香港編10. シーフード騒動、スリ、そしてY さん消失事件。|4日目 前編
その日は、トラブルが続いた。
シーフードを頼んだら肉が出てきた。 公園のゴミ箱に、サイフを捨てる男を見た。 そして駅で、Y さんが消えた。
「最後の日くらい、平和に過ごしたい」
そう思っていたのに、なぜか旅は、最終日に試練を運んでくる。
日記:2002年9月 深せん、最終日の朝
モーニングコール、AM11時。
寝坊した。
あわててシャワーを浴びる。 ふと、タイ・チェンマイでのあの寝坊を思い出しながら、ホテルを出る用意をする。
僕がシャワーを浴びた後、Y さんもあわててシャワーへ。 今回はちゃんとお湯を出せた様だ。
カバンを持ち、部屋の前のドアウーマンとかみ合わない話をしながら、フロントに行った。
チェックアウトを行って、香港ドルでキャッシュバックしてもらい、ホテルを後にした。
ドアマンに「多謝」と書いたメモ帳を見せた(というのも、発音が香港と違うらしく伝わらない為)。 笑顔で見送られた。
ホテルのすぐ横のレストランの入り口の水そうに、魚やえび等が置かれている。
「香港より生きが悪くてもいいから、シーフードを食べよう」
そう思い、入店した。
しかしさすが中国。 英語が通じなさすぎで、英語メニューもない。
あたふたしていると、英語の話せる人が出てくれた。 逆にオレらが英語できないので、困りながら、まず飲茶を注文する。
そして「seafood?」と聞いても「NO!」
「Beef or chicken?」と聞いてくる。
「seafood はないのか」と思って肉×2 を頼む。
一応おいしい。 beef の方は、ステーキ的なので、おいしかった。
chicken は骨付きで、それもなかなかだった。
すると、となりの席の人達がシーフードを頼んでいるではないか。
「あれ、シーフードあるじゃん」
シーフードが伝わらないらしい。(後で気付くと、「seafood?」とこっちが聞くと「これは シーフードですか?」になるから、答えは NO だということに気付いたんだけど…)
とりあえずYさんはホタテを食べたいらしく、ホタテを頼むために、何て漢字で書けば良いかわからない。
「となりと同じへ」とジェスチャーでなんとか伝える。 さらに手の平を重ねてパカパカするジェスチャー、ノートに貝の絵を書いて念を押した。
望み通り、ホタテが出てきた!
味は、ニンニクの味がすごく効いていたけど、おいしかった。 ここに来て B 級グルメしか食べていない事に気付いて、今日こそはちゃんとした朝食をと思った。
レストランを出て、屋台でナシを買ってたべてみる。うん、普通の梨。
ところで飲茶は美味しい。 どこに行っても飲んでいた気がする。
今日は男二人で「百万ドルの夜景」を見る気まんまんだったので、深せんとは別れて香港へ向かうことにした。
駅前のショッピングモールで少し見て、駅に向かった。 そこで2人してトイレに行って、1つのトイレットロールを壁の上に置いて共同使用した。リュックを持ちながら用を足すのはとてもつらかった(笑)。
出てからカバンを背負っていると、少し離れたところでサイフをすっているおやじを見た。
「スリだ!」
そうか、こういう人がスリをするのか、と思いながら見ていると、男はゴミ箱にこっそりとサイフを捨てたのだった。 中身だけ抜いたのだろう。
「気を付けなきゃ」と思った。
駅に入り、似せもの時計を見ながら進み、出国手続きに向かう。
とても混んでいて、いろんな人種が並ぶ。異国を感じる。
手続きをしていく内に——なんとこの旅始まって以来の事件が起きた。
あれ? Y さんがいない…。
いくら待っても出てこない。
僕が、すぐそばにいた欧米人のサラリーマンの立ち振る舞いを見てかっこいいなーと思っているうちに、はぐれたみたいだ。
しばらく待ってみても出てこないので、「同じく先に行っている」と踏んだオレは、先に行った。 しかし会わない。
「最悪このままここで会えなかったら、今晩の宿泊先決めてないから、会えないまま一人で帰国かな…」
「あ、けど、僕は1人でも行けそうだけど、Yさんと帰国の日に空港でちゃんと会えるかな…」という事を考えていた時、
「おーい!!おーーーーい!!!」
後ろから声が聞こえた。Yさんだ!
ホッとしたけど、ただ数分音信不通だっただけで、1人で帰国まで考えてしまっていた自分に驚いた。
Y さんは「ビックリしたよぉーーー」と連呼していた。
44歳の今、振り返って。
シーフード騒動、スリの目撃、Y さん消失事件。 最終日の午前中だけで、3つのトラブル。旅はいつも、計画通りにいかない。
【セネカ:『道徳書簡集』より】
「予期しないものに対してこそ、人は備えなければならない」
ホタテが出てくるまでの試行錯誤。 ゴミ箱に捨てられたサイフを見た時の警戒心。 Y さんが消えた数分間の不安。
全部が「予期しないもの」だった。 でも、その「予期しないもの」を体で経験したから、24年経っても覚えている。
【鴨長明:『方丈記』より】
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」
最終日の朝、僕は確かに焦っていた。 でも、その焦りの中で、「自分は1人でもいいけど、相手が心配」と感じていた。
旅は、自分の中の優しさにも気付かせてくれる。 24年経った今、相談員として誰かの心配をする仕事をしているのは、こういう体験の積み重ねなのかもしれない。
次回は「香港4日目 中編」。
スターフェリーで香港島へ、そして百万ドルの夜景。
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noteタイ編の1話目はこちら
note香港編の1話目はこちら
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