半年働いて感じた、日本と違うオーストラリアICUの5つの特徴
オーストラリア・メルボルンンの三次医療機関(tertiary hospital)のICUで勤務を始めて半年が経ちました。
この記事では、特に印象に残った「日本のICUとの違い」を紹介していきます。
もちろん、どちらのシステムが優れているという話ではありません。
ひとつの比較材料として読んでいただければ嬉しいです。
1. 役職による給与・責任・業務が明確に分かれている
オーストラリアのICUでまず特徴的なのは、役職ごとに給与、責任、業務内容が明確に分かれていることです。
ICUで働く医師は、大まかに Resident/HMO(後期研修開始前)、Junior/Senior Registrar(後期研修医、私はココ)、Consultant(専門医・指導医) に分かれています。
HMOは書類作成や検査・他科への依頼などを担当し、Registrarは気管挿管やCV留置などの手技、日常診療の軽度の意思決定、患者さんやご家族・他科とのコミュニケーションを担います。Senior Registrarになると、Consultantの監督のもとでより高度な判断を任されます。
一方、ConsultantはICU診療の責任者です。治療方針の決定や重要な病状説明、他科との調整を行い、問題が生じた際には最終的な責任を負います。一部の特殊な手技を除けば自ら処置を行うことは少なく、「手を動かすのがRegistrar、判断と責任を担うのがConsultant」というイメージです。
この違いは、給与やキャリアにも明確に反映されています。RegistrarからConsultantへ自動的に昇進することはなく、専門医資格を取得したうえでConsultantのポジションに応募し、選考を経て採用されます。つまり、経験年数だけでは仕事内容や待遇は変わりません。専門医試験(後述)に合格し、Consultantとして採用されて初めて、大きな責任と待遇を得ることができます。
メリットとしては、役割と責任が明確で、自分に何が求められているかが分かりやすいこと、専門医資格を取得するインセンティブも非常に大きいことが挙げられます。
一方で、Consultantのポジション数には限りがあり、専門医資格を取得してもすぐにConsultantとして働けるとは限りません。実際にこのポジション不足はオーストラリアでも課題の一つとして認識されているようです。
2. 担当Consultantの裁量が大きい
オーストラリアのICUでは、その日の担当Consultantの裁量が非常に大きいことも特徴です。もちろん必要に応じて別のConsultantへ相談することはありますが、基本的には担当Consultantの方針に沿って診療が進みます。
そのため、日本で時々見られるような、現場にいない「ボスの天の声」で診療方針を変更することはありません。最終的な責任を負うConsultantが現場で判断するため、意思決定がシンプルです。
この仕組みのデメリットとして、Consultantが交代するたびに診療方針が変わり、診療の継続性が損なわれることが言われています。
ただし、私自身は今のところ大きな問題を感じたことはありません。
というのもオーストラリアでは全国共通の専門医トレーニングプログラムが整備されており、Consultant間の診療スタイルの違いは日本ほど大きくないからです。
日本では病院ごとに教育や診療文化が異なることも多く、この仕組みをそのまま導入するのは簡単ではないように感じます。
3. 働く時間が短い
オーストラリアのICUでは、日本と比べて勤務時間が短いことも特徴です。私の病院では、Registrarはフルタイムは2週間で6シフト(1シフト12.5時間、日勤・夜勤半々)が基本で、年5週間の有給休暇もあります。
もちろん追加シフトなどで規定時間以上に働くことはありますが、その場合は特別な手当が支払われます。また、勤務終了後は次の担当者へ引き継ぐ文化が定着しており、長時間病院に残ることはありません。
もちろんこの体制を維持するためには、多くのスタッフを配置する必要があります。そのため、同じRegistrarやConsultantと毎日一緒に働くわけではなく、数週間から数か月顔を合わせないことも珍しくありません。日本のように固定したチームで診療を行うというよりは、その日に勤務しているメンバーでチームを組むという働き方です。
デメリットとして挙げるとすれば、日本と比べて一人あたりが経験する症例数は少ない点でしょうか。
一方で、休みの日にはコースに参加したり、専門医試験の勉強をしたり、家族との時間を過ごしたりと、それぞれが仕事以外の時間を大切にしています。
日本のように自己犠牲を前提として長時間働く文化ではなく、プロフェッショナルとして限られた時間の中で良いパフォーマンスを発揮し、それ以外の時間は自己研鑽やプライベートに充てるという働き方が浸透しているように感じます。
4. 専門医トレーニングは長く、試験も難しい
オーストラリアでICU専門医になるまでの道のりは長く、決して簡単ではありません。専門医トレーニングを修了するまでには、一般的に7年程度を要するようです。
トレーニングでは幅広い症例を経験することが求められる一方、病院ごとの症例の棲み分けがあるため、一つの病院だけで修了することはできません。1〜2年ごとに病院を移りながら経験を積むことが前提となっています。
それもあってか、Registrarのポジションも基本的に1年契約で、毎年就職活動を行う必要があります(正式な専門医プログラムに所属していない私も同様です)。毎年CVを更新し、希望する病院へ応募して面接などを経て翌年のポジションが決まります。同じ病院に残る場合は内部応募として有利ですが、それでも自動更新ではありません。
さらに、専門医試験(Primary、Fellowshipの2段階)は非常に難関として知られています。それぞれの試験に約1年間かけて準備しますがそれでも合格率は50%を下回ります。試験勉強はRegistrar時代の大きな負担の一つです。
さまざまな病院をローテーションしながら毎年評価を受け、難関試験も突破しなければなりません。専門医資格の価値が高い理由も納得できますが、常に評価され続ける環境は、なかなかにストレスがたまります。
5. 教育の機会は充実している、だが高額
オーストラリアでは、教育の機会が非常に充実しています。
病院内でのレクチャーやシミュレーションはもちろん、エコー、ECMO、人工呼吸、気道管理など、さまざまなコースが年間を通して開催されています。特に専門医試験を目指すRegistrar向けの教育体制は充実しており、多くの人が勤務時間外を利用してコースや勉強会に参加しています。
一方で、こうした教育は日本に比べてかなり高額です。院内のTeachingは無料のものがほとんどですが、院外のコースになると、例えば心エコーの1日コースが2000ドル(約20万円)、気道管理の半日コースが3000ドル(約30万円)という感じで、日本とは桁が一つ違います。そもそも学会の年会費(トレーニング費)や学術集会の参加費もかなり高額です。
高いだけあってクオリティは非常に高いのですが、それにしても高い。オーストラリアで働いていると、日本の教育コースや学会費がいかに良心的で財布に優しいかを実感します。
それでも多くの医師が参加するのは、専門医取得の要件になっていたり、その後のキャリアアップに直結したりするからです。
最後に
実際にオーストラリアのICUで働いてみると、日本とは働き方や教育、キャリアの仕組みが大きく異なることを実感します。
もちろん、どちらが良い・悪いという話ではありません。オーストラリアの仕組みを知ることで、日本の良さを改めて感じることもあれば、逆に「これは日本でも取り入れられるのでは」と思うこともあります。
まだまだ働き始めて半年程度ですが、今後も実際に働いて感じたことを発信していければと思います。
