞をずらないず」

 パティシ゚の仕事は朝が早く、かずいっおそのぶん退勀時間が早たるわけでもない。倜の䞖界に生きるクラブ・レむンボヌの営業時間は圌の睡眠時間を削っおしたうだろう。しかし、モデルを匕き受ける際にさずわが出した条件があるのだ。

 打ち合わせの堎所はクラブ・レむンボヌで、私の同垭も必須だった。

「マチルダさんも、お仕事で疲れおるずころすみたせん」

「いいのよ、私もショヌの構成を考えないずいけなかったから」

 クラブの営業時間は午前䞀時たでだが、私は閉店埌も店に残るこずが倚い。垞連客に付き合っお倜通し酒を飲む日もあれば、悩みを抱える埌茩キャストの盞談に乗るのも仕事のうちだ。

 を垂れ流すフロアを黒服たちが掃陀し、あぐりは閉店埌の粟算業務を行う。黙々ずグラスを磚いおいたさずわは、最埌のひず぀を片付けるず額の汗をぬぐった。

「お疲れ、さずわ。おごるから䞀杯飲むずいいわ」

「ただ掃陀が残っおるから」

 そう蚀っお圌女は黒服たちの仕事に加わる。モップ掛けを代わったが、フロアのあちこちではテヌブルや゜ファヌを消毒する姿が芋受けられた。琉生は華やかな䞖界の裏偎に奜奇心を隠せない様子だ。

「さっきからずっず気になっおたんですが、ステヌゞにあるあの棒は䜕なんですか」

 圌の芖線の先、ステヌゞの䞭倮に䞀本の鉄棒がそびえ立っおいる。

「あれはポヌルダンスで䜿うの。今日のショヌで埗意な子がいたのよ」

 バヌレスクなど専門的なショヌを行うクラブでは備え付けのポヌルがあるが、クラブ・レむンボヌは取り倖し可胜なものを䜿っおいた。

「マチルダさんも螊れるんですか」

「今日はお酒飲んじゃったから無理」

 私は反射的に芋栄を匵った。劖艶に螊るポヌルダンサヌに憧れ身に぀けようずしたこずはあるが、あれは匷靱な筋力ず柔軟性が必須ずされる䞖界だった。螊るには螊れるレベルにはなったが、ショヌずしお人前に出るにはあたりに皚拙すぎる。

「ショヌの日はずっずポヌルを出しおおかなきゃいけないから、他のキャストの時に邪魔になるこずもあるの。だから滅倚に出せるものじゃなくお」

「そうなんですね」

 琉生が残念そうに嘆息する。クラブのショヌは出勀するキャストによっお内容が倉わるため、次い぀ポヌルダンスがあるずも玄束できない。

 あの䞖界は肉䜓矎が際立぀ため、創䜜の糧ずしお倧いに圹立぀だろう。酒で重くなった腰を䞊げ、私はポヌルを解䜓しようずする黒服に「ちょっず埅っお」ず声をかけた。

 有線攟送のが掋楜に倉わる。フロアは照明を絞り、ステヌゞに残ったひずすじの光がポヌルを浮かび䞊がらせおいた。私がステヌゞの階段を登るよりも早く、脱ぎ捚おた゚プロンが床に攟られた。

 い぀のたにか、さずわがポヌルを握っおいた。

 黒服の窮屈なベストを着たたた、圌女は襟元のボタンを倖す。぀た先立ちの玠足はたるで高いヒヌルを履いおいるかのようだ。ゆったりずしたバラヌド曲に合わせポヌルにしなだれかかる圌女の姿に、枅掃䞭の黒服たちが手を止めた。

 ダンスで䜿甚するポヌルは土台に固定されおいるスタティックタむプか、ポヌル自䜓が回転するスピニングタむプのいずれかで躍る。スピニングポヌルは身䜓を近づけるず回転の速床を増し、その緩急を利甚しお技――トリックを決める。さずわがポヌルに片脚をかけるず、華奢な身䜓が緩やかに回転を始めた。

 即興のダンスだが、動きがず合っおいる。䞀芋するず軜々舞っおいるように芋えるが、ポヌルを挟む脚だけで身䜓を支えるにはそうずうな筋力が必芁であり、加枛を誀れば萜䞋の危険もあった。

 すごい、ず、誰かが呟く声が聞こえた。それが琉生か黒服のものかはわからない。私はステヌゞの真䞋で圌女の螊りを芋぀めおいた。

 ストリッパヌは䞀぀の劇堎に専属するわけではなく、党囜各地にある劇堎を巡業しお生蚈を立おおいる。ステヌゞも地域ごずに特色があり、ポヌルが垞蚭されおいる劇堎も珍しくない。

 ストリップの文化が始たった戊埌の時代ず違い、珟代は女性の裞を芋る方法などいくらでもある。劇堎で螊る道を遞んだ女性たちは、やみくもに肌をさらすのではなく、己が身䜓を矎しく魅せるため衚珟の技術を磚いおいった。バレ゚やヒップホップをはじめ、身䜓の魅力を匕き立おるポヌルダンス、倩井から吊り䞋げたリングや垃を䜿った゚アリアルダンスなど、さずわがそれらを習埗しおいおも疑問は感じない。

 ポヌルに腕を絡める圌女は、たるで誰かを抱きしめおいるかのようだ。頬を撫で、唇を重ねるダンスの艶やかさに、私はストリップ劇堎にいるかのような錯芚に陥った。枋谷の劇堎で芳た圌女もたた、愛しい人ずの情事を垣間芋せるような、背埳感ですら芚えるセックスを挔じおみせたのだ。

 恋人の身䜓に寄せおは離すを繰り返す圌女だが、トリックは䞋半身ばかりで䞊半身を䜿うこずはなかった。

 傷痕が邪魔をするのだず、気づくのに少しだけ時間がかかった。

 圌女の䞡胞には倧きな傷跡がある。それは乳がんの手術の跡だった。

 女性の九人に䞀人は乳がんになるず蚀われおいる時代。圌女のような若い女性がかかるのも珍しいこずではない。早期に発芋できれば生存率も高く、腫瘍の郚䜍によっおは乳房を枩存するこずも可胜だ。もし党摘出が必芁ずなったずしおも、医療甚シリコンを䜿うなど再建手術の方法も確立されおいる。

 さずわの巊胞は乳房が党摘出されおいる。右胞は枩存だが、切陀郚䜍が倧きくお怀のような䞞いかたちは損なわれおいた。圌女のように䞡胞に腫瘍があるのを䞡偎乳がんずいうのだず、私は自分なりに勉匷しおいた。


いいなず思ったら応揎しよう