日給千円の生活
落語家の世界は日給1000円からスタートする。
時給ではない。
日給である。
寄席には出ない協会は別として、基本的には寄席で前座修行をするわけだが、その寄席の昼席もしくは夜席に出て、5時間くらい下働きをして日給が1000円。
年季によってそれが1200円に、それが1400円にとどんどんアップしていくのだ。
1200円にアップした時は、
「俺も1200円かあ…」
なんてことを思うわけであるが、
って、どんな世界だよ!!
ふと、我にかえるとそう思っていた。もちろん、これだけでは生活できないので、はじめのうちは師匠の鞄持ちをして、いくらかもらったり、もう少し年季が上がれば、他の師匠方から仕事をもらい、その師匠の落語会で下働きや高座に上がって落語をするのだ。それで生活できるのだ。
師弟制度のこの世界は、別に弟子入り志願の募集などしていない。勝手に師匠にお願いをして、「大変だよ、やめときな。」なんてことを言われながら、通いつめて弟子入りするわけである。
だから、普通の社会ではあり得ないことも、この世界では当たり前なんてのは、多々あることなのだ。
でも、なんとなあく生活はできるのだ。
とはいえ、はじめの半年は大変であった。
日給1000円と時折師匠からもらうお金で生活する。
一体どうしていたのか。
思い出してみると、僕の場合入る前に多少バイトしていたので、いくらか貯金があった。
そして家賃。もともと4万円だったのだが(これでも相当都内では安い方)、これじゃあ後々大変になると思い、引っ越しをすることに。
ところが大家さんに、
「落語家になります。これからいろいろと修行がはじまって食っていくのも大変なんで別のところに引っ越します!」
と伝えると、
「あんちゃん、3万5千円でどうだい?
家賃特別に下げるよ。」
と言われた。
びっくりである。
家賃を安くしてくれると言うのだ。
だが、僕はここで攻めた。
「いや〜でも3万5千円でも厳しいので」
そう伝えると、
「じゃあ3万円でどうだい。」
「よろしくお願いします!」
そんなこんなで家賃が3万円に。
寄席で昼飯なり夕飯はどうしているのかというと、師匠方から、いくらかいただいたお金を使って食べていた。下っ端が上の先輩になに買ってきますか?と聞いて、買ってくる。だが、10日間もあると、そのお金も底を尽きてくることもある。
そうなると、その日一番先輩の前座が昼飯を出すのだが、僕らの時代は前座が異常に多く楽屋に溢れかえっていた。だから全員分の昼飯と言ったって大変である。
昼飯、うまい棒2本。
そんな時もあった。
こうなると、安いお金でどれだけ満たすかという考えになってくる。少ないお金。多い人数。
下っ端が上の人に何買ってきますか?と聞かれれば、
「センスで。」
という、一番嫌な答えが返ってくる。
とある先輩が買ってきたのだが、食パンに、スーパーの安いコロッケ。そしてソース。各々がコロッケパンを作るやり方である。
これは前座仲間にうけがよかった。
「そうか、コロッケパンを自分でつくるとこんなに安いんだな。」
「いや〜、いいアイディアだな」
「コロッケパンうめえな!」
そんな中入りたての僕はこう思った。
やな世界だな!!
平成の最後にコロッケパンをむさぼる若者たち。
一応、それも青春であったのかもしれない。
そんなこんなで、なんだかよく分からないながらも生活をしていた。
