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自分のための時間

沢元さんとは
私の仕事の都合が合えば

子供たちが学校に行っている
お昼の時間に

ランチをしたり
カフェに行ったり

短時間ですが
自宅に遊びに行くことも
ありました

そんなある日

「今度一緒に
 コンサートに行かない?」

と誘っていただきました

懐かしい曲を聴ける
楽しそうなコンサートだったので

「行ってみたい」

そう思いました

しかし

夜に子供たちを預けて
自分だけ出掛ける

ということに
抵抗がありました

しかも
仕事ではありません

ただ
自分が楽しむために
出掛けるのです


夫が亡くなってから

私は
子供たちとの時間を
何より大切にしたいと思っていました

仕事の時間を調整し

なるべく
「いってらっしゃい」と
送り出し

「おかえり」と
迎えられるようにする

そんな子供たちとの時間を
取り戻したくて
今の働き方も選びました

だからでしょうか

自分だけが楽しむことに
どこか罪悪感がありました


コンサートのことを
母に話すと

母はあっさり

「いいじゃない
 行ってきなさいよ」

と言いました

「本当にいいの?
 夜だよ?
 遊びに行くんだよ?
 仕事じゃないんだよ?
 子供を置いていくんだよ?」

何度も聞き返す私に
母は笑いながら言いました

「だからこそ
 行っておいで」

そして
こう続けました

「あなたは頑張っているわ

 でもね
 子供たちのためと思っていることが

 いつの間にか
 自分の満足になってしまうこともあるのよ」

私は黙って
母の話を聞いていました

「あなたはお母さんよね

 でもその前に
 あなたは“あなた”なの」

その言葉に背中を押され

私は久しぶりに
自分のために
夜の時間を使うことにしました


結婚してから
コンサートへ行くのは
初めてでした

会場に着き
懐かしい曲が流れ始めると

一瞬で
昔の自分に戻ったような
気持ちになりました

学生時代の友人
初めて行ったライブ
夢中になって聴いていた歌

次々と
懐かしい記憶が蘇り

母親になる前の私
妻になる前の私

まだ
何者でもなかった頃の私

「昔は私にもこんな時間があったな」

そんなことを思いながら

久しぶりに
心から楽しいと感じていました

コンサートが終わると
沢元さんと食事へ行きました

時間を気にせず
ゆっくり食事をしながら

いつもより
少し深い話もしました

沢元さんは
ご主人のことや
ご家族のことを話され

私も

夫のこと
仕事のこと
子供たちのことを
少しずつ話しました

帰る頃には

「来て良かった」

そう思っていました

ほんの数時間です

それでも
私にとっては
とても大きな時間でした


私はずっと

母親として
働く人として
家族を支える人として

自分の役割を
一生懸命生きてきたと思っていました

けれど
どれだけ大切な役割であっても

それだけが
私のすべてではありません

母親である私も私

仕事をしている私も私

そして

誰かのためではなく
自分の好きなことを楽しみ

笑っている私も
同じ私なのです


あの時
母が私にくれたものは

コンサートへ行く「許可」ではなく

「あなたも
 あなたの人生を楽しんでいいのよ」

という
自分を大切にする「許可」でした

自分を許すことは
誰かを大切にしなくなること
ではありません

自分が笑える時間を持つことも

きっと
暮らしを整えることの
ひとつだったのでしょう


私はあの夜
久しぶりに

母でもなく
仕事をする人でもない

ただ一人の「私」に戻っていました

そして

その「私」も
大切にしていいのだと
思えるようになっていました


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