セレン欠乏のリスク ―「誰を測るか」
前回は症状とセレン欠乏症の診断基準をまとめました。
微量元素欠乏を診断するためには、さまざまな症状が出るので、リスクを適正に把握して、症状を捉えることが重要だと考えています。亜鉛・銅と基本的には同じですが、リスクと症状を把握して採血での評価をします。気をつけることは、保険適応としての基準は厳しいこと、炎症との兼ね合いです。
診療指針・ESPEN・集中治療領域の知見を統合すると、リスクは次の通りです[1-4]。食事摂取基準2025には、あまりリスクについては書いてありません[5]。

1.なぜこの患者たちなのか
・静脈栄養:セレンは古くからTPNでの欠乏が報告され、心筋症で死亡した症例もあります[4,6]。セレンが添加されていない輸液を長期に使うと確実に枯渇します。一般的には、セレンは50-70 μg/日の摂取、静脈では60-100 μg/日が必要とされています。
ESPENのガイドラインでも、2週間以上PNで管理されている方や在宅PNの患者では、CRPとともに測定を推奨しています。少なくとも3-6ヶ月に一回の測定が推奨されています[2]。
・熱傷:セレンの喪失が多く、点滴補充により創傷の改善や感染の低下に寄与するかもしれません [2]。
・持続的腎代替療法:capillary leakによる間質移動、希釈、CRRTでの喪失が重なり、銅とともにセレンが特に低下しやすい組み合わせです[1]。
2.ポイント
亜鉛・銅と同じで、「本来は、症状が出てからでは遅い」と考えます。特にセレンが投与されていない静脈栄養患者では、リスク患者では症状がなくても定期測定する習慣を持つことが重要です。ただし、金額・保険適応・スピッツの問題から安易に測れないのでその辺も考慮してオーダーするようにしてください。
セレンの採血について
1. 保険点数(令和8年度 診療報酬点数表 D007 血液化学検査)
1点 = 10円。

包括ルールは長くなるので無視していますが、医療費としてはこれだけかかります。実際の契約の金額はわかりません。業者の方に研究で測定したいと交渉したときは、1検体3000-5000円と言われたので、測定すると赤字になることが想定されます。
3. 実務上の煩雑さ
3-1. 結果が返るまでの時間

おそらくですが、セレンは検体数が少なくまとめて測定しているため、ある程度検体数がたまらないと測定してくれないのではと考えています。3日で来ることもあるし2週間以上かかることもあるので、検体数が増えるともっと使いやすくなるのではないかと考えています。
3-2. 検体の取り扱い
セレン:金属コンタミネーション対策の専用容器が必要(LSIメディエンスでは「金属用血清容器」容器番号68)。
亜鉛:採血後すみやかな血清分離が必須(SRL)。分離遅延や溶血で偽高値となる。
冷蔵保存はセレン3週間、亜鉛1ヵ月と比較的安定。
3-3. 施設間・測定法の不統一(多施設研究での障害)
セレンは施設により ICP-MS と原子吸光分光光度法が混在し、基準値の単位表記も μg/dL(10.0〜16.0)と μg/L(107〜171)で分かれているようです。私は前者しか見たことがないです。
3-4. 保険算定要件 ― セレンはルーチンの栄養評価としては使用できない。
セレンの算定は次に限定されているため、測定時に制限があります。特に成人では、長期静脈栄養しかほとんどの場合適応にならないので注意が必要です。
長期静脈栄養管理もしくは長期成分栄養剤を用いた経腸栄養管理を受けている患者、人工乳または特殊治療用ミルクを使用している小児患者、または重症心身障害児(者)に対して、診察及び他の検査の結果からセレン欠乏症が疑われる場合の診断及び診断後の経過観察を目的として実施した場合に限り算定する
次回は、実際の採血、いつ・何を・どう読むか(CRP補正とカットオフ)を解説します。
参考文献
[1] Karunakaran V, Harding K, Sarnowski A, Walter E. Trace elements: Clinical perspectives in the critically ill. J Intensive Care Soc. 2025;26:223-36. https://doi.org/10.1177/17511437241305269.
[2] Berger M M, Shenkin A, Schweinlin A, Amrein K, Augsburger M, Biesalski H K et al. ESPEN micronutrient guideline. Clin Nutr. 2022;41:1357-424. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2022.02.015.
[3] 脇野 修 児, 吉田宗弘, 姫野誠一郎, 小山 洋, 末冨 建, 佐野元昭, 樋本尚志, 増本幸二, 井之上寿美, 小沢 浩, 功刀 浩, 浅桐公男, 田中芳明, 曹 英樹, 位田 忍, 柳澤裕之. セレン欠乏症の診療指針2024. 日本臨床栄養学会雑誌 第46巻 第4号 2024. 2024.
[4] Nakamura K, Yamamoto R, Higashibeppu N, Yoshida M, Tatsumi H, Shimizu Y et al. The Japanese Critical Care Nutrition Guideline 2024. J Intensive Care. 2025;13:18. https://doi.org/10.1186/s40560-025-00785-z.
[5] 日本人の食事摂取基準(2025年版): 第一出版, 2025.
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