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颚薫る、アパヌトメントの物語


 颚薫る、アパヌトメントの物語
What's the story about Puran

「掗濯するけど䞀緒にやろうか」
サラの声がする。
「んヌ」
「掗濯あんたのも䞀緒にやろっか」
「あヌ、いい、いい、ただ着替えないず思う」ず蚀ったあずにプヌランは「ありがず、サラ」ず付け加える。

プヌランはさっきたでの空想を思い出す。
週に䞀床、わたしのお店にくるおじいちゃん。必ずバタヌクロワッサンずブラックコヌヒヌを泚文しお、ひず垭だけあるテヌブル垭に座っおゆっくりクロワッサンを食べお、ゆっくりコヌヒヌを飲んで、ありがずうずおじぎをしお垰っおく。

わたしはお皿ずコヌヒヌカップを䞋げながら、い぀もず同じ味でバタヌクロワッサンが焌けたかなず考える。
おじいちゃんはい぀もきっかり同じ曜日の同じ時間にやっおくる。だからわたしはその時間のちょっず前に「誕生日垭」ずいう札を垭においおおく。「予玄あり」ずいう意味なのだが、「予玄垭」ず曞くより「誕生日垭」ず曞くのがいいず思う。

「プヌランあたし出かける」

たたサラの声がする。
「あヌ、うん」ず蚀った埌に「いっおらっしゃい」ず付け加える。

◇

ここは、あるアパヌトメントの䞉階。
アパヌトの名前はプラスタヌン・ノィレずいう。ひず぀の階に四郚屋で四階建おだから十六郚屋だけど、䞀階のひず郚屋は管理人の線み婆が䜏んでいお、だから、十五郚屋のアパヌト。他の階にも人はいるけど、同じ䞉階の人しかプヌランは喋ったこずがない。
そうそう、線み婆ずいうのはい぀も線み物をしおいるからみんな「線み婆」ず呌んでいる。本名はなんおいうんですかプヌランは䞀床聞いたこずがある。線み婆はニコニコしおすごく長い名前を蚀ったけど、ぜんぜん芚えられなかった。
カレンダヌを芋た。今日はキンロり日じゃないな、おやすみだ。仕事がある日のこずをプヌランはキンロり日ず蚀っおいる。サラが蚀っおいるのを聞いお䜿うようになった。サラは「仕事」を「仕事」ず蚀うのが嫌らしい。
「どうしお」ずプヌランが聞くず、「掗濯だっお掃陀だっお仕事じゃん、あたし䞀日䞭働いおるみたいで嫌」ずサラは蚀った。なるほど。
ゆっくり起きおパゞャマを着替え、藍色の薄手のカヌディガンを矜織った。線み婆から買ったこのカヌディガンをプヌランは気にいっおよく着おいた。冷蔵庫からミルクを出しお鍋に泚ぎ火を入れる。あったたったミルクをカップに泚ぎ、少し蜂蜜を入れる。
窓を開ける。少し肌寒いきれいな颚が郚屋に入っおくる。

◇

プヌランのキンロりは蟞曞屋さんだ。なにせアパヌト代を線み婆に払わないずいけないから、シゎトしないわけにはいかない。

蟞曞屋にはたくさんの蚀葉があふれかえっおいる。ひず぀ひず぀の蚀葉がカヌドになっおいお、「蚀葉宀」の曞庫におさめられおいる。プヌランの仕事は曞庫のカヌドの敎理圹。

今の蟞曞にのっおいる蚀葉、前はのっおたけど圹目を終えおもうのらなくなった蚀葉、次の蟞曞にのるこずが決たった蚀葉、次の蟞曞にのるかもしれない蚀葉。プヌランはそれぞれの分類ごずにさらにアむり゚オ順に分けお敎え盎しおいく。ずにかくみんなが出しおはほっぜり出しおはほっぜるので、プヌランはひたすらそれを盎しおいく。単玔なシゎトだけど、プヌランはこのシゎトが嫌じゃない。毎月のお絊料の半分は線み婆に払うアパヌト代。半分の半分はたいにちのお金、残りはちょきん。プヌランはちょきんをしおいる。

「プヌランは䜕でちゃんずちょきんしおんだ」同じ䞉階のクリタによく聞かれる。䜕のちょきんかはうたく説明できない。

「うヌん、しずかないず、な、ず思っお」

「なんだそれはよく分からない答えだぞ」くっきり喋る男の子のクリタはそう蚀うけれど、プヌランはうたく説明できない。

プヌランはちょきんをしおいる。

たぶんそれは空想の䞖界を珟実の䞖界にもっおくるために。

◇

わたしはたっしろのワンピヌスを着お砂浜ですわっおいる。
それはよく晎れた昌䞋がりで、わたしはだたっお波の音をきいおいる。そこにはわたししかいない。わたしのあたたは䜕にもこんがらがっおなく、すっきりしおいる。

わたしはどこからきおどこにいくのだろう。そう思った次に、きっずここに来たかったのだろう。そう思った。

ず、突然、空に雚雲が匵りはじめ、どんどん薄暗くなっおいく。わたしは䞍安になる。だめ、わたしのちょきんをもっおいかないで。わたしは困った顔になる。

そらに倧きな時蚈が浮かぶ。時蚈の針が動きそう。だめわたしはひっしになっおその針を抌しもどす。うヌヌヌヌん、いっしょうけんめい針を抌しもどす。
おじいちゃん、クロワッサンのおじいちゃん、助けお
おじいちゃんがそっずわたしの肩にふれ、続いお時蚈の針を静かにさすった。時蚈はずたった。

おじいちゃん。

おじいちゃんの小さな目は、「うん、そうか」ず芋おいた。たぶんわたしの時間のネゞを。

そんな時蚈の空想のあず、プヌランは思った。そういえば時間が盗たれるっおお話しがあったなぁ。本の名前を思い出そうずしおいるずサラの声がした。

「プヌラン、モモ食べるあたしの郚屋来なよ」
「んヌ」
「あたしの郚屋」
「あヌ、ん、今行くヌ」
プヌランは藍色のカヌディガンを矜織っお倧豆チップスをもっお斜め向かいのサラの郚屋ぞ移った。

◇

サラはプヌランよりひず぀䞊の女の子。そしおプヌランより䞀幎前からプラスタヌン・ノィレに䜏んでいる。なんでもおきぱきずしおいお、おせっかいず蚀えばおせっかいだけど、プヌランはサラが奜きだ。プヌランががんやりしおいる時は、「ん」みたいな声を出しおほっずいおくれるから。そのぞん、クリタはそうもいかない。プヌランがなにを考えおいるかし぀こく聞いおくる。たぶん、もやもやがきらいなんだ、クリタは。でもプヌランが食堂でもたもたしお階の違う子に文句を蚀われるずい぀も助けおくれる。「おめヌがプヌラン埅おばいいんだプヌランはゆっくりだ」ず。だからプヌランはクリタが嫌じゃない。

プラスタヌンは倕食だけは線み婆が倧鍋料理で䜕かしら毎日䜜っおくれる。シチュヌずか野菜ずお肉たっぷりの炒めものずか。それは自由に食べおいいこずになっおいる。プヌランは線み婆の料理が奜きだ。

郚屋のせたいキッチン、サラは果物ナむフでモモを切っおお皿に取り分けおくれおいる。プヌランはサラの足をみる。぀た先立ち。サラはバレリヌナをめざしおいる。だからい぀も、郚屋でもこうやっお緎習しおいる。

「はい、召し䞊がれ」
「ありがず」

わたしたちはモモをフォヌクで食べる。甘い。プヌランはおいしいず蚀う間もなくむしゃむしゃ食べる。サラはそれを楜しそうに芋おる。モモを食べ終わるずふたりで倧豆チップスを食べ始めた。

「こんどオヌディションがあるんだ」
「おヌでぃしょん」
「そ、倧きな舞台に出るための、詊隓みたいなや぀」
「受けるの」
「おうよ」
「すごいね、サラ」
「ただ受かっおないよ」
「ん、でもすごい」
「タむニヌダンサヌなんお呌ばせない、あたしはバレリヌナ」
「うん」
「蟞曞屋はどう、だいじょうぶ」
「うん、楜しい」

そもそも、蟞曞屋の仕事もサラがプヌランのために芋぀けおきおくれた。

「そっか」
「うん」

倧豆チップスを食べながらこうしおサラず話しおいるず、プヌランは䜕かい぀も自分がおいおいかれるような気になっお、぀い぀いサラの服のどこかを぀かんでる。サラは気にしない顔をしおる。

「そのカヌディガン、線み婆から」
「そう」
「いいね、あたしもあったかいの買おうかな、そろそろ朝垂だもんね」

「朝垂」ずいうのは、二ヶ月の䞀床、線み婆が自分で䜜った服や小物をプラスタヌンの䞭庭で売るフリヌマヌケットのこず。
プヌランはただサラの服を぀かんでいた。

◇

プヌランは自分の郚屋にもどるず窓をあけお、くぐもった空気をいれかえた。倜颚が入っおくる。肌寒さは頭を少しすっきりさせる。
コンコン。
ドアをたたく音がしお開けるずネルがいた。
「ネル、こんばんは、どうしたの」
ネルは䞡手でたるい茪っかを぀くっおプヌランをじっず芋た。ネルはおはなしができないからこうしお手ぶりで気持ちを䌝える。
「あヌ、パンね」
プヌランが蚀うずネルはニコニコ笑う。プヌランはたくさん䜜っおおいたバタヌロヌルをふた぀袋に入れおネルにわたした。

「おやすみ、ネル」

プヌランより頭ひず぀小さいネルはおやすみず蚀うかわりにプヌランにぎゅっず抱き぀き、それからずなりの自分の郚屋にもどっおいった。プヌランはベッドに暪になり倩井を芋䞊げお目をずじる。空想の䞭でネルはしゃべっおいる。

焌けた
うん。

プヌランが出来䞊がったバタヌロヌルをオヌブンから出すず、ネルはトングでひず぀ず぀ショヌケヌスに䞊べおいく。

終わったよ。
うん、ありがずう。

焌き立おのいい匂いがしお、ネルはほほえむ。

ねぇプヌラン
なに
どこにも行かないよねずっずここにいるよね
目を開ける。プヌランは思った。倧人にならないず。

◇

線み婆の「朝垂」はヶ月に䞀床くらい、倩気のよい日にプラスタヌンの庭でやる線み婆の手䜜り線み物のマヌケット。線み物だけじゃなく、ネックレスずかコヌスタヌずか線み婆の手䜜り品もあっお、プラスタヌンの䜏み人はセヌタヌやら小物やら、なにやらを買っおいく。プヌランがいくず、もうけっこうのお客さんずいう名の同じアパヌトメントの䜏人がいおにぎわっおいた。

そろそろ冬だし、プヌランは明るい色のセヌタヌがほしいず思った。

品を眺めおいるず黄色、ずいうか萌黄のきれいな色のあったかそうなセヌタヌがあっお、プヌランはすぐにこれがほしいず思った。でもそのセヌタヌには「売玄枈み」ず札が぀いおいた。プヌランはあきらめきれずしばらく眺めおいたけど、しかたないず思っお、郚屋に戻った。明日は蟞曞屋でキンロりの日だ。プヌランはじぶんのちょきんを数えた。せいか぀甚のお金をセヌタヌのための少し残しおおいたのだけど...プヌランは少し悲しい気持ちになった。

「プヌラン、あずでわたしの郚屋においで」

郚屋の倖で線み婆の声がした。

「あ、うん、はい」

プヌランが線み婆の郚屋をノックし、䞭に入るず、線み婆はさっきの萌黄色のセヌタヌをプヌランに枡した。

「え...」
「このセヌタヌはプヌランが気にいるず思っおずっずいたのよ」線み婆は蚀った。
プヌランはずびあがるほどうれしい気持ちになっお「ありがずうずっおもうれしい」ず蚀った。
翌朝、線み婆にセヌタヌ代を枡すず、線み婆はすこしの間プヌランをみ぀めお「ちょきんはたたったかい」ずきいた。
プヌランはぞんじにこたっお、すこしほほえみながら銖をななめにかたむけお、ぞんじの代わりに「行っおきたす」ず蚀った。
線み婆は静かにうなずいた。

◇

蟞曞屋の「蚀葉宀」でプヌランは今日もカヌドの敎理をしおいる。

アむり゚オ順に蚀葉を敎理しおいるず、なぜだか自分のあたたの䞭もせいずんされおいくようで、この䜜業はプヌランは奜きなのだけず、奜きだけどい぀もこわい思いもした。この「こずばのうず」に自分のじんせいそのものがたぎれこんでしたうのではないか、ず思うからだ。

所長のナナが郚屋にやっおきお、「プヌランこれお願い」ず蚀っお癜いかごをおいおいった。癜いかごに入ったカヌドは圹目を終えおもう蟞曞にのらなくなった蚀葉たち。

プヌランはかごのカヌドを曞庫にしたいはじめようずしおいちばん䞊にあったカヌドが目に入っおずたった。

いめ【倢】ゆめの䞊代語

なぜだかずおもかなしくなっお、プヌランは泣きだした。その蚀葉がすおられおしたうかなしさではなくお、なにか、わたしはずっずここで動けないんだず、そう匷く思っおしたったからだった。

かなしい気持ちをひきずっおプラスタヌンに戻るず、クリタず線み婆が話しおいた。

◇

クリタはアパヌトを出おいく。

「旅にでるんだ。ずっず考えおた。このせかいにはここ以倖にたくさんの堎所があるんだぜ、おれはそれが芋たいんだ」

プヌランはしずかに、いきようようず話すクリタを芋おいた。たずえるこずがむずかしい、こずばにするこずがむずかしい、プヌランは胞にこみあがるあせりや䞍安やかなしみを自分でどうするこずもできずにいる。
「でもなプヌラン、プヌランがだれかにいじめられおたらおれは助けにくるぞ」クリタはそう蚀った。
プヌランは少しの笑みをうかべおうなずくのがせいいっぱい。
食堂にひずり座る。

空想。

プヌラン
クリタがおおごえを出しながら走っおくる。
プヌランはタスキをうけずり走り出す。
自分でもおどろくくらいすごいペヌスで走る。
ひずり、たたひずりず远い越し、ゎヌルが芋えおくる。
ただ力が出おくる。
ペヌスはさらに䞊がる。
そしお䞀䜍でゎヌルテヌプを切る。
おおきな歓声がわたしを包む。
おおきな拍手がわたしを包む。

気が぀くずプヌランは少し涙がこがれおた。い぀のたにかずなりにネルが座っおいる。心配そうにプヌランを芋おいる。プヌランはネルの肩に手を回し抱き寄せる。ネルの枩みが䜓に䌝播する。

生きおく。プヌランはおなかに力を蟌める。

◇

わたしはお店でパンを焌いおいる。
い぀もの時間におじいちゃんが来る。
わたしは「誕生日垭」の札をずり、おじいちゃんにどうぞ、ず蚀う。
おじいちゃんは䞀、二回うなづき、い぀もの泚文をする。わたしはバタヌクロワッサンずブラックコヌヒヌをテヌブルにおく。おじいちゃんはい぀ものずおりゆっくり食べ終わるず、ありがずうず蚀っおお店を出る。でも実際にはありがずうずは蚀わず、少し笑っお頭をさげるだけ。わたしはおじいちゃんの声を聞いたこずがない。でも、おじいちゃんの枩みはなんでだか昔から知っおいる気がする。

「プヌラン」
空想が終わる。
サラがドアをたたいおいる。ドアを開けるずサラはプヌランの䞡肩を぀かんだ。

「オヌディションに受かった倧きな舞台よ、やるわやっちゃる」
「サラすごい」

しばらく郚屋でふたりで話しおから、プヌランは蚀った。

「サラ、ここを出るんだよね」
サラは涙目になっおう぀むく。
「わたし、倧䞈倫だよ」プヌランは蚀う。
サラはプヌランを抱きしめる。
プヌランの䜓の䞭で舵が動き出す。
負けない。わたしはわたしに負けない。
未来が動き出す。

◇

倜、プヌランはお湯をわかし、玅茶をいれた。

窓をあける。倜颚が郚屋の䞭の玅茶の匂いをやさしく混ぜお、プヌランの顔のたわりを䞀呚する。

どこたでが思いちがいで、どこたでがほんずうの䞖界なんだろう。

い぀もプヌランが思っおいた倉なぎもんは、グリグリず音をたおながらほどけようずしおいる。

壁にかざっおある゚ルサ・ベスコフの絵に目をやる。花に囲たれお人々が行進するこの絵は、プヌランが䜏む郚屋の䜏人が倉わっおもずっず匕き぀がれ壁にあるのだった。なんずなく壁のその絵に手をやり、額をもっお壁からおろすず少しほこりがたった。裏返し、額の裏偎を芋お手がずたる。

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302号宀
1970.6.1 Lyla
1978.9.30 Jonas
1985.2.25 Emi
1990.5.1 Busuka
1998.3.10 JIJI
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前の䜏人たちがこの郚屋を出た日ず名前みたいだ。しばらく眺めたあず、絵を壁にもどす。胞がどきどきする。頭の䞭でザヌザヌず音がする。䜕かが亀差しおいる。絵の向こうの新しい絵が、少しず぀茪郭をみせはじめる。

◇

空想。

倕方、わたしは掗った食噚をふいお棚にもどし、カりンタヌやテヌブルをきれいにふき、
お店の倖にでおドアの鍵を閉めようずする。
でも鍵をもっおいないこずに気付く。
お店の窓にう぀るじぶんを芋る。
肩たである栗色の髪。
線み婆の萌黄色のセヌタヌに癜いスカヌト。
これがわたし。
これがわたしなんだ。
わたしの心の䞭にに匷いものが圢をおびおゆく。
い぀のたにかクロワッサンのおじいちゃんがずなりにいる。
おじいちゃんはゆっくり手を差し出す。
わたしは手をのばす。
金色の鍵が枡される。
おじいちゃんはやさしく埮笑んでから、向きをかえ歩き出す。
わたしはその埌ろ姿をじっず芋぀める。
䞀床だけ、おじいちゃんは振り返る。
おじいちゃんの顔が茜色の倕焌けの埌光に照らされお、ある面圱を巻き戻す。

「ネル...」

おじいちゃんは埮笑んで、たた歩き出す。
そっか、クロワッサンのおじいちゃんはネルだったのね。
ありがずう、ネル。
わたしは金色の鍵を握りしめ目を閉じる。

空想からさめたあず、プヌランの手の䞭には金色の鍵が残っおいた。
空想の䞖界ずほんずうの䞖界が、プヌランの䜓をたずうように静かにおりかさなっおゆく。

◇

次の日、わたしは蟞曞屋のキンロりに向かい、い぀もどおりテキパキずカヌドを仕分けする。やり残しがないように、い぀もよりテキパキず敎理する。蚀葉宀の曞庫に敎然ずカヌドをおさめ、はじからおんけんをする。圹割を終えた蚀葉には、お぀かれさたず声をかけ、あたらしく蟞曞にのる蚀葉には、よろしくねず声をかける。

倕方の時報がなる。
「プヌラン、時間よ、あがっおいいわ、お぀かれさた」
所長のナナがプヌランに声をかける。
「あの」
「ぞなに」
「所長さん、お話が...」
所長のナナはプヌランのたっすぐなたなざしを数秒芋぀め、「所長宀ぞどうぞ」ず蚀う。所長宀に入るず、ナナはプヌランに「座っお」ず蚀った。゜ファヌにすわり向かい合う。

「お話しっお」
「はい」
「どうしたの」
「わたし、ごめんなさい、ここの仕事をやめおもいいですか」

ナナは少しの間プヌランを芋぀めおいた。ナナに芋぀められたプヌランは涙がでかかったけど、泣いたらぜんぶがくずれおしたうから、ぐっず手に力をいれる。

「やめるのにはゞヒョりがいるのよ」
「ゞヒョり」
「そう、ゞヒョり」
ナナはクリヌム色の玙をもっおきお、プヌランの前においた。
「この玙に、やめる理由ず名前を曞いおくれる」
プヌランは困っお少しの間止たっおいたが、ペンをもっおゆっくりず字を曞き始めた。
曞き終えるずプヌランはナナにゞヒョりをおいしゅ぀した。

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ほんずうの䞖界でいきるために、ここのしごずをやめさせおください。
プヌラン
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ナナはいずおしそうにプヌランのゞヒョりをじっず眺めおから、
「しかたないわね、こたったなぁ、かわりをさがさないずね」ず蚀っお笑った。
プヌランはポケットの䞭に手を入れ、金色の鍵を握りしめた。


◇


アパヌトに戻るず、倖で線み婆が埅っおいた。
プヌランは線み婆の前で止たる。
線み婆は蚀う。
「鍵は手に入ったのかい」
「はい」プヌランは答える。

「プラスタヌンね」線み婆は蚀った。
「なに」
「出発っお意味よ、ヒンディヌ語の蚀葉」
「ん」プヌランは蚀葉がみ぀けられない。
「みんなここにずっずいちゃいけない。い぀か出発するのよ。だからここの名前はプラスタヌン・ノィレ」
「あヌ」プヌランは蚀った。「あヌ」ずしか蚀えなかったけど、ずおもいろんなこずがその時に合わさっお、やっずやっず分かった気分になった。そしお、もうここに、プラスタヌン・ノィレに来おはいけないずいうこずも分かった。

「絵の裏に曞いおおいで」ず線み婆は蚀う。
「はい」プヌランは郚屋にいき、花の絵が描かれた額を壁からおろし、

2004.10.31 Puran ず曞き、壁に戻した。

アパヌトの倖に出お、埅っおいた線み婆に最埌の家賃を枡す。プヌランは䞀床深呌吞をしお気持ちを敎えた。錻がツンずしお涙が胞から蟌み䞊げる。
泣かないで蚀わないず。

プヌランは蚀う。

「お䞖話になりたした」

線み婆はやさしくほほえむ。

「プヌラン、ふゆはあったかくするのよ」

プヌランは線み婆に抱き぀いた。䜕も蚀葉は芋぀けられないけど、この珟実を、この空想を、䞀床しっかり抱きしめおおきたかった。線み婆はプヌランの髪をなでる。目を閉じながらぬくもりを感じる。このたたねおしたいそう。でもねちゃいけない。わたしは芋るんだ、これからはじたるものをひず぀ものこさず。

ゆっくり線み婆から離れ、目を開けるず、そこにはもうプラスタヌン・ノィレはなく、線み婆もいなかった。
そのかわりに小さな小さなお店があった。

プヌランは笑う。頭の䞭はもうなんにもこんがらがっおいなかった。
颚がふいお髪をゆらす。

気のせいか颚ず䞀緒にバタヌクロワッサンの匂いがする。
明日の匂いがする。

終)

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