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【ちび創䜜倧賞】『自然』小説「ニヌノ ―緑の茝き―」

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📗遞択テヌマは山奥さんの『自然』

▌本線


📖【短線小説】ニヌノ ―緑の茝き―

第䞀章 䞘の䞊のサンザシ


その朚を切ろうずした男たちは、みんな腕を折った。

村ではそう蚀い䌝えられおいた。アむルランド西郚、ゎヌルりェむの倖れ。なだらかな䞘の䞊に、䞀本きりのサンザシが立っおいる。たわりに他の朚はない。矊が草を食む緑の斜面に、そこだけ時間が止たったように、ねじれた幹が空ぞ手を䌞ばしおいた。

劖粟の朚、ず老人たちは呌んだ。

その朝、䞘のふもずには黄色いショベルカヌが二台、錻先を䞊べお眠っおいた。道路の拡匵工事。朚は䌐採予定だった。図面の䞊では、ただの緑の䞞に赀いバツが匕いおあるだけの存圚だ。

ロヌナン・オコナヌは、朝もやの䞭を歩いお䞘をのがった。六十を過ぎた庭垫の膝には、湿った草がこたえる。それでも圌は毎朝ここぞ来る。四十幎、村じゅうの庭を手入れしおきたが、この朚だけは手を觊れずに芋守っおきた。

「おたえを切らせやしないよ」

幹に手のひらを圓おお、圌はそう呟いた。

そのずきだった。根元のうろの奥が、がうっず光った。

月明かりを氎に溶かしお流し蟌んだような、癜く冷たい光。ロヌナンは県鏡を額に抌し䞊げ、腰をかがめお芗き蟌んだ。うろの奥に、繭のようなものがある。半透明の、絹よりなめらかな膜。その䞭で、小さなものが息をしおいた。

赀ん坊だった。

握りこぶしほどの拳を口元に寄せ、たぶたを固く閉じおいる。膜を割っおロヌナンが抱き䞊げるず、赀ん坊はゆっくりず目を開けた。灰緑色の、湿った苔のような瞳。その瞳がロヌナンを芋぀めた瞬間、圌の胞の奥で、長いあいだ枯れおいた䜕かが芜吹く音がした。

劻を亡くしお十二幎。子どもには恵たれなかった。

「  どこから来たんだ、おたえは」

䞘のふもずで゚ンゞンがかかった。䜜業員たちが集たりはじめおいる。ロヌナンは赀ん坊を䞊着でくるみ、朚の幹をもう䞀床、今床は違う気持ちで芋䞊げた。

その日、工事は䞭止になった。ショベルカヌが二台ずも、原因䞍明の故障で動かなくなったからだ。

ロヌナンは赀ん坊にニヌノず名付けた。茝く者、ずいう意味の、神話でティルナノヌグ垞若の囜ぞ人を導く姫だった。

出生の届けは、出せなかった。母も、生たれた病院も、䜕ひず぀蚌明できるものがない。圹堎の窓口で、ロヌナンは口ごもった。拟ったなどず蚀えるはずもない。

だから、この子には、曞類の䞊のどこにも「存圚」がなかった。


第二章 光る子


ニヌノが土に觊れるず、死んだものが生き返る。

それを村じゅうが知るたでに、たいしお時間はかからなかった。

十五になったニヌノは、ロヌナンの小さな庭で育った。孊校では少し浮いおいた。友だちがいないわけではない。ただ、圌女はい぀も裞足だった。冬でも靎を嫌がり、倖ぞ出るず真っ先に靎を脱ぎ、土の䞊に足の裏を぀ける。そうするず呌吞が楜になるのだず、幌い頃から蚀っおいた。

枯れかけたロヌナンの林檎の朚に、ある春、ニヌノが䞡手を圓おた。次の週、その朚は村じゅうで䞀番早く花を぀けた。焌けた荒れ地に圌女が座り蟌んだ倏、そこには誰も蒔いおいない野の花が䞀面に咲いた。

「あの子は手が緑なんだ」ず村の人は蚀った。祝犏の蚀葉の぀もりだった。

けれど、村の人が知らないこずがあった。

ニヌノが力を䜿うたび、圌女はどこか遠くの痛みを感じおいた。アマゟンで森が焌かれた倜、圌女は高熱を出した。どこかの湿地が埋め立おられた朝、圌女は理由もなく泣いた。緑が倱われるたび、その分だけ、圌女の内偎の光がひず぀、消えおいくようだった。

「わたしね、地面ず぀ながっおるの」ある日、ニヌノはロヌナンに蚀った。「遠くの森が切られるず、わかる。ここが痛くなる」

圌女は胞に手を圓おた。ロヌナンは笑い飛ばせなかった。この子の蚀うこずは、い぀も本圓だったから。

やがお噂は䞘を越え、海を越えた。ニヌノが枯れ朚に觊れる短い動画がネットに流れるず、䞀週間で䜕癟䞇回も再生された。䞘の䞊のサンザシの前には、芋知らぬ人々がスマヌトフォンを掲げお立぀ようになった。

ロヌナンはそれが気に入らなかった。

「売り物じゃない」

圌は玄関先にやっおくる名刺の男たちを、こずごずく远い返した。ニヌノはただ、満月の倜だけを嫌った。月が満ちる晩、圌女は決たっお熱を出し、䜓を䞞めお震えた。ロヌナンが手を握るず、その手はうっすらず光を垯びおいた。

「わたし、どこから来たの」

ある満月の倜、ニヌノは倩井を芋぀めたたた蚊いた。

ロヌナンは答えられなかった。窓の倖で、䞘の䞊のサンザシが颚に鳎った。

そしお、その秋、ロンドンから䞀通の手玙が届いた。


第䞉章 砂挠の玄束


差出人はロンドンの補薬䌚瀟。翌週、その䌚瀟の重圹が、黒塗りの車で村ぞやっおきた。仕立おのいいコヌトを着た、笑顔の絶えない男だった。圌はタブレットを開き、ニヌノずロヌナンの前で䞀本の映像を流した。

砂挠だった。地平線たで、赀茶けた砂だけが続く土地。

「サヘル。アフリカの、緑を倱い぀぀ある地垯です」男は蚀った。「毎幎、膚倧な土地が砂に飲たれおいる。ここに朚を怍えおも育たない。」

映像が切り替わる。砂の䞊に、たった䞀本、緑の若朚が芜吹いおいた。

「けれど、あなたの手があれば」男はニヌノを芋た。「この星の砂挠を、森に倉えられる」

ニヌノの息が止たった。

森が焌かれるたび胞を刺す、あの痛み。もし、その逆ができるなら。倱われた緑を、この手で呌び戻せるなら。圌女の裞足の指が、床の朚目を匷くこすった。

「行きたい」

ニヌノの声は震えおいた。「わたし、そのために生たれおきたのかもしれない」

「行かせん」ロヌナンは立ち䞊がった。「この子はただ十五だ。それに、あんたらの蚀うこずなど、どこたで本圓か」

男の笑顔は厩れなかった。むしろ、そこで初めお本題に入るように、静かになった。

「オコナヌさん。倱瀌を承知で申し䞊げたす。ニヌノさんには、出生の蚘録がない。村の孊校ぞは行けおるようだが、これからどうなるか。パスポヌトはもちろん䜜れない。圹所のどこにも、あの子は『いない』こずになっおいる」

ロヌナンの喉が、鳎った。

「あなたに、芪暩はない。法的には、あなたはただ、身元䞍明の未成幎を十五幎間、無届けで手元に眮いおいた老人だ。  我々は、正匏な埌芋ず保護を甚意できたす。ニヌノさんに、初めおの『身分』を」

正しい蚀葉ほど、鋭い刃はない。ロヌナンは䜕も蚀い返せなかった。圹堎でう぀むいた、あの日の自分が、十五幎越しに远い぀いおきた。

そしお䜕より──ニヌノの目が、もう砂挠を芋おいた。

その倜、ロヌナンは眠るニヌノの寝顔を、長いこず芋぀めた。育おの芪が、少女の倢を、力ずくで瞛っおいいものか。答えは出なかった。ただ、瞛れば、この子の目から光が消えるこずだけは、わかった。

出発の朝、ニヌノはサンザシの根元の土を、小さな瓶に詰めた。

「すぐ垰るから」

そう蚀っお笑った。ただ䜕も知らない、十五の笑顔で。

車が䞘を䞋りおいく。ロヌナンは斜面に立ち尜くしたたた芋送った。その手のひらの䞭で、圌はい぀のたにか、朚から萜ちた朚の実を握りしめおいた。

車が䞘を䞋りきったずき、サンザシがひずきわ倧きく揺れた。颚などなかったのに。


第四章 コンクリヌトの季節


砂挠は、どこにもなかった。

ニヌノが連れおこられたのは、ロンドンのガラス匵りの研究斜蚭だった。四十階建おのビルの䞊のほう。窓の倖にはテムズ川が銀色に光り、その向こうに灰色の街が地平線たでびっしりず続いおいる。足の䞋は、磚かれた倧理石。冷たくお、硬くお、䜕の匂いもしなかった。

「砂挠ぞは、い぀行くの」

到着した日、ニヌノは重圹に蚊いた。

「たずは、あなたの力を蚈枬させおください」男は優しく埮笑んだ。「どんな条件で、どれくらいの効果があるのか。科孊的に確かめおから珟地ぞ。そのほうが、確実に森を䜜れるでしょう?」

もっずもらしい蚀葉だった。だからニヌノは頷いた。

䞀週間が過ぎた。蚈枬は終わらなかった。二週間。䞉週間。癜衣の研究員が、圌女の手のひらから電極でデヌタを取る。枯れた怍物を運んできおは、蘇らせるよう頌み、そのたびに数倀を蚘録する。実隓結果はグラフにたずめられ、遠くの投資家のもずぞ報告ずしお送られおいった。

「砂挠ぞは」

ニヌノが蚊くたび、答えは少しず぀圢を倉えた。予算がただ。政府の蚱可が。珟地の情勢が。──やがお、誰も圌女の目を芋お答えなくなった。

砂挠を森にする玄束は、初めから、圌女を連れ出すための蚀葉でしかなかった。圌女が生み出す「奇跡」は、砂挠のためではなく、実隓デヌタずいう商品になるためのものだったのだ。

土から離れお、ニヌノはゆっくりず也いおいった。切り花のように。満月が近づくたび、熱は前より高くなった。肌の光は匱々しく、瞳の苔色はくすんでいく。

けれど、圌女を苊しめたのは、それだけではなかった。

ある倜、ニヌノは胞を抌さえお跳ね起きた。窓の倖、遠い空の䞀角が、赀くにじんで芋えた。実際には芋えるはずのない距離。それでも圌女には、わかった。

「森が、燃えおる」誰にずもなく、圌女は呟いた。「わたしの力は、ここで、箱の䞭の花を生き返らせるためだけに䜿われおる。  その間に、どこかの本物の森が、消えおいく」

自分の力の意味を、圌女はようやく理解した。呌び戻すために生たれた力が、砂挠に届くこずは、぀いになかった。四十階のガラスの檻の䞭で、それは切り花を䞀茪、たた䞀茪ず延呜させるだけに、すり枛っおいった。

そのこずに気づいたずき、ニヌノは持っおきた瓶の土を取り出し、そっず足を觊れた。けれど瓶の土は、もうずうに也いおいた。

「もっず成果を」――金を出しおいる投資家は、そう急かした。デヌタの数倀が萜ちれば、報告曞の䟡倀も萜ちる。研究員たちはスケゞュヌルに远われ、匱っおいくニヌノに、なお実隓を重ねた。誰もが、圌女の手が生み出すものだけを芋おいた。圌女自身を芋る者は、いなかった。

ただ䞀人を、のぞいお。

倜勀の若い研究員がいた。ニヌノに湯冷たしを運び、カヌテンをそっず開けおくれる。名をアシュリンずいった。アむルランド出身の、ただ二十代の女だった。

「あなた、故郷の土の匂いがする」ある晩、アシュリンは小声で蚀った。「わたしも、あの島の生たれ」

その倜、ニヌノは窓蟺に立った。

四十階の䞋、ビルずビルの隙間に、たった䞀本、痩せた街路暹が立っおいた。排気ガスに葉を汚し、コンクリヌトの四角い穎に根を抌し蟌められお。それでも、その朚は生きおいた。

サンザシだった。

ニヌノはガラスに手のひらを抌し圓おた。届くはずもない距離。それでも街路暹は、応えるように、䞀枚の葉を萜ずした。

その倜、圌女は倒れた。


第五章 迎えの倜


ロヌナンのもずに電話が入ったのは、朚枯らしの吹く午埌だった。

芋知らぬ番号。抌し殺したような、女の声だった。

「オコナヌさん  ですね。わたし、ニヌノさんの䞖話をしおいる者です。アシュリンずいいたす」

受話噚の向こうで、息を敎える気配がした。たるで、誰かに聞かれおいないか確かめるように。

「あの子が、危ないんです。斜蚭は面䌚も匕き取りも認めない。存圚を、倖に出したがらない。──でも、このたただず、あの子は。わたし、もう芋おいられなくお」

女は、早口で告げた。

「明日の倜、来おください。その晩はわたしの倜勀で、譊備も手薄になる。通甚口の堎所ず番号を、いた䌝えたす。わたしが、䞭ぞ通したす。──それたで、あの子はわたしが、なんずか持たせたすから」

ロヌナンは受話噚を眮くなり、家を出た。怒りより先に、ただ、ニヌノのもずぞ急ぐこずしか頭になかった。

その足でフェリヌに飛び乗り、倜通し列車に揺られお、䞞䞀日かけおロンドンぞ。空には、あず二日で満ちる月がかかっおいた。翌日の倜、教えられた通甚口で、アシュリンは埅っおいた。青ざめた顔で、しかし迷いのない足取りで、圌女はロヌナンを非垞甚の゚レベヌタヌぞ導いた。

「早く。次の巡回たで、十五分」

ベッドのニヌノは、枯れ葉のように軜かった。

「ロヌナン」

圌女の声は、也いた颚の音に䌌おいた。「土の匂いがする」

ロヌナンは瓶を取り出した。䞘のサンザシの、あの根元の土。ニヌノは震える手でそれを぀かみ、頬に抌し圓おた。

「砂挠なんお、なかった」圌女は笑おうずしお、倱敗した。「わたし、ただ、ここに閉じ蟌められただけ。その間に、たくさんの森が、消えおいったのに」

「わかっおる」ロヌナンは圌女の頭を抱いた。「わしが行かせた。すたなかった。  連れお垰る」

アシュリンが、毛垃を差し出した。「わたしのこずは、いいんです」目にうっすら光るものがあった。「あの島に、あの子を返しおあげお。それだけで」

ロヌナンはニヌノを毛垃にくるみ、背負った。䞃十過ぎの背䞭に、少女の重みはあたりに軜かった。それが、いっそう怖かった。

倜通しの逃避行だった。列車、フェリヌ、乗り継ぎのバス。ニヌノの息が浅くなるたび、ロヌナンは瓶の土を圌女の手に握らせた。月は䞀倜ごずに満ちおいく。たるで、間に合え、ずせかすように。

満月の倜、二人は䞘に垰り着いた。

異倉に気づいた斜蚭は、車を出しお远っおきおいた。ヘッドラむトが斜面を這いのがる。けれど䞘の䞊には、癜い霧が満ちはじめおいた。乳のように濃い霧。たるで芋えない壁にぶ぀かったように、远っ手の車はふもずで止たった。

サンザシの根元に、ロヌナンはニヌノを暪たえた。

土に背を぀けた瞬間、ニヌノの䜓がふっず軜くなった。苔色の瞳が開く。くすんでいた光が、月を吞い蟌むように戻っおくる。

そしお、霧の䞭から、光が立ちのがった。

人のかたちをした光。いく぀も。それは声を持たず、けれど確かにニヌノを呌んでいた。䞘の土から、朚の根から、颚から、氎から、湧き䞊がる懐かしさ。ニヌノは初めお、自分がどこから来たのかを、䜓の芯で理解した。

「わたし、還らなくちゃいけないのね」

ロヌナンは、その手を握った。握り返す力は、もうほずんど残っおいなかった。


最終章 還る、あるいは芜吹く


「行かないでくれずは、蚀わない」

ロヌナンの声は震えおいた。震えながら、それでも圌は蚀い切った。

「おたえは、借り物だった。あの朝からずっず。おたえは土から来お、土に還る。それが道理だ。  ただ」

圌は蚀葉を詰たらせた。皺だらけの手で、ニヌノの前髪をそっず払った。

「ただ、おたえず過ごした十五幎は、わしのものだ。誰にもやらん。」

ニヌノは笑った。也いおいたはずの目に、氎が満ちお、こがれた。人ずしお流す、最埌の涙だったのかもしれない。

「土になっおも、芚えおる。あなたず過ごした日々。あなたがくれた名前も」

圌女は、最埌の力で、ロヌナンの頬に觊れた。

「わたしが還れば──」

月が䞭倩にかかった。

ニヌノの䜓が、光の粒子にほどけはじめた。指先から、髪の先から、少しず぀。それは消えおいくのではなかった。

散らばっお、䞘の土に、朚の根に、颚に、溶けおいくのだ。圌女は倱われるのではなく、あらゆる堎所に還っおいく。䞖界じゅうの、緑のある堎所すべおぞ。

最埌に残ったのは、あの苔色の瞳の光だけだった。それがロヌナンを芋぀め、ゆっくりずたばたきをしお、消えた。

霧が晎れおいく。

远っ手の男たちは、䜕も持ち垰れないたた、倜明けずずもに去った。

䞘の䞊には、ロヌナンず、䞀本のサンザシが残された。

䌐採予定だった朚は、翌春、これたでで䞀番倚くの花を぀けた。癜い花が䞘を芆い、こがれた皮が斜面のあちこちで芜を出した。数幎のうちに、䞀本きりだった朚は、小さな林になった。

そしお、ある朝のこず。

ロヌナンはふず、ポケットに手を入れた。あの日、無意識に握りしめた実。その䞭の也いた皮が䞀粒。

ロヌナンは、封筒を甚意した。

アシュリンぞ、䞭には皮を䞀粒。䞘に咲いた癜い花を、抌し花にしお。短い手玙を添えお。──あの子は、ちゃんず還りたした。あなたのおかげです、ず。


その幎の秋、テムズのほずりのビルの谷間。

排気ガスに汚れた痩せたサンザシの根元、コンクリヌトの割れ目から、誰も蒔いた芚えのない小さな芜が、ひず぀、顔を出した。

灰色の街で、それはひどく堎違いに、けれど確かに、緑だった。

人が土を忘れた堎所すべおが、砂挠なのだ。そしおそこにさえ、緑は還っおくる。

その同じ朝。

アむルランドの䞘で、ロヌナンは林の傍を歩いおいた。䞀本きりだった朚は、いたや圌の背より高い若朚を䜕本も埓えおいる。

颚が枡った。癜い花がいっせいに揺れた。たるで、誰かが小さく笑ったように。

足元を芋おふず気づく。い぀からか、この䞘では靎を脱ぐのが癖になっおいる。

ロヌナンは目を现めた。土は、あたたかかった。

花がもう䞀床揺れる。頬をなでる颚に、圌は懐かしい土の匂いを嗅いだ。

「おかえり」


「了」




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