『天国それともラスベガス』のイギリス巡礼旅行:UKディープハウスシーンに触れる旅
1.「そうだ、イギリス行こう」
いやそんな簡単な決意じゃなかったです。それは僕が20年以上応援している一番好きなディープハウス系レーベル・Freerange Recordsが、30周年記念パーティをイギリスのHerdという店で開催するというニュースをきいた直後のこと。

開催日は6/13。11まで仕事が詰まってるけど、12朝に出発すれば間に合う。
渡航費。なんとか用意できそう。
休み。1週間ならなんとか。
気がつけばイベントのチケットをオンラインで買っていました。このチャンスを逃したら、次の40周年は10年後です。リスナーとして、DJとして、そして近年はハウスのプロデューサーとして憧れてきたUKのディープハウスシーンに触れるまたとないチャンスの到来です。
これは巡礼の旅。遠い道程を越えて触れたいシーン、会いたい人がいます。行かなければ。
2. 準備を重ねていたら、意味を重ねていた
いまどき海外旅行の準備といえば、ChatGPTを壁打ち相手にしての計画立案です。何でも覚えてくれるし、リストに整形してくれるし、疑問については調べてくれるし、今回とても助かった。
そして何でも答えてくれるChatGPTと1ヶ月の準備を重ねていたら、自然と僕は自分の旅にどんどん意味を重ねていました。「巡礼」というキーワードもそのひとつ。
ヨーロッパで巡礼といえば、キリスト教の三大巡礼地のひとつ、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラが有名ですよね。その巡礼者は、旅の目印や象徴としてホタテ貝を身につけるそうです。

”Vieira Camino de Santiago.jpg” by Retama
Wikimedia Commons - GNU General Public License v2.0 or later
そこで僕もスーツケースに、ホタテ貝を元にレイモンド・ローウィがデザインした、シェル石油のロゴステッカーを貼ろうと思いました。ローウィがこのロゴをデザインしたのが1971年。それは僕の生まれ年でもあります。

シェルのマークにも意味があります。シェルという社名の由来は、創業者とされるマーカス・サミュエル・シニアが東アジアからロンドンへと輸入していた珍しい貝殻にあって、その商売が後の輸出入事業へ、そして石油事業へとつながっていったそうです。
東アジアからロンドンへ貝殻を運ぶという流れは、日本からイギリスへ向かう僕の旅とも重なります。 特に今回選んだフライトはトルコ航空でイスタンブールでの乗り継ぎ便。昔の東西交易路を、空から追体験する感じ。自作のディープハウスを、東京からイギリスを含むヨーロッパや世界のクラブシーンに届けたいという、僕の野望とも重なっちゃう。
ロゴステッカーの購入はオンラインでした。こうして1ヶ月、準備と意味と象徴を重ねた末、2026年6月12日の朝4時半に、僕は巡礼の旅に出ました。

Photo: ©2026 Spinnage / Hideo Teramoto
3. Bedford:Freerangeに会いに行く
フライト高すぎて直行便とか無理だけど、絶対に6/12のうちにイギリスにつかなきゃならない…ということで選んだルートが、成田から朝10時半の便に乗り、13時間でイスタンブール→乗り換え1時間半→ロンドンまで4時間…という針の穴を通すようなルート。

Photo: ©2026 Spinnage / Hideo Teramoto
幸運にも遅延はなく、定刻通りにロンドン・ヒースロー空港につき、パディントン駅近くのホテルに着いたのが現地時間の6/12夜11時過ぎ。ギリギリ。

時計は22時52分を表示してる。
Photo: ©2026 Spinnage / Hideo Teramoto
なんたって今回はUKディープハウスシーン巡礼の旅なので、余計なノイズは脳にいれないぞと巡礼者風のストイックさを徹底。行きの飛行機では一切映画もTVも観ずに、寝る or スマホにダウンロードしてあったディープハウスDJミックスを聴いていました。
真横にいるトルコ人の男の子2人組が機内モニターで超面白映画こと『インターステラー』とか、画面が派手な『チェンソーマン・レゼ編』とか観ててめっちゃ気が逸れたけどがまん。目を三角にしたフライトの末、ホテルに着いた頃にはへとへとでした。シャワー浴びて即寝。
ホテルで一晩=6時間休み、もう1度シャワーを浴びたら、次はいよいよFreerange 30周年イベントの開催される店・Herdのある街、Bedfordへ。Bedfordの街はロンドンから北、セントパンクラス国際駅から電車で1時間くらいのところにあります。

Photo: ©2026 Spinnage / Hideo Teramoto



ホテルにチェックインした後、夕方にはHerdにつく。オープニングDJのかけるディープハウス(いきなり超好み)で身体を揺らしていたら、後ろから「ヒデオ!ウェルカム!」と声がした。
いままで僕がInstagramやEchioでやりとりしていた、UKディープハウスの重鎮であり、Freerange Recordsのボス、Jimpsterがハグしてくれました。その横には、もう20年以上Freerange Records ポッドキャストでDJを披露していて、自身もトッププロデューサーのひとりであるMatt Mastersがいて。
パイントでビール飲んで談笑。憧れていた世界がここにある。え?逆に現実が無理だが?


…とここで、写真の記録は切れています。
というのも、僕は突然ここで高熱を出し、ガタガタ震えだしたのです。ここ数年なかった超絶体調不良。踊っていられたのは3時間、夜の8時9時にはもう立ってもいられなくなり。Jimpsterのプレイ(ほとんど座って聴いてた)のあとはもう無理と判断してホテルに戻りました。苦渋。こんな苦い苦渋があるのかっていうくらいのビターな苦渋の決断。
朝4時まで続いたというイベントの最後まで居られなかったのは本当に本当に本当に残念でしたが、それでも、僕がずっと憧れてきたUKディープハウスシーンに確かに触れることができました。それだけは凄く良かった。
この夜に残った悔しさは、旅の失敗ではなく、次に戻ってくるための宿題になりました。
4. Reading:GDRと、次に戻る場所
発熱と体調不良が続く中、なんとかスーツケースかかえて、今度はロンドンから西に電車で30分ほどいった場所にある街・レディングを目指します。


かつてはホンダのUK支社があったらしいレディングの街。僕にとっては、僕が月イチでハウスのDJ mix番組『Spinnage: Far East Session』をもってるコミュニティネットラジオ局・Gold Dust Radioの街を意味します。
縁と縁が重なって2025年の9月から番組を持っているのですが、その縁をより強固にしたかったんですよね。だからここも巡礼地のひとつ。体調不良の僕を支えてくれ、スーツケースに貼ったシェルのマークよ…。
そしてついに僕はレディングのカフェで、Gold Dust Radioのボス、Deanoと会えました。いままでWhatsappやメールではやりとりしていたんですが、やっぱり直接会うのは違いますね!

同世代ということもあって会話も盛り上がる。東京とレディングの距離が一気に縮まる。お土産にロゴ入りキャップとTシャツをもらい、僕からは「今度はDJしにくるよ」と約束して別れました。
約束しちゃったもんね。これはまた行かなきゃいけない、帰らなきゃいけない文脈ができました。
5. ロンドン・リベンジ
旅の後半の2日間は、「大英博物館」と「テートモダン」に費やしました。
僕は過去に仕事の出張でロンドンには4回くらい来ているのですが、なんたって仕事の出張なのでどちらも行ったことなかったんですよね。なので人生の宿題として残っていた場所でした。リベンジです。
僕は博物館や美術館を回るときは「1日1館ずつ」というルールを決めています。いくつも梯子するより、1つをしっかり時間をかけて見て回るスタイルですね。
ということで月曜日は大英博物館only。とはいえまだまだ体調が良くなかったので、無理せずピンポイントで見たいものだけ観てきました。大量のステム音源素材の中から自分なりのストーリーを組んでリミックスを作るように、大量の収蔵品(そもそも大英博物館は1日でも回りきれない博物館です)から選んだいくつかの展示のうちの1つがこちら。

ロゼッタストーン(本物)です。レプリカは三鷹にある中近東文化センターですでに予習していたのですが、本物は厚みが違った。3つの言語が併記されたその石碑は、言語の境界と時間の境界を越えて何かを伝えようとする古代の想いが詰まっています。
僕は1983年に国連が定めた「世界コミュニケーション年」(NHKのテーマ曲はYMOの『以心電信』でした。なんとときめくタイトル!)に子供心を射抜かれています。境界を越えて何かを伝えたいという動機は、僕のハウスミュージック制作の根底にも流れています。そのことを再発見しました。
あ、ちなみにこれはロゼッタストーンの裏。どんな資料集にもあんまり載ってない角度をおたのしみください。こういうところにも実物を見る意義がある。

そして火曜日は『テートモダン』に行きました。「テート」シリーズの美術館の中でも、元発電所の建物、なかでも両翼の建物を結ぶタービンホールが格好いいとされているものです。うん。確かにそれは格好良かった。


テートモダンで気に入ったのは、メキシコのアーティスト、ミネルヴァ・クエバスの「 Dodgem Shell」(2000年)。石油メジャーのロゴをつけたバンパーカーがぶつかりあう遊園地の遊具を写真と実物で表現した作品。


まさかのここで、ホタテ貝のモチーフ、シェルのマークと再遭遇ですよ。印象に残るしかない。
しかもここでは、どちらかというとシェルのマークに批判的なメッセージがこめられています。僕には、現地を置き去りにした石油メジャーの力が可視化されているように見えました。
美術作品からマスプロダクトまで、99.9999%の「制作物」には何らかの想いが籠もっている/籠もっちゃうものです(と僕は信じています)。テートのコレクションを時間をかけて眺めながら、自分の曲作りについても思いを馳せていました。あー、そろそろ帰ってDAW(作曲ソフト)触りたくなってきた!
ひさびさに気持ちも食欲も戻ってきたので、その夜はレディングの街でレバノン料理を食べにいきました。この鶏肉の串焼きプレート美味しかった。

ふりかえってみると、イギリスの食事、鶏もも肉がぜんぜん出てこなくて胸肉ばっかりだったな。鶏もも肉は、翌日の昼に食べた、ベトナム人がやってる店でフォーを食べたときの1回のみ(嬉しかったのでめっちゃ覚えてる)。
こういう違いが面白いんですよね。
6. 最終日ってやつのメッセージ性ときたら
最終日は、レディング駅前からバスに乗ってヒースロー空港に行って帰るだけ。なので午前中は、このレディングの街の観光スポットでもあるReading Abbey(レディング修道院)跡にいきました。12世紀に遡る遺跡だそうです。


そしてここにもまたホタテ貝もモチーフ。サンティアゴ・デ・コンポステーラでそうであったように、このホタテはヤコブ信仰のマークでもあります。

ヤコブは、JacobやJames、Jamieといった名前のルーツです。そして僕が今回巡礼したFreerangeのボス・Jimpsterの本名もJamie Odellなんですよね。さすがにこの一致には笑った。「巡礼」というテーマは、こうして旅の最後までを貫きました。
そんなレディング修道院跡の庭には、白いアルストロメリアの花が咲きみだれていました。花の名前をどうやって調べたかって? 写真をChatGPTに投げたら教えてくれたんですよ。


そして当然ここで、旅の相棒・ChatGPTにさらにアルストロメリアの花言葉を問い合わせます。曰く:
Friendship /友情
Devotion / 献身、深い思い
Mutual support / 支え合い
Long-lasting connection /長く続くつながり
えー…こんなんメッセージ性高すぎじゃん。旅の最後に次につながるテーマを受け取って、僕はヒースローからイスタンブール経由で成田へと戻りました。

あ、帰りは映画を観ました。インターステラーと同じくクリストファー・ノーラン監督の超面白映画『インセプション』と、気になってた『チェンソーマン・レゼ編』。あとは寝てたらあっという間に成田でした。
7. 巡礼の旅のおわりに
今回の旅にもっていって、結局使わなかったアイテムがあります。それは、DJ用のUSBメモリ。

実はタイミングがあえばレディングでDJできるかも…っていう話があったんですよね。なのでいつ「DJできる?」ってきかれても大丈夫なように持っていっていたのです。でも使わなかった。使わなかったUSBは、失敗の証拠ではなく、次に戻るための宿題として残りました。
せっかく訪れたFreerange 30周年イベントも体調不良で途中で抜けたし、残念なことも多い旅行でした。とはいえ、UKディープハウスシーンに生で触れられたことは強烈な体験だったし、Gold Dust RadioのDeanoとも約束しちゃったから、次はDJをプレイしに戻りたい。
そのためにも、もっといい曲つくって、プロデューサーとして成長しないとね。
無限のモチベーションが湧き始めたところで、そろそろ作曲に戻ります!
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