異国の地で、私をホッとさせてくれたあの曲 #4 チェコのクリスマスソング”Vánoční “ ft. Karel Gott (by Kryštof)
ベルリンの壁崩壊以前、ヨーロッパのハートに位置しながらも、中欧ではなく東欧と括られたチェコ。人口僅か1000万のその小国の小ぢんまりと家族的な芸能界において、唯一無二”GOD”のように崇められたカリスマが、歌手のカレル・ゴットでした。
昨今の我が国の葬送に例えるならば、”我が巨人軍は永久に...”のミスター長嶋茂雄のような国民的英雄、カレル・ゴットの他界は、チェコでもスロヴァキアでも、東欧〜中欧へと時代を跨いで苦楽を共に歩んで来た国民にとって、どっぷりと感傷に浸る惜別になりました。2019年秋、落葉樹が色づき始めた頃、チェコスロヴァキア芸能界史上最大のスーパースターは、彼のみが背負い得た主役の大役と、80年間の天寿を華麗に全うし、最期の最後まで燻し銀のオーラを放ったまま、結局、そのシルバーの煌めきマシマシのギンギラ銀に色褪せぬまま、旅立って逝きました。
最たる巨星を失った小さな国の大きな喪失感と同時に、冷酷な秘密警察が暗躍したクールな暗黒時代にさえ、失望のドン底に希望の唄を届け、民衆の心をホットに癒し続けてくれた大御所への感謝と慈愛に、チェコもスロヴァキアも満ち溢れました。
そんな空気を空想していたかのようなカレル・ゴット自身の、空前にしたたかなクリスマスプレゼントが、この”Vánoční”です。
彼を慕ったKryštofが、カレル・ゴットとデュエットしたこのクリスマスソングは、実は、あらかじめ生前にゴット自身がレコーディングを済ませ、自らの没後に集大成の大トリを飾ってリリースするようにプロデュースした、いわば自作自演の冥土の置き土産なのです。
ところが、普段の賑やかなクリスマスと打って変わって、サンタの代わりに思いがけずやって来たコロナめとやらに、チェコの国民も思いがけず自粛を強いられます。しかし、そんな2020年コロナ禍のチェコの幻冬さえも見透かしていたように、この曲は、ホットココアの如く冷め切った民衆のハートを温めてくれました。カレル・ゴットが民衆に捧げし粋なファイナルワンは、しっとりスウィートなスポン地に、ほんのりビターな人生の苦味を感じさせるブラックチョコレートをサラッと塗ったような、それでいてなんとなくホッとする、どことなく懐かしい味わいのチェコ語の名曲に仕上がっています。
1348年にボヘミア王・ローマ皇帝、カレル四世が創建した国立カレル大学傘下のチェコ語学校(ÚJOP)に、私自身は通っていた時季でしたが、初秋からオンライン授業に移行し、周囲との関わりが制限された日々の中で、自然と部屋で音楽を聴き流す時間も増えていきました。ニッポンからのリモートワークや日々の宿題を、淡々と嬉々としてこなし、PCにスピーカーを繋いでは、ドヴォルザークのスラブ舞曲やスメタナの交響詩・我が祖国・モルダウ《ブルタヴァ》でプラハ暮らしのムードを煽り、ひと段落ついて、テレビのチャンネルを地元のMTVに合わせると、毎日何度も何度も、この”Vánoční”のビデオクリップが放映されていました。その度に、私のチェコ愛もググッと高められし、ボヘミアの真冬の記憶が蘇ります。
クリスマス休暇前、最後のオンライン授業にサプライズで登場して来た女校長先生が、クリスマス季の雰囲気を盛り上げようと、チェコ語のリスニングに流してくれた一曲も、やはり、この”Vánoční”でした。
ちなみに、チェコ語でクリスマスはVánoceですので、Vánočníは”クリスマスの”(唄)を意味する形容詞で、ヴァーノチュニーみたいに発音します。メリークリスマスは”Veselé Vánoce(ヴェセレーヴァーノツェ)@@/“と謳います。無宗教の私のような日本人が、せめて大晦日〜元旦くらいは神社に参拝するように、普段、滅多に教会を訪れないチェコの若者達も、この時季ばかりは、恋人とのデートの余興に、お祈りに出掛けて行きます。
秋が深まって来ると、終日どよんと淀んだ灰色の雲に覆われ、そんな曇り空が、クリスマスシーズンを挟んで春先まで延々と続くのだから、せっかくの欧州生活も、なかなかカラッとニッポンの秋晴れのようには参りません。それでも時々、気まぐれな御天道様が顔を出し、青空が広がって来るあの瞬間の、あのホッとしたキモチの移り変わりと陰陽のコントラストも、今となっては、懐かしく恋しいチェコ生活の思い出の風景となっています。
そんな曇天続きの異国の地でも、微塵も孤独を感じさせないで、私をホッとさせてくれた者は、暫時ながらも一つ屋根の下で一緒に暮らしたチェ娘の恋人であり、クールながらも直球勝負の大胆なブルーハートや、もっちりグラマラスな肌の温もりのお陰であった事は間違いありません。
結局、なんだかんだ我が祖国・ニッポンに戻って、なんだかんだ多忙な昨今ですが、なんだかんだいろんな感情を味わった一日の終わりに、チェコやチェ娘を思い出しながら寝床でこの曲を聴くと、やはりホットチョコレートのように心底からホッとして、眠りに落ちることが出来ます。
来たる年の瀬は、スポーツ関連のチェコ語のオンライン会議で仕事納めになりそうですが、当面、チェコ語と英語と専門用語の言い回しと葛藤し格闘するウィンターミーティングの日々が、春先まで断続的に続きそうです。淡々と黒子に徹する幸せな闘いの果てに、フワッと春一番が吹きますように。では、Veselé Vánoce@@/



※カバー写真はドイツとの国境の街・CHEB(ヘプ)
