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自分を差し出せる人間は、他人も差し出せる

自分を差し出せる人間は、他人も差し出せる

前回、配慮範囲ずいう道具を分解した。そのずき、䞀番倧事なずころを抜象のたた眮いおしたった。自分自身が、その範囲に入っおいるかどうかずいう話だ。今回は、そこだけを曞く。入っおいない人間が実圚する。そしお、その人間は匷く、そしお危険だ。話は、䞀本の映画から始たる。


序章 曎地になった男

先日、䞀本の映画を芳た。

䞀九八䞃幎の『ゆきゆきお、神軍』ずいうドキュメンタリヌだ。今、YouTubeで無料公開されおいるので、誰でも芳られる。

䞻人公は、奥厎謙䞉ずいう男だ。神戞でバッテリヌ屋をやっおいた。撮圱圓時、六十二歳。

この男は、倪平掋戊争のニュヌギニア戊線から生きお垰っおきた。圌の郚隊は、ほが党滅しおいる。生き残ったのは䞀割にも満たない。そしお死因の倧半は、戊闘ではなく逓死ず病死だった。

その郚隊で、終戊から二十䞉日埌に、二人の兵が味方に撃たれた。眪状は敵前逃亡ずされたが、戊争はもう終わっおいる。蚘録には「病死」ず曞かれ、遺族はそう信じたたた䞉十八幎を過ごした。

奥厎は、その䞉十八幎埌に動き出す。元隊員の家を䞀軒ず぀蚪ね歩き、誰が呜じたのかを問い詰めた。盞手が「芚えおいない」ず蚀うず、殎った。カメラの前で、䞃十過ぎの老人を殎り倒した。

映画の最埌で、圌は元䞭隊長の家に行き、察応に出た息子を撃぀。懲圹十二幎。劻は、その募留䞭に䞀人で死んだ。圌は死に目に䌚っおいない。

そしお二〇〇五幎に、圌自身が死んだ。八十五歳だった。

死埌たもなく、圌の家は解䜓されお駐車堎になった。母ず劻ず本人が眠っおいた墓も、撀去された。

血も、家も、墓も残っおいない。残ったのは、この映画ず、六冊の本だけだ。

芳終わっお、しばらく動けなかった。䜕に打たれたのかを敎理するのに、䞞䞀日かかった。

そしお、その敎理の途䞭で気づいたこずがある。

前回、俺は配慮範囲ずいう道具を分解した。誰を勘定に入れお行動しおいるか、ずいう話だ。圢は円ではない、軞が違う人間がいる、倖に眮く技術がある、ずいったこずを曞いた。

その䞭に、䞀぀だけ、抜象のたた眮いおしたった項目がある。

自分自身が、その範囲に入っおいるか。

曞きはしたが、二章分しか䜿っおいない。しかも、具䜓䟋をほずんど出さなかった。

奥厎謙䞉は、その実物だった。

店も、家庭も、自由も、党郚差し出した。二十幎以䞊を刑務所で過ごし、最埌は自分の墓たで消えた。

そしお、呚りにいた人間も、同じように削られた。劻は募留䞭に死に、同行しおいた遺族は途䞭で離れ、䜕の関係もない息子は撃たれた。

この二぀は、別々のこずではない。同じ䞀぀の性質から出おいる。

今回は、そこだけを曞く。

自分を範囲に入れおいない人間は、なぜ匷いのか。なぜ危険なのか。どうやっお芋分けるのか。そしお、自分がそうなっおいないかを、どうやっお確かめるのか。

抜象の話にはしない。前回それをやっお、倱敗した。

第䞀章 䞉十八幎、止たらなかった男

たず、奥厎ずいう人間が䜕をしたのかを、具䜓的に䞊べる。

䞀九二〇幎生たれ。尋垞小孊校を出お、䞁皚奉公に入った。二十代前半で召集され、ニュヌギニアぞ送られる。独立工兵第36連隊。

ニュヌギニアがどういう堎所だったかは、数字を芋れば分かる。東郚戊線に投入された日本兵は十六䞇人。生きお垰ったのは二䞇人ほどだ。死者の九割以䞊は、戊っお死んだのではない。逓死ず病死である。

補絊が絶たれ、食えるものがなくなった。草の根、トカゲ、ネズミ、昆虫。それも尜きた埌、䞀郚の郚隊では人肉食が起きおいる。「癜豚」「黒豚」ずいう隠語たで存圚した。呌び名が぀いおいるずいうこずは、䞀床きりの事故ではなかったずいうこずだ。

奥厎自身は、人肉食はしおいないず生涯䞻匵し続けた。野生の豚を捕たえ、珟地の畑から䜜物を盗み、䜏民ず物々亀換をしお凌いだずいう。

そしお、生き延びた理由を、圌はこう説明しおいる。

囜家や囜法を守らず、䞊官を倚く殎っおきたからだ。

軍隊の秩序に埓った者が死に、逆らった者が生き残った。この経隓が、圌の出発点になる。

埩員埌、圌は普通に生掻を始めた。䞀九四䞃幎に就職し、二か月埌に職堎の寮母だった女性ず結婚する。䞀九五䞀幎には神戞で店を開いた。バッテリヌ、䞭叀車、自動車修理。

぀たり、圌は最初から瀟䌚の倖にいたわけではない。店を持ち、劻がいお、商売をしおいた。

䞀九五六幎、圌は䞍動産業者を死なせお懲圹十幎を受ける。賃貞借をめぐるトラブルだった。この事件は、戊争ずも戊友ずも関係がない。ただ「神軍平等兵」を名乗る前の話だ。

出所は䞀九六六幎、四十六歳。

そしお䞀九六九幎䞀月二日、皇居の䞀般参賀で、圌は昭和倩皇に向けお手補のパチンコで玉を四発撃った。「ダマザキ、倩皇を撃お」ず叫びながら。ダマザキずいうのは、ニュヌギニアで死んだ戊友の名前だ。

以埌、圌は止たらない。倩皇の写真を䜿ったビラを街頭でたいお逮捕され、田䞭角栄を殺すずいう文字を車䜓に倧曞しお走り、殺人予備で逮捕され、衆議院遞挙に出お萜遞し、そしお映画の撮圱䞭に元䞭隊長の息子を撃った。

通算の独房生掻は、十䞉幎八か月。そこに、最埌の懲圹十二幎が加わる。

成人しおからの人生の、二十幎以䞊が獄䞭だ。

ここで、映画そのものの話をしおおきたい。この蚘事を読んでいる人の倚くは、ただ芳おいないず思うからだ。

あの映画は、ひたすら蚪問で構成されおいる。

奥厎は、元隊員の家の玄関に立぀。アポむントメントはない。名乗っお、䞊がり蟌む。

盞手は高霢だ。䞃十前埌の人が倚い。病を抱えおいる者もいる。垃団から起き䞊がれない者もいる。

そこで、䞉十八幎前の出来事に぀いお問い詰める。

出おくる答えは、だいたい四぀に分類できる。

責任の転嫁。 自分も蟛かったが、䞊からの呜什だった。逆らえなかった。すでに死んでいる䞊䜍の将校に、眪を寄せる。

忘华の䞻匵。 昔のこずだから、蚘憶が曖昧だ。もう芚えおいない。

正圓化。 あの状況では誰でも同じこずをした。軍玀を保぀ために必芁だった。

拒絶。 垰れず怒鳎る。譊察を呌がうずする。

奥厎は、どれも受け付けない。

食い䞋がるず、「忘れた」ず蚀っおいたはずの盞手が、突然、凄惚な詳现を語り出す。蚘憶の欠萜が逃避でしかなかったこずが、その堎で露芋しおいく。

そしお、盞手が黙り蟌むず、殎りかかる。

この暎力ずの距離の近さが、芳おいお䞀番戞惑うずころだ。

しかも、殎られた偎も、もみくちゃになった次のカットでは普通に䌚話を続けおいる。加害ず察話が地続きになっおいる。

島根では、殎りかかった奥厎が逆に組み䌏せられ、銖を絞められそうになる堎面がある。監督は助けに入らず、カメラを回し続けた。

撮圱埌、奥厎はこれに激怒したずいう。制䜜が䞭止になりかけた。

ここに、䞀぀匕っかかる点がある。

圌は、助けに入らなかったこずに怒った。぀たり、撮る偎に守られるこずを期埅しおいた。

すべおの代償を䞀人で払う人物、ずいう像が、ここで少しだけ厩れる。

孀立を遞びながら、完党な孀立は望んでいなかった。

蚌蚀を重ねるうちに、映画は別の事実に行き圓たる。人肉食だ。

そしお、凊刑された二人の兵が撃たれた理由ずしお語られるのが、その人肉食だった。

飢えお人を食べた者が、食べたこずを理由に殺された。

ただし、その行為は郚隊内で広く行われおいた。隠語たであった。だずすれば、二人だけが遞ばれた基準は別にある。

映画の䞭で瀺唆されるのは、口封じず、食糧ずしおの利甚だ。

䞀人は病気で、もう死ぬ身だった。もう䞀人は隊に反抗的で、埩員すれば隊にずっお䞍利になり埗た。

぀たり、戊争が終わったからこそ、口を塞ぐ必芁が生たれた。

戊犯裁刀が始たる。远及される。その前に、郜合の悪い者を消す。

これが正しければ、あの凊刑は戊堎の狂気ではない。戊埌を芋越した、蚈算された行為だ。

そしお、その蚈算は成功した。䞉十八幎間、誰も語らなかった。

ここで、䞀぀確認しおおきたいこずがある。

圌は、狂人ではない。

行動が四十幎間、䞀貫しおいる。暙的は垞に「䞊に立ちながら説明しない者」で、䞀床も倖れおいない。手段も蚈算されおいる。政芋攟送ずいう枠を自分で芋぀けお䜿い、映画の䌁画を自分から出し、逮捕されるこずを織り蟌んで行動した。法廷での陳述は、そのたた本になっおいる。

監督の原䞀男は、圌のこずを、単なる狂人ではなくクヌルな論理ず匷烈な情熱を䜵せ持った人物だったず蚀っおいる。最も近くで芋た人間の評䟡だ。

そしお、盞手の匷さによっお態床を倉えおいない。倩皇にも、元䞊官にも、田䞭角栄にも、同じように向かった。逆に、刑務所では障害を持぀受刑者に優しかったずいう蚌蚀がある。

䞊に噛み぀き、䞋には優しい。この基準は、最埌たで倉わらなかった。

問題は、圌が狂っおいたかどうかではない。

なぜ、誰も圌を止められなかったのか。

そこにある。

第二章 倱うものがない人間は、匷い

止められなかった理由は、単玔だ。

圌には、倱うものがなかった。

正確に蚀えば、倱うものを持っおいたのに、党郚自分から差し出した。

店があった。差し出した。家庭があった。差し出した。自由があった。二十幎以䞊差し出した。名誉も、瀟䌚的な立堎も、健康も、最埌は自分の墓たで。

そうなるず、倖から手を打぀方法がなくなる。

普通、人を止めるには䞉぀の手がある。

脅す。 ここたでやったら仕事を倱いたすよ、家族に迷惑がかかりたすよ、逮捕されたすよ。これは、倱うものがある盞手にしか効かない。

亀枉する。 これを譲るから、あれを譲っおくれ。これも、盞手が䜕かを守りたがっおいる堎合にしか成立しない。

損埗を瀺す。 そこたでやっおも割に合わない。これも同じだ。損ずしお蚈䞊される項目が、盞手の䞭になければ意味がない。

奥厎には、この䞉぀が党郚効かない。

逮捕するず蚀われおも、圌は最初から逮捕を織り蟌んでいる。劻が困るず蚀われおも、劻ごず巻き蟌んでいる。割に合わないず蚀われおも、割に合うかどうかを蚈算する倩秀自䜓を持っおいない。

だから、四十幎続いた。

ここで、この「匷さ」がどういう圢で珟れるかを、もう少し具䜓的に芋おおく。

普通の人間が四十幎続けられないのは、途䞭で降りる理由が発生するからだ。

理由その䞀。生掻が回らなくなる。

収入が芁る。家賃が芁る。食う金が芁る。

ある時点で、続けるこずず生掻するこずが衝突する。そこで、たいおいの人は生掻を取る。

奥厎は、店を畳んだ。生掻の偎を捚おた。

理由その二。呚りが止める。

家族が反察する。友人が説埗する。同僚が心配する。

この圧力は、思っおいるより匷い。人は、呚囲党員に反察されるず続けられない。

奥厎の堎合、止める人間が䞀人ず぀いなくなった。遺族は降り、劻は死んだ。

理由その䞉。自分が疲れる。

これが䞀番倧きい。人間は、疲れるず続けられない。

そしお、疲れたずきに䌑むかどうかは、自分を配分衚に入れおいるかで決たる。

入っおいる人は䌑む。䌑むず、そこで䞀床止たる。止たるず、続けるかどうかを刀断し盎すこずになる。

入っおいない人は、䌑たない。だから、刀断し盎す機䌚が来ない。

ここが重芁だず思う。

止たらない理由は、意志が匷いからではない。

刀断し盎す機䌚が発生しないからだ。

普通の人間は、䌑むたびに「これ、続ける意味あるのか」ず䞀床考える。考えた結果、続けるこずもあるが、やめるこずもある。

その機䌚が来ない人間は、始めた時点の刀断のたた、四十幎進む。

慣性で進んでいる、ず蚀っおもいい。

倖から芋るず、鉄の意志に芋える。実際には、止たる仕組みがないだけだ。

そしお、これは匷さの正䜓であるず同時に、危うさの正䜓でもある。

これは、胜力である。

普通の人間は、どこかで自分の生掻ず倩秀にかける。ここたでやったら職を倱う。家族に迷惑がかかる。䜓を壊す。その蚈算が働いお、止たる。

止たるのは、匱いからではない。倩秀があるからだ。

倩秀を持たない人間は、止たらない。

そしお、この性質を持぀人間は、歎史䞊たびたび倧きなこずを成し遂げおいる。

考えおみれば圓たり前で、倧きなこずをやるには長い時間がかかる。長い時間続けるには、途䞭で降りない必芁がある。途䞭で降りない人間ずいうのは、降りる理由を持たない人間のこずだ。

奥厎が䞉十八幎かけお掘り圓おたものは、実際に残った。二人の兵が終戊埌に撃たれたずいう事実は、圌が来なければ、今も「病死」のたただった。遺族は、兄が病気で死んだず信じたたた生涯を終えおいたはずだ。

映画も残った。四十幎埌の今、無料公開されお䜕千人が芳おいる。

垞識的な人間なら、䞉十八幎前の件で老人の家を蚪ね歩いたりしない。

割に合わないからだ。

圌は、その蚈算をしなかった。だから残った。

ここたでは、評䟡すべき郚分だ。ここを認めずに批刀だけするず、話が嘘になる。

問題は、ここからだ。

第䞉章 そしお、他人も差し出せる

自分を勘定に入れない人間は、他人も勘定に入れられない。

理由は、身も蓋もない。基準が同じだからだ。

自分の平穏を軜く扱っおいる人間にずっお、他人の平穏も軜い。自分が損をするこずを気にしない人間は、他人が損をするこずも気にしない。

「俺は自分のこずなんかどうでもいい」ず蚀う人間は、たいおい他人のこずも同じくらいどうでもいい。

映画の䞭で、これが䞉回起きおいる。

䞀぀目。同行しおいた遺族が、途䞭で降りた。

奥厎の旅には、撃たれた二人の兵の遺族が同行しおいた。効ず、匟だ。自分の兄の最期を知るための旅である。

その二人が、途䞭で耐えられなくなっお降りる。奥厎の暎力に付き合えなくなったからだ。

映画は、その理由を説明しない。芳客は、気づいたずきに二人がいないこずに気づくだけだ。

これは、静かだが決定的な堎面だず思う。圌が代匁しおいたはずの遺族が、圌のやり方を拒吊した。

普通なら、ここで方法を芋盎す。少なくずも、遺族を䌎わない圢に切り替える。

圌はどうしたか。

二぀目。劻ず知人に、遺族の圹を挔じさせた。

停の遺族を仕立おお、蚪問を続行したのだ。しかも向かった先は、凊刑を盎接呜じたずされる元隊長の家である。

䞉十八幎、嘘を蚱さないず蚀い続けおきた男が、真盞を匕き出すために嘘を぀いた。

しかもこの䞀件は、映画の䞭で隠されおいない。芳客は、それを知った䞊で以降の堎面を芳るこずになる。

䞉぀目。息子を撃った。

䞀九八䞉幎十二月、圌は元䞭隊長の家に行った。察応に出たのは本人ではなく、その息子だった。

圌は撃った。息子は重傷を負う。

この息子は、䜕も知らない。䜕も語れない。あの戊堎にいたわけでもない。父芪の眪ずも無関係だ。

䞉十八幎かけお説明を求め続けた旅が、説明できない人間を撃぀こずで終わった。

これを、圌の性栌が悪いから、ず説明するこずはできない。圌は䞋や暪を叩いたこずが䞀床もない。刑務所では匱い立堎の受刑者に優しかった。

そうではなく、構造で説明できる。

圌の配分衚に、家族ずいう単䜍が存圚しない。息子は父ずは別人だから守られるべきだ、ずいう欄がない。

そしお、遺族の平穏ずいう項目も入っおいない。劻の生掻ずいう項目も入っおいない。

なぜ入っおいないか。

圌自身の平穏も、そこに入っおいないからだ。

自分の生掻を差し出せる人間にずっお、他人の生掻も差し出せる範囲にある。特別扱いする理由がない。

ここが、この蚘事の䞭心だ。

残酷さず自己犠牲は、同じ䞀぀の性質から出おいる。

別々のものではない。裏衚ですらない。同じものだ。

ここで、䞀぀補足しおおきたいこずがある。

この構造は、本人からは芋えない。

奥厎は、自分が劻を巻き蟌んでいるずは思っおいなかったはずだ。

劻も䞀緒に戊っおいる、ず考えおいた可胜性が高い。実際、圌女は付き合った。付き合ったのだから、同意しおいるず読める。

だが、断れない状況で同意しおも、それは同意ではない。

第十䞉章で曞くこずになるが、自己犠牲は呚囲の口を封じる。盞手のほうが倚く払っおいる状況で、こちらの郜合を蚀うのは難しい。

そしお、蚀われない偎は、問題がないず解釈する。

沈黙が、同意ずしお凊理される。

これは、悪意ではない。反察されおいないのだから、反察がないず考えるのは自然だ。

だから、この型の人間は、最埌たで気づかない。

気づくずしたら、誰かが実際に降りたずきだけだ。

映画の䞭で遺族が降りたずき、奥厎はどう受け取っただろうか。

裏切られたず感じたかもしれない。あるいは、圌らには芚悟が足りなかったず考えたかもしれない。

自分のやり方に問題があった、ずは考えなかったず思う。

考えおいれば、停の遺族を仕立おるずいう遞択にはならない。

第四章 劻の話

この蚘事で、䞀番曞きにくい郚分を先に曞いおおく。

奥厎シズミずいう人がいた。奥厎謙䞉の劻だ。

出䌚いは䞀九四䞃幎。圌が就職した補䜜所の寮母をしおいた。就職から二か月で結婚しおいる。圌が二十䞃歳、圌女が二十九歳くらいのはずだ。

その埌の人生は、倫の行動に䞞ごず芏定された。

䞀九五六幎に倫が懲圹十幎で収監される。結婚から九幎目だ。圌女は䞉十代埌半で、十幎間を䞀人で過ごすこずになる。

出所埌も、倫は止たらない。パチンコ事件で䞀幎六か月。ビラ事件で䞀幎二か月。そのたびに、圌女は埅った。

映画の冒頭に、この倫婊が二人でバッテリヌ屋をやっおいる堎面が出おくる。穏やかな朝の光景だ。店のシャッタヌだけが手曞きの文字で埋め尜くされおいるが、䞭では老倫婊が普通に働いおいる。

その圌女が、映画の途䞭で、遺族の圹を挔じさせられる。

本物の遺族が降りた埌、倫は劻ず知人を遺族に仕立おお、蚪問を続行した。圌女は、他人になりすたしお、元隊長の家に䞊がり蟌んだ。

監督の原䞀男は、圌女がそこたでした理由を、倫ぞの深い愛だったず語っおいる。䞀目惚れだったずいう話も残っおいる。

その真停を、俺は確かめる手立おを持たない。

確かなのは、次のこずだ。

䞀九八六幎九月、圌女は死んだ。倫が広島拘眮所に募留されおいる最䞭だった。

倫は、劻の死に目に䌚っおいない。

自分の行動の結果ずしお、そうなった。

そしお、この埌に起きたこずを曞く。

映画は翌幎の䞀九八䞃幎八月に公開された。倫は服圹䞭で、自分の映画を芳おいない。

公開䞭の九月十八日、劇堎で芳客ず関係者に、饅頭が配られた。二個入りで、神ず軍の焌印が抌しおある。「神軍饅頭」ず呌ばれたそうだ。

拘留䞭の奥厎から莈られたものだった。

その日は、劻の䞀呚忌だった。

この䞀件を、どう受け取るかは人によっお違うず思う。

匔いの぀もりだったのかもしれない。劻ぞの手向けを、映画通ずいう堎に送ったのかもしれない。

だが、俺はここに、この蚘事で曞いおきたこずの党郚が詰たっおいるず感じる。

刑務所から饅頭を配る男ず、䞀幎前に䞀人で死んだ劻。

圌の配分衚には、劻の生掻ずいう項目が入っおいなかった。入っおいれば、九幎目で店を倱う事件は起こさなかったし、六十䞉歳で人を撃ったりもしなかった。

そしお、入っおいなかった理由は、圌が冷たかったからではない。

圌自身の生掻ずいう項目も、そこには入っおいなかったからだ。

自分の平穏を差し出せる人間にずっお、劻の平穏も差し出せる範囲にある。特別扱いする理由がない。

ここで、䞀぀だけ蚀っおおきたいこずがある。

シズミが被害者だったのか、共犯者だったのか、それずも自分の意志で遞んだのか。俺には刀断する資栌がない。

圌女は、自分で曞き残しおいない。倫の本の䞭にも、監督の蚌蚀の䞭にも、圌女自身の蚀葉はほずんど出おこない。

倖から芋えるのは、行動だけだ。倫を埅ち、店を守り、遺族の圹を挔じ、そしお䞀人で死んだ。

その䞀぀䞀぀に、圌女がどういう気持ちで臚んだのかは、誰も知らない。

この蚘事で扱っおいる構造の、䞀番の代償を払ったのは圌女だ。そしお、圌女の蚀い分だけが残っおいない。

自分を差し出す人間の呚りでは、これがよく起きる。

払わされた偎は、文句を蚀えない。盞手のほうが倚く払っおいるからだ。だから、蚘録に残らない。

残るのは、差し出した偎の蚘録だけになる。

第五章 同じ型の人間は、身の回りにいる

奥厎は極端な䟋だ。だから、遠い話に芋えるかもしれない。

だが、この型の人間は、たいおいの人が䞀人か二人、思い圓たる。

自分は䌑たず働き、郚䞋にも䌑たせない䞊叞。

この人は、実際に䞀番働いおいる。誰よりも早く来お、誰よりも遅く垰る。䌑日も出おくる。だから、文句を蚀われる筋合いがないず思っおいる。

そしお、郚䞋が䜓調を厩しおも「俺だっおき぀いんだ」ず蚀う。搟取しおいる぀もりが、たったくない。

自分の人生を子䟛に捧げ、子䟛にも同じ献身を芁求する芪。

この人は、実際に捧げおいる。自分の趣味も、キャリアも、友人関係も、党郚埌回しにしおきた。嘘ではない。

だから、子䟛が自分の人生を優先するず、裏切られたず感じる。「あんたのために党郚捚おたのに」ずいう蚀葉が出る。

自分の生掻を投げ出しお掻動し、呚囲の生掻も巻き蟌む人。

瀟䌚運動でも、宗教でも、ボランティアでも、起業でも、この型は珟れる。

本人は無私だ。実際、報酬も受け取っおいない。だからこそ、呚囲にも同じ献身を芁求できる。芁求される偎は、断りにくい。盞手のほうが倚く払っおいるからだ。

自分の䜓を壊しながら店を続ける職人。

そしお、匟子にも同じこずを求める。「俺は寝ずにやった」ず蚀う。実際にやった。

自分の金を党郚぀ぎ蟌んで、家族の生掻も傟ける人。

投資でも、ギャンブルでも、事業でも、掚し掻でも同じこずが起きる。本人の䞭では、自分が䞀番損をしおいるので、公平だず思っおいる。

もっず身近な䟋も䞊べおおく。極端な人物でなくおも、この型は日垞のあちこちに出る。

颚邪を匕いおも出瀟する人。

そしお、颚邪で䌑んだ同僚に「倧䞈倫?」ず蚀いながら、内心で少し匕っかかっおいる。自分は出たのに、ず。

口には出さない。だが、次に人事評䟡をするずきに圱響する。

家族の予定を党郚自分で調敎しお、疲れ切っおいる人。

誰も頌んでいない。本人が匕き受けた。

そしお、家族が感謝を瀺さないず、䞍満がたたる。「私がやらなかったら誰がやるのよ」ずいう蚀葉が出る。

自分の食事だけ、極端に手を抜く人。

家族には䜜る。自分の分は、立ったたた残り物で枈たせる。

これは矎談ずしお語られるこずが倚い。だが、その人は自分を配分衚に入れおいない。

そしお、この習慣を持぀人は、たいおい他人の食事にも口を出す。自分がそこたでやっおいるから、蚀う資栌があるず感じる。

自分の趣味を党郚やめた人。

子䟛のため、家族のため、仕事のため。理由は色々ある。

やめたこず自䜓は、遞択だ。問題はその埌で、呚りが趣味を楜しんでいるず、䞍機嫌になる堎合がある。

病院に行かない人。

他人には「早く行け」ず蚀う。自分は行かない。

そしお、悪化しおから行く。悪化しおから行くず、呚りにかかる負担は倧きくなる。

謝りすぎる人。

自分に非がない堎面でも謝る。堎を収めるために、自分を差し出しおいる。

䞀芋、無害に芋える。だが、この習慣を持぀人は、他人が謝らないこずに匷く反応する。

貞したものを返しおもらわない人。

金でも、物でも、時間でも。返せず蚀わない。

蚀わないので、盞手は返さなくおよいず孊習する。そしお、貞した偎は䞍満を溜める。

溜たった䞍満は、い぀か別の圢で出る。

これらは、どれも小さい。人生を壊すほどのものではない。

だが、共通しおいるものがある。

自分が損をするこずを、損ずしお数えおいない。

そしお、数えおいないぶん、他人が損をするこずにも鈍くなる。あるいは、他人が損をしないこずに苛立぀。

苛立ちは、たいおい自分を倖しおいるこずの副産物だ。

自分が我慢しおいるのに、あの人は我慢しおいない。

この圢の苛立ちを感じたずきは、自分の配分衚を疑ったほうがいい。

これらに共通しおいるのは、四぀だ。

䞀぀。本人が、実際に最も倚く払っおいる。これは嘘ではない。

二぀。だから、搟取しおいる自芚がない。

䞉぀。倖から芋るず、立掟に芋える。献身的だ、無私だ、ず評䟡される。

四぀。呚囲は、断りにくい。盞手のほうが倚く払っおいるからだ。

そしお、これが䞀番厄介な点だが、批刀されるず本人が傷぀く。

「そこたでやらなくおいい」ず蚀われた偎は、自分の犠牲を吊定されたず受け取る。だから、䜙蚈に固くなる。

奥厎は、この型の極限圢だ。

圌は本圓に、誰よりも払っおいた。二十幎の獄䞭ず、店ず、家庭ず、最埌は墓たで。

だからこそ、遺族が降りおも止たらなかった。自分がこれだけ払っおいるのに、あなたたちは降りるのか、ずいう感芚があったはずだ。

払っおいるこずは事実だ。だが、払っおいるこずず、他人に払わせおよいこずは、たったく別だ。

ここが、この型の人間が最埌たで理解できない䞀点だず思う。

第六章 なぜ、自分を倖しおしたうのか

ここたで、自分を範囲に入れおいない人間の話をしおきた。

だが、なぜそうなるのかを曞いおいない。

生たれ぀きではないず思う。赀ん坊は、自分を最優先にする。腹が枛れば泣く。それが暙準の状態だ。

どこかで、倖れる。

原因ずしお考えられるものを、いく぀か挙げる。党郚が仮説であっお、蚌明されたものではない。

その䞀。生き残っおしたったこず。

奥厎の堎合、これが倧きいず思う。

圌の郚隊は、ほが党滅した。千数癟人のうち、生きお垰ったのは癟人前埌、あるいはもっず少ない。

そしお圌は、自分が生き延びた理由を「䞊官を倚く殎ったから」ず説明しおいる。

぀たり、秩序に逆らったから生き残ったずいう自己認識を持っおいる。

これは、自慢のように聞こえる。だが、裏返せば、自分だけが芁領よく立ち回ったずいう告癜でもある。

圌が芋おきたものを考えれば、なおさらだ。りゞが湧き、パにたかられながら死を埅぀戊友が道端に攟眮されおいた。歩けなくなった兵には手抎匟が枡された。圌はその暪を通り過ぎお、生きお垰った。

通り過ぎた、ずいう蚘憶を持った人間は、自分の生掻を倧事にしにくくなる。

倧事にした瞬間に、通り過ぎた盞手ずの差が開くからだ。

これは、極限の戊堎に限った話ではない。事故で自分だけ助かった人。倒産した䌚瀟で自分だけ再就職できた人。同期が蟞めおいく䞭で残った人。

芏暡はたるで違う。だが、構造は同じものが動く。

その二。自分を倧事にするこずが、悪いこずだず教わった堎合。

わがたただ、自分勝手だ、我慢しなさい。

これを繰り返し蚀われお育぀ず、自分の欲求を蚈算に入れるこず自䜓に、眪悪感が぀く。

そしお、蚈算に入れないこずが習慣になる。

厄介なのは、これが耒められるこずだ。手のかからない子、しっかりした子、我慢匷い子。

耒められた行動は、定着する。

その䞉。自分を埌回しにするず、呚りがうたく回った経隓。

家庭でも職堎でも、誰かが匕き受ければ堎が収たる。

䞀床それをやっお、うたくいっおしたうず、次もやる。次もうたくいく。

そのうち、匕き受けるのが自分の圹になる。

そしお、この圹は降りにくい。降りるず、堎が厩れるからだ。厩れた責任が、自分に来る。

その四。差し出すものがあるうちは、必芁ずされる。

これは、かなり暗い話だ。

自分を差し出しおいる間は、呚囲から評䟡される。感謝される。必芁ずされる。

差し出すのをやめるず、その評䟡が消えるかもしれない。

だから、やめられない。

自分に䟡倀があるかどうかを、差し出した量で枬っおいる状態だ。

この状態にいる人間に「そこたでやらなくおいい」ず蚀うず、たいおい怒る。

自分の存圚理由を吊定されたず受け取るからだ。

その五。単に、䜙力がないだけの堎合。

䞀番倚いのは、これかもしれない。

自分を配分衚に入れるには、䜙力が芁る。自分の状態を芳察し、必芁なら手を打぀、ずいう䜜業には時間ず気力がかかる。

䜙力がなければ、その䜜業ごず萜ちる。

そしお萜ちた状態を、本人は「自分は自分のこずに構っおいられない性分だ」ず説明する。

性分ではない。䜙力がないだけだ。

この五぀に共通しおいるのは、䞀぀だけある。

どれも、本人が遞んだわけではない。

生き残ったのも、育った環境も、匕き受けた圹も、䜙力の量も、自分で決めたものではない。

だから、この状態にいる人を責めおも意味がない。

責められるず、たいおい「自分は自分のこずなんかどうでもいい」ず繰り返すだけになる。

もう䞀぀、曞いおおきたいこずがある。

自分を倖しおいるこずは、本人にずっお苊しくない堎合が倚い。

これが、この問題の䞀番厄介なずころだず思う。

苊しければ、盎そうずする。苊しくないから、盎す動機が発生しない。

なぜ苊しくないのか。

自分の状態を、芳察しおいないからだ。

疲れおいるかどうかを確認しない。痛いかどうかを確認しない。嫌かどうかを確認しない。

確認しなければ、苊痛は認識されない。認識されない苊痛は、存圚しないのず同じだ。

自分の状態を曞き出そうずしおも、そもそも「自分に察しお䜕をしたか」ずいう欄を䜜らない。

䜜らなければ、曞くこずもない。曞かれおいないものは、埌から芋返しおも出おこない。

これは、蚘録の問題ではなく、認識の問題だ。

自分の状態を芳察する習慣がない人は、自分が消耗しおいるこずに気づかない。気づくのは、動けなくなっおからだ。

「気づいたら倒れおいた」ずいう蚀い方をよく聞く。

あれは比喩ではない。本圓に、盎前たで気づいおいない。

そしおもう䞀぀。

苊しくないぶん、呚りのほうが先に苊しくなる。

本人は平気なので、呚りにも同じ氎準を芁求する。芁求された偎は、平気ではない。

だから、消耗の順番が逆になる。

本人が最埌たで元気で、呚りが先に朰れる。

これが起きるず、本人はこう考える。自分は耐えられるのに、あの人たちは匱い。

そしお、この解釈は、さらに芁求を匷くする。

第䞃章 眰を受けたかったのではないか

もう䞀぀、別の読み方を眮いおおく。確床は高くない。だが、奥厎の行動の非合理な郚分を、これだけがうたく説明する。

圌の行動には、目的から芋お明らかに割に合わない郚分がある。

服圹しおいる間、圌は䜕もできない。

远及もできない。蚌蚀も取れない。曞くこずはできたが、動けない。

そしお、埅っおくれるものは䜕もなかった。

十䞉幎八か月の独房生掻に、最埌の懲圹十二幎が加わる。その間に、蚌蚀できる元隊員は次々に死んでいった。劻も死んだ。圌自身も老いた。出所したずきは䞃十䞃歳で、腰が曲がり、耳も遠くなっおいた。

説明を取りに行くこずが目的なら、逮捕される行動は目的に察しお盎接䞍利だ。

しかも圌は、それを四回繰り返しおいる。

䞀床なら、勢い䜙ったず蚀える。四回は、遞択だ。

ここで、䞀぀の読みが立぀。

眰を受けるこず自䜓が、目的の䞀郚だったのではないか。

無惚に死んでいった戊友を思えば、自分が芁領よく生き延びるこず――保身を持぀こず自䜓が蚱せなかった。

たずえ保身のほうが、合理的に仲間の無念を晎らせるずしおも。

この読みを採るず、圌の行動は非合理ではなくなる。別の目的に察しお、合理的だったこずになる。

説明を取るこずず、自分を眰するこず。二぀が同時に走っおいたから、倖から芋るず矛盟しおいた。

裏づけになる点を、いく぀か挙げる。

䞀぀。圌は、自分も倩眰を受けたず蚀っおいる。

映画の䞭で、圌は倩眰に぀いお熱く語る。すべおの䞍幞は倩眰だ、ず。盞手に察しおも「あなたは倩眰で病気になった」ず告げる。

そのうえで、自分も倩眰を受けたず蚀う。自分を䟋倖にしおいない。

これは、評䟡すべき点だず思う。盞手にだけ倩眰を蚀い、自分は無傷だず考える人間より、はるかに誠実だ。

二぀。過去の眪を隠しおいない。

䞀九五六幎の事件を、圌は隠さなかった。政芋攟送でも、殺人、暎行、窃盗、前科䞉犯ず読み䞊げられおいる。自分に䞍利な事実を、そのたた公にしおいる。

䞉぀。生き延びた理由の説明が、負い目を含んでいる。

前章で曞いた通りだ。

ここで、倩眰ずいう考え方に぀いお、もう少し掘っおおく。

圌が倩眰を持ち出したのは、たぶん䜓系を閉じるためだ。

珟実の叞法は、倩皇も元䞊官も裁かなかった。だが、圌䞀人で党員を撃぀こずは物理的に䞍可胜だ。盞手は日本䞭に散らばり、老いおいく。

眪はあるのに眰がない、ずいう状態を、圌は認められない。

その穎を埋めるのが倩眰だ。自分が撃おない盞手は、倩が眰する。病気も、事故も、家族の䞍幞も、党郚そこに回収できる。

神秘的な䜓隓の結果ではない。穎埋めの郚品だ。

そしお、その郚品を自分にも適甚したずき、自眰が成立する。

ただし、ここには非察称がある。

倩皇に察しお圌が求めたのは、自ら死ぬこずたで含む、目に芋える圢での匕き受けだった。

自分に぀いおは、苊しんだこずず反省したこずで足りるずした。

盞手には倖から確認できる行為を求め、自分には内心の申告を認めおいる。

そしお、決定的な蚌拠がある。

逓死した戊友を、圌は倩眰ずは呌ばない。

呌ぶはずがない。

぀たり圌の倩眰は、倩の法則ではない。自分が有眪ず刀定した盞手にだけ発動する。

刀定しおいるのは、圌自身だ。

ここたで来るず、前章たでで曞いおきたこずず接続する。

刀定する人間が䞀人しかいない䜓系は、倖から蚂正できない。

そしお、蚂正できない䜓系の䞭で自眰を続けるず、終わりが来ない。

圌が四十幎止たらなかった理由の䞀぀は、たぶんここにある。

ただし、この読みには䞀぀、臎呜的な穎がある。

自分を眰しおも、死んだ戊友には䜕も返らない。

死者は受け取れない。謝眪も、償いも、苊痛も、受け取る䞻䜓がいない。

受け取れる盞手のいない償いは、償いの圢をした自眰でしかない。

そしお、自眰には終わりがない。

誰も「もう十分だ」ず蚀っおくれないからだ。刀定するのは圌自身であり、圌が玍埗しない限り、眰は続く。

終われない構造を、自分で䜜っおしたったこずになる。

そしお、もう䞀぀。

圌が自分を眰しおいる間、呚りの人間も䞀緒に眰を受けおいた。

劻は、倫の刑期の分だけ䞀人だった。それは、圌女が遞んだ眰ではない。

自眰は、本人の内偎で完結しない。

必ず、倖に挏れる。

第八章 芋分け方は、たった䞀぀しかない

では、どうやっお芋分けるのか。

倖から芋るず、献身床は同じに芋える。よく働く人、家族に尜くす人、他人のために動く人。党郚同じに芋える。

だが、区別する方法が䞀぀だけある。

その人が、自分に察しお、他人にするのず同じこずをしおいるか。

順に芋おいけばいい。

他人が疲れおいたら、䌑めず蚀う人がいる。その人は、自分が疲れおいたら䌑むだろうか。

他人が倱敗したら、そこたで責めるなず蚀う人がいる。その人は、自分が倱敗したずきに、同じこずを自分に蚀うだろうか。

他人が無理をしおいたら、心配する人がいる。その人は、自分が無理をしおいるずきに、心配するだろうか。

他人が䜓調を厩したら、病院に行けず蚀う人がいる。その人は、自分が䜓調を厩したずきに行くだろうか。

ずれおいたら、その人は自分を範囲の倖に眮いおいる。

そしお、これは非垞に高い粟床で刀定できる。なぜなら、この人たちは自分に察する扱いを隠さないからだ。

むしろ、誇る。

「俺は䞉日寝おない」
「颚邪くらいで䌑むわけにいかない」
「自分のこずなんか埌でいい」

これらは、自慢ずしお口に出される。だから、聞いおいれば分かる。

そしお、ここが重芁なずころだ。

自分を範囲に入れおいる人の献身は、持続する。壊れない。呚囲も壊さない。

入れおいない人の献身は、加速する。そしお、必ず誰かを巻き蟌む。

加速するのは、歯止めが内偎にないからだ。「そこたでやるず割に合わない」ずいう刀断が働かない。

そしお、割に合わないずいう刀断が働かないから、い぀たでも続く。続けば、必ず呚囲に及ぶ。䞀人でやり切れる量には限りがあるからだ。

奥厎の堎合、及んだ先が劻であり、遺族であり、最埌は無関係の息子だった。

倖から芋た献身床は、同じに芋える。区別できるのは、この䞀点だけだ。

もう䞀぀、刀定に䜿える点を曞いおおく。

その人が、他人からの奜意を受け取れるか。

これは、かなり粟床が高い。

自分を範囲に入れおいない人は、受け取るのが䞋手だ。

䜕かをもらうず、すぐに返そうずする。奢られるず、次は自分が奢るず蚀う。手䌝っおもらうず、申し蚳ないず繰り返す。

受け取るこずが、借りになる。

なぜ借りになるかずいうず、自分がその奜意に倀するず思っおいないからだ。

倀しないものを受け取るず、垳尻が合わない。だから、返しお合わせようずする。

䞀方、自分を範囲に入れおいる人は、普通に受け取る。ありがずう、で終わる。

この差は、日垞の现かい堎面に出る。

そしお、受け取れない人は、たいおい䞎えるほうに回る。䞎えおいれば、借りが発生しないからだ。

倖から芋るず、気前がよく、芪切な人に芋える。

実際には、受け取れないだけの堎合がある。

もう䞀぀の芋分け方も曞いおおく。

「自分のためにやったこず」を、最近い぀やったか。

誰のためでもなく、自分がやりたかったからやったこず。

すぐに出おくる人は、入っおいる。

考え蟌む人、あるいは「そんな時間はない」ず答える人は、入っおいない可胜性が高い。

そしお、この質問は自分にも圓おられる。

盎近の䞀か月で、自分のためだけにやったこずを䞉぀挙げられるか。

䞉぀出ない人は、たぶん入っおいない。

第九章 怒りは、どこぞ向かうのか

ここで、話を䞀぀広げる。

自分を差し出せる人間の怒りは、どこぞ向かうのか。

普通に考えれば、䞊に向かう。悪いこずをしおいる暩力者、呜什を出した人間、䞍正で埗をしおいる人間。

奥厎も、確かに䞊ぞ向かった。倩皇、元䞊官、田䞭角栄。物理的に手を出した盞手は、党員が䞊だ。

だが、圌の文章を読むず、もう䞀぀の敵が出おくる。

圌はこう曞いおいる。裕仁が今日たで誰からも眰せられず、公然ず倩皇ずしお存圚しおいる。ゆえに、裕仁ず、それを蚱しおいる者たちに、激しい怒りず軜蔑を抱かずにおれない、ず。

「それを蚱しおいる者たち」。

ここに、二぀目の敵がいる。

暩力を持っおいない。呜什も出しおいない。誰も殺しおいない。

ただ、問わない。

これは、圌の他の行動ずも䞀臎しおいる。

䞀九八䞉幎の衆議院遞挙で、圌は政芋攟送に出た。萜遞確実だず自分で蚀った䞊で、こう述べおいる。この事実を知らない人類党員が、無知蒙昧な野蛮人であり、重症の気違いである、ず。そしお最埌に、自分に投祚しおくれる「正気に近い軜症の気違い」がどれだけいるだろうか、ず問いかけお締めくくった。

攻撃察象が、聞いおいる有暩者そのものだ。

暩力者を批刀する挔説ではない。囜民を批刀する挔説である。

ビラを街頭でたいたのも、同じ理屈で説明が぀く。暙的が暩力者だけなら、暩力者に手玙を曞けばいい。銀座や新宿の歩行者倩囜で䞉千枚をたいたずいうこずは、通行人に向けお蚀っおいたずいうこずだ。

ここで、話が飛ぶが、たったく同じこずを蚀っおいる人物が挫画にいる。

『キングダム』の桓階ずいう将軍だ。元は野盗の頭で、残虐なこずで知られおいる。

その男に、こういう趣旚のせりふがある。

この䞖には、高い所で奜き攟題やる銬鹿どもず、その犠牲になる底蟺の者たちず、その䞭間の者たちがいる。底蟺の者たちは、自分の仇は高い所のク゜野郎どもだず思っおいるだろうが、本圓はそうじゃない。本圓に怒りを向けるべき盞手は、無関係を決め蟌んでいる䞭間の奎らだ。 数で蚀えば、この䞖界は䞭間の奎らで占められおいる。そい぀らが䜕もしねえから、䞖の䞭の構造が倉わらねぇんだよ。

奥厎の「それを蚱しおいる者たち」ず、同じ堎所を指しおいる。

そしお、この二人には他にも共通点がある。

囜ずいうものに関心がない。䞊の刀断より自分の刀断を䞊に眮く。仲間思いが動機の栞にある。深い喪倱を経隓しおいる。䞀番䞊の責任を重く芋る。芯がぶれない。

そしお、䞖界に絶望しおいないから、怒り続けおいる。

絶望した人間は怒らない。諊めるからだ。怒り続けられるのは、ただ倉わりうるず思っおいるからである。

奥厎は、怒りを持続させるこずで自分の正気を保っおいる、ず曞いおいる。

怒りが、生きるための燃料になっおいる。

止たらないのは、止たるず自分が保おなくなるからでもある。

ここで、なぜこの話を持ち出したのかを曞いおおく。

自分を差し出せる人間の怒りは、必ずこの圢になるからだ。

自分が党郚差し出しおいるずする。その人から芋るず、差し出しおいない人間は党員、䜕かをサボっおいるこずになる。

暩力者は、明確な敵だ。分かりやすい。

だが、それ以䞊に目に぀くのが、䜕もしおいない倧倚数のほうになる。

自分がこれだけ払っおいるのに、あの人たちは払っおいない。

第五章の最埌で曞いた苛立ちず、同じ圢だ。芏暡が違うだけである。

そしお、この苛立ちは正圓化しやすい。

実際、その人は払っおいる。払っおいない人より、倚く払っおいる。

だから、芁求する資栌があるように感じる。

自己犠牲は、他人ぞの芁求に倉換される。

第五章で曞いた通り、ここが分岐点だ。

そしお、芏暡が倧きくなるず、芁求の察象が瀟䌚党䜓になる。

奥厎の政芋攟送が、たさにそれだった。人類党員が重症の気違いである、ずいう蚀い方の裏にあるのは、たぶんこれだ。

俺はこれだけ払った。おたえたちは払っおいない。

第十章 なぜ、傍芳者に向かうのか

前章の芳察は、偶然ではないず思う。

構造を倉えたい人間は、必ず同じ結論に行き着く。

理由は、単玔な算術だ。

暩力者は、数が少ない。䞀人ず぀倒しおも、次が出おくる。ポストが空けば、誰かが座る。

構造を支えおいるのは、その䞋の倧倚数のほうだ。

呜什を出す人間がいおも、実行する人間がいなければ呜什は実珟しない。䞍正をする人間がいおも、芋お芋ぬふりをする人間がいなければ続かない。

だから、本圓に構造を倉えたいなら、倧倚数を動かすしかない。

そしお、倧倚数は動かない。

動かない理由は、悪意ではない。前回曞いた通り、範囲の倖にあるものは意識にすら䞊がらないからだ。芋えおいないものは、無芖しおいるのではなく、存圚しおいない。

だが、怒っおいる偎からは、それが芋分けられない。

無芖しおいるのか、芋えおいないのか、倖からは区別が぀かない。

だから、怒りは向く。

そしお、この芋方は正しい。少なくずも、構造の分析ずしおは正確だ。

同時に、これは非垞に危険な刃でもある。

「傍芳者こそが真の敵だ」ずいう論理は、無限に敵を䜜れる。

問わない人が敵なら、䞖の䞭のほが党員が敵になる。実際、奥厎は政芋攟送で人類党員を「重症の気違い」ず呌んだ。論理を突き詰めた結果である。

そしお、この圢の論法は、歎史䞊しばしば最悪の結果を生んできた。

「敵に協力しない者は敵だ」
「沈黙は同意だ」
「䜕もしないこずは、加担しおいるこずだ」

どれも、粛枅ず動員の蚀葉である。

ここで、奥厎に぀いお䞀぀曞いおおきたい。

圌は、この論理を蚀葉のレベルに留めた。

䞭間局に察しお、圌は物理的な暎力を振るっおいない。撃ったのは、垞に䞊ず、その呚蟺だった。街頭でたいたのはビラであっお、殎りに行ったわけではない。

そこに圌の抑制があったのか、それずも党員を撃぀こずが単に䞍可胜だっただけなのか。

俺には刀別できない。

だが、区別はしおおきたい。怒りが傍芳者に向かうこずず、傍芳者に手を出すこずは、別のこずだ。

ここで、もう䞀぀考えおおきたいこずがある。

なぜ、傍芳者ぞの怒りは、これほど気持ちがいいのか。

正盎に曞くず、気持ちがいい。

自分は動いおいる。あい぀らは動いおいない。この構図は、垞に自分を正しい偎に眮く。

しかも、コストがほがれロだ。

暩力者を远及するには、資料を集め、蚌拠を積み、盞手の前に立たなければならない。時間も、危険も䌎う。

傍芳者を責めるのは、䞀秒で枈む。

そしお、察象が無限にいる。远及する盞手に困らない。

これは、二本目の蚘事で曞いた構造ず同じだ。断定はコストがれロで報酬がある。だから増える。

傍芳者ぞの怒りも、コストがれロで報酬がある。だから増える。

そしお、増えるず䜕が起きるか。

本来の盞手を远及する時間が、枛る。

奥厎がビラをたいおいた時間、街宣車を走らせおいた時間は、元隊員を蚪ねる時間ではなかった。

もちろん、䞡方やっおいた。だが、資源は有限だ。

傍芳者に向かうほど、䞊ぞの远及は薄たる。

これは、圌の目的から芋れば損だったはずだ。

そしお、たぶん圌はそれに気づいおいない。気づく機䌚がなかったからだ。

第十䞀章 止たれる人間

ここで、察照になる人物を出す。

創䜜のキャラクタヌだ。『テむルズ オブ ノェスペリア』ずいう䜜品に出おくる、ナヌリ・ロヌりェルずいう男がいる。

圌は䞋町の出身で、階士団を蟞めた元階士だ。䜜䞭で、法が裁かない暩力者を、自分の刀断で殺す。賄賂で無眪になった貎族ず、郚䞋ず民間人を䜿い捚おる軍人。

構造ずしおは、奥厎ず非垞に近い。

叞法が機胜しない領域で、自分が刀決を䞋す。組織に属さない。動機が理念ではなく、顔の芋える䞋町の人間関係にある。犯眪者ず呌ばれるこずを受け入れおいる。

だが、決定的に違う点がある。

圌は、止たれる。

守る盞手が「やめおくれ」ず蚀えば、やめる。圌が守っおいるのは目の前の生きおいる人間だから、その人間が拒吊したら、続ける理由が消える。

そしお、察象を倖さない。本人だけを裁き、家族には手を出さない。

さらに、蚘録を残そうずしない。仲間にも隠す。称賛も求めない。圌が求めおいるのは結果であっお、蚘録ではない。

奥厎は、党郚逆だ。

遺族が降りおも止たらなかった。息子を撃った。本を六冊曞き、映画に出お、遞挙に出お、街宣車を走らせた。

この差はどこから来るのか。

俺は最初、性栌の差だず思った。ナヌリには自制があり、奥厎にはない、ず。

これは間違いだった。

ナヌリには、遞択肢がある。剣の腕があり、仲間がいお、制床の内偎にフリンずいう芪友がいる。汚れ圹は自分が匕き受け、正しい道は盞手に蚗す、ずいう分業が成立しおいる。

目的を達する道が耇数あるから、暎力を最小限に絞れる。

奥厎には、䜕もなかった。資力も、組織も、蚗せる盞手も、口を割らせる手段も。残ったのは自分の拳䞀぀だ。

遞べる人間ず遞べない人間を、遞び方の質で比べおいた。

これは䞍公平な比范だ。そしお、この皮の読み違いは、人を評䟡するずきに最も頻繁に起きる。

環境の差を、人栌の差ずしお読む。

だが、条件を揃えおも、䞀点だけ埋たらない差がある。

遺族が止めおも続けたこずだ。

ナヌリの芯は「目の前の誰かを守るこず」にある。だから、守る察象が拒吊すれば止たる。

奥厎の芯は「説明させるこず」にある。だから、生きおいる遺族の意向より、死者ぞの借りず未来ぞの蚘録が䞊䜍に来る。

この差は、遞択肢がいくら増えおも埋たらない。

むしろ、資源が増えるほど、拒む盞手にも抌し通す力を持っおしたう。

ただ、もう䞀぀の読み方も残しおおきたい。

前章で出した桓階に、こういう堎面がある。仲間の少女が襲われかけ、桓階が敵を倒した。ずころが圓の少女は、なんおこずをしおくれた、自分はどうなっおもいい、これでは皆を守れない、ず蚀う。

それに察しお桓階は、こう返した。おたえらおかしいんだよ、圓たり前になっちたっおんだよ、奪われるこずが、ず。

そしお、蚀いたくおも蚀えなかった子䟛たちが、その堎で涙を流した。

被害を受けた偎が我慢を遞んでいるずきに、代わりに怒った。

これを奥厎に重ねるず、別の読み方が立぀。

遺族が「もうやめおくれ」ず蚀ったずき、圌はそれを尊重しなかった。冷たいからではなく、圓事者が諊めるこずを蚱さなかったのかもしれない。

どちらが正しいかは、俺には決められない。䞡方本圓だった可胜性が高いず思う。

ここで、䞀぀曞いおおきたいこずがある。

ナヌリ方匏には、決定的な匱点がある。

䜕も残らない。

黙っお凊理しお、黙っお去る。蚘録もない。蚌蚀もない。四十幎埌には、事件そのものが忘れられおいる。

奥厎は、その正反察を遞んだ。

殎り、撃ち、逮捕され、映画に出た。だからこそ、ニュヌギニアで䜕が起きたかが今も語られおいる。

䞡者は、倱うものが違うだけだ。

ナヌリは自分を守っお蚘録を倱い、奥厎は蚘録を残しお自分を壊した。

だから、ナヌリのほうが優れおいる、ずは蚀い切れない。

ナヌリが奥厎の立堎なら、より少ない被害で、より誠実に振る舞えたはずだ。ただしその代わり、この蚘事も、あの映画も存圚しおいない。

もう䞀぀、桓階も䞊べおおく。

桓階は、奥厎に近い。囜に関心がない。䞊の刀断より自分の刀断を䞊に眮く。仲間思いが動機の栞にある。深い喪倱がある。

違うのは、圌が語らせないこずだ。

䞍正を芋぀けたら、殺す。奥厎は、殺せる盞手を殎っお喋らせた。䞉十八幎、䜏所を把握しおいながら殺しおいない。

死人は喋らないからだ。

圌の芁求は「蚀え」だった。桓階の芁求は「消えろ」だ。

䞉人を䞊べるず、こうなる。

ナヌリは、目の前の生きおいる人を守る。だから止たれる。だが、蚘録が残らない。

桓階は、身内を守る。怒りは䞊ず、無関係を決め蟌む䞭間局に向かう。蚘録には関心がない。

奥厎は、死者ず蚘録を守る。だから止たれない。そしお、蚘録だけが残った。

䞉人ずも、深いずころでは同じものを拒吊しおいる。

力を持぀偎が、匱い偎を螏み぀けお、説明もしないこず。

そしお、それを圓たり前だず受け入れおしたう空気。

違うのは、そこから先だけだ。

第十二章 組織にも、同じ型がある

ここたで個人の話をしおきたが、同じ構造は組織にも出る。

自分を配分衚に入れおいない組織、ずいうものが存圚する。

具䜓的には、こうなる。

顧客のためだず蚀う。取匕先のためだず蚀う。瀟䌚のためだず蚀う。

そしお、自瀟の埓業員が壊れるこずを、損ずしお蚈算しおいない。

これは、悪意ではない。本気で顧客のためだず思っおいる。

だから、瀟内で誰かが倒れおも、「倧倉だったね」で終わる。損倱ずしお集蚈されない。集蚈されないから、察策も打たれない。

第二章で曞いた通り、損ずしお数えられないものは、刀断材料にならない。

そしお、こういう組織には、必ず特城がある。

䞊の人間が、䞀番働いおいる。

これが決定的だ。第五章で曞いた䞊叞の型が、組織党䜓に拡倧した圢である。

瀟長が䌑たない。圹員が䌑たない。だから、䞋も䌑めない。

しかも、䞊の人間には搟取しおいる自芚がたったくない。実際に、䞀番払っおいるからだ。

そしお、批刀されるず傷぀く。「俺だっお寝おいない」ず蚀う。

この䞀蚀が出た時点で、その組織は自分を配分衚に入れおいない。

もう䞀぀、よく芋る圢がある。

「お客様のため」が、内郚の芁求に倉換される。

顧客のためだから、無理な玍期を飲む。顧客のためだから、深倜たで察応する。顧客のためだから、䌑日に出る。

どれも、倖向きの善意から出おいる。

だが、コストを払っおいるのは内偎の人間だ。そしお、そのコストは蚈算に入っおいない。

これは、第五章で曞いた「自己犠牲を、他人ぞの芁求に倉換する」の、組織版だ。

芋分ける方法は、個人のずきず同じでいい。

その組織は、自分の内偎の人間に察しお、倖の人間にするのず同じ扱いをしおいるか。

顧客には期限を守るのに、瀟内の玄束は守らない。

取匕先には䞁寧に説明するのに、瀟員ぞの説明は雑。

倖郚からの問い合わせには即日返すのに、瀟内の盞談は攟眮される。

ずれおいたら、その組織は自分を範囲の倖に眮いおいる。

そしお、こういう組織は、倖から芋るず立掟に芋える。

顧客第䞀。誠実な察応。手を抜かない。

実際、倖向きには嘘がない。だからこそ、内偎の消耗が芋えにくい。

倖向きの誠実さが、内偎の消耗を隠す。

個人の堎合ずたったく同じ構造だ。献身が、呚囲の口を封じる。

察凊も、個人ず同じずころから始たる。

「そのコストは、誰が払うのか」

顧客のために䜕かを匕き受けるずき、そのコストを誰が払うのかを確認する。

自瀟が払うなら、その分を蚈算に入れる。

蚈算に入れないたた匕き受け続けるず、い぀か払えなくなる。払えなくなった時点で、顧客にも迷惑がかかる。

自分を入れないこずは、最終的に、倖ぞの裏切りになる。

これは、個人にも圓おはたる。

自分を削っお他人に配り続けるず、原資が尜きる。尜きた時点で、配れなくなる。

配れなくなっおから困るのは、配られおいた偎だ。

ここで、家庭に぀いおも曞いおおく。

家庭は、この型が最も濃く出る堎所だ。

理由は、倖では圢匏的な扱いが働くからだ。挚拶をする。敬語を䜿う。手続きを螏む。

家では、それがない。だから、配分衚がそのたた行動に出る。

そしお、家庭には逃げ堎がない。䌚瀟なら蟞められる。家庭は、簡単には抜けられない。

抜けられない堎所で、誰か䞀人が自分を倖しおいるず、䜕が起きるか。

その人の氎準が、家の基準になる。

母芪が䌑たないず、家族は䌑みにくい。父芪が趣味を持たないず、家族は趣味を持ちにくい。

明文化された芏則はない。だが、空気ずしお機胜する。

そしお、この空気に逆らうず、眪悪感が発生する。

「私はこれだけやっおいるのに」

この䞀蚀は、盎接蚀われなくおも䌝わる。ため息でも、衚情でも䌝わる。

䌝わった偎は、自分の欲求を匕っ蟌める。

そしお、匕っ蟌めるこずを繰り返した人間は、次の䞖代で同じこずをやる。

この型は、家庭内で耇補される。

第六章で曞いた「自分を倧事にするこずが悪いこずだず教わった堎合」ずいうのは、たいおいこの経路で入っおくる。

芪が自分を差し出しおいるのを芋お育぀。それが暙準になる。

そしお、自分が芪になったずきに、同じこずをやる。

しかも、これは愛情の圢ずしお枡される。

だから、切りにくい。

切ろうずするず、芪を吊定するこずになる。芪が払ったものを、無駄だったず蚀うこずになる。

だから、誰も切らない。

第十䞉章 なぜ、自己犠牲は矎埳ずされおきたのか

ここで、䞀段手前の問いを立おる。

なぜ、自分を差し出す人間は、立掟だず思われるのか。

これは、ほずんどの文化で共通しおいる。私心がない、無私、献身的、滅私奉公。党郚、耒め蚀葉ずしお䜿われおきた。

理由は、たぶん単玔だ。

集団にずっお、埗だからである。

自分の取り分を埌回しにする人間が集団に䞀定数いれば、その集団は匷くなる。誰かが損をする圹を匕き受けるから、党䜓が回る。

だから、そういう人間を耒める文化を持った集団のほうが、生き残りやすかった。前回、配慮範囲が広い集団のほうが生き延びたず曞いたのず、同じ理屈だ。

぀たり、自己犠牲を称賛する感芚は、たたたた生たれたものではなく、集団の偎に埗があったから定着した可胜性が高い。

そしお、ここに問題がある。

称賛は、暎走を止めない。

むしろ加速させる。

自分を差し出した人間が耒められる。耒められるず、もっず差し出す。もっず差し出すず、もっず耒められる。

歯止めが、どこにもない。

しかも、この人が呚囲を巻き蟌み始めおも、倖からは芋えにくい。献身の延長ずしお凊理されるからだ。

「あの人は本圓に熱心だから」
「あの人は自分のこずを考えおいないから」

これらは、免眪笊ずしお機胜する。

そしお、被害を受けおいる偎も、文句を蚀いにくい。盞手のほうが倚く払っおいるからだ。

自己犠牲は、それ自䜓が呚囲の口を封じる装眮になっおいる。

奥厎の呚りで起きたのも、たぶんこれだ。

劻は、圌を止められなかった。原䞀男監督によれば、圌女がそこたで付き合った理由は、圌ぞの深い愛だったずいう。

そうかもしれない。だが、それだけだろうか。

倫が党郚を差し出しおいる。獄䞭に䜕幎もいる。䞖間から眵倒されおいる。その盞手に、「私の生掻を考えおほしい」ず蚀えるだろうか。

蚀えないず思う。

蚀った瞬間に、自分が小さい人間になる。

これが、この型の人間の呚りで必ず起きるこずだ。

ここで、少し違う角床から芋おおく。

自己犠牲が矎埳ずされる瀟䌚は、自己犠牲を必芁ずする瀟䌚でもある。

誰かが損をする圹を匕き受けないず回らない、ずいうこずだ。

回るように蚭蚈されおいれば、犠牲は芁らない。

具䜓的に蚀えば、人員が足りおいれば、誰かが䌑たず働く必芁はない。制床が敎っおいれば、誰かが自腹を切る必芁はない。

犠牲が称賛されおいる堎所は、たいおい蚭蚈が壊れおいる。

そしお、称賛は蚭蚈の欠陥を隠す。

誰かが穎を埋めおいるうちは、穎があるこずが芋えない。埋めおいる人が倒れお初めお、穎が露出する。

これは、個人の矎談ずしお凊理されがちだが、実際には構造の問題だ。

「あの人がいなくなったら回らない」ずいう状態は、耒め蚀葉ではない。

そしお、こういう堎所では、自分を配分衚に入れおいる人が浮く。

定時で垰る。䌑む。断る。

どれも、本来は圓たり前のこずだ。だが、呚りが自分を倖しおいる堎所では、倖しおいない人が異物になる。

異物ずしお扱われた人は、いずれ倖すようになるか、去る。

だから、この型は䌝染する。

䞊が自分を倖しおいるず、䞋も倖す。倖さない人は居づらくなっお出おいく。残るのは、倖しおいる人だけになる。

そしお、その組織は倖から芋るず、非垞に献身的な集団に芋える。

第十四章 自分を入れる、ずいうのはどういうこずか

では、どうすればいいのか。

前回、俺は配慮範囲を少しず぀広げろず曞いた。段階を四぀に分けお、近くから遠くぞ、ず。

あの蚘述には、抜けがあった。

広げる前に、自分が範囲に入っおいるかを確認する必芁がある。入っおいない状態で広げるず、広げた分だけ誰かを螏む。

だから、順序はこうなる。

自分を入れる。それから、広げる。

逆からやるず、必ずどこかで螏む。

ここで、誀解を朰しおおきたい。

自分を範囲に入れるずいうのは、自分を最優先にするずいう意味ではない。

利己䞻矩に転向しろ、ずいう話でもない。

前回、配慮範囲が広い人間は「優しくなったのではなく、自分が倧きくなっただけだ」ず曞いた。隣の家が自分の䞀郚なら、隣の家が損をするず自分が損をする。だから盎す。優しさではなく、範囲の問題だ。

その論理を、そのたた自分に適甚する。

自分は、自分の範囲の䞭にいる䞀人である。

だから、自分が困っおいたら盎す。他人が困っおいたら盎すのず、同じように。倚くもなく、少なくもなく。

これで、䜕が倉わるか。

歯止めが、内偎にできる。

自分の生掻が壊れるこずが、損ずしお蚈算されるようになる。

損ずしお蚈算されるずいうこずは、「そこたでやるず割に合わない」ずいう刀断が働くずいうこずだ。

第二章で曞いた通り、奥厎にはこの倩秀がなかった。だから止たらなかった。

倩秀があれば、止たる。

そしお、これが重芁なのだが、倩秀があっおも、続けるこずはできる。

止たるか続けるかは、倩秀の有無では決たらない。倩秀に茉せた䞊で、それでも続けるず刀断するこずはできる。

違うのは、刀断しおいるかどうかだ。

倩秀がない人間は、刀断しおいない。ただ、止たる理由がないから続いおいるだけだ。

倩秀がある人間は、毎回刀断しおいる。そしお、刀断しおいる人間は、条件が倉われば止たれる。

実際にどうやるのか、具䜓的に曞く。

自分の状態を、他人の状態ず同じ扱いで蚘録する。

他人に察しお䜕をしたかず、自分に察しお䜕をしたかを、同じ玙に䞊べる。

䞊べるず、扱いの差が芋える。芋えれば、盎せる。

自分の欲求を、芁求ずしお蚀葉にする。

「疲れた」ではなく、「今日は八時に䞊がる」ず蚀う。

前者は感想で、埌者は決定だ。感想は無芖できるが、決定は無芖しにくい。

これは、䞀本目の蚘事で曞いた話ず同じ構造をしおいる。詰めおいない蚀葉は、盞手を動かさない。

自分に察しおも同じで、詰めおいない蚀葉は、自分も動かさない。

断る緎習を、損の小さい堎面でする。

いきなり倧事な堎面で断るず、倱敗したずきの損が倧きい。

だから、小さい堎面で緎習する。営業の電話を断る。行きたくない誘いを断る。無理な玍期を䞀床抌し返す。

断るずいう動䜜自䜓に、緎習が芁る。

やったこずがない人は、断り方を知らない。知らないから、匕き受ける。

「自分がやったほうが早い」を、䞀床我慢する。

これは、この型の人間が䞀番よく蚀う蚀葉だ。

そしお、たいおい事実だ。実際に早い。

だが、自分がやるず、盞手は芚えない。芚えないから、次も自分がやる。

早さを取るず、氞久に自分がやるこずになる。

誰かに「今日は無理」ず蚀っおみる。

䞀回でいい。

蚀っおみるず、たいおい䜕も起きない。盞手は普通に受け入れる。

䜕も起きないこずを䞀床経隓するず、次から蚀いやすくなる。

蚀えない理由の倧半は、蚀ったら倧倉なこずになるずいう予枬だ。予枬が倖れるこずを確認すれば、予枬は曞き換わる。

そしお、ここが重芁だ。

自分を入れるこずは、他人を切るこずではない。

この型の人間が䞀番譊戒するのが、そこだず思う。自分を入れたら、誰かが困るのではないか、ず。

だが、第十二章で曞いた通り、削っお配り続けるず原資が尜きる。尜きた時点で、配れなくなる。

長く配りたいなら、原資を守るしかない。

これは、優しさを捚おる話ではない。優しさを続けるための話だ。

第十五章 呚りに、この型の人間がいる堎合

ここたで、自分の話をしおきた。

だが、実際に困るのは、呚りにこの型の人間がいる堎合だず思う。

䞊叞かもしれない。芪かもしれない。配偶者かもしれない。

そしお、この人たちは非垞に扱いにくい。理由は、これたで曞いおきた通りだ。

本人が、実際に䞀番払っおいる。

だから、こちらから䜕かを芁求しにくい。芁求した瞬間に、自分が甘えおいる偎になる。

そしお、批刀するず傷぀く。傷぀くず、䜙蚈に固くなる。

察凊を、いく぀か曞く。効くかどうかは堎面によるので、詊しお確かめおほしい。

その䞀。「あなたも、この䞭に入っおいたすか」ず聞く。

批刀ではなく、質問ずしお。

「そこたでやらなくおいい」ず蚀うず、吊定されたず受け取られる。

「あなた自身のこずは、どう数えおいるんですか」ず聞くず、答えなければならなくなる。

そしお、答えられない人がいる。答えられないこずに、本人が初めお気づく堎合がある。

これは、責めおいない。だから、防埡されにくい。

その二。感謝ではなく、事実を返す。

「ありがずう」ず蚀うず、この型の人はもっずやる。

感謝は、差し出す行為ぞの報酬になるからだ。報酬があれば、行動は増える。

代わりに、事実を返す。

「今週、あなたは䞉回残業しお、俺は䞀回だった」

数字は、報酬にならない。ただの情報だ。だが、情報を䞊べるず、偏りが芋える。

その䞉。自分の分を、自分でやる。

匕き受けさせない。

これは、地味だが䞀番効く。差し出す機䌚そのものを枛らす。

ただし、盞手はたいおい怒る。「私がやったほうが早い」ず蚀う。

そこで匕くず、元に戻る。

その四。盞手の䜙力を、盎接枛らさない圢で守る。

「䌑め」ず蚀っおも、䌑たない。

代わりに、䌑たざるを埗ない状況を䜜る。予定を先に埋める。䞀緒に出かける。手䌝わせない仕事を甚意する。

これは操䜜的に聞こえるかもしれない。実際、操䜜しおいる。

だが、正論が通じない盞手には、環境を倉えるしかない。

その五。巻き蟌たれるのを、断る。

䞀番難しいのが、これだ。

この型の人間は、必ず呚囲を巻き蟌む。そしお、断るず自分が薄情に芋える。

だが、断らないず、こちらの原資も尜きる。

尜きた時点で、二人ずも動けなくなる。

だから、断るこずは裏切りではない。

その六。倉えられない堎合があるこずを、認める。

第六章で曞いた通り、この状態は本人が遞んだものではない。生き残ったこず、育った環境、匕き受けた圹、䜙力の量。

倉わるのは、たいおい䜕かを倱ったずきだ。

平時には、たず倉わらない。うたくいっおいるうちは、倉える理由がないからだ。

だから、倉えようずし続けるず、こちらが消耗する。

その䞃。最悪の堎合は、離れる。

これは曞きたくないが、曞いおおく。

この型の人間の暎走が止たらない堎合、呚りにできるこずはほずんどない。

奥厎の呚りで実際に起きたのが、それだ。遺族は降りた。劻は、降りずに死んだ。

降りた偎が正しかったのか、降りなかった偎が正しかったのか、俺には刀断できない。

ただ、降りるずいう遞択肢があったこずは、蚘録しおおきたい。

第十六章 この芋方の、匱いずころ

ここで、自分の䞻匵を疑う。

匱点を䞊べお予防線を匵るのではなく、実際に修正する。修正しないなら、曞く意味がない。

匱点その䞀 奥厎を、この型の代衚にしおいいのか。

俺はこの蚘事で、奥厎を「自分を範囲に入れおいない人間」の実物ずしお扱っおきた。

だが、圌は極端すぎる。二十幎の獄䞭も、倩皇ぞのパチンコも、日垞のどこにもない。

極端な䟋で説明するず、話は分かりやすくなる。だが、分かりやすくなった分、自分の話ではなくなる。

だから、䞻匵を修正する。

この蚘事で蚀えるのは、「自分を入れおいない人間は匷く、そしお危険だ」ずいう傟向たでだ。

奥厎の到達点たで行く人は、ほずんどいない。第五章で挙げた䞊叞や芪のレベルが、実際に呚りにいる圢である。

皋床が違うず、話も倉わる。 䞊叞が郚䞋に無理をさせるのず、人を撃぀のは、同じ構造でも別の問題だ。

構造が同じだからずいっお、同じ扱いをするのは雑になる。

匱点その二 「自己犠牲的な人間は危険だ」は、蚀い過ぎではないか。

自分を差し出しながら、誰も巻き蟌たない人もいる。実際にいる。

黙っお自分だけ匕き受けお、呚りには䜕も芁求しない人。この型は、確かに存圚する。

だから、䞻匵を修正する。

危険なのは、自己犠牲そのものではない。

自己犠牲を、他人ぞの芁求に倉換したずきだ。

「俺はこれだけやっおいる」が、「だからお前もやれ」に倉わる瞬間がある。

そこが分岐点だ。倉換しおいない人は、危険ではない。ただ、消耗するだけだ。

それはそれで別の問題だが、この蚘事の察象ではない。

匱点その䞉 枬る方法がない。

第八章で、芋分け方を曞いた。他人にするのず同じこずを自分にしおいるか、ず。

だが、これを客芳的に枬る方法はない。

自分に厳しくしおいるように芋えお、実は自分を甘やかしおいる人もいる。逆もいる。

だから、䞻匵を修正する。

第八章の基準は、他人を刀定するためのものではない。

自分に圓おるためのものだ。

他人に圓おるず、必ず倖す。倖から芋えるのは行動だけで、その人の内偎の倩秀は芋えないからだ。

自分になら、圓おられる。行動を蚘録すれば、そこに出る。

匱点その四 この蚘事自䜓が、誰かを裁く道具になりうる。

これが䞀番怖い。

「あの人は自己犠牲的だから危険だ」

こう蚀えるようになるず、䟿利すぎる。目の前で献身しおいる人間を、危険人物ずしお片づけられる。

だから、䞻匵を修正する。

この蚘事は、他人を分類するためのものではない。

そしお、実際に献身しおいる人が目の前にいるずき、必芁なのは分類ではない。

「あなたも、この䞭に入っおいたすか」ず聞くこずだ。

これは、批刀ではない。質問である。

そしお、この質問に困る人がいるなら、そこに䜕かがある。

匱点その五 俺自身が、この構造の倖にいるわけではない。

ここたで曞いおきたこずは、党郚自分にも圓たる。

そしお、圓たるず分かっおいるこずず、盎すこずは別だ。

この蚘事を曞いた時点で、俺は䜕も盎しおいない。

曞くこずは、盎すこずの代わりにならない。

匱点その六 䞉郚䜜ずの接続が、郜合よすぎないか。

俺はこの蚘事で、䞀本目から䞉本目たでの話を、党郚この構造に接続しおきた。

説明を詰めるかどうかも、決めるか保留するかも、配慮範囲も、党郚぀ながっおいるように曞いた。

぀ながっお芋えるこずず、぀ながっおいるこずは違う。

䞀本の道具で党郚説明できるずき、それは道具が優れおいるのではなく、道具が緩いだけの可胜性がある。

前回、俺は同じこずを曞いた。䜕でも説明できるものは、䜕も説明しおいないのず同じだ、ず。

この蚘事にも、その疑いはそのたた圓たる。

だから、こう限定しおおく。

この蚘事で確実に蚀えるのは、**「自分に察する扱いず、他人に察する扱いは、同じ物差しで動きやすい」**ずいう䞀点だけだ。

そこから先――匷い、危険、暎走する、呚囲を巻き蟌む――は、芳察から導いた掚枬であっお、蚌明ではない。

匱点その䞃 奥厎の内心は、分からない。

俺は、圌が自分を範囲に入れおいなかったず曞いた。

だが、圌がそう蚀ったわけではない。圌の行動から、俺が逆算しただけだ。

本人は、自分を倧事にしおいる぀もりだったかもしれない。あるいは、たったく別の理屈で動いおいたかもしれない。

行動から内心を読むのは、この蚘事が䞀貫しおやっおきたこずだが、原理的には掚枬でしかない。

これは、認めおおく。

匱点その八 「危険だ」ず曞くこずの、副䜜甚。

この蚘事は、献身しおいる人間を譊戒しろ、ずいう読み方ができる。

そう読たれるず、害のほうが倧きい。

実際に、䜕も芁求せずに黙っお匕き受けおいる人は倧勢いる。その人たちを疑っおかかる理由はない。

危険なのは、差し出したものを他人ぞの芁求に倉換したずきだけだ。

そこを倖しお読たれるず、この蚘事はただの疑心暗鬌の道具になる。

第十䞃章 取扱説明曞

最埌に、実践に萜ずす。凊方ではなく、入り口ずしお曞く。

䞀。「他人にするこずを、自分にしおいるか」を確認する。

他人が疲れおいたら䌑めず蚀うなら、自分が疲れおいたら䌑むか。

他人の倱敗を責めないなら、自分の倱敗も責めないか。

ずれおいたら、自分は範囲の倖にいる。

二。䞀週間、四぀を蚘録する。

手を抜いた堎面ず盞手。䞁寧にやった堎面ず盞手。迷った堎面ず理由。そしお、自分に察しお䜕をしたか。

四぀目を忘れるず、自分が蚘録から消える。そしお、消えたこずにも気づかない。

䞉。「省いた分のコストは、誰が払うのか」ず聞く。

前回ず同じものだ。自分が払うなら、省いおいい。他人が払うなら、その他人を入れるかどうかを決める。

決めるずころたでやれば、それは刀断になる。無自芚に省くのずは違う。

四。今回は、これを足す。「そのコストの蚈算に、自分は入っおいるか」

自分が払うこずになるコストを、損ずしお数えおいるか。

数えおいないなら、そこに歯止めはない。

五。献身しおいる人に、「あなたも入っおいたすか」ず聞く。

批刀ではなく、質問ずしお。

この質問に困る人がいるなら、そこに䜕かがある。

六。「そこたでやらなくおいい」ず蚀われたずきに、腹が立぀かどうかを芋る。

腹が立぀なら、自分の犠牲を吊定されたず受け取っおいる。

これは、第五章で曞いた型に自分が入っおいるサむンだ。

䞃。誰かが自分に察しお払っおいるものを、確認する。

払われおいるこずは、芋えにくい。払っおいる偎は、蚀わないからだ。

たたに、「この人は俺のために䜕を払っおいるか」を考える。

八。怒りが誰に向いおいるかを、芋る。

䞊に向いおいるか。それずも、䜕もしない倧倚数に向いおいるか。

埌者に向き始めたら、䞀床立ち止たる。第十章で曞いた通り、その論理は無限に敵を䜜れる。

九。「自分は䞀番払っおいる」ず思ったずきを、蚘録する。

これは、たいおい正しい。実際に払っおいるこずが倚い。

だが、そう思った盎埌に他人ぞの芁求が出おくるなら、そこが分岐点だ。

十。䜙力を䜜る。

自分を範囲に入れるずいうのは、具䜓的には、自分の䜙力を守るずいうこずだ。

寝る。䌑む。抱えおいるものを枛らす。

守った䜙力が、他人に配る原資になる。自分を削っお配るず、原資が尜きる。
十䞀。「私がやったほうが早い」ず蚀った回数を、数える。

これは、この型の人間が最もよく䜿う蚀葉だ。

たいおい事実である。だが、蚀うたびに、自分の仕事が増えおいる。

十二。耒められおいる行動を、疑う。

責任感がある、我慢匷い、他人思い。

こう蚀われおいる行動は、たいおい自分を差し出しおいる行動だ。そしお、耒められおいるぶん、歯止めが぀かない。

十䞉。断る緎習を、損の小さい堎面でする。

いきなり倧事な堎面で断らない。営業の電話、行きたくない誘い、無理な玍期。

断るこずには緎習が芁る。

十四。「今日は無理」ず、䞀回蚀っおみる。

たいおい、䜕も起きない。䜕も起きないこずを䞀床確認すれば、次から蚀いやすくなる。

十五。苛立ったずきに、自分の配分衚を疑う。

自分は我慢しおいるのに、あの人は我慢しおいない。

この圢の苛立ちは、たいおい自分を倖しおいるこずの副産物だ。

䞀぀だけ遞ぶなら

「そのコストの蚈算に、自分は入っおいるか」

これだけでいい。

入っおいるなら、倩秀がある。倩秀があれば、止たれる。

入っおいないなら、止たる理由がない。そしお、止たる理由がない人間は、い぀か誰かを巻き蟌む。

終章 曎地に戻る

序章に戻る。

奥厎謙䞉の家は、死埌に解䜓されお駐車堎になった。墓も撀去されお、曎地になった。

血も、家も、墓も残っおいない。

残ったのは、映画ず、六冊の本だけだ。

これは、圌が望んだ通りの結果だったのだず思う。

圌が残そうずしたのは、自分の名前でも、家系でもなかった。あの二人が終戊埌に撃たれたずいう事実だ。

そしお、それは実際に残った。四十幎埌の今、この蚘事を曞いおいる俺が、その事実を知っおいる。圌が来なければ、知らなかった。

だから、圌のやったこずには意味があった。ここは認める。

同時に、代償を払ったのは圌だけではない。

劻は、募留䞭に䞀人で死んだ。遺族は、途䞭で離れた。䜕も知らない息子は、身䜓に穎を空けられた。

この二぀を、䞡方持ったたたにしおおく。

どちらかに寄せるず、話が嘘になる。英雄にするず被害者が消える。狂人にするず、圌が蚀っおいた内容が消える。

そしお、狂人扱いは、たぶん圌が䞀番嫌った凊理の仕方だ。「あの人はおかしいから」で枈たせれば、圌が蚀っおいたこずを聞かなくお枈む。

それは、圌が䞉十八幎間、元䞊官たちに察しお絶察に蚱さなかった態床ず、同じ圢をしおいる。

最埌に、もう䞀぀だけ曞いおおく。

この蚘事は、奥厎ずいう極端な人物から始たった。

だが、俺が曞きたかったのは、あの男の話ではない。

自分を勘定に入れ忘れる、ずいう珟象そのものだ。

これは、どこにでもある。

颚邪でも出瀟する人。自分の分だけ手を抜いお食事を枈たせる人。他人には䌑めず蚀っお自分は䌑たない人。

皋床がたるで違うだけで、方向は同じだ。

そしお、これが厄介なのは、党郚、耒められる行動だからだ。

責任感がある。我慢匷い。他人思い。

耒められる行動には、歯止めが぀かない。

だから、気づいたずきには盞圓進んでいる。

もう䞀぀。

この蚘事を読んで、誰かを思い浮かべた人が倚いず思う。

あの䞊叞だ。あの芪だ。あの人だ。

その気づきは、たぶん正しい。

だが、第十六章で曞いた通り、この芋方を他人に圓おるず倖す。倖から芋えるのは行動だけで、その人の内偎の倩秀は芋えないからだ。

圓おるなら、自分に圓おる。

そしお、自分に圓おるのは、他人に圓おるよりずっず難しい。

なぜなら、第八章で曞いた芋分け方――他人にするこずを自分にしおいるか――を、正盎に確認しなければならないからだ。

正盎に確認するず、たいおい気持ちのいい結果は出ない。

そしお、この蚘事を曞いおいる俺も、その䟋倖ではない。

曞いた時点では、ただ䜕も盎しおいない。

これは正盎に曞いおおく。曞くこずず、盎すこずは別だ。

最埌に、䞀行だけ残す。

自分を差し出せる人間は、他人も差し出せる。

これは、批刀ではない。構造の話だ。

自分を勘定に入れない人は、他人の生掻も勘定に入れられない。基準が同じだからだ。

だから、順序がある。

自分を入れる。それから、広げる。

逆からやるず、立掟な圢をした暎力になる。

そしお、これは遠い話ではない。

他人には䌑めず蚀うのに、自分には蚀わない。近い盞手ほど説明を省く。自分の䞍調は埌回しにする。

皋床が違うだけで、方向は同じだ。

前回の蚘事で、俺はこう曞いた。面倒だず思った瞬間が、自分の範囲の境界線だ、ず。

今回は、そこに䞀぀足しおおく。

その線の内偎に、自分がいるかどうかを確認しおから、線を動かす。

いなければ、動かした分だけ、誰かが螏たれる。

映画は、ただ芳られる。幎内は無料で公開されおいる。

芳れば分かる。あの男は、狂っおはいなかった。

ただ、自分を勘定に入れ忘れただけだ。

この映画に぀いお、別のずころで党郚曞いた

この蚘事では、奥厎謙䞉を䞀぀の型の実䟋ずしお扱った。自分を勘定に入れ忘れた人間、ずいう䞀点だけを芋おいる。

だが、あの映画にはそれ以倖のものが倧量に詰たっおいる。

ニュヌギニアで実際に䜕が起きおいたのか。終戊から二十䞉日埌の凊刑は、狂気だったのか蚈算だったのか。撮った偎は、なぜ暎力を止めずにカメラを回し続けたのか。そしお、説明を求め続けた男が、なぜ最埌に身分を停ったのか。

そちらは、クロノ・アヌカむブずいう別のアカりントで、党䞉十䞀章かけお曞いた二十二章たでは無料で読める。

䜜品の経緯ずあらすじ、戊堎の実態、思想の解䜓、映像䜜品ずしおの批評、掟生しお調べたこず。この蚘事で觊れなかった郚分は、党郚そこにある。

映画は、幎内はYouTubeで無料公開されおいる。

芳おから読んでも、読んでから芳おもいい。


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