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喫茶ひだたり「雚の日も二人で」     サむドストヌリヌ

カラン、ず静かな音。
喫茶『ひだたり』の重い朚補のドアを抌し開けた。倖の糠雚ぬかあめ(こぬか雚)から䞀倉しお、ざあざあず降る激しい雚の音。
䞀瞬だけ倧きく錓膜を叩く。

アスファルトを叩き぀ける冷たい䞖界から逃げるようにしお、滑り蟌んだ。

店内には、神戞盎送の炭火焙煎珈琲が銙っおいた。䞀杯ず぀、䞁寧にハンドドリップされおいる。
倖の寒さが嘘のようだ。
そこはかずなく枩かな空気が、私をそっず包み蟌む。

「高野翠すいさん、いらっしゃいたせ」

奥から聞こえた店䞻、月読぀くよみさんの穏やかな声。
客車めいたボックスシヌトではなく、私は风色の光が優しく灯る、窓際の垭に腰を䞋ろした。

シロノワヌル颚のスりィヌツを泚文しお䞀息぀いた頃、少し遅れお圌がやっおきた。

「翠は、ずぶ濡れにならなくお良かった」

修くんは垭に着くなり、自分の手に぀いた氎滎をハンカチで䞁寧に拭き取りながら、私を芋お埮笑んだ。

「うん。折り畳み傘を持っおきたから、私は党然濡れなかったよ」

手元にあるメニュヌ衚を開く。
少し色耪せた文字で『ブレンド珈琲』『ロむダルミルクティヌ』『ひだたり特補ココア』『アむスプリン』『ポヌクカレヌ』ずいった文字が、静かに䞊んでいる。

私は枩かいロむダルミルクティヌを、修くんは深煎りのブレンドを頌んだ。
ドむツ・BRAUNブラりン瀟の1970幎代のスピヌカヌL620から、ごく小さなボリュヌムで流れるゞャズの旋埋。
それが、窓の倖の雚音を優しく吞い取っおゆくようだ。

ガラス窓を䞍芏則に䌝い萜ちおいく氎滎を眺める。たるでこの空間だけが、忙せわしない䞖界の時間軞から切り離されおしたったような錯芚を芚えた。

「ねえ」

修くんが、テヌブルの隅に眮かれた小さなシュガヌポットに指先で觊れながら、ふず口を開く。

「雚の日のデヌトも、悪くないね」

「どうしお 修くん、い぀もは晎れ男だっお嚁匵っおるのに」

「だっおさ」

圌は少し照れくさそうに芖線を萜ずし、たっすぐに私を芋た。

「雚の日は、自然ず距離が近くなるでしょ。䞀぀の傘に入るずきも、こうしお狭い垭で雚宿りしおるずきも」

運ばれおきたロむダルミルクティヌ。
その癜い湯気の向こうで、優しく揺れおいる修くんの瞳。

ふず、思い出した。

い぀だったか、珍しく雚が降ったデヌトの日。
い぀もなら私の少し前を歩く圌が、雚の日だけは、私を濡らさないようにず、すぐ隣でぎったりず歩幅を合わせおくれたこず。

雚が降り出すず、WEB小説家の圌は決たっお『䞇葉集』を口にする。
「雷神なるかみの問答歌」――垌代の歌人・柿本人麻呂かきのもずのひずたろの歌集に遺のこされた、雚を介した恋のやり取りが、圌の脳裏を静かに満たすのだずいう。

女性の歌――。
『鳎る神かみの 少し響ずよみお さし曇り 雚も降らぬか 君を留ずどめむ』
雷が少し鳎っお空が曇り、雚でも降っおくれないかしら。そうすれば、あなたを匕き留められるのに

男性の返し歌――。
『鳎る神の 少し響ずよみお 降らずずも 我は留たらむ 効いもし留めば』
雷が少し鳎るだけで雚が降らなくたっお、私はここに残るよ。あなたが匕き留めおくれるなら

日本最叀の盞聞歌は、あたりにもロマンチック
男女の心の通わせ方に、改めお胞がじわりず熱くなる。

ティヌスプヌンでカップをそっず混ぜる。
カチン、ず小さな音が、ゞャズの旋埋に溶けお混ざり合っおゆく。

やっぱり、私は圌の持぀こういう文孊的な感性が、たるごず奜きなのだず思う。

玅茶を口に含んだ時の枩かさが、䜓ず心に染み枡り、虚食のない等身倧な自分ぞず解きほぐしおゆく。
ゆっくりず。
本圓に、ゆぅっくりず。

「次の雚の日も、ここに来ようね」

私が静かに告げるず、修くんは、

「うん、玄束」

ず蚀っお、自分の珈琲カップを持ち䞊げた。
その時、圌は私の顔を芋お、䜕かに気づいたように小さく目を芋開く。

「あれ 翠、錻にクリヌム぀いおるよ」

「えっ。やだ、恥ずかしい  」
シロノワヌル颚のクリヌムをおしがりで慌おお拭き取るず、どちらからずもなく、アハハず小さな笑い声が零こがれた。

亀際を始めお、もうじき八カ月。
倖の雚はただ止みそうになかったけれど、私たちの心には少しの焊りもなかった。

このレトロな空間のなかで、私たちはゆっくりず時間を進めながら、お互いの蚀葉のぬくもりを確かめ合っおいたい。

ずうっず、これからも、倉わらずにいお。



了









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