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あついだけ

終わった 


玄関を開けた瞬間、生暖かいゴミの匂いとカビの混ざった空気が喉に張り付く。エアコンの効かない6畳間で、衣装のフリルだけが妙に白く浮いている。

今日のフェス、最高だったねってSNSで言わなきゃいけない。でも、引きつったまま固まった頬の筋肉が、ピクピクと痙攣して元に戻らない。カメラに向け続けたあの歪んだ笑顔のせいで、奥歯の噛み合わせがおかしくなっている。

パンパンに腫れた足をローファーから引き抜いたとき、鋭い痛みが走った。
靴の底に、赤錆びた画鋲が一本、上を向いて転がっている。
ストッキングにじわじわと滲む赤いシミ。誰がやったのかなんて考えるのも怠い。ただ、あのクソ暑いステージの上で、血を滲ませながら「みんな大好き!」と叫んでいた自分が、どうしようもなく惨めで、滑稽で、吐き気がする。

視線を上げると、万年床の脇に積み上がった段ボール箱。
- 今日配りきれなかった分
特典会でも誰も受け取らなかった分
あの、私たちの曲が入ったプラケースの山。ジャケットの私は、今日と同じ引きつった笑顔でこっちを見ている。一枚数百円のプラスチックの塊が、私の命を削って作られたゴミのように思えて仕方がない。

誰でもいい。 
この血の匂いと汗のベタつきごと、私を丸ごと抱きしめて「お前が一番だよ」って、嘘でもいいから脳が溶けるまで囁いてくれないかな。
痛む足を引きずって、明日もまた、あの汚いステージの上で安っぽい笑顔を振りまくしかないんだから。

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