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#162 村十分|ショートショート

親の代までは村八分。しかし俺は、村十分にされてしまった。

八分ならまだ救いがあった。火事と葬式だけは仲間に入れてもらえた。だが十分は、会話はもちろん、買い物も、水道も、電気も、舗装された道を歩くことさえも、すべて禁止だ。

「存在しないものとして扱え」 それが村のルールだった。

最初はつらかった。誰も目を合わせてくれない。声をかけても空気のように無視される。夜、一人で冷たい水を川から汲み、焚き火で暖を取る毎日。だが、そのうち慣れた。むしろ静かでいいと思い始めた頃、村のスピーカーが突然鳴った。

「緊急放送。緊急放送。明日の祭りで外部からの監査が入る。人口減少による補助金打ち切りの危機だ。直ちに『村十分』を解除すること」

翌朝、役場の前に集まった村人たちが俺のボロ屋にやってきた。昨日まで影も踏ませなかった連中が、笑顔で手を振ってくる。

「やあ、久しぶり!」


「今日は祭りだ。お前も参加しろよ」

俺が戸惑っていると、村長が小声で耳打ちしてきた。

「監査員に『過疎で一人減った』と見られたら終わりなんだ。お前を一時的に村人に戻す。今日一日だけだ」

俺は「わかった」と了承し、「昔の資料が見たい」と役場に寄ってから久々の祭りを楽しんだ。

監査が終わると、俺は再び透明人間に戻った。

そこから数か月が過ぎた夜、村に事件が起きた。下りたばかりの補助金が、金庫から丸ごと消えたのだ。

翌朝、血相を変えた村長が俺のボロ屋に踏み込んできた。




「お前、やりやがったな!」

村長が怒鳴り散らしたが、俺はただ静かに、白湯をすすりながら見つめ返した。

「もし俺を警察に突き出せば、隠蔽していた村十分の異常性と、不正受給の事実が公になる。第一、お前らのルールに従うなら、俺はこの村に存在すらしてないだろ? 存在しない者が、盗みを働くことなどできるはずもない」

村長は拳を震わせ、苦虫を潰したような顔で息を呑んだ。

背を向けてすごすごと帰っていく村長の様子を眺めながら、俺は足元に置いた重い鞄の感触を確かめた。

透明人間として生きてきたのも、案外悪くないかもな。そう思いながら、大きな街を目指して山道を歩き出した。

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