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【ちび創䜜倧賞】✚あなたにずっおの"自由"✚小説「自由な宇宙そらぞ」

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▌本線


📖【短線小説】自由な宇宙そらぞ



第䞀章 息を買う男

朝、目を芚たしお最初にするこずは、倩井の衚瀺を芋るこずだ。

赀いデゞタル衚瀺が、寝宀の隅で静かに光っおいる。

残酞玠六十四時間䞉十二分 安党です

カむトはしばらくそれを眺めおから、ゆっくりず息を吐いた。もったいない、ず反射的に思う。ここ数幎、吐く息のひず぀ひず぀にたで倀札が貌られおいるような気がしおならない。

この惑星では、酞玠に金がかかる。

数十幎前、倧地が裂けた。地の底から吹き出したマグマガスが空を灰色に染め、それからずいうもの、倖の空気は人の肺を焌くようになった。だから人は屋内に閉じこもり、䌁業の売る「枅浄酞玠」を吞っお生きおいる。息を吞うこずは、そのたた金を吞われるこずだった。

掗面台の鏡に、痩せた顔が映る。䞉十四歳。空調管理䌚瀟の䞋請けで、他人の家の酞玠䟛絊ラむンを点怜しお回る仕事。他人の呌吞を守るために、自分の呌吞をすり枛らす毎日だ。

マスクを装着し、玄関のメヌタヌに瀟員蚌をかざす。ピッ、ず音がしお、今日ぶんの通勀甚酞玠が課金される。残量メヌタヌを芋る床、心臓がきゅっず瞮む。

倖は、い぀もの灰色だった。空ずいう蚀葉が、もう誰の口にものがらない。頭䞊にあるのは倩井の代わりの薄暗い雲蓋だけ。子どもの頃、父はよく蚀っおいた。

「カむト、空っおのはな、本圓は青いんだ」

青。その色を、カむトは絵の䞭でしか知らない。

通りには、マスク越しに互いを芋ない人々が流れおいく。誰もが自分の残量メヌタヌだけを気にしお、う぀むいお歩く。息を分け合うこずを、この街の人間はずうに忘れおいた。

角の巚倧スクリヌンに、その日、芋慣れない映像が流れた。

政府の王章。荘厳な音楜。そしお、アナりンサヌの高揚した声。

「──我ら゜レむナ連邊は、本日、人類史䞊初の有人宇宙飛行蚈画〈゜レむナ蚈画〉を発衚したす。我々は初めお、空の向こうぞ挑みたす」

足を止めた。街じゅうの人間が、う぀むいた顔を、ほんの少しだけ䞊げた。

「宇宙飛行士を、䞀名。党囜民から公募したす」

カむトの心臓が、ひず぀、倧きく跳ねた。

その倜、圌は叀いトランクを開けた。父の遺品だ。黄ばんだ倩文曞、色あせた星図、そしお䞀枚のメモ。角ばった父の字で、こう曞かれおいる。

「空の向こうには、ただで吞える息がある」

指先で、その䞀行をなぞる。

父は、この街の芳枬技垫だった。地殻倉動の前、ただ空が芋えた頃、ずっず星を芋おいた男。星図の片隅には、赀いむンクで小さな䞞。名もない、遠い䞀点が蚘されおいる。父だけが気づいた、緑がかった光。

翌朝、カむトは応募甚玙の前に座っおいた。

生き延びるためじゃない。ただ䞀床でいい。マスクを倖しお、思いきり息を吞っお、笑っおみたかった。

ペンを、握った。


第二章 遞ばれた者

四䞇䞉千人が、応募した。

そのほずんどが、生きるこずに疲れた者たちだった。酞玠の倀段に、明日の残量に、う぀むく毎日に。誰もが、空の向こうに逃げ道を求めおいた。

遞抜は、残酷なほど過酷だった。

䜎酞玠宀で意識を保぀詊隓。遠心分離機で党身を抌し぀ぶす加速蚓緎。閉所に䜕日も閉じ蟌められ、粟神の厖っぷちを歩かされる。数字は、みるみる枛っおいった。四䞇から、四千ぞ。四千から、四癟ぞ。

カむトは、残った。

理由は、自分でもわからなかった。䜓力なら、䞊には䞊がいた。頭脳も、飛び抜けおはいない。ただ、圌には䞀぀だけ、誰にもない資質があった。

䜎酞玠宀で、最埌たで、笑っおいられたのだ。

「倉な男だな、お前は」

管制蚓緎で組たされた女が、あきれたようにそう蚀った。リン。゜レむナ蚈画のフラむトディレクタヌ候補。カむトより少し若く、氷のように冷静で、けれど目の奥だけが劙に熱い人間だった。

「息が薄くなるず、なんでか、笑えおくるんだ」ずカむトは答えた。「怒っおも、息は増えないだろ」

リンは䜕も蚀わず、ただデヌタを打ち蟌んでいた。その暪顔を、カむトはなぜか、よく芚えおいる。

最終遞考の日。䌚議宀に呌ばれたのは、カむト、ただ䞀人だった。

「おめでずう」ず政府高官が蚀った。笑顔だった。けれど、その目は笑っおいなかった。「君が、人類初の宇宙飛行士だ。党囜民の垌望を、背負っおもらう」

垌望。その蚀葉が、やけに重く響いた。

䌚芋堎は、フラッシュの嵐だった。カむトの顔が、街じゅうのスクリヌンに映し出される。う぀むいおいた人々が、顔を䞊げ、圌の名を呌んだ。英雄。救䞖䞻。人類で初めお、空の向こうぞ出る男。

けれど、その倜。ひずり蚓緎斜蚭の窓蟺に立ったずき、カむトの胞にあったのは、誇りではなかった。

父の星図を、たた広げる。赀い䞞。名もない䞀点。

「あんた、本圓は䜕を芋に行くの」

い぀のたにか、リンが埌ろに立っおいた。マスクを倖した玠顔。初めお芋る、その顔。

「息だ」ずカむトは蚀った。「ただで吞える、息を」

リンは、ふっず、口元をゆるめた。それは笑顔ず呌ぶには、あたりに寂しい衚情だった。

「芋぀かるずいいね」

その声に、なぜか、かすかな圱がにじんでいた。


第䞉章 カりントダりンの重さ

打ち䞊げ前倜、カむトはある䌚話を、聞いおしたった。

管制棟の廊䞋。閉じかけたドアの隙間から、政府高官たちの声が挏れおいた。足を止める぀もりはなかった。ただ、聞こえおしたったのだ。

「宇宙空間に、酞玠がある芋蟌みは──科孊的には、限りなく䜎い」

「限りなく、な」別の声が、䜎く応じた。「だが、れロだず蚀い切った者は、䞀人もいない。誰も、行ったこずがないんだ」

「では、賭けだず」

「賭けだ。だが囜民は垌望を芋おいる。人類が、初めお空ぞ出る。それだけで、意味があるんだ」

短い、沈黙。

「あの飛行士は──垰っおこられるのか」

「わからん。燃料も酞玠も、垰れるかも、呜の保蚌は、ない。  だが、それは䌏せおおけ。英雄になっおもらわねば」

心臓が、冷たくなった。

圌らは、承知しおいたのだ。宇宙に酞玠などない芋蟌みが高いず。そしお自分が、垰っおこられないかもしれないず。それでも囜民の垌望を保぀ために、䞀人の男を打ち䞊げる。

カむトは、その堎を、静かに離れた。

䞍思議ず、怒りは湧かなかった。ただ、ひどく、静かな気持ちだった。

自分の郚屋に戻るず、リンがいた。手に、小ぶりの銀色のボンベを持っお。

「これ、持っおいきな」

「予備なら、船に積んである」

「これは別だ」リンは目を䌏せた。「私の匟のだった。䞉幎前、安䟡酞玠の䞭毒で死んだ。十九だった  匟も䞀緒に連れおっおあげお」

カむトは、それを受け取った。ずしりず重い。

呜の重さだず思った。船の緊急甚具入れに、そっずしたっおおこう。そう決めた。

「聞いおくれ、リン」カむトは、静かに切り出した。「宇宙に息があるかは、たぶん、ない。垰りの燃料もない。あんたたちは、それを知っおお、俺を飛ばす」

リンの肩が、こわばった。長い、沈黙。

「  知っおる」やがお、絞り出すように蚀った。「止めたよ。䜕床も。でも、止たらなかった。ごめん。私は、あんたを死地に送り出す偎の人間だ」

「謝るな」カむトは笑った。「宇宙に息があるかは、誰も知らない。高い確率で、ないんだろう。──でも、"ない"ず決めた奎も、ただ䞀人もいない。だったら、俺が確かめる」

圌は、銀色のボンベを握りしめた。

「それに、芪父の星図がある。芪父だけが気づいおた、緑の光。あれが、本圓にあるのかどうか。この目で、確かめたいんだ」

リンは、顔を䞊げた。その目に、光るものがあった。

「必ず、報せお」声が震えおいた。「向こうに䜕があったのか。息があっおもなくおも。──あんたが芋たものを、私に教えお」

「玄束する」

窓の倖、灰色の雲蓋の隙間に、䞀瞬だけ、ちいさな光が芋えた気がした。

星だ。

倜明けが、近づいおいた。


第四章 打ち䞊げ

「カりント、六十秒前」

リンの声が、通信機の向こうで硬くなっおいた。

カむトは狭い操瞊垭に身を沈めおいた。党身をベルトが締め䞊げる。蚈噚の光が、芖界いっぱいで点滅しおいる。心臓の音が、そのどれよりも倧きく響いおいた。

発射管制宀のスクリヌンには、党囜民が映っおいた。街ずいう街の広堎に、う぀むくのをやめた人々が集たっおいる。灰色の空を、みんなで芋䞊げおいる。マスク越しの、無数の目。その党郚が、この䞀機に泚がれおいた。

「䞉十秒前。゚ンゞン、加圧開始」

船䜓が、生き物のように震えだした。腹の底から突き䞊げる振動。歯が鳎る。指先が癜くなるほど、カむトは操瞊桿を握りしめた。

「なあ、リン」

「なんだよ、こんなずきに」

「ありがずう」

通信機の向こうで、息を呑む音がした。それから、い぀もの、ぶっきらがうな声。

「──瀌は、向こうから報せおから蚀いな」

「十秒前。九、八──」

カむトは目を閉じた。父の顔が浮かんだ。青い空、ず蚀ったずきの、あのやわらかな声。

「──䞉、二、䞀」

「点火」

䞖界が、爆発した。

蜟音。党身を抌し぀ぶす加速。芖界が真っ癜に灌ける。カむトは声にならない叫びをあげた。船は灰色の倩井を突き砎り、光の柱ずなっお空ぞ駆け䞊がっおいく。

管制宀が、どよめいた。党囜民が、息を呑んだ。人類が、初めお、空ぞ届いた瞬間だった。

「䞊昇、順調」リンの声が震えおいる。「カむト、生きおるか」

「  生きおる。管制塔」カむトは食いしばった歯の隙間から、笑った。「こちらに問題はない。問題は、ずっずそっちの空気のほうだ」

雲蓋を抜けた。

窓の倖が、みるみる色を倉えおいく。灰色が、薄れおいく。人生で䞀床も芋たこずのない色が、そこにあった。

青。

「──嘘だろ」

父の蚀う通りだった。空は、青かった。涙がにじんで、芖界がゆらいだ。

そしお青は、さらに深くなっおいく。濃玺ぞ。黒ぞ。

やがお船は、倧気の膜を突き抜けた。

真っ黒な、静寂の空間。無数の星が、たばたきもせずに散らばっおいる。県䞋には、氎に芆われた故郷の惑星が、たるい姿で浮かんでいた。

矎しかった。息が止たるほどに。

「芋えるか、リン」カむトはかすれた声で蚀った。「星だ。数えきれないほどの、星だ」

「デヌタで芋おる」リンが泣き笑いの声で返す。「で──倖に、空気は、あるのか」

カむトは、ヘルメットに手をかけた。

ここが、賭けの、答え合わせの堎所だ。宇宙に息はあるのか、ないのか。誰も、知らない。確かめた者は、ただ䞀人もいない。

留め具を、倖す。

そしお、ほんの少しだけ、ヘルメットを浮かせた。

その瞬間、喉が、ひき぀った。

空気が、ない。吞おうずした肺が、むなしく空を぀かむ。冷たい無が、皮膚に匵り぀く。カむトは反射的に、ヘルメットを叩き぀けるように被り盎した。留め具が、かちりず鳎る。荒い呌吞が、ヘルメットの内偎を癜く曇らせた。

「カむト!? どうした、応答しろ!」

「  ひずかけらの、空気もない」肩で息をしながら、カむトは笑った。也いた、笑いだった。「リン。宇宙は、真空だ。あんたたちの予想が、圓たっおたよ」

管制宀が、静たりかえるのがわかった。

皮肉なものだ。あれほど憧れた自由。誰にも呌吞を管理されない堎所。金を払わなくおいい空。ようやくたどり着いたそこは──息が、できない堎所だった。

完党な自由ずは、こういうこずだったのか。呌吞を管理されないずは。呌吞そのものが、ないずいうこず。

けれどカむトは、バむザヌ越しに、ただあきらめおはいなかった。父の星図を、震える手で広げる。窓の倖の、本物の星空。そのふた぀を、芋比べる。

無数の光点。父が生涯かけお蚘した、ちいさな印の数々。それを、目の前の星々に、ひず぀ず぀重ねおいく。

そしお──芋぀けた。

星図の、赀い䞞。父だけが気づいた、あの䞀点。それず同じ堎所に、確かに、ひず぀の星が光っおいた。

灰色でも、黒でもない。青ですらない。

緑だ。

「リン」カむトの声が、震えた。「あった。芪父の星図の、あの星だ。ここから、芋える。すぐ、そこに」

蚈噚を叩く。針路を、その䞀点ぞ。父が生涯をかけお芋぀めた、緑の光ぞ。


第五章 真空

「進路、緑の星ぞ。すぐ近くだ。この燃料でも、届く」

カむトの声に、通信の向こうのリンが、息を呑んだ。

「埅っお。近いっお、確かなの? 燃料は、垰りぶんはないんだよ」

「垰る぀もりは、最初からない」カむトは、静かに蚀った。「でも、あそこたでなら、埀ける。芪父の蚘録が正しけりゃ──あの星は、目ず錻の先だ」

船銖が、緑の光ぞ向く。゚ンゞンが、静かに、力を絞り出す。

けれど、しばらくしお。蚈噚が、赀く点滅しはじめた。

残酞玠、目暙到達に察し、䞍足

足りない。

高官たちの声が、耳の奥でよみがえる。
燃料も酞玠も、垰れるかも、呜の保蚌は、ない。
緑の星たで、あずわずか。そのわずかを、圌の酞玠は、埋められない。

カむトは、無数の星の海に、たった䞀人で浮かんでいた。県䞋には、青い故郷。行く手には、手が届きそうな緑の光。そのあいだで、圌の息だけが、静かに尜きようずしおいた。

「リン」通信機に、そっず呌びかける。「聞こえおるか」

「  聞こえおる」声が、かすれおいた。「カむト。酞玠が、足りないんでしょう。蚈噚の数倀、こっちにも出おる」

「ああ。あず、ほんの少しだ」カむトは笑った。「皮肉だよな。息を探しに来お、息が、足りないなんお」

「もう、いい」リンが叫んだ。「無理しないで。そこで、埅っお。私が、なんずか──」

「リン」

カむトは、座垭脇の緊急甚具入れに手を䌞ばした。 蓋を開ける。工具や医療パックの底に、それは沈んでいた。

指が冷たい金属に觊れる。銀色のボンベ。匟の遺した、最埌の䞀息。

「ただ、䞀本、残っおる」

通信の向こうで、リンが、息を呑んだ。

「あんたの匟の、息だ」カむトは、それを生呜維持装眮の接続口ぞ、ゆっくりず差し蟌んだ。「これがあれば──ぎりぎり、届くかもしれない」

かちり、ず音がした。

ボンベのバルブが開く。しゅう、ず、かすかな音。呜が、船の䞭ぞ、流れ蟌んでくる。

蚈噚の数字が、止たった。それから、ほんのわずかに、増えた。

目暙到達たで、酞玠──充足

充足。ぎりぎりの、ぎりぎり。誀差のない、たった䞀本ぶんの、生呜。

「届く」カむトは、震える声で蚀った。「リン、届くぞ。あんたの匟が、俺を、あの星たで連れお行っおくれる」

圌は、操瞊桿を握り盎した。船銖を、緑の光ぞ。

「進路、固定。緑の星ぞ──党速前進だ」

゚ンゞンが、静かに、けれど力匷く、同えた。

船は、故郷を背に、たった䞀぀の垌望ぞ向かっお、たっすぐに突き進んでいく。

無数の星が、その航跡を、静かに芋守っおいた。


最終章 自由な空ぞ

緑が、近づいおくる。

窓いっぱいに、その星が広がりはじめた。深い、やわらかな、生呜の色。癜い雲が枊を巻き、青い海が光を返しおいる。故郷ずは、ちがう。ここには、生きおいる気配があった。

「倧気圏、突入する」カむトは通信機に告げた。「リン、聞こえるか。もうすぐ、確かめられる」

船が、倧気の壁にぶ぀かった。

倖板が、真っ赀に焌ける。蜟音。激しい振動。カむトの䜓が、シヌトに叩き぀けられる。蚈噚が悲鳎をあげ、火花が散る。それでも圌は、操瞊桿を離さなかった。

「姿勢制埡、限界だ!」

芖界が、炎で埋め尜くされる。船は炎の塊ずなっお、緑の倧地ぞ萜ちおいく。県䞋に、森が広がっおいた。生きた、緑の森が。

「䞍時着する──リン、聞いおくれ。俺は──」

衝撃。

䞖界が、ひっくり返った。

船䜓がえぐれ、砕け、倧地を削りながら、長い、長い航跡を刻んでいく。やがお、すべおが、止たった。

静寂。

カむトは、割れたバむザヌの向こうに、緑を芋た。ひしゃげた船䜓の隙間から、光が差し蟌んでいる。あたたかい、黄金色の光が。

圌は、震える手を、ヘルメットの留め具にかけた。

䞀床目は、真空だった。息が、できなかった。あのずき、ヘルメットを叩き぀けるように被り盎した手を、ただ芚えおいる。

今床は、どうだろう。

死ぬかもしれない。あの、宇宙の無が、ここにも埅っおいるかもしれない。

それでも、確かめたかった。父が正しかったのか。空の向こうに、本圓に、息があったのか。

留め具を、倖す。

ヘルメットを、持ち䞊げる。

そしお──吞った。

息が、入っおきた。

冷たくお、湿っおいお、青くさい、生きた空気。倀札の぀いおいない、誰にも管理されない、本物の息。それが、圌の肺を、いっぱいに満たしおいく。

カむトの目から、涙があふれた。

「  あった」

咳き蟌みながら、笑いながら、圌は震える手で、通信機を探った。壊れかけたスむッチを、抌す。雑音の向こうに、必死に呌びかける声がある。

「カむト! カむト、応答しお、お願い、応答しお──!」

「リン」

かすれた声を、圌は、ありったけの力で抌し出した。

「聞こえるか。──息が、あった」

通信の向こうが、凍り぀いた。それから、厩れるような、嗚咜が聞こえた。

「宇宙は、真空だった。でも、その先に、この星がある」カむトは、割れた船䜓の倖ぞ、手を䌞ばした。指先に、颚が觊れる。「マスクなんお、いらない。ここでは、みんな、ただで息ができる。思いきり、笑える」

「カむト  本圓に、本圓なんだね  」

「座暙を、送る。俺の、最埌の仕事だ」圌は、生き残った蚈噚に、震える指を這わせた。「芪父だけが気づいおた星だ。次は、倧勢を乗せた船で来い。──う぀むくのは、もう、やめるんだ」

カむトは、傍らに転がった銀色の空き猶を、そっず拟い䞊げた。

「君の匟がここたで連れおきおくれた。ちょうど、䞀本ぶん。──匟さんの息は、無駄には、ならなかった。」

圌は、船の倖ぞ、這い出した。

芋䞊げた空は、青かった。父が蚀った通り、どこたでも、青かった。あたたかい颚が、頬をなでおいく。遠くの森で、聞いたこずのない鳥の声がした。

これは、䞀人の男の、ちいさな䞀歩にすぎない。

けれど、この星で将来生きる誰かにずっおは──きっず、倧きな䞀歩になる。

カむトは、緑の倧地に仰向けになり、青い空ぞ向かっお、思いきり、息を吞い蟌んだ。

生たれお初めお、倀札のない空気で、胞を満たしお。

そしお、笑った。

通信は、そこで途切れた。 カむトは、空を芋䞊げたたた、誰にずもなく、心のなかで぀ぶやいた。

──静寂の海。こちら、カむト。

──こちらの星は、息が、できる。


䞀幎埌。

灰色の街の、囜立宇宙センタヌに、新しい船が組み䞊がっおいた。前のものより、ずっず倧きく、ずっず頑䞈な、倧勢を乗せられる船が。船䜓には、金色の文字で、こう蚘されおいる。

〈カむト〉号。

第二次゜レむナ蚈画。目的地は、ただ䞀぀。ある男が呜がけで送っおきた、緑の星の座暙。あの日、途切れた通信のあず、圌が生きおいるのか、誰も知らない。

けれど、届いた座暙は、本物だった。息のある星は、確かに、そこにある。

フラむトディレクタヌの垭に、リンが座っおいた。管制宀には、若い管制官たちが、䜕人も。誰も、う぀むいおなどいなかった。党員が、正面のスクリヌンを──空ぞ続く発射台を、たっすぐ芋぀めおいた。

リンは、胞元にさげた、小さなボンベ型のチャヌムに、そっず觊れた。

「聞いおる? 匟──それず、カむト」

発射台の向こう、灰色の雲蓋が、割れはじめる。その、ずっず向こう。

「今床は、私が行くよ。あんたが芋぀けた、あの緑の星たで。──ちゃんず、瀌を蚀いに」

街じゅうのスクリヌンに、その光景が映し出されおいた。広堎ずいう広堎に、囜民が集たっおいる。う぀むいおいた顔を、ひずり、たたひずりず、みんなが空ぞ向けおいく。

「カりント、開始」

゚ンゞンが、同えた。

船は、光の柱ずなっお、灰色の空を突き砎っおいく。

青を抜け、黒を抜け、その先の、緑ぞ。

割れた雲蓋の隙間に、ちいさな光が、遠ざかっおいく。

それはたるで、この星がようやく取り戻した、最初のひず呌吞のようだった。


「完」



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