ゆで卵をおでこで割ろうとした話
タイトルの通りである。つまり、割れなかった。先に伝えておこうと思う。
今日は久しぶりに本当にしょうもないエッセイである。卵を茹でる暇な時間にでも読んでほしい。ちなみに何も実になる話は出てこない。
我が家の朝ご飯には、よくゆで卵が登場する。理由はシンプルで、3歳の娘がよく食べるからだ。
味なしゆで卵と、めんつゆ味玉。
一度に6個くらい茹でて、仕込んでおく。────夫が。ありがたい話である。
「ねえ、ゆで卵ってさ、おでこで割れるか知ってる?」
寝転んでいた私に夫の影が落ちた。目の前には小さな卵が差し出されていて、触らなくてもほんのり温かいのを感じた。
「…………なんて?????」
聞き返しながら考えた。
夫が突拍子もないことを言い出すのは今回に始まったことじゃない。
普通に考えたら割れないと思う。なんていうか、固ゆでで身が詰まってるし……
でも、わざわざ聞いてくるということは、実は割れたりするんだろうかとも思ってしまう。夫はよく、私にまことしやかにしょうもない嘘をつく。
多分割れないと思う。いや、力技なら割れるだろうけど。
でも……じゃあ生卵ならおでこで割れるんだろうか? え? じゃあ、温泉卵は???
新しい疑問も浮かんでしまう。なんにでも興味を持つ、これは私の良いところ。知的好奇心というやつである。
こういう時、私はいつも娘に置き換える。
「ママ、ゆでたまごおでこでわっていい?」と聞かれたと仮定するのだ。
いや、割ってほしくはない。
でもそれだけ言っても「なんで? なんでわっちゃだめなの? どうして?……」と永遠に続くのが3歳児である。
説明するための確実な理由を考える。割れた殻が危ないから? 痛いから?
でもゆで卵だったら殻が飛び散ることはあまりなさそう。
頭は大事な場所だから? うーん、なんだかまだ「なんで?」と言われそう。
……っていうか………………やっぱ痛いのかな?
なんにでも興味を持つところ。それは私の悪いところでもある。
「……やってみて」
寝ころんだままで、私はおでこを差し出した。
虎穴に入らずんば、なんとやら。
────────────────ごん。
白いかわいいゆで卵。鈍くて重たい音がした。
ひぃん、と悲鳴が口から出て、おでこを抑えて転がった。
痛すぎて笑うしかなかった。馬鹿すぎてそのまま涙が出るほど笑った。
殻にはヒビも入らなかった。
夫は私が悲鳴を上げた時点で先に身体を震わせて声も出ないほど笑っていた。コイツ……
「……覚悟は???」
真面目で優しいをウリにしている私。職場の人には想像もつかないであろう低い声がでた。
「……もちろんです」
冷えてきた卵はまるで石みたいだった。ころんとして手にしっくりおさまった。
ちょっと不安になる。心の中の優しい私が、「そんなの凶器よ!! やめてあげて!!」と叫んでいる。おでこはジンジン脈打っている。
えっ…………
犯罪じゃないよね??
これはただ卵を割ろうとしているだけ。私は身を削って一つの結果をだした。実験と検証は数が多いほど正確な結論に近づけるのだ。当然の権利である。だってまだほら、割れてないんだから。
────────────────ごん。
転がる成人男性を見て、何か新しい癖が目覚めるかと思った。
集中して遊んでいた娘がこちらの騒ぎに気づいて言った。
「ままあ、(娘)ちゃんもそれやるぅ」
「パパを見てごらん。痛くておでこ赤くなっちゃうから、だめよ」
書いていて思ったけれど、そもそも食べ物で遊ぶなという話である。大反省。もうしません。
どうしても両親とお揃いがしたい娘には、プラスチックのおままごと卵をあててやった。
「ほらね、割れないね」
さあ、そろそろゆで卵が茹るころではありませんか。ああ、固ゆで? 美味しいですよね、固ゆで卵は。
ゆで卵をおでこで割ってはいけません。食べもので遊んではいけません。
あらちょっとだけ実になりましたね。
