【ショートショート】ひんやりする道具
「あ、あっつぅ! 一晩明けただけで、この暑さなのか……」
R博士の助手は、R博士の研究室の鍵を開け、中に入るやいなや言った。博士はまだ来ておらず、助手が一番乗りだ。最近の猛暑は、目に余るものがあり、毎日ひいひい言いながら出勤している。クーラーが効き始めるまでの辛抱だが、部屋が涼しくなるまでの時間がつらいのだ。助手は、ふらふらと冷蔵庫に向かう。
「ほ、保冷剤とかでちょっとでも体温を下げなくては……」
助手は、冷凍庫をがらりと開ける。ひんやりとした冷気がうでに当たり、少々気持ちいい。すると、助手は気になるものを発見する。
「この輪っかのやつ! 最近つけてる人よく見るぞ! 」
通称ネッククーラーと呼ばれるもので、ほんの少しだけ縦長な円の下部に、切れ込みのようなものが入っている。そのため、首に巻き付けることができるのだ。冷凍庫でしばらく冷やせば、首元がひんやりするという、夏の新たな優れものだ。
「こりゃいい! しばらく使わせてもらおう! 」
助手は、ネッククーラーを首にまく。ひんやりとした感覚が首元全体に広がっていき、まるで天国だ。
「うっはー、気持ちいい! でも、やっぱりこれでごまかせないくらいには暑いなあ……、ぐべぇ!? 」
助手は、がりがりとネッククーラーをひっかく。取ろうとしても取れない。なぜなら、ネッククーラーのサイズが一気に小さくなり、助手の首をぎりぎりと絞めつけている。まるで西遊記で、孫悟空が頭につけている輪っかのように。しかも小さくなっているため、うまく首から外すことができないのだ。
「こっ……、くぁ……」
「おはよ……、あぁ! 助手くん! 」
たまたま直後に出勤したR博士は、助手にかけよる。博士は、首元の小さなネッククーラーの側面についている、赤いボタンを押す。するとネッククーラーはもとの大きさに戻り、助手の首を絞めつけることはなくなった。助手は、いまだに呼吸を整えるのに必死だ。すると、博士は意気揚々と説明し始める。
「これは、わしが作った『ネッ苦苦―羅―』じゃ。ただ冷たいだけじゃなく、ひやひやするという意味で、涼しさを提供したくての。『暑い』という言葉を発すると、首元のすきまが狭まって、首が一気に絞めつけられるという代物なんじゃが……。ぶっちゃけ危険すぎるので、わしが使おうと冷凍庫に入れてたの、いうの忘れてたわい。いやー、最近の暑さはすごいからのぉ。わしのこんなミスも、暑さに免じてゆるしてくれ。」
「はぁ、はぁ……。確かに! それは博士が悪くない……、なんてなるかぁ! しっかりしてくださいよ!? 暑いとか関係ないでしょぉ、あなたのミスは! ……、ぐえ! 」
助手の言葉に反応し、また『ネッ苦苦―羅―』が締め付けられてしまった。助手は自分で、側面のボタンを押し、『ネッ苦苦―羅―』を首から外し、近くにあった小さな金庫へと入れ、冷凍庫の中へと永久封印した。
「はぁ、はぁ……。涼しいというか、嫌な汗かきましたよ……。これ……」
「う、うん。すまん、助手君……」
R博士の研究室の空気は、一騒動の末に、少々熱気のあるものになってしまっていた。
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