まるで迷路のような石畳の道で
石畳が続く横丁を、
ウサギはゆっくりと歩いていた。
ひとつ角を曲がれば、
また細い路地。
ふぞろいの階段を上れば、
また違う石畳。
まるで──
人通りの少ない横丁が、
もう少しだけ寄り道していかない?
と、誘っているみたいだった。

(……わたしってば、
なんでここにいるんだっけ?)
石畳を見つめながら歩いているうちに、
どうしてここを歩いているのかさえ、あやふやになっていく。
もうひとつ角を曲がる。
その先にも石畳が続いていた。
(……また同じ道?)
心のどこかで、
そんなことを思う。
(まあいいけど。
……特に予定もないし)

人の消えた横丁は、
なぜか優しく感じられた。
誰かに見られるわけでもなく、何かを求められるわけでもない。
そんな道。
ただ石畳だけを見つめながら歩いていると、
小さな違和感に気づいた。
ぼんやりしていれば見逃しそうな、
たったひとつの、違った形。
ウサギは足を止めた。
(……もしかして、
会いたかったとか?)

ウサギはスマホの画面に触れ、
そっと時間を確かめる。
約束の時間だった。
胸の奥で──
何かがそっと動く。
それでも、
それに気付かないふりをする。
(……まっ、いいわよね。
どうせ本を読んでるだろうから、
少しだけ待たせても)
ウサギはしれっと笑う。
(そうそう。
少しぐらい待たせた方がいいのよ。
ずっと待たせたんだから)
ウサギはくるりと向きを変えて、
さっきよりゆっくり歩く。
けれど──
それは長くは続かなかった。
少しだけ……
少しずつ……
確実に歩くテンポが早くなる。
ウサギの瞳には、
もう石畳は映っていなかった。
気づけば──
ウサギは大通りへ向かって、
駆け出していた。
さっきまであんなにゆっくり歩いていたことなど、忘れてしまったみたいに。

