【鵜川・土砂流出のメカニズムと問題点】
先日開催したワークショップ。参加者と目の当たりにした鵜川(うかわ)での急激な土砂流出。
「一体、何が起こっているのか?」
「なぜ、土砂が噴き出したのか?」
単なる不安や批判で終わらせず、自然のメカニズムを正しく理解するために、河川・土砂移動の専門家にお話を伺いました。
過去の学術的なデータも含めて、今回起こった現象のメカニズムと問題点、これから予想されることなどもわかってきたので、ここにまとめておきます。
堆砂が進んだ砂防堰堤のリスク
今回の現象は、「砂防堰堤(ダム)が完成してから長年が経過して上流に土砂が積もり、水抜き穴(暗渠)に詰まっていた枝などが腐敗たことで、溜まっていた土砂やヘドロが下流へ急激に流出したもの」です。
これは下流の魚類に深刻なダメージ(窒息や酸欠)を与えます。砂防堰堤の問題点はぼく自身も理解していたつもりでしたが、いざ堰堤に溜まったヘドロや落ち葉が短時間に大量に流出した川を目の当たりにして、これほど川にダメージを与える人工物が上流にあることのリスクを再認識しました。
土砂流出のメカニズム
砂防堰堤の完成から10年以上が経過すると、堆砂が進むため、水抜き穴からの土砂流出トラブルが急増することが研究で分かっています。
流出が起こる原因の多く(調査事例の約63%)は、上流側に積もった「流木などの有機物」が腐食して土砂を支える強度が低下し、均衡が崩れるためです。特に、常に水が流れている渓流で発生しやすい特徴があります。
専門家の方からは「砂防の専門家の間でも砂防堰堤の水抜き暗渠からの土砂流出を問題視した検討がなされています。行政に近い立場から出された参考文献でも防止対策(水抜き暗渠の閉鎖等)が提言されていますが、そういった議論のほとんどは環境保全が重視された2000年頃のことで,それ以降はほとんど話題になっていません。近年では行政での課題としての優先度も下がっているように思います。」とのコメントをもらいました。
栗原淳一・山越隆雄・田方智・若林栄一「砂防えん堤水抜き暗渠からの土砂流出への対応」『土木技術資料』47-11 (2005)
魚類や生態系へのインパクト
流出した微細な泥(およそ0.150mm以下の粒子)は、魚のエラに張り付いて呼吸を物理的に阻害します。
さらに、泥に混ざった「有機物まじりのヘドロ」が分解されるとき、水中の酸素を急激に消費するため、水全体が深刻な酸欠状態(溶存酸素の低下)に陥り、魚の生存を著しく脅かします。
専門家の方の解説
「学術界でも砂防堰堤からの土砂流出の影響についての検討事例はあります(一例として参考文献②をお送りします)。土砂流出が魚類をはじめとする生態系にインパクトを与えることが当然ですが,その程度は様々であると考えられています。精緻な議論が必要です。」
木下篤彦・藤田正治・水山高久・澤田豊明「排砂に伴う濁水によるイワナへの影響評価法」『水工学論文集』第47巻 (2003)
川の回復についての見込み
専門家の方の意見
「私個人としては,これまでに類似の経験が何度もありました。自然災害によって河川生態系に壊滅的なダメージを受けたところも見ました。しかし,それらの全てが長くて数年内に元の状態に戻っています。今回の鵜川も,写真で見たところ,来年には戻るのではないでしょうか。ただし,放っておいて良いと言いたい訳ではありません。人力で,市民パワーで少しでもダメージを小さくすることは有効で重要だと思います。子供たちを含めて参加者の経験としても貴重な機会だと思います。
一番気になるのは,流出物に有機物まじりのヘドロ質が多く混入していることです。山から琵琶湖への物質循環が滞り,これまでに無かった問題が起こっているように思います。山の整備も含めて,少しでも健全な物質循環を取り戻したいものです。
まとめ
水抜き暗渠のある砂防ダムが上流にある限り、今回起こった土砂流出の可能性は常に存在し続けます。
川の環境改善をする場合には、そのことを踏まえて、土砂流出した場合に生き物が避難できる場所を作ることも重要になります。
また、根本的には、砂防ダム自体の全体的な自然への影響を考慮した対策が必要です。
全国的には、砂防ダムに切れ目を入れて、土砂の流出が常に起こるようにする取り組みも既にいくつかあります。
また、仮に撤去する場合でも、一気に撤去すると、同様に大量の土砂がながれてしまうので、部分的に解体しながら石積によって砂と水だけが下流に流れるようにする、など短時間に大量の土砂流出が起こりにくくする措置が必要です。
