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太宰治の「走れ! 逡巡メロス」 〜noteに投稿するこじらせ文士たち

このシリーズは、文豪たちの実話や裏ネタをもとに、
もし彼らがnoteに投稿していたら……
そんな世界をフィクションとして描いています。


銀河の向こうに、不思議な渦巻きがあると言われています。
その渦を抜けた先には、
まだ世に出ぬ太宰や芥川その他大勢の文士らが、
noteで“スキ”の数に一喜一憂
しているもうひとつの世界がありました。

そう、ここはわたしたちが知らないパラレルワールドのnote界。
こじらせ文士たちの投稿が、今宵も静かに熱い火花を散らしています。

さあ、一緒に覗いてみませんか。


🪐パラレルワールドnoterファイル-3 太宰治


太宰は昨年のnote創作大賞に落選した。
審査員・川端康成の忌まわしき一言で──。

あれから一年。
太宰は雪辱を期すべく「女生徒だもの」を投稿し終え、今年の賞に臨んでいる。
この渾身作、スキ数はうなぎ登りと絶好調。
だが佐藤春夫審査員に宛てた、賞を懇願した泣きメールには返信なし。
─あれほどの長文、熱文、すべて泡か。ああもう、ワンと言えならワンと言う。このままでは発表まで身が持たない─

太宰は今宵、焦燥まみれの短編を投稿した。
まだ、生きているぞと、知らせるために。


★本日の投稿note★


恥の多いMyLife  プロフィール画面


走れ! 逡巡メロス

♡ 83
🐜 恥の多いMyLife
2025年6月25日 23:00

 メロスは激怒した。必ず、邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの王を除かなければならぬと決意した。王はこの国最大の文学賞を創設し、文学界の頂点にも君臨している。その裏で、若い文士を次々処刑に追い込む残虐非道。メロスには文学界のしきたりがわからぬ。メロスは一介の書き人である。酒を飲み、女と遊んで暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。


<中盤・ストーリー概略>
このあとメロスは、文学賞の選考会が行われている宮殿に忍び込む。だが捕縛され、容赦ない王からはりつけの刑を言い渡された。
刑までの猶予は3日。「妹の婚礼がある」ことを理由にいったん宮殿を後にするメロスは、戻るまでの人質として友人のセリヌンティウスを差し出した。

用を終えたメロスは、宮殿に戻るため走り出す。
約束の時間に戻らなければ、セリヌンティウスは身代わり処刑されてしまう。

 メロスは今宵、処刑される。処刑される為に走るのだ。身代わりの友を救う為に走るのだ。
 だがメロスは粗忽者そこつものでもあった。自身がこの文学賞に応募していたことを今思い出したのだ。処刑よりも友情よりも、最終選考に残りたい。なんとしても賞が欲しい。邪念がメロスの道を阻んだ。メロスは呼吸も出来ずに逡巡する。だが二度、三度、口から血を噴き出しながら身を起こし、再び黒い風のように走った。


#必死で生きている #文壇ざまあ #一生涯芥川 #川端康成、読め


★「走れ! 怨念メロス」 コメント欄★


🤦🏻‍♂️【クッキングdandan】(檀一雄)
セリヌンティウスは私のことではないのか? あの熱海の旅館の一件だ。宿泊費が払えず、菊池寛氏に借金してくると言って私を人質に置いていっただろう。お前、走って戻ってくるどころか井伏鱒二先生んちで将棋に興じていたよなぁ。

🧑🏻‍🎤【詩人未満@sake】(中原中也)
dandan君、非道ぇ目に遭ったな。いや「逡巡メロス」川端康成先生への恨み節だろう? 「女生徒だもの」を取り下げてこっちで勝負してみろ。

🐜【恥の多いMyLife】(太宰治)
dandan君、詩人未満君。よくきたね。私がこの短編に何を込めたかなど軽々しくここでは言うまい。ただひとつ言えるのは、私はメロスになりたかったのだ。ここで生きている私は走るたびに転び、傷口から恨みが滲みだし、酒に酔うだけ。勘ぐるな。では、失敬。 追伸:「女生徒だもの」は取り下げん。

👹【不連続@堕ち堕ちて】(坂口安吾)
「信じる」だの「友情」だの書くお前の中に、嘘と本当がごっちゃになっているのがいい。文壇なんてたいしたもんじゃねぇよ。地の果てまで走れ。どうせ俺もそこにいる。

🐜【恥の多いMyLife】(太宰治)
不連続君、よく言ってくれた。とりあえず飲もうぜ。

👨🏻‍🦰【God BRZ】(志賀直哉)
君は技巧には優れている。だが、その技巧に頼りすぎている。友情と文学賞への渇望を並べるのも品がない。文学というのは、もっと静かに、堅牢に進めるものだと知るべきだ。

🐜【恥の多いMyLife】(太宰治)
God BRZ先生、それはどうもおそれいりまめ。品がないと来ましたねコンチクショウ。もっと弱くなれ。文学者ならば弱くなって血反吐を吐いてみてはいかが。


🪐解説編:  太宰治


●太宰治は、時代を超えて多くの人を魅了しています。
弱さ、怒りの発露、ユーモアとやさしさ。自虐感もナルシシズムも、文豪というよりむしろアニメやラノベのキャラのような親近感すらあります。
文章も非常に巧み。短文で印象深く書き連ねるスタイルは、同時代の作家とは一線を画しています。
今回の記事本文にも、太宰の『二十世紀騎手』や『グッド・バイ』『津軽』の短い言い回しをパロディにして潜ませました。おわかりの方はぜひコメントを!



●冒頭の「昨年のnote創作大賞に落選したのは川端康成が原因」というのは、第一回芥川賞受賞を逃した太宰痛恨のエピソードを下敷きにしています。
太宰はどうしても芥川賞が欲しかった。ノミネートされて有頂天だったところ、審査員の川端康成に「私生活に問題あり」と判断されて落選しました。
太宰はこの恨み『川端康成へ』の中でぶちまけました。「川端は大悪党」「刺す」等、炎上必至の恨み節が炸裂しています。
太宰は翌年も「どうしても賞が欲しいのです」佐藤春夫泣きの手紙で芥川賞受賞を懇願しましたが、ついに受賞することはありませんでした。

第三回芥川賞で太宰は恥ずかしげもなく、再度、川端康成に賞を懇願。ですがノミネートにも至りませんでした。
そんな川端ですが、太宰を無視していたわけではありません。昭和14年『文學界』に発表された太宰の『女生徒』を読み、いたく感銘。高い評価を与えています。


🪐解説編:  太宰とコメント欄の文士たち


さまざまな文士が集まって来ましたが、檀一雄、坂口安吾は太宰の親友であり信頼おける理解者。太宰を含む3人は、反骨精神溢れる無頼派の異端児です。

【クッキングdandan】がコメントに書いている「セリヌンティウスは私だ」説のエピソードは、1936年の「熱海事件」。檀一雄の著書『小説 太宰治』で読むことができます。太宰はメロスのようには戻ってこなかったんですね。


中原中也
酒癖が悪すぎて、太宰から距離を置かれていました。ですが太宰は中也の才能を尊敬しており、中也、檀、太宰の3人で同人誌『青い花』を発行したこともあります。一号だけで休刊ですが。


この中では、志賀直哉だけが敵ポジション。太宰は小説の神様と呼ばれた志賀直哉に自身の『犯人』『斜陽』を酷評され、その憤怒を『如是我聞』を書いて爆発させました。志賀に対するラスト一文は、軽妙ながらも挑戦的で強粘着です。

「いいとしをして、恥ずかしいね。太宰などお殺せなさいますの? 売り言葉に買い言葉、いくらでも書くつもり。」(太宰治『如是我聞』より引用)


こんな太宰が今、もうひとつのnoteの中で走り続けています。


銀河の裏アカのような、もうひとつのnoteの世界

わたしたちが知っている歴史的事実とはちょっと違う、文士たちのこじれた投稿宇宙が展開しているようです。

今度この「もうひとつのnoteの世界」が投稿されるときは、【詩人未満@sake】(中原中也)のnoteを見に行くことになりそうです。
中也の繊細な詩、そして憂いを含んだ写真に萌え萌えのファンは数知れず。でも酒癖の悪さで引き起こしたトラブルもまた、数知れず……。


それではまた。銀河の向こうで。


★パラレルワールドの文士たちのnoteはこちらから↓



(欄外補足)

「走れ! 逡巡メロス」は、恥の多いMyLifeさんの投稿です。

太宰治の「走れメロス」は青空文庫で読めます。
スマホやタブレットのアプリ「ソラリ」(無料)をダウンロードすると縦書きで読めます。


●記事中で登場した作品も青空文庫で読めます。




●参考文献
・「文豪どうかしてる 逸話集」紳士素丸著 KADOAKAWA
・「こじらせ文学史 文豪たちのコンプレックス」堀江宏樹著 ABCアーク
・「知っておきたい日本の文学 太宰治」 角川学芸出版編 角川ソフィア文庫
・「ドロドロ文豪史」山口 謠司著 集英社インターナショナル