世界の果ての少しだけ向こうへ
ふたりがたどり着いたのは、
どこまでも続く砂の海だった。
時おり強い潮風が吹き抜け、長い髪をさらっていく。
渦をまくように舞い上がる砂嵐は、
まるでふたりの歩みを静かに押し戻そうとするかのようだった。
ノノはそっと手をかざし、
砂嵐から目を伏せた。
「お姉ちゃん。
……世界はここまでなの?」
空はいつも通りに見えるのに、
いつの間にか視界から街が消えていた。
岩場の先に広がるのは、果てしなく続く水だけの世界。
もうこれ以上──
進むことはできない。
「……果てまで来ちゃったわね」
ウサギが隣に並ぶ。
ふたりの間をまたひとつ、
強い風が吹き抜けた。

「……先へは行けないの?」
ノノは右手を顔の前にかざし、
遠くを見つめている。
「……別世界だからね」
ウサギはそっと続ける。
「海の中は、
息ができないんだって」
それに……
「信じられないくらい深いらしいわよ。
立っていられないぐらいね」
「……そうなのね」
まるで何かに導かれるかのように、
ノノは波打ち際へ近づいていく。
「あっ」
小さな貝を不思議そうに拾い上げ、
くるりと振り向いた。
「……誰かがいるみたい」
白い貝殻は、
夏の光を受けて小さく輝いていた。
「それはただのぬけがら。
もう、過去の命よ」
それでも──
ノノは貝殻をそっと耳にあてた。
遠い誰かの言葉が聞こえた気がした。
「……でもね」
ウサギがふいに言葉をこぼす。
「先へ進む方法も、なくはないのよ」
「……どういうこと?」
「ひとつだけ、裏技があるの」
遠くで白い汽笛が鳴った。

小さく波に揺れる甲板の上を、
ゆるい風が通り抜けていく。
「……快適ね」
ノノはデッキチェアから身を起こし、
サングラスを外すと、眩しそうに手をかざした。視界の向こうは、見渡す限り広がる、空の色より深い青。
世界の果てを置き去りにして、
白い船は迷うことなく進んでいく。
「……悪くないでしょ?」
ウサギはストローをくるりと回した。
潮風に甘い紅茶の香りが交じる。
「裏技って、これだったの?」
ノノの小さな声が、
そっと潮風に溶けていく。
世界の果ての向こうにも、
まだ世界は続いていた。
もしかしたら、
終わりなんてないのかもしれない。

