劣勢であっても戦い続けることが一つの戦略になる理由 Who Wins?(2012)の紹介
戦争の歴史では、敵に対して圧倒的な軍事力を持つ大国であっても、戦略的に敗北した事例があります。ベトナム戦争でアメリカは南ベトナムから撤退を余儀なくされ、ソ連はアフガニスタンから撤退を強いられました。このような事例を説明する場合、交戦国の能力だけではなく、意志を評価することが重要であると考えられています。今回の記事ではPatricia Sullivanの『誰が勝つのか(Who Wins?)』(2012)を取り上げ、そこで交戦国がどのような戦争目的を選択しているかによって、その戦争の結果が異なると主張したことを紹介しましょう。

戦争指導にあたる指導者の仕事は、その国家の軍事力を最大限に発揮できるように作戦を遂行することだけではありません。戦争目的を明確にして、国内の支持を確保し、負担に理解を求めることも重要な仕事です。この政策立案の段階に問題があれば、軍隊の運用に伴う費用を負担する際に、国内で理解が得られなくなっていきます。著者はベトナム戦争におけるアメリカ、アフガニスタン侵攻におけるソ連の失敗は、この戦争目的の選択と関係があると考えました。
「戦争の結果は破壊力だけで決まるものではない。(中略)弱小国は、勝利を得るための代償が予想していたより大きいことを敵に認識させることによって、自らよりも強大な敵を打倒できる場合がある。軍事的な意味での勝利がまったく期待できない国家であったとしても、決定的敗北を避けることができるのであれば、費用耐性(cost-tolerance)で敵を上回ることによって優位に立つことができる」
重要なことは、その国家がどれほど費用耐性で優位に立っているのかということと、どれほど軍事力で優位に立っているのかは別の問題であるということです。たとえ、大きな軍事力を持つ国家であったとしても、その指導部が許容できる費用がわずかである場合、軍事力を実際に使用することはできなくなるでしょう。戦争を始める場合、大国の指導者は戦争にかかる費用を見積るものですが、それが許容範囲で収まっている間は戦争を続けるはずです。しかし、その許容範囲を大きく上回る見込みであれば、大国の指導者は能力で優位に立っていたとしても、戦争を続けることが政治的に困難になると考えられます。
著者はこのような視点を立てた上で、戦争目的を分析するための判断基準を提案しています。これは戦争目的を抽象的に「実力(brute force)」と「強制(coercive)」に大別します。実力は費用耐性が最も高い戦争目的のラベルであり、反対に強制は費用耐性が小さい戦争目的のラベルです。戦争目的をどのように設定するのかは、その政策によって異なるということは直観的に分かることだと思いますが。戦争では戦争目的の設定の仕方それ自体が勝負を左右するとされています(Ibid.: 46)。
例えば、敵国の体制を転覆し、独立国家としての存在を消すという戦争目的は「実力」寄りのパターンですが、これが国内においていったん確立されると、自国の費用耐性を引き上げ、戦争に使用できる軍事力の上限を高める効果があります。反対に、敵に何らかの政策を変更させることを望んでいる「強制」寄りのパターンで戦争目的を確立した場合、それは戦争に対する国家の費用耐性を低下させ、軍事力の一部分しか使用できない状況をもたらします。戦争では能力が試されるだけではなく、国家としての意志がどれほど堅固なものであるかが試されることになります。
これはカール・フォン・クラウゼヴィッツの理論で示された戦争の政治的な側面、つまり政治的な交渉の道具として戦争が使用されていることを別の視点で捉え直す議論であるといえます。ただし、著者は費用耐性という用語を使うことによって、政治的目的という概念が持つ意味をより具体的に捉えようとしていることが指摘できると思います。著者はどの程度の犠牲を許容できるかという点に注目することによって、国家の政治的目的の強さを比較可能な要因として取り扱おうとしました。
著者の指摘は有意義なものであり、論理的にも筋が通っていますが、実証には多くの課題が残されていることも指摘しておきます。著者はCorrelates of Warプロジェクトのデータセットを使った定量分析によって自説を裏付けようとしていますが、時代や地域が異なる事例に関して交戦国の戦争目的の違いを概念化することは簡単ではありません。戦時下の国家の戦争指導では、かなり時期によって政治的目的が変化することがありますが、それは戦時中の政権交代や体制変動だけでなく、インフレーションの急激な進行といった経済状況の変化や、友好国や同盟国の政策の変更でも生じることがあります。著者が主張していることには説得力があり、他の研究者の分析とも整合する部分が多いのですが、戦争目的が戦争遂行に与える影響を捉えることの難しさも示していると思います。
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