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「能天気とよばれるまで・中」

引きこもりの彼の人生の転機は何回かあったようです。

ひとつめは引っ越しです。
幼い頃から住み慣れた地域で「登校拒否児」のいる家庭に向けられた好奇の目に耐えられず、彼とその家族は引っ越しをしました。

新天地に移ったからといって彼の引きこもりがすぐにどうにかなる、そんなドラマの様な展開はありません。

それでも、
「自分のせいで引っ越しになった」ことは、彼を動かす少しの原動力になりました。

部屋にこもるのではなく日中はリビングで過ごし、家事の手伝いをすることは増えたようです。

この頃からご両親は妹を連れて旅行に出かけるようになります。
もちろん彼のことも誘ったけれど…
一緒に行くことはなかったそうです。

そして、年月が過ぎ、ふたつめの転機がやってきます。
学校に行かなくなったあとも、
引っ越したあとも、
連絡をくれた幼友だちが、
結婚をすることになりました。

彼は「焦り」の気持ちが初めて出てきたと話してくれました。

「自分だけが立ち止まって何も進んでいない」
そう感じた彼はアルバイトをすることと、
車の免許を取ることを目標に動き出します。

長年、人との交流を避けてきた彼にとって、
人と関わること、知らない仕事をすることはかなりハードルが高く、3日で辞めたアルバイトもあると言っていました。

「家にいるからダメなんだ」と、思い込み
山小屋の住み込みバイトにも行ったそうですが、
一ヶ月で限界がきたそうです。

転職回数だけが増えていく、空回りするだけの自分に苛立ちながら、定時制高校に通い、専門学校にも通い、少しづつ取り戻す日常。

人との付き合い方を学ぶことを途中で止めていた彼にとって、その全てが負担になり、引きこもっていた部屋に戻りたくなったことは何度もあると言います。

戻らなかった理由は、
「戻ったらもう2度と外に出られなくなると思ったから…」と知り合ったころに、話してくれたことを思い出します。

お母様が言った、
「年功序列で死が訪れるなら、
あなたはいつか一人になるからね」
の脅し文句は、いまでも彼の中に、
生きる覚悟と共に残っています。

引きこもりのまま向かう未来への恐怖心は、
彼を動かす原動力の一つだったのだと思います。

そして、その恐怖心から解放されるように、彼は少しづつ「能天気な才能」を取り戻していきます。

人間関係をスムーズに運ぶコツは我慢でも、忍耐でもないことに気付いた彼と、わたしが知り合うのはもう少し先です。


涼鈴suzu



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