「青の果て」
「大人になったら、モートンと絶対、
結婚するねん!」
最初の出逢いは、中学時代。
友人からの、その熱烈な一言からだった。
モートンとは
ノルウェーのバンド『a-ha』の
ボーカル、モートン・ハルケットだ。
当時、音楽専門チャンネルの
「MTV」が大流行。
1985年、『a-ha』は、
『テイク・オン・ミー』という曲と、
実写と鉛筆書きのアニメーションとを
融合させたMVで、鮮烈デビューを果たした。
当時、ボーカルのモートン・ハルケットは
そのルックスと高い歌唱力で、
熱烈なアイドル的人気を博していた。
名前を聞いて思い出せなくても
曲を少し聴いたなら、
同世代はきっと、「ああ〜!」となるはずだ。
その彼女から、布教のように
借し出された複数のカセットテープに
よって、私は彼らの音楽と出逢った。
3枚目のアルバム、
『Stay on These Roads』の中に
『Out of Blue Comes Green』という曲がある。
シングル・カットもされていないため
一般の認知度は、かなり低いはずだ。
けれど、シングル・カット曲以上に
心惹かれ、いつしかファンになった私は
当時、何百回とこの曲を聴いた。
あの頃、私にとっての『a-ha』の
音楽の魅力は、北限の匂いをまとった
透明感のある、そのもの悲しさ。
それでいて、悲嘆に暮れすぎない
どこか、かすかな明るさの透ける
もの淋しさだった。
Father
My wings are clipped
See the steps that made me trip
Now I'm so lonely
父さん、僕の翼はもがれてしまった
僕を躓かせた道を見てよ
今、とてもさみしいんだ
『Out of Blue Comes Green』
作詞/作曲Pål Waaktaar-Savoy
と、始まるこの曲は、やがて
Like a river I'm flowing
And there's no way of knowing
If I'm coming or going
I need something to chain me down
But it don't matter
My eyes have seen,
For better
Out of blue comes green
川のように僕は流れていく
どこへ向かっていくのかもわからない
僕を繋ぎ止める、何かが必要なんだよ
けど、かまやしない 僕はこの目で見てきた
青の世界のその果てに
緑が芽吹くことを
と、流れていく。
モートン・ハルケットの美しい歌声。
10代のあの頃、
どんなに繰り返し聴いただろう。
✫✫✫
けれどいつしか
日々にまぎれて聴くことがなくなり、
そして私自身も、さまざまな季節を経て
横浜に移った。
長い年月を経て、またひょんなことから
a-haと、その音楽に再会した時、
彼らはもう、50代だった。
『幾度もの嵐の果ての成熟』をまとい、
その風貌に深く刻まれた老いの翳りは
私の目には、美しかった。
アルバム、ライブ映像。
またしばらく夢中になって聴いた。
彼らはその40年を超えるキャリアの中で
メンバー間の激しい確執・対立や
ソロ活動など、その時々の理由で
数度、活動停止や解散を経験している。
2015年、
デビュー30年の節目の再結成時。
モートンはa-haの礎になっているのは
友情ではなく音楽だと言っていたという。
2022年公開の
彼らのドキュメンタリー映画、
『a-ha THE MOVIE』が公開された後の
各インタビューでは、メンバーのマグネが
たびたび、こう言っていたらしい。
『僕らは結婚生活には失敗したけれど、
子供(楽曲)のことは今でも深く愛している
親のようなものだ』と。
それぞれが、それぞれの形で
通り抜けてきた嵐や凪のその後に、
それでも残りつづけてきたもの。
彼らがそれでも愛してきた、彼らの音楽。
✫✫✫
2025年6月。モートンは、
自身がパーキンソン病であることを発表した。
1988年、当時26歳の
若きポールが作った
『Out of Blue Comes Green』。
当時、20代の彼らが
直面していたであろう「青」。
それから、幾度となく
繰り返されたであろう、「青」と「緑」。
今、60代になったモートンに、
そしてa-haに訪れた、新しい「青」。
人生には、それぞれの「青」の季節が
いつも繰り返し訪れる。
だからこそ人生は時にやるせない。
誰のうえにも、
「青」も「緑」も、巡りめぐる。
そしてみな、それぞれの場所で
それぞれ別々の「青」を生きては、
「青の世界の、その果て」に、
また何がしかの「緑」に辿り着く。
「青」の先にやって来る、「緑」とは。
何がしかの希望か、受容か、
それともまだ名前のつかない何かなのか。
いずれにせよ、それは
「青の世界」のその果てに、
やがて人の内側で育まれていくもの。
彼らがこれからも、それぞれ迎える
「青」は、「緑」は、
その人生に何を描き、何をもたらすだろう。
そして、私の青は、緑は。
私たちの青は、緑は。
これから先、『a-ha』が
どうなっていくのかは、誰にもわからない。
けれど、一つだけ確かな「緑」とは。
これからも、ずっとずっと。
アルバムの中に、
ライブ映像の中に、
ファンの心の中に、
あの美しい歌声が残る。
彼らのあの美しい音楽は、残り続ける。
そのことだろう。
そして、これがデビュー曲。↓
覚えている人たくさんいると思うな。
このキーボードのイントロ、
もっとも有名なイントロの1つじゃないか?
「THE!a-ha」という感じ。
