中国の一帯一路がアジア各地に混乱をもたらすリスクがあると分析した『中国の西の地平』の紹介
世界の潮流を判断するには、ユーラシア大陸、特にアジアの国際政治を理解することが重要です。近年、中国の能力が高まるにつれて、アジア各地の国際政治に影響が生じており、アメリカが警戒感を強めています。
アメリカ平和研究所(United States Institute of Peace)の上級顧問ダニエル・マーキー(Daniel Markey)は2020年にユーラシア大陸における中国の戦略を分析した『中国の西の地平:北京と新しいユーラシア地政学(China's Western Horizon: Beijing and the New Geopolitics of Eurasia)』を発表し、ユーラシア大陸における中国の勢力拡大が米中対立に及ぼす影響を分析しています。

この著作の目的は、ユーラシア大陸、特にアジア全域における中国の影響力が拡大している実態を明らかにすることです。習近平が指導する一帯一路の構想に基づき、中国はユーラシア大陸を包括的に網羅する広域経済圏の形成を推進しています。その主な狙いはインフラ開発投資を通じて中国との経済連携を強化する国々を増やし、長期的に貿易や投資で経済的な利益を上げることですが、間接的には中国の政治的、外交的な影響力を広げる意図があるとも考えられています。
著者は中国の一帯一路がアジア各地の政治状況に変化をもたらしていることを指摘しています。例えば、パキスタン南西部にあるバロチスタン州の港湾都市グワダルでは中国の支援でグワダル港の開発が進められてきました。2017年11月にパキスタン政府は今後40年にわたって港湾から得られる収益の9%しか受け取れないこと、残りの91%の収益は中国が受け取ることを発表しました。バロチスタン州以下の地方自治体に何ら得るものがないことが明らかにされたのです。
開発の影響はグワダル港の周辺地域の不動産価格の高騰という形で現れており、そこからパキスタン海軍と民間の投資家が利益を得ています。以前から漁業を営んでいた住民は漁場の使用を規制され、移住を余儀なくされており、地方で政治的な緊張が高まっています。2018年11月23日にカラチの中国領事館に対する武装襲撃事件が起き、民間人2名を含む4名が死亡しました。
武装組織のバロチスタン解放軍(Balochistan Liberation Army)は事件後に犯行声明を発表し、政治的な意図があることが確認されました。これと同様の事件がその後もパキスタンでは繰り返されています。中国がバロチスタンを搾取し、またパキスタンを支援することを辞めなければ、攻撃を続けるとバロチスタン解放軍は警告を出しています。
このような地方政治上の対立はパキスタンだけで起きているわけではありません。アジアでは国家の統一性、国民としての一体性が弱い国が少なくありません。このような地方政治の状況を無視し、中国が一帯一路を推進すれば、各国の国内政治、地方政治で予測困難な混乱が起こり、地域の安定を損なう可能性があると著者は警戒しています。著者は中国との関係を強化したパキスタンは、ますます政治的抑圧を強化し、パキスタン社会で権力や富から排除された集団の不満が高まることを予測しています。
著者は中国がアメリカやロシアのような大国の地位を得るまで満足しないと見ていますが、その政策には裏付けとなるビジョンがなく、方向感に乏しいとも指摘しています。ただ、中国の支援を受けるパキスタンはインドに、イランはアメリカに対抗する戦略を強化しており、中東や南アジアにおけるアメリカの戦略にも影響が出てきています。
もちろん、著者は中国の貿易や投資が必ずアメリカの国益を損なうものばかりではないことを認めています。ただ、長期的にアジア各国の経済が中国への依存を深め、中国企業の存在感が強まれば、アメリカ企業にとって好ましい競争環境が失われていく可能性が高いでしょう。中国が将来的に国外で軍事活動を行うための拠点を構築する可能性も否定できないので、アメリカはそのリスクを適切に認識し、対処する必要があると主張しています。
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