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第二章 縁起──世界は「関係(縁)」でできている

日本では「良い縁がありますように」というように、人との出会いを表す言葉として使われますが、ブッダが説いた縁起は違う意味を持っています。

それは、人間関係の出会いを指すものではなく、この世界に存在するあらゆるものの「成り立ちの関係性」を示したものです。

私たちは、目の前に存在する物は、一つの性質で出来ているのだと思っています。
例えば、石は石として存在し、木は木として存在する。人間もまた、一人ひとり個体として独立した存在していると思っています。

しかしブッダは、この世の万物はすべて一固有の性質ではなく、多くの条件が関係し合って成り立っているという、「縁(縁起)」という悟りを得ました。

「縁(縁起)」という悟り

例えば、一輪の花があります。私たちはその花を見るとき、完成した一つの花としての存在を見ます。けれども、その花を深く観察していくと、そこには無数の素材のつながりが重なり合っています。

花は、いきなりそこに花の形として突如現れたわけではありません。最初に種がなければ花は咲きません。そこには土がなければ根を張ることはできません。水や太陽の光がなければ、成長することもありません。つまり花は、あらゆる要因の関係が重なって、やっと「花」という形になっていきます。

さらに、その土にさえも、長い年月の自然の循環や、花粉を運ぶ生き物の存在も、その命を支えています。
花は、花だけの力で出来上がっているわけではありません。数え切れないほど多くの条件が重なった結果として、今この瞬間、そこに姿を現しています。

縁起とは、その多くの条件の関係性をあらわしたものです。

世界は関係(縁)で出来ている

あらゆるもの(花、人間、木)は、原因(種)と条件(環境)によって成り立っている」それがブッダの発見でした。


この考え方を知ると、世界の捉え方、見方が変わってきます。自分という存在も、突如として自分が完成したわけではありません。

自分が生まれた時代や、育った環境、出会った人々、経験した出来事、それらの条件がすべてが重なり合い、今の自分を形作っています。

今の「自分」は、過去から続く無数の条件の上に存在しています。

ブッダが見た世界は、すべてがつながった世界

存在一つが単独で存在しているのではなく、相手とお互いに影響し合いながら、一瞬一瞬を作り出している世界です。

この考え方は、現代科学、とくに量子論を考える上でも興味深い視点を与えてくれます。

物理学では、世界は基本的な部品からできていると考えられていました。小さな粒子があり、それらが集まることで大きな物質が作られる。世界を理解するには、最も小さな構成要素を探ればよい。そのような考え方です。

しかし近年、量子力学が登場すると、その見方は大きく揺らぎます。原子よりさらに小さな世界を調べていくと、粒子は私たちが想像していたような「小さな石ころ」のような存在ではありませんでした。

電子は粒子として振る舞うこともあれば、波のような性質を見せることもあります。また、量子の状態は、それ単独で決まっているのではなく、周囲との関係や観測という行為によって状態が変化すると言うことも明らかになりました。

量子論と縁起が同じ理論だということではありません。
ただ、世界を「独立した物の集合」と見るのではなく、「関係性の中で成り立つもの」と見る視点には、確かに共通する響きがあります。

仏教のナーガールジュナと科学

現代物理学者の中にも、世界に存在するものを「固定された物」ではなく「関係」として捉えようとする人たちがいます。
その代表的な一人が、カルロ・ロヴェッリです。

彼が提唱する関係論的量子力学では、物質が最初から固定された性質を持って存在するのではなく、他のものとの関係の中で状態が現れるという考え方が示されています。

ブッダが説いた縁起と比べたとき、そこには同じ世界を語る共鳴を感じざるを得ません。

この本でカルロ・ロヴェッリは、大乗仏教のナーガールジュナの思想に大変興味を持っています。つまり、1800年ほど前のインドの天才僧侶が編み出した古典思想に、最先端の物理学者が、物理学を研究する上で参考に値するものがあると語っているのです。

ナーガールジュナ(龍樹)

ブッダが瞑想を通して観た宇宙真理の世界。
最先端の物理学者たちが数式を通して探究している世界。



仏教と科学、2500年の時を経てもなお、二つの見解はとても強い相似性を示しているのです。

縁起という言葉は、単なる仏教用語ではありません。
それは、「私たちは何によって存在しているのか」という、最も根本的な問いに向き合うための科学的な視点なのです。

次章では、ブッダがその縁起という世界観にたどり着いた方法、「瞑想」という観察について見ていきます。


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