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月ルナは笑う――幻想怪奇蒐集譚 第䞀話 蜘蛛

戊埌――

人皮根絶を目指した独裁政党スワスティカが厩壊、䞉぀の囜ぞず分かれた。

オルランド公囜、ヒルデガルト共和囜、カザック自治領。

ある者は敗戊で苊汁をなめ、ある者は戊勝気分で沞き立぀䞖間を、綺譚蒐集者《アン゜ロゞスト》ルナ・ペルッツは、メむド兌埓者兌銭者の吞血鬌ズデンカず時代遅れの銬車に乗っお今日も埁く。

綺譚――

面癜い話、奇劙な話を圌女に提䟛した者は願いが䞀぀叶う、ずいう噂があった。

 ルナ・ペルッツは『綺譚蒐集者アン゜ロゞスト』だ。䞖界各地を巡っお、奇劙な話、面癜い話綺譚を集めお回っおいる。

 月ルナのごずくたんたるたるな顔にきらりず光るモノクル。長いマントず倖套の䞋に、改造したフロックコヌト。い぀もパむプを手に持っおいる。

 圌女には噂があった。

 玠晎らしい話を提䟛した者の願いを䞀぀だけ叶えおくれる。

――ずいう。

オルランド公囜南端ボッシュ――

 銖は町を芋おろすかたちで、倧きな教䌚の鐘楌にある颚芋鶏の尖端に突き刺されおいた。
 早朝の散歩で通りかかった商人が、真っ青になっお声を䞊げるず、い぀しか野次銬は集たっおきた。

 熟睡しおいた寺男は起こされおベッドから身をもたげ、鐘楌の屋根を䌝っお登る。銖は颚芋鶏からおろされた。

 少女の銖だった。呚りを囲む野次銬の䞭には嘔吐く者もあった。その瞳は県窩からくり抜かれお、代わりに蜘蛛の巣が匵られおいたのだ。䞭は虚ろだった。血は流れないほどに也いおいた。

 胎䜓は近くの玍屋の䞭に無造䜜に投げ出されおいた。藁の束の間から芋えるぐらいはっきりず。
 
 やがお少女はボッシュに䜏む靎屋オットヌの嚘マルタず分かった。䞉日前、家から応然ず姿を消したのだ。
 疑われたのはマルタの母リヌザだった。嚘の倱螪前からだが、い぀も倜になるずこっそり倖ぞ出おいたこずが確認されたからだ。

「日頃からマルタを打擲するこずが倚かったですからな」

 自宅の曞斎に坐り、肥満した巚䜓を揺すりながら町長は蚀った。傍では召䜿いの女が無蚀のたた火掻き棒で暖炉を匄っおいる。

 マルタにはあざがあった。それも、顔ではなく身䜓の服で隠れお芋えない郚分に幟぀も殎った痕が出来おいたのだ。マルタの遺䜓の損傷は酷く、生々しいミミズ腫れたで぀いおいた。

「頭もおかしくなっおいるずいう噂がありたす」

 町長の家の䞭たで䞊がり蟌んできおいた野次銬連は蚀った。

「党く蛇のような、業の深い女ですよ」

 町長は目を぀ぶり、手を組んだ。

「そうですか」

 皆を前にしお安楜怅子に坐ったルナ・ペルッツは蚀った。

 先日たたたたふらりず時代遅れな銬車に乗っおやっおきお、町を隒がせおいる事件に぀いお聞きたいず乞うたからここにいる。

「父芪はどんな方で」

 ルナは聞いた。

「オットヌは実に倧した男ですよ。あれぐらい芋事な靎を䜜れるや぀はいたせん。うちの町民はほずんどや぀の䜜ったものを穿いおいたす」

 町長は答えた。

「なるほど」

 ルナは薄く笑んだ。

「なぜあんな女を劻にしたのでしょう。瞁家からの玹介だずは思いたすが、それにしおもひどいもので」

「きちがい沙汰を口走っおいるのですからな」
 たた野次銬達が嘎を入れおきた。

「どのようなこずを」
「子䟛を産たせられお面倒を芋切れない、倫も構っおくれないず」
「それが倉なのですか」

 野次銬も町長も目を瞠った。

「子䟛の面倒は劻が芋るのが圓たり前でしょう。十人の子を立掟に育お䞊げた女もいる。他の女たちの手だっお借りられる。リヌザは人付き合いすらろくにできないから、䞀人で抱え蟌んだんです。で、それなら始末しおやろうず考えた蚳だ」
「浅たしく、おぞたしい発想ですな」

「しかし鐘楌の䞊など、簡単に登れるでしょうか」
「できないこずはないですよ。登りやすいように梯子は掛けたたただったのですし、誰にも気付かれないはずです。この町の人間はみな脳倩気ですからね」

 町長は自信たっぷりに蚀った。

「長閑な町で恐ろしい事件を起こすずは、リヌザのや぀め」
「じゃあリヌザさんに䌚わせお頂けたせんか」

 ルナは立ち䞊がった。

「高名なあなたさたに顔合わせするような者ではありたせんよ」

 町長は暖炉に圓たっお出た汗を拭きながら蚀った。

「わたしは䌚いたいんです」
「ではでは、今回のお話はいかがでしたでしょうか。あなたの蒐集には倀したしたでしょうか」

 揉み手しおすり寄っおくる町長。

「それも䌚っおからじゃないず分かりたせんね」
 
 䞀人歩き出すルナの埌ろに圱のように背の高いメむドが寄り添った。しかし、その圱はない。
 埓者兌銭者のズデンカだ。

「チッ、けったくその悪い奎らだな」

 ランプの明かりに浅黒いその肌が映し出された。それを町長の家の召䜿いたちは指差しお囁き合っおいた。

「ズデンカ、君は盞倉わらず口が悪いね」

 振り返るこずもなくルナは蚀った。

「リヌザっお女がどうなろうが知ったこっちゃねえが、あんなあからさたに眵られちゃな」
「頷けなくもないね。君もわたしも女だから。同じ性が眵られるのは誰だっお気分が良くない」
「そんだけの問題じゃないだろ。あい぀ら人に察する敬意が完党に欠けおいる」

 ズデンカはひどく䞍機嫌だった。

「はなから人ずは思っおないのだろうさ」
 
 ルナは朚補のパむプに火を付けた。そのラむタヌが闇の䞭でたた光った。

「ルナも物奜きだな」
「わたしは知りたいだけだよ、綺譚《おはなし》をね」
「はいはい」

 そんな話をしながら二人は牢屋の前に蟿り぀いた。

 カビの臭いが錻を刺す。町の連䞭が語っおいた通り、あたり犯眪者がでない町なのか、長く䜿われおいる様子はない。
 鉄栌子の向こうでは、錆びた鎖に瞛られお、髪を振り乱した女が顔を䌏せおいた。

「話を聞かせお欲しいのです」

 ルナは話しかけた。

「そう蚀われお、いきなり話すや぀はいないさ」

 ズデンカは皮肉っぜく笑った。

「わたしは殺したのかも知れたせん」

 女の声はか现かった。しかしルナずズデンカにははっきり聞こえた。他に音がしなかったせいだろうか。

「どういうこずでしょう」
「わたしはマルタを育おられなかった。だから殺したのかも知れたせん」
「では、あなたは鐘楌に昇ったんですか」
 
 女は答えなかった。

「話になんねえな、やっぱどっかおかしいんだろう」

 ズデンカは人を芋切るのが早い。

「あなたは倜、家を出おいたず蚀われおいたすが、それはなぜなのです」
 
 パむプに煙草が足される。ルナのモノクルが光った。

「蜘蛛に導かれお、倜の奥から」
「はぁ 詩なんか吐かれおも蚳わかんねえよ」

 ズデンカは身を乗り出しおいた。

「なんだ。君も興味持ったのか」

 ルナはほくそ笑んだ。

「いや、あたしは劙な蚀葉遣いが気になっただけだが」
「嘘蚀っちゃっお。こい぀、ポ゚ムを曞くのが趣味でしおね。詩的な衚珟には反応が早ヌい」

 ルナがおどけた。

「蚀うな、殺すぞ」

 ズデンカは軜くルナの胞倉を掎んだ。

「倧䞈倫。聞いおないようだよ」

 女の頭䞊高くに開かれた栌子付きの窓から、月光が溢れ出しおいた。それで赀毛の髪が掛かった顔がはっきり照らされたので分かったのだが、う぀ろな目でルナずズデンカを芋おいるのだった。

「蜘蛛ずいえば、マルタさんの県窩にかかっおいたのも蜘蛛の巣だったよね」

 ルナは顎先に手をやった。

「じゃあ、やったのはやっぱりリヌザか」
「即断するのはよくない。もっず話を聞いおみよう。マルタさんがいなくなる前の倜を芚えおいたすか」
「どうせ、答えねえだろうさ」

 だが返事はあった。

「母芪なんおならなければよかった」

 小声で、リヌザは挏らした。

「どういうこずだよ」

 ズデンカは舌打ちした。

「子䟛なんお産みたくなかった。面倒がみきれないんです。わたしは母芪に向いおいなかったんです。それ以倖道がなくお。芪に蚀われるたたに埓っお」

「もっず詳しく話せ」
「わたしはおかしいっお蚀われたす。䞖間の母芪はみんなできおあたり前だっお。わたしだけができないんです。家のこずも出来ないんです。井戞から氎を汲み出すのがしんどくお、雑巟は氎浞しにしたたたで  ちゃんず掃陀ができないんです。それで、い぀しか蜘蛛が  」

 リヌザはぶ぀ぶ぀ず呟いた。

「蚳わかんねえよ」
「旅をしおいるわれわれは分からないかもね。でも、同じ堎所でずっず暮らす生掻を送る人にずっおは 身の回りをずっず敎え続けるのは悪倢じゃないのかい」
「旅の面倒事だっお盞圓だぞ。お前は䜕もやっおねえから知らねえだろうがな、ゎミ捚お、銬車の掃陀やらベッドメむクやら党郚やっおるのはあたしで」

 ルナはズデンカを遮った。

「マルタさんを殎っおいたのは本圓ですね」 
「奜きになろうっお努力はしたした。でも、なんで泣きわめくの、蚀うこずを聞かないのっお。勝手に走り出すんです。どこでも挏らしおしたうし  ぜんぶ、わたしのせいじゃないのに」
「蜘蛛に぀いお話しお頂けたすか」

 ルナは本題に入った。

「わたしが嘆いおいたら、毎日泣いおいたら、倩井の隅に匵った巣の䞭にいた蜘蛛が話し掛けおくれたんです。苊しく、蟛いこずがあるだろう、それなら倖に出おみるのもいいっお」

 ズデンカは額を抑えた。

「あちゃヌ、こりゃよくあるや぀だわヌ。自分がやったこずを他の䜕かのせいにしお誀魔化しおるのさ」
「倜の奥からっおのも気になりたすね。そういえば、リヌザさんは倜になるず家を空けおいた。それは他の人の蚌蚀からもはっきりしおいたす。䜕か繋がりがあるんでしょうか」
「糞が、蜘蛛の糞がわたしを導いたのです。颚に震えるこずもなく蜘蛛の糞が䞀筋にドアの隙間から匕いお、䌞びおいきたした。わたしはそれを远っお倖に走り出たんです」

「なるほど。毎日毎倜ですか」
「はい。歩けるだけ歩きたした。足が進むたたに。倜のひっそりしお誰もいない街を歩けお、わたしは幞せでした。昌は買い物にしか行けないし、皆の目で射貫かれおしたうから」
「結局、どこたでいったんですか」
「あの子――マルタの芋぀かった鐘楌にです」

「わかりたした。それにしおも。あなたを導いたのはなんで蜘蛛なんでしょうね」
「小さい頃から昆虫に興味があっお、昆虫なのに昆虫でない蜘蛛が䞀番奜きだったんです。母芪じゃない人生があったら、昆虫孊者になりたかった。孊歎も䜕もないっおみんなから笑われたけど。だから、郚屋の䞭にきた蜘蛛には、最初から関心を持っおいたした」

 ルナは煙を吹かした。

「ありがずうございたす。蚊きたいこずは蚊けたした」
「これでいいのかよ」

 ズデンカはちんぷんかんぷんずいったように銖を傟げおいた。

「実に面癜い綺譚おはなしが聞けたよ。わたしは満足だね」
「事件が解決しおねえじゃねえか」
「わたしは探偵じゃないよ。さあ、郚屋に戻るずしよう」

 ルナは歩き出した。ズデンカはすぐ埌ろに続いた。

「いや、こっちはおさたらねえぜ」
「君が興味があるんだったら、明日はリヌザの倫に聞いおみるずしよう」
「そりゃそうだ。決着のない話があっおたたるもんか」
「決着が぀かないお話の方が面癜いんだよ。人生だっおそんなもんだろ」

 ルナは笑った。

「たた、ずがける」
「さお、今倜のベッドメむクは寝心地良くやっおくれるのだろうね」
「お前  」

 ズデンカは呆れた。

 
「はい、リヌザはだんだんおかしくなっおいきたした。それは町長さんも蚀ったずおりです」

 蚀葉少なながら、朚蚥に靎屋は答えた。

「ここ䞀週間ばかり、ろくに食事も䜜らなくなっお」
「リヌザの飯はい぀もたずいですよ」

 居合わせた野次銬たちが蚀った。

「ほう。オットヌさんの家で、他の人が食事するこずがあったんですね」
「評刀の良い靎屋ですよ。人を招いお食事するこずなんおしょっちゅうです。町長さんだっお来おたしたさ」
「党郚リヌザさんが䜜っおいたのですか」

 ず蚊くルナ。
 ズデンカは目を぀ぶり腕を組んでいた。昚日の話を思い返すかのように。

「圓たり前でしょう。食事は劻が䜜るものず決たっおたすからね。わたしらだっお家で持おなすずきは女房がちゃんず甚意したすさ」
「偉人に毎日料理を䜜っおいた人の名前は歎史には残らない。でも、それはなくおはならない行いのはずでは」
「わたしら男は単玔ですからね。料理なんざ现やかなこずは女の専売特蚱なんでさあ」

 野次銬たちは笑った。

「なるほど。じゃあマルタさんはどんな方だったんですか」

 ルナはめんどくさそうだった。

「マルタは母芪に䌌お倧人しい嚘でした」

 オットヌは答えた。

「リヌザさんに虐埅されおいるっおご存じでしたか」

 オットヌはしばらく呆気にずられた顔をした。 

「䜕か二人の間であったずは知っおいたした。ですが、そこたで詳しく知りたせんでした。今初めお蚊かされたしたほどで」

「ぞえ、ずいぶん他人事なんですね」
「オットヌは本圓に腕の良い職人なんです。こい぀なしでは町がやっおいけたせん。ペルッツさたが偉倧な方だずは重々存じ䞊げおいたすが、負担を掛けるようなこずは蚀わないでやっおくれたせんか」

 ず、蚀うようなこずを代わる代わる野次銬連䞭が叫んだ。

「そうですか。ほんずうにオットヌさんは物静かな方だ」

 明らかに皮肉を蟌めおルナは蚀った。

「職人ずはそういうものですよ。喋るなんお野暮です。仕事さえちゃんずすればいいんだ」

 野次銬たちは䜕ずしおもオットヌを守るようだ。

「でも、リヌザさんずの間ではどうだったんです。わたしは知りたせんが倫婊はもっず䌚話をしおいるものでは」
「いえ、結婚以来、俺ずリヌザが話をするこずは  あたりありたせんでした」

 オットヌはそれだけ答えお黙った。

 「なるほど」

 ルナのモノクルが光った。

 「マルタもね、母芪をどこか恐がっおいたんですよ」

 町長は蚀い匵った。

「やけにマルタさんのこずをご存じなんですね」
「お聞きではありたせんでしたか、家に䜕床か行ったのでね。あんな、䞍気味な女ず暮らしおいたら、そりゃどこかおかしくなりたすよ。オットヌもさっさず離瞁しお家から出しおいれば、あんなこずにならずに枈んだんだ」
「䞀床二人の家に䌺わせお頂いおもよろしいですか」
 「䜕も芋぀からないず思いたすけどね」

 町長は溜息を吐いた。

 家は事件以埌閉めきられおいた。貰った合い鍵を䜿っおズデンカが開けた。ルナの手はしっかりカンテラを提げおいた。

「こんな扉、ぶっ壊しおもいいんだが」
「賠償請求されるよ」
「別にかたわねえさ、払うのはお前だからな」
「さお、『圌女』を探すずしようか」

 盞倉わらずズデンカは無芖しおルナは家の䞭を芋お回った。
 靎を䜜る工具が眮かれおいる郚屋ず食卓のある居間は劃然ず仕切られおいる。釘抜きやワニず呌ばれる捩れた魚のようなペンチが、綺麗に䞊べられおいた。

「なるほど、自分の仕事の堎所にはいっさい劻を立ち入れさせなかった蚳だな」
「おい、探偵になっおるぞ」

 ズデンカがルナの袖を突いた。

「いや、そうでもないよ」

 ルナは郚屋の隅を指差した。きらりず现く光るものが――蜘蛛の巣がそこにはかかっおいた。

「おう、これがリヌザの劄想の原因かよ」
「劄想ずは限らないよ。綺譚おはなしっおそんなものだからね」
「答えになっおねえヌ」

 ズデンカはわめいた。

「やあ、初めたしお」

 突劂、䞀揖するルナをびっくりしお芋぀めたズデンカだったが、やがお巣に背䞭が赀く、足が现長い蜘蛛がいるこずに気付いた。

「蜘蛛はただそこにいたんだな」
「『圌女』は知っおいるよ。誰がマルタさんを殺したかね」
「雌なのか 虫に答えられる蚳ねえだろ」
「虫じゃないのだけどね。声を聞けるよ、リヌザさんなら」

 ルナは郚屋を芋回した。

「おや」

 カンテラを近くのテヌブルの䞊に眮き、本棚ぞず歩いおいく。

「リヌザさんは字が読めたんだね。そういえば昆虫に興味があったっお蚀っおたな」

 ルナは䜕冊か取り出しおペヌゞをぺらぺらめくった。

「子䟛向けの絵本もあるぜ」

 ズデンカがルナの肩越しに銖を突っ蟌んだ。

「リヌザさんなりにマルタさんず觊れあおうずしおいたんだよ」
「殎るような芪だぞ」
「問題はそこさ」
「なんだよ」
「わたしは探偵じゃないんでね」
「拗ねたのか」

 ズデンカは錻で笑った。

「そんなんじゃないよ。あった」

 絵本の真ん䞭に畳んだ玙がおさたっおいた。ルナはそれを玠早く懐に隠した。

「なんだよそれは」
「埌のお楜しみさ」

 ルナはりむンクした。

 
 郚屋の䞭には灯りが点されおいおすっかり明るくなっおいた。
 圹人に拘束されたリヌザず町長、野次銬たちにオットヌが入っおきた。

 みな神劙な顔でルナを取り囲んでいる。
 ルナがこの家に集たるよう指図をしたのだった。

「どうやら謎解きを期埅しおいるようですね。でも、わたしは探偵じゃありたせん。代わりにこちらの『圌女』に語っおもらうずしたしょう」

 ルナの掌が差し出された。その䞊には暙本瓶に閉じ蟌められた蜘蛛が動いおいた。

「やっぱ根に持っおるな。蚀い出したのはお前だろうがよ」

 ズデンカは呟いた。

 瓶の蓋が倖される。蜘蛛が這い出おきた。

「そんな蜘蛛、どこにだっおいるでしょう。䜕が目新しいんです」

 町長が錻を鳎らした。

「よくご芧になっおください」

 ルナはラむタヌでパむプに火を点した。途端にい぀もずは違う量の煙がむくむくず郚屋の䞭に満ち広がっおいく。

「なんだこれは、呚りが芋えんぞ」

 野次銬たちが口々に叫んだ。

「『幻解゚ントトむシュング』したな」

 ズデンカはぜ぀りず口にした。

「わたしには、ひず぀奇劙な力がありたしおね」 

 煙に芆われる䞭で、ルナのモノクルだけが鋭く光っおいた。

「人の芋た幻想をあらわにするこずができるのです」
「だからどうした」

 野次銬たちは怒りを抑えきれなくなっおきたようだった。

 煙は次第に晎れおいく。 
 すっず、幟぀もの光が郚屋䞭に乱反射しおいった。それが匵り巡らされた蜘蛛の糞だず分かるたで時間は掛からなかった。

 蜘蛛は糞を静かに這い進み、リヌザの元ぞ蟿っおいった。
 圹人たちもしばらく呆気にずられおいたものず芋え、リヌザから手を離した。

「蜘蛛さん」

 リヌザはぜ぀りず挏らした。
 自分から歩み寄っお、指先で蜘蛛の背を撫でた。頬は涙で濡れおいた。

「来おくれたんだね、倜の奥から」
「わたしはただ、あなたにこの郚屋から出お欲しかった」

 声が聞こえた。倚少くぐもっおいはしたが、蜘蛛が喋っおいるのが分かった。

「面劖な 取り抌さえろ」

 町長は怒り狂っお叫んだ。我に返った圹人たちがリヌザを匕き離す。

「リヌザもリヌザだ。お前は人の芪なんだぞ。蜘蛛さんだずか、子䟛みたいなこずを口走っおどうなる」

 ズデンカは無蚀のたた拳を握り締めお震えおいた。
 ルナはその手を軜く抌さえた。

 「たあ埅っお。君は蚀葉ずは裏腹だね。あんなにリヌザさんを悪く蚀っおたのに」 
 「そんなんじゃねえよ」

 それには答えず、ルナは蜘蛛ぞ話し掛けた。

 「蜘蛛さん、この郚屋で䜕が行われたかご存じですね」
 「この郚屋でマルタは虐埅された。そしお殺された、町長に」
 「だ、そうですよ。町長さん」

 ルナは笑っおいた。

 顔を真っ赀にしお身を震わせる町長を前に、野次銬たちが口々に叫んだ。

 「町長はボッシュの抵抗の英雄なんだぞ 腹話術か知らんが、䜕おこずを蚀うんだこの女は 名高い人だず聞いたからご客人ずしお扱っおやったが、もう我慢ならん」

 「お前のやっおいるこずは名誉棄損だぞ 分かっおいるのか」

 町長はやっず怒鳎り声をあげた。

 「マルタのあざはリヌザが付けたものだけではなかった。虐埅を知っおいた町長はそれを利甚しおマルタを嬲った」

 蜘蛛は粛々ず事実を告げる。

「町長はマルタが吐いおも殎り続けた。オットヌは顔を背けおそれを芋なかった」

 オットヌは陰鬱な衚情を浮かべたたた黙りこくっおいた。

「毎倜毎倜犯され続け、靎䜜りの商売道具でマルタは殺された。目を抉り抜かれお、䞉日玍屋の䞭ぞ。その埌に  」

 蜘蛛は黙った。

「それじゃあ、マルタさんの県窩に蜘蛛の巣がかかっおいたのはどうしおですか」

 ルナは蚊いた。

「わたしはあの鐘楌に悪い気が集たっおいるず知っおいた。リヌザに知っお貰いたかったのだ。だが、それがマルタのこずだずは分からなかった。だから、マルタが殺されたずき、わたしは䞀倜かけお鐘楌を登った。小さな身䜓で、時間は掛かったがマルタの元ぞず蟿り着いた。小さくお䜕も出来ないわたしは、その開いた目を閉じおやろうず、糞で芆ったのだ。それすら、朝がくるたで満足に出来なかった。明るくなればわたしは去らないずいけない」

 オットヌがいきなり立ち䞊がった。頭を抑えお叫んだ。

「その通りだ 俺は蚀えなかった。神すら蚱さぬこずを。俺の嚘に 俺は蚀えなかった 仕事がなくなるのが怖かったからだ」
「䜕を蚀うオットヌ お前は疲れおいるんだ。萜ち着け」

 焊っお泡を吹く町長。有り䜙った莅肉が服ごずたぷたぷず動いおいた。
 ルナは平然ずしおいた。 

「わっ、わしはやっおいない。やったのはリヌザだ」
「幟ら問い質しおも、こればっかりでしょうね。あくたでわたしは探偵ではないので」

 ルナはたた煙を吐いた。

 「䜕をやったかはやった『物』に蚊いおみたしょう」

 ず、オットヌの仕事郚屋ぞ歩いおいった。

「おやおや、䞍思議ですね。オットヌさんはリヌザさんには自分の仕事郚屋に䞀ミリたりずも立ち入らせなかったのに、目䞊の町長さん各䜍には平気で䜿わせたんですねヌ」

 靎䜜りの道具ぞ煙を吹きかけながらルナは蚀った。

「さお、䜕が行われたんでしょうね。楜しみだなぁ」

 やがお、ふわりず金槌が宙に浮かび䞊がった。町長の顔先ぞず勢いよく飛んでいき、したたか殎り付けた。

 声にならない叫びを䞊げお、町長の巚䜓は地面にひっくり返った。
 金槌は凄い勢いで䜕床も打ち䞋ろされた。骚が砕ける鋭い音が響く。

 「町長さんに䜕をするんだ」

 野次銬たちや圹人は顔を真っ赀にしおルナに詰め寄せおきた。
 その前にズデンカが立ち塞がる。

「退けろ、メむド颚情が」

 ズデンカを抌しのけようずする男たちだったが、

「いででででででっ」

 その䞀人がぞし折られるぐらい匷く腕を掎たれお声を䞊げた。

「あぁ 死におぇのかぁ なら䞀人づ぀血をすすっおやるよ」

 ズデンカは牙を鋭く䌞ばし、赀い舌をなめずらせおいた。

「あ、蚀い忘れおた。ズデンカは吞血鬌なんで。よろしく」

 立ちすくむ野次銬たち。

 リヌザは目を芆っおいた。

その間、町長は金槌でがこがこにされおいた。服は匕きちぎられ、肥満した肉が爛れお芋えおいた。 

「金槌はきっちりマルタさんを殎った回数だけ反埩しおいるからね」

 軜やかな曲線を描いお釘抜きが舞い、町長の股間ぞず突きたおられた。

「ぎょ、ぎょええヌ」

 涙ず涎を垂らしながら、ぶざたに犬のように腕を動かしお町長は叫んだ。

「あヌ朰れたんだ。この堎合、盞手にどんなこずをやったのかな」

 ずうずう、ワニが目芚めた。工具の尖端に目玉がぎょろりず開き、郚屋の䞭を
芋枡した。 ゆるゆるず宙ぞず浮かび、町長目指しおすっ飛んでいった。

「やめおくれえっ、やめおくれっ、それだけは」

 釘抜きを突き立おられたたた、町長は惚めに繰り返した。容赊もなくワニはその県球ぞずかぶり぀いた。えぐり出す。
 もう䞀匹が珟れた。たたえぐり出す。

 町長の県球を咥えお、勝ち誇ったようにワニたちは螊り狂った。

 オットヌはそれをたばたきもせずに芋぀めおいた。

 野次銬たちもポカンず口を開くばかりだ。

「さお、どうするのかな」

 ルナは蜘蛛ぞ蚀った。

 小さかった蜘蛛は、町長ぞず向かっおいった。糞はそこたで䌞びおいたのだ。蜘蛛は次第にその姿を倧きくしおいく。

 光をなくした町長は、蜘蛛の姿を確かめるこずが出来ない。ただ、身を打ち悶え、くねらせながら芋虫のように床を這いずるだけだ。
 蜘蛛は䞀息にその銖をねじ切った。そしお、それを抱えたたた郚屋の扉から走り出お行った。

 「蜘蛛さん、蜘蛛さん」

 いきなり叫んで、リヌザは埌を远っお走り出した。
 怖じ気づいた圹人たちは远っおいかない。

 「行こうか」

 ルナはズデンカに声をかけた。
ズデンカは他の連䞭を牜制しながら埌ろ向きに歩き、ルナぞ埓った。

 蜘蛛は倜の䞭を駆けた。ルナずズデンカはカンテラを持っお続いた。
 鐘楌に足を掛け、登っおいく蜘蛛。
 わずかに残っおいた町の人々は巚倧な蜘蛛を指差した。

 蜘蛛は颚芋鶏の尖端ぞ至り、町長の銖をその䞊に突き刺した。
 そしおゆっくりず地面にいたり、匕き返しおきた。

 「蜘蛛さん」

 血で汚れた蜘蛛を、リヌザは抱き締めおいた。
 ルナはゆっくり二人の元ぞ近付いおいった。

「残念だけど、この綺譚は収集させお貰うよ。この䞖に長くいおはいけないものだ」

 ルナは懐から叀びた手垳を取り出した。そしお鎉の矜ペンをペヌゞぞあおた。
 蜘蛛の身䜓が少しづ぀、黒い砂のように厩れおいった。それが矜ペンの先ぞず集たっおいった。それをむンク代わりにルナはさらさらず早い筆臎で曞き付けた。

「いやだ、離れたくない」

 リヌザは涙をこがしおいた。

「なぜリヌザはここたで蜘蛛にこだわる」

 ズデンカは怪蚝そうだった。

 「誰からも蔑たれお、その䞭で自分を守ろうずしおくれた存圚さ。それがたずえ人ではなくずもね。でもね、リヌザさん、あなたを思っおくれおいたのは蜘蛛だけではないですよ。はい、これを」

 絵本の䞭に挟たれおあった玙が広げられた。

「䜕だこりゃ」

 ズデンカは驚いた。そこには䜕か二぀の人のようなものを描いた䞋手な絵が描かれおいたからだ。

「マルタ」

 リヌザは気付いたようだった。ルナの手からその玙をひったくるず、抱き締めた。愛おしむかのように。

「この町ずいう狭い䞖間から芋れば、リヌザさんは母芪ずしおは倱栌だったかも知れない。でも、マルタさんは父ではなく母を描いた。これは実に興味深いこずだず思わないかい」

 ルナはズデンカに目配せを送った。

「そういうこずか」

 ズデンカは項垂れた。その瞳は少し最んでいた。

「もらい泣きか。実に君らしいな」
「んなもんじゃねえよ」

 ルナはリヌザぞ近づいた。

「さお、リヌザさん。わたしはあなたの願いを䞀぀だけ叶えるこずができたす。ず蚀っおも、呜に関わるものはなしです。倱われた呜は垰りたせん。わたしにできる範囲はごく少ない。さあ、䜕を望みたすか」

 リヌザはルナの耳元ぞ身を寄せお、䜕事か呟いた。

「わかりたした。それじゃあ倱瀌ながら」

 ず蚀っお、ルナはリヌザの頭にさっず手をやった。
 ずたんにリヌザは眠りに萜ちた。
 パむプからたた煙が流れる。それが街䞭ぞず広がった。

「さ、この町ずはもうおさらばだ。長居しおも良いこずはなさそうだからね」

 ルナはそう蚀っお先ぞすたすたず歩き出した。

「䜕をやったんだ」
「単玔なこずだよ。リヌザさんはマルタさんや自分が母芪だった蚘憶を忘れる。たた、町の人たちもリヌザさんを忘れる。䞖間はもうやもめのオットヌさんの嚘が町長によっお殺され、䜕者かが報埩ずしお殺害したず認識しおいるよ。容疑者ずしお䞀番疑われるのはオットヌさんだけど、圌はその濡れ衣を甘んじお着るだろう。リヌザさんは呚りのしがらみから解き攟たれお、晎れお倩涯孀独の身になる」
「なんでマルタを忘れさせるんだよ」

 ズデンカは食っおかかった。

「むごたらしく殺された嚘の思い出は、圌女の心を蝕むのだろう。自分のせいでず思っおしたっお。それぐらいは想像を働かせなきゃね」
「そりゃ   だがなぁ」

 ズデンカは口ごもった。

「昆虫を調べたいんだそうだ。そしお、い぀かあの蜘蛛ず同じ皮類のものを芋付けたいらしい」 
「そこたで  」
「しがらみの䞭で生きるより時には孀独が幞せなこずもある。もちろん、䞊手く生きおいけるかは別だけど」

「んな、無責任な」
「無責任になるしかないよ。人は誰でも他人の人生の傍芳者さ」
「けっ、うたいこず蚀いやがるぜ」
「リヌザさんが事件に関わったのを知るのは我々だけだ。遠からず我々の消滅で闇に葬られる。もっずも、君のそれはだいぶ埌になるだろうけど。でも、口倖しないよね」
「しねえよ。぀ヌか瞁起でもないこず蚀うな」

 ルナは悪戯っぜく舌を芋せた。

「ずころで、さっき町長の家でくすねおきたんだが」

 ず蚀っおズデンカは懐から䞀冊の本を取りだした。そこには犍々しいばかりの金文字で『鐘楌の悪魔』ず蚘されおいた。著者の名前はない。

 途端にルナは深刻な顔぀きになり、それを手に取った。

「前に䜕床か芋たぞ。おかなこずをしでかした奎の家にはみんなこの本があった。䜕か関係があるんじゃねえか しかも鐘楌だ。むカレおるずしおも、なんであんな目立぀ようなこずをする」

 躊躇わずルナはラむタヌをその本ぞ点した。

「内容はもう知っおる。もっずもわたしが読んだものず町長の読んだものが同じっお保蚌はないけどね。他の人が読んだら倧倉だ」

 瞬く間に炎は燃え䞊がり、本は真っ黒焊げに倉わっお颚の䞭ぞ四散しおいった。

「しけた幻想に報いあれ、さ」

 舞い䞊がる焊げを芋䞊げながらルナは蚀った。

「本を焌くものはみずからもたた焌かれる――そう蚀ったのは誰だったっけな」

 ズデンカは意地悪く蚀った。

「匕甚間違えおるよ。たあいい。焌かれお終わるのは最初から分かっおる」

 ルナは笑った。

「たた、瞁起でもねえこずを」

 ズデンカは䞡手を振り䞊げお怒鳎った。

「君がたいた皮だろ」

 蚀い合う二人を照らす月光は、鐘楌の颚芋鶏の䞊で目を抉られ、口を開けおたぬけ面を浮かべた町長の銖にも惜しみなく振り泚がれおいた。

オルランド公囜南端゚ンヒェンブルグ――

「おい、ルナ」

 シャワヌ宀の磚りガラスが嵌められた扉をノックする音。
 䜕床も繰り返されるが返事はない。

 激しく扉が蹎砎られ、ズデンカは䞭ぞ躍り蟌む。

「こりゃ、たた匁償だな。っお、おい、ルナ」

 ルナが突っ立ったたた青い顔になっお、倩井に蚭眮された鉄の管に開いた穎から流れるシャワヌの滎りを芋぀めおいた。

「いきなりどうした 固たっお」

 撒かれる氎に打たれるたた、ルナは返事がなかった。目はう぀ろになっおいた。傍目からわかるほど震え、怯えおいるこずが分かった。

「あ  君か」
「䜕が『あ』だ どうしたんだよ。氎、冷たいんじゃないのか」

 ズデンカは氎滎を手で受けたが、その肌は熱さや冷たさを感じ取るこずができない。ただ、ルナの唇の色ず党身が震えおいるこずから刀断したたでだ。

 急いで蛇口を捻り、氎の流出を止める。

「お前ら生身の人間は  颚  邪匕いちたうだろ。肺炎、だったか になったらどうする」

 ず蚀いながら掛けおあったタオルでルナをくるみ、倖ぞず連れ出した。

「せっかく蚭備の敎っおいるホテルにしたのに、こんなざたじゃ元が取れねえ。さあ、暖炉に圓たれ」

 ズデンカはタオルを足しおルナをグルグル巻きにした。

 ルナはなかなか答えなかった。ズデンカは䞍安になり、あたりを芋回した。

 ルナず䞀幎近く旅をしおいるズデンカだったが、い぀も匷気なルナがこんな状態になったこずは初めおだった。たあ、ズデンカにずっお䞀幎などあっずいう間だが。

「やっぱり、颚邪を匕いたのかも知れないな」

「そんなんじゃないよ」

 タオルにくるたったルナが答えた。その声は匱々しかった。

「䜕かあったんだろ 教えろ」

 髪を綺麗に拭いおやりながらズデンカは蚊いた。

「倧したこずじゃない」
「じゃない、じゃないっお、そればっかだな」

 ズデンカの声はわずかに最んでいた。

「涙もろいな、君は」

 軜口を叩ける皋床は䜙裕が戻っおきたのか、ルナは蚀った。

「過去に䜕かあったんだろ」

 ズデンカはぜ぀りず蚀った。

「蚀いたくないんだ」
「あたしにもか」
「君は、わたしの䜕だっけ」

 珍しくルナは顔を䌏せおいた。

「さあ、なんだろうな。家族でも友達でもない。ただ旅しおる盞手だ」
「なら、蚀う矩理はない」

 ルナは匷情だった。

「蚀わないならいい」

 ズデンカは黙った。二人はしばらくの間黙っおいた。

「  抱きしめお」

「は」

 ズデンカは驚いおルナに振り返った。いきなり䜕を蚀い出すのだず思ったからだ。

「二床は蚀わない」

 ズデンカは無蚀でルナに近づき、䞡腕を広げおタオルごず芆った。

「これで  いいのか」
「ありがず」
「怖かったんだろ」

「ちょっずね」
「ちょっず、じゃねえだろ」
「うん」
「やっぱり」

 ズデンカの長いりェヌブする黒髪はルナの顔をすっかり隠しおいた。

「息苊しい」
「そうか」

 ズデンカは退けなかった。

「もういいだろ。ちょっずやっお貰いたかっただけなんだ」
「いや、ルナはもっずこうしたがっおる」
「そんなこず  」

「あたしには蚀えないけど、昔怖いこずあったのを思い出したんだろ。抱きしめおもらいたいんだろ、なら、そうしおやるよ」
「  」

 ルナは䜕も蚀わなかった。

「お前の蚀う通り、人は誰もが他人の人生の傍芳者だ。あたしは人なのかも分からないけどな。お前のこずは䜕もわかんねえよ。でも苊しいなら、あたしがこうしおおいおやろう」

 ルナは黙っお俯いたたたでいた。
 䜕も蚀わないたた二人はそうやっお過ごした。ずきおりズデンカは、

「寒くないか」

 ずルナの耳元で囁く。

「むしろ暑いぐらいだ。バスロヌブが欲しい」
「あたしが着換えさせおやるよ」
「いい。自分でする」

 だが、なかなかズデンカはルナを離そうずしなかった。

「ただ身䜓が凍えおる」
「  」

 沈黙が続いた。ズデンカはい぀しかルナが寝息を立おおいるこずに気付いた。
 名残惜しく身を離し、自分のベッドにあったものも剥ぎ取り二重にした毛垃を掛ける。

「明日は軍事パレヌドか。たったく金ばかりかけやがる」

 暖炉の炎を芋぀めながらその熱さを感じ取るこずの出来ないズデンカは、皮肉屋のルナならパレヌドで雇甚が発生するなら埡の字じゃないか、ず蚀うだろうず思った。

#創䜜倧賞2025 #ファンタゞヌ小説郚門








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