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論文メモ 軍事組織における人的資源管理の理論と実践の発達

人的資源管理(Human Resource Management: HRM)は、すべての構成員にはそれぞれ人的資源として希少性があることを踏まえ、組織がその目標を達成できるように人的資源を管理する活動です。その定義の仕方には研究者によって違いがありますが、採用、選抜、雇用、訓練、報酬、評価、福利厚生、健康管理、安全管理、そして解雇などの機能を総合的に連携させながら行います。

一般に人的資源管理は民間部門で発達したと考えられていますが、その理論と実践は軍事部門においても影響を及ぼしてきました。今回は、その歴史的発達を知ることができる資料を紹介したいと思います。

op den Buijs, T., Olsthoorn, P. (2023). Human Resource Management for Military Organizations: Challenges and Trends. In: Sookermany, A.M. (eds) Handbook of Military Sciences. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-02866-4_68-1

人的資源管理の歴史

人的資源管理の研究は産業革命の時代にまでさかのぼることができます。イギリスでは18世紀の中頃、ヨーロッパ大陸や米国では19世紀の初頭から工業化が進展するようになり、20世紀初頭には生産性の向上を可能にするための理論が整備されています。米国の経営学者フレデリック・テイラーは組織的な怠業を防止するなど、新しい管理手法として科学的管理法を提案しており、オーストリア出身の心理学者エルトン・メイヨーはこの科学的管理法の限界を指摘して労働者の社会心理と人間関係が生産に与える影響を調査しています。

ドイツ出身の心理学者ヒューゴー・ミュンスターバーグが1913年に『心理学と産業効率(Psychology and Industrial Efficiency)』を出版してからは、人事の問題を解決するために心理学的アプローチを適用することの意義、そして人事管理の専門的知識の価値がより広く認識されるようになりました。第二次世界大戦で軍隊の大量動員が行われ、民間部門で労働力不足が深刻になってからは、この分野の研究成果が実務家に広く知られるようになり、1960年代には労使関係や人間関係の問題も取り扱う社会科学的な研究領域に発展しています。

近年では情報化が人事管理に与える影響に関する研究が活発になっており、データに基づく意思決定を支援する人的資源管理システムが発達しました。軍事部門でもその成果が取り入れられており、軍人の選抜や採用、オンラインでの教育訓練の提供、心理測定テストに基づく人事データ基盤の構築など情報通信技術の活用が進んでいます。

人的資源管理の理論と実践

このような歴史的な背景があるため、人的資源管理の定義は時代によって変化しています。1987年に人的資源管理の定義を検討した経営学の研究では、その理論的研究での意味と実践的文脈で意味が必ずしも一致していないことが指摘されています(Guest 1987)。

例えば、経営学の分野で人的資源管理の代表的なモデルの一つであるハーバード・モデルでは組織の内部におけるコミュニケーション、個人の才能、チームワークに重点を置きますが、もう一つの代表的なモデルであるミシガン・モデルでは組織が置かれている状況に適合するような一貫した人事施策の必要性を強調しています(Guest 1997)。また、国際比較の研究によって各国の人的資源管理の実践に大きな違いがあることが分かっています。例えば、ドイツやオランダなどの人的資源管理では、労働組合、文化背景などが考慮に含まれていますが、英米圏の人的資源管理は個人主義的であり、財務的側面がより強調されています。

軍事組織でもこれと同じ状況が認められます。つまり、軍隊の人的資源管理のあり方については時代や地域による変化が起きてきています。冷戦が終結し、国際情勢が大きく変化した1990年代に、米国は人的資源管理の理論と実践を大幅に変化させる必要に迫られています(Robbert et al. 1997)。米国の歴史では軍隊が士官の人的資源管理のために導入した医療、教育、住宅などの福祉が、志願制度への転換に伴って下士官兵向けのインセンティブとしても活用されるようになり、それが結果として国家の社会保障制度の発展にも寄与してきました(Mittelstadt 2015)。

しかし、このような人的資源管理の実践はヨーロッパの軍隊のそれと一致するとは限りません。その前提となる状況が異なるためです。オランダ、ベルギー、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、スイスなどヨーロッパの一部の軍隊では、英米では見られない軍人組合(military union)が組織されており、これは国家安全保障を損なうことなく、予算削減や契約変更で軍人の地位や福祉を確保するために運営される労働組合です(Heinecken 2017)。軍隊の内部で労使交渉のメカニズムが存在するため、ヨーロッパの軍隊の人的資源管理では労使関係を考慮に入れることが必要となります。

現在直面する新たな課題

このような時代や地域による違いがあることに加えて、近年では社会状況の変化に基づく新しい課題も生じています。軍隊に入隊することを希望する若者の意欲が大幅に低下しており、伝統的な動機付け要因よりも、ワークライフバランス、自己成長の機会、良好な職場の雰囲気、多様な人々との協働が以前にも増して重要になっています。かつては重要視されていた愛国心は、若者の動機づけとして低下する傾向があります。

しかも、軍隊が必要とする人材の性質も変わっています。ドローン・オペレーター、サイバー戦要員、人工知能技術者に適したより専門的なタレントが必要となっており、軍隊内部の労働市場から部外の労働市場への関心をシフトさせてきています。軍隊の人員が不足しているため、女性軍人やマイノリティなど、多様な属性を持つ人材を採用する方向へ人事施策を転換しつつあります。しかし、このような人材を定着させることは簡単なことではなく、軍隊の内部でセクシャル・ハラスメントや暴行事件の予防が課題となっています。人員の不足から軍隊は予備役や民間警備軍事会社の役割を見直しつつあります。

参考文献

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